「竪穴式」
ざし ざし
身体から削り出した土砂を洗い
形見の金の砂粒を拾い出す夢
鉱脈はある
きっとある
土砂の一山が
最後に残ろうとも
「梵鐘」
鐘つくように
書き尽くせ
こね捏(つく)ねた肉糊
舐め尽くす業病
いき着く先まで
はいつくばって
言い繕うな
書き尽くすように
鐘をつけ
私が見届けよう。
それにしても閉鎖的
「水路をひとつまちがえて」
待っても報われないことを学習するために二年
命題が導き出された
「何があっても嫌いにはならないだろう=俺は王子様じゃない」
わずかな塩気が作り出す伝導度を頼り
142回目の新着メールはありません
「返事はあとで。急ぐ内容じゃないようだし」
毎日10の10乗ほどの微生物の生死を見てきて思いました
生き物はすべて子孫を残すために生きると
特別な二人でしか成り立たないんやったら
人間は繁栄はできひんかったはずです
今から1ヶ月
街角で鉢合わせした男女で
つがいになれと法律で決めたら
きっと5割はうまくいきます
胸を空かせた白女魚
幾多のもしもをかいくぐり
出会ったことは奇跡と信じた
「女はすべからくそうなのか?普通に親切にしただけなのに」
気にしないで
女は口ほどには傷ついていない
群からはぐれた一尾
新しい水に鰓を浸し
悲しみを追い出しているところ
「穏やかな夢を(1/2)」
遙か遠くの地の果てに
眠るお城がございます
高い塔ではお姫様が
つむに刺されて夢の中
せんだっては
ジェットエンジンしかけのつむ2本
姫の夢に現れました
リセットされる百年時計
この世のどこかで憎しみが
相手にぶつけられるたび
その憎しみはつむとなり
姫の指を刺すのです
宴に呼ばれなかった占い女
城に押し掛け呪いをかけた
姫はつむにさされて死ぬよ
最後の占い女は
かろうじて呪いを軽くした
いいえ死にません眠るだけ
穏やかな夢を百年見たら
姫は目覚めるでしょう
「穏やかな夢を(2/2)」
しかたがないと嘆くかわりに
夢見てごらん 百年間
夢みてごらん 登記簿のない土地
夢みてごらん 争いをやめた人々
夢みてごらん かろうじて自分である日々
若者よ
姫に会いに行きましょう
その日が百年目かもしれない
たとえイバラにとらえられ
むごい最期をとげようとも
城が目覚めたあかつきに
残るお前の白い骨
拾う者があるでしょう
「憎い恨めしい」
無邪気と一途と前向き精神が憎い
優しさと誠意と博愛主義が恨めしい
「平穏な日常1」
心優しい35才の男
心優しい両親と暮らす
けいこさんお元気でしたか
手紙着きましたか?
こっちの郵便局はいいかげんだから
念のため2通送ったんですけど
ああ そう
そこにも書きましたけど
僕ね 最近料理してるんです
こないだねケーキ焼いたんです
バースデーケーキ
ああ うちは電気で回る泡立て器ありますから
卵3個をボールにわって
砂糖80グラム あ メモしますか
いいですか
卵3個砂糖80グラム小麦粉
あ けんちゃんが泣いちゃいましたか
いいです また手紙書きます
子供たちに是非作ってあげてください
バースデーケーキ
ここだけの話ですが
既製品にはいろんな薬品が入っていて
子供にはよくないですよ
「平穏な日常2」
心優しい彼の平穏な日常は
平面に収まらないジグソーパズル
1個のピースは24個に連結可能で
ぐるりと回って裏が表
ありふれた絵の描かれた
それぞれのピース
「針と糸(1)」
スナップをふとんカバーに縫いつける
クレヨンタッチの青いチューリップ
覚えたての「わ」の字を指でなぞりながら
わたるは花柄に不服を述べている
#30番木綿糸を二重取り
人差し指と親指の輪を滑らせ
爪できゅ と引いて
糸の輪を糸玉にする
針を持つもう一つの輪
1枚に6箇所つけてください
公立保育園はいつも杓子定規だ
通算凸凹144個のスナップ
計算したくなるほどインプットのない時間
なかなか終わらない母の裁縫
ボタンやファスナーを買わぬまま中断した
ただ針を持ちミシンを踏み
自然な昂揚をむさぼっていたのか
「針と糸(2)」
それでも私は母の裁縫姿を美しいと思った
上品上生 まつり縫い
上品中生 針穴に糸を通し
上品下生 糸玉をつくる
南無阿弥陀仏と唱えれば
西山の向こうに阿弥陀さま
指の輪から紐を垂らし
極楽浄土へ引っ張ってくれる
来迎図には紐がついていた
握りばさみで切り離し
つまんで置く糸の切れ端
白い松葉の山になる
4分の1は捨てられる糸
もったいない
糸 惜しい
できたよ
小さい息子は雄牛となり
布に突進してきた