ちょっとちょっと、
一番上で発言するってかなり緊張する。きゃー。
せめて、かつて某所に投稿したものを再掲するくらいはしてみようか。。。
メンソール・ギター・メンソール
何ド
も弦の替え方を教えてもらったけど、君に
何ド
もそのやり方を忘れてしまう
鼻歌ばかりが耳に残って
容易く弦を操る両手の動きを
紫煙フィルター越しに眺めていた
睫毛にかかる前髪や
その奥の伏せた瞳や
中心にある整った鼻の造形や
かかる息の温度
メンソールを加えた唇に
頼りない背中が
EになってAになってDになってGになってBになってEになって
を、繰り返し
ソレラ全てが私の聴覚に伝わる
のは、気のせいではなかった
けれど、
そのうち
もしも、を考えるようになってしまった私は
弦の替え方を覚えることを拒絶した
灰皿にメンソールが積もって
抱えきれなくなるころに
必ず切れ
た、安物ギターの六弦
は、
ちゅう
にんぐも効かなくなってメン ソォー
ルルルルルルルルルルるるるルるるルルルルルルルルルる・・・
の変わりに埃を積もらせ
た
もシもきミがいなくなレばこのげんをかえるのはわたシシかいないか
ララララララララララらララらららら
らんらんらん
らん
結局ド・忘れしたまま切れた弦を
そのままにして君はいないから
せめてと吸い込んだメンソールの匂いで
私のギターが静かに眠る
そのたび密かな音を奏でて
君が持っていたEとAとDとGとBとE
も
私の中で錆びていつか切
レ
る る る。
シチューの底の手紙
*とろみがつくまでシチューを煮たら
具が焦げてしまったの
だからまだらに茶色いんだけど
本当にごめんね*
テーブルに置手紙を発見
蓋されたままの鍋をコンロ上に発見
僕は探索する
お焦げの匂いから君がいた時間を辿る
*
昨日はごめんなさい
*
昨夜
狭い部屋の中で
煮詰まったのは
何だったのかと
ふと考えながら
銀のスプーンで一掬いして
まだら模様のシチューを鍋から舐めた
お焦げは
香ばしいと思う
底にいけばいくほど
シチューの底の手紙
*とろみがつくまでシチューを煮たら
具が焦げてしまったの
だからまだらに茶色いんだけど
本当にごめんね*
テーブルに置手紙を発見
蓋されたままの鍋をコンロ上に発見
僕は探索する
お焦げの匂いから君がいた時間を辿る
*
昨日はごめんなさい
*
昨夜
狭い部屋の中で
煮詰まったのは
何だったのかと
ふと考えながら
銀のスプーンで一掬いして
まだら模様のシチューを鍋から舐めた
お焦げは
香ばしいと思う
底にいけばいくほど
失敗してた orz
不眠の水辺
ぴちょん
「水が落ちる音がする」
窓の外
流しの下
大雑把な洗濯物
ぴちょん
「水が落ちる音がするわ」
シャワーの独り言
濡れたゴールデンレトリバー
風呂上りの長い髪
ぴちょん
「水の音で眠れない」
君は秒針の音でも 眠れないと言った
これ以上 君の眠りを
何が妨げるの
電話のベル
サイレン
ギターアンプの重低音
それとも流星群の音
アナログ時計のない部屋で
このまま朝を迎えるつもりか
ぴちょん
「眠れないわ」
眠れない君が 流す涙で
僕は 眠れない
ぴちょん
初めて詩板に来て、ろくに詩を書いたこともなかったのに腕試しに投稿してみてチャンプになった詩。
この詩がなければ、詩板に居座ることも、このスレを立てることも、
今東京で色々やってる自分も彼や仲間と出会うこともありませんでした。
さよなら、小鳥
小鳥
お前は小鳥
まっしろな小鳥
お前は今朝生まれたばかりで
まぶたは薄い膜に覆われているから
そんなに必死に朝日を見なくても良いのだ
お前は真綿のような産毛に包まれて
朝露に身体を震わせている
あの林のどこかに
お前がいる
小鳥
今はまだ飛ばなくても良いのだ
母鳥は帰ってこなくても
小鳥
お前のくちばしが木漏れ日に輝いている
今はまだ囀らなくても良いのだ
お前は小鳥
生まれたばかりの小鳥だ
ただそこにいて
愛を乞う
それだけで良いのだ
小鳥
お前は母鳥に忘れられて
いつかこの木の根元に巣ごと落ちてしまうだろう
怖がらなくても良いのだ
私が必ずお前を見つけ出して
目を閉じたままのお前をそっと抱こう
小鳥
お前はまだ
お前はもう
鳴くことはできないけれど
私はお前を探しに行くよ
林の奥深いところへ
密集する木の根元
そのなかに流れる脈
険しい樹木の皮を昇って
萌える緑の葉と葉をすり抜けて
さて
私たちが無事出会ったら
まずどこへ行こうか
小鳥
私とこの林を抜けて
どこまで行こうか
私の小鳥
お前が行けなかったところまで
空まで
私たちは出会う
それがさよならになっても
お前は小鳥で
いつまでたっても小鳥のままで良いのだ
銀色コスモ
「さぁ、鈍く光るホットプレートでおいしいホットケーキを焼き上げましょう!」
ホットケーキはまあるく狐色に飛び跳ねた挙句の果てに少女に租借されている
お父様のセブンスターはフィルターまで焦げてしまって
少女は灰皿から一本それを取り出し弄ぶ
フィルターは少女の小さな手の平から落ちる
そして転がる
ひとつのパターンが連なった床の上を
そして踏まれる
土の中のバクテリアを知らない素足が踏みつける
こなごなに傷ついた彼は
離れ離れになった仲間を思い出すが
皆はとうに灰になり肺に吸い込まれ
スカイ・ハイ 高く高くそれから弱く
蛍光灯にも届かずに煙は消えていったことを知る
せめて少女が
地平線に染み込んでいく太陽を知っていれば
水平線に溶け落ちていく太陽を知っていれば
彼は違和感を抱くことも裏切りを予感することもなく
平日の昼下がりに塗りつぶされたというのに!
少女は表情豊かに楽しみながら彼を真っ暗な地下室に塗り込めてしまう
少女とは大罪を犯した死刑囚でありながら無知で従順な模範囚でもある
背中に走る鳥肌はいつか晒される裸体への淡い戦慄
記憶の中でホットプレートのホットケーキは租借され
いつか口に運ばれることもなくなりミキサーにかけられる
そのとき もはや少女の額に
キラキラと輝く北斗七星は映らない
流れ星はすべて重くなって耐えきれずに落ちていく
今はただ甘い蜂蜜にまみれて
人差し指に垂れ流れるそれを少女が舐めるだけで
セブンスターは静かに瞬いて
ホットプレートは銀色に瞬間冷凍してしまう
今はただ甘く
今はただ軽く 脆く
本当に改行規制だけはどうにかして欲しかった。台無しになるよ。詩・ポエム板なのに。
初夏、ひとりぼっち
太陽に睨まれて肩をすくめた初夏の午後
私の汗は小さなスパンコールになって
アスファルトに散らばった
眩しさと同じ甘い匂い
背丈を伸ばしていく影が云う
「今この瞬間に私を待っている男がいる」
私はてのひらを固く閉じて
世界中に散らばった
「おいで」
そう呟いて恥ずかしそうに目を伏せる癖のあるのは
17番目に飛び出していった私が出会った3つ年上の日本人だった
私はなんの抵抗もなくしなやかな腕に身を任せた
出かける前に必ずハグをするのは
いつも力強く35番目の私を楽しませるシチリヤの男だった
私からはキスを与えた
幾千 幾万もの私の破片
一粒一粒が輝きを増して世界中で喜びを歌う
それは闇夜から朝を告げる一筋の光で
それだけが地上を照らす
私を満たして
私は溢れていく
私の頭を撫でる上海
傷つけ合ったダウンタウン
手を取り買い物をした日曜日のモンマルトル
わずかな着衣すら疎ましいジャマイカ
数え切れない細胞が全て
彼らを愛して
彼らを覚えた
そしてそのたびに
小さな私のスパンコールは砕けていった
けれど飛び出していったたくさんの私は
まだ世界中を旅する
彼らは私をすぐに忘れるかもしれなかったけれど
私は彼らを忘れるわけにはいかなかったけれど
私はまだどこかで待ちつづける彼らに出会う
着せ替えをするように
幾重もの肌をすりぬけて
幾千 幾万もの私は
幾千 幾万もの彼らと出会う
一つとして同じ声はなかったけれど
どの愛の言葉も同じだった
どこかで聞き覚えがある気がするのは
温もりを知っているからだろうと思った
今 私は泣いている
きっと泣いているのだろう
ずっと探し求めているもの
それを持っている誰かに出会いたかった
けれどそれを確認する間もなく
スコットランドの彼と薄暗い部屋で278番目の私が一つの命をもうけたとき
それを最後にして
私の旅は終わりを告げたからだ
日はもう暮れていた
私は路上で影を伸ばしきっていた
汗はただの汗で
服の中を皮膚の上を湿らせた
私は出会う
いつか同じ夕方と夜と朝と昼を過ごす
あなたと出会う
そして幾千 幾万もの小さな小さな私の破片
全ての細胞が
すべてあなたにそそがれていくのだ
そして彼らは皆一つになって
あなたになる
私は満たされても
もう溢れて乾くことはない
水槽
先生
いつからか、あたしの制服の襟元から心臓にかけて
緩いカーブを描きながら何度も何度も真っ赤な金魚が往復していくの
みぎゃっ
って小さな小さな声で鳴くあたしの金魚
だけど先生
先生の顔を見るたびに金魚がもがきながら速度を上げて泳ぐから
あたし 苦しくなって
吐き出してしまいそうなの
先生に
「 」
だめ やっぱりまだ金魚は外の世界に出してあげられない
ねえ 空気が欲しい
先生 人間用のポンプってどこにあるの
酸素ボンベなら病院にあるよね
ああっ やっぱりこれって病気なのかしら
どうしよう先生、あたし怖い
小さな金魚一匹があたしを動かしてる
真っ赤になる
耳も頬も首筋もてのひらも全部
あたし真っ赤な水槽で
小さな金魚一匹のために今水を溢れるほどそそぎ込んでる
口をぱくぱく
先生の前で開いてるあたしのかわりに
みぎゃっ
って金魚があたしにだけ聞こえる声で鳴いた
先生にも聞かせてあげたいよ
とってもとってもかわいいんだよ金魚の声
きっとその言葉の意味もかわいいに決まってるのに
まだ先生に聞かせてあげる勇気がないんだ
残念
恥ずかしい水槽は
結局5年経った今でも
乾涸びてしまった赤い金魚を浮かべて
なみなみと水をたたえて
ときどき言えなかった言葉や送り込まれなかった空気のことを考える
「好きっ」
って、
やっぱり言えないよなぁ、とか、ぼんやりして
日曜の夕暮れ歩く道筋に長い影法師ふたつ並ぶ
手をつないでいる、あの頃は知らなかった彼は
ときどき先生と良く似たまなざしで
新しく生まれた赤い金魚が
飛び跳ねる
みぎゃっ
ってね
サイレンのこども
サイレンの音はずっと女がスピーカーに向かって叫んでいるのだと思っていた
その女は時間を告げることだけに日常を費やす
思春期を過ぎた頃スピーカーしかない四方を白い壁で囲んだ狭い部屋に閉じ込められ
定時になるとめいっぱい叫ぶ
それは抑圧された思春期が暴走したまま終わらずに狂ってしまった少女の
言葉にもならない悲痛な感情
仮に彼女をサイレン女と呼ぼう(そのまんまであるが)
サイレン女にも母親と父親がいたしもしかしたら年の近い兄弟だっていたかもしれない
そしてクラスには思いを寄せる同級生がいたかもしれない
サイレン女が連れ去られたのは息の白い2月の夕暮れ
下校途中の出来事だ
それから彼女はずっと外に出ていないし
叫ぶこと以外彼女の口が声を発することはなくなった
サイレン女は白く狭い部屋に閉じ込められてからずっと
思いを寄せていた彼に恋をし続けているがそれは永遠に叶わないことも知っている
さて遂に彼女の務めが終わるときが来た
それは彼女自身が力尽きるときで
スピーカーの台の下には一冊の古いノートが隠されていた
赤色の風船が割れてから狂ってしまったこと
夕暮れすれ違う青年の顔が皆同じに見えたこと
白と黒のぶち猫の白と黒が入れ替わっていることに誰も気付かないこと
わたしの腕がわたしの腕ではなくなっていて
わたしの体は既に失われている・失われ続けている
街灯がともる時間帯は特に気をつけなくてはいけないよ
こどもたち
帰り道にはかなしみがいっぱい
わたしの庭にはこどもがいない
今日から全てのこどもはわたしのこども
呼んでいるから
呼んでいるから
書きなぐられた文字は古臭い丸文字
サイレン女はゆっくりと私の妄想の中で息を絶った
それとは全く関係ないことだけど
去年の暮れに祖母が死んだ
それから想像を絶する速さで時間が流れた
両親は色々な手続きに終われ私は初めて会う親戚の顔を覚えるのに必死だった
兄は帰ってこなかった
姉は手際よく母を手伝った
あるとき夕方のサイレンが聞こえて私はふっと昔抱いていた妄想を蘇らせた
それは祖母が持っていた金色の菓子箱を開けるような匂いがして
私はつい息を止めた
空襲で焼ける街を前に呆然と立ち尽くす若い祖母の顔が見えた気がした
お盆が過ぎてももう一度御参りしようと思った
耳の奥が焼けるように熱い
サイレンが聞こえる
関係ないことだけど
春眠トリップ
4月といえば青い顔
ははは春のことだったぁー
蝶番に油を注すことばかり考えておりました私の目の前に
それは突然現れたのでございます
まっさおな顔
見覚えなんてない睫毛の長い細身の男で
とても青い顔をした男が
買ったばかりのシルバー輝く自転車に乗って颯爽と走り去って行ったのです
シルバーホイールは四月の太陽を浴びて
青い顔は四月の太陽の影を作って
温度差に幅をつけた異質な彼が私の前に現れてそのまま消えていきました
それは4月で
つまり春だった!
5月の淡い恋は
黄色い声を作り上げて
私を白髪に仕立て上げてしまったのですとても上手に
息を呑む老け込んでしまった可哀想な私
恋のステップを駆け昇りすぎて私ってばこんな所まで来てしまって
誰もいないし暦の上ではまだ春のはずなのに辺りは真っ白
ってそれは全て灰で肺の中まできっと真っ白になってしまう廃墟で
私の夏と秋は奪われて春がもう訪れないなんて嘘よそんな
そんな あっ
カレンダー見て気付く
まだ5月じゃない
まだ4月にもなってない
今は3月で春になったばかり
3月は人殺し
多分誰か死んでたはずだ
それも親しくしていた数人が一気に
もしかしたら父か母か姉か兄か従妹か爺様か婆様か義理の兄か甥か姪か
恋人か昔の恋人か恋人の昔の恋人なのか
恋人とその昔の恋人は今も連絡を取っているのかどうか
取っていないならばいつから取っていないのか今どうしているかどこにいるのか知っているのか
取っているのならどうしてそれを私に隠すのかいつか言うつもりなのかどれくらいの頻度で連絡を取るのか
連絡を取るのはメールか手紙か電話か
それとも体?
嗚呼!
いてもたってもいられなくなった私がいて
片手には料理途中のモリブデン鋼含包丁を持って
モリブデンを混ぜたら鉄は強くなるんだよって得意げに教えてくれたのは貴方だったのに
化学の知識をそれとなくひけらかして悦に浸るのが好きでそれを嬉々として聞いていたのは私だったのに
裏切るなんて酷いわって包丁を握りしめる右手が熱いのなんの
頬の内側を噛む歯が尖ってすっかりお口は血だらけで般若一匹出来上がり
桜が散って散って散って散って散る散る血ル血が散る散るから
殺してしまったのは私で貴方はもういなくて
始めからいなかったことにして
全部夢だったら良かったのにと今更口にすることもできなくて
皆さん夏がもう終わりますね
如何お過ごしでしょうか
汗にまみれたベッドに投げ出された白い罵詈雑言
エロティックだね
あんたよりも
なんどもなんども
わたしたちは
なんどもなんども
した
たくさん
した
するたび
なぜか
いつも
まどのむこうでゆうひがおちた
自転車を押す
日曜日の人込みをよけながら
わたしは一人で商店街を歩く
自転車を押しながら
後ろで父とこどもの声がする
こどもは男の子で5,6歳くらい
まだまだかん高い声で必死に父親に話し掛ける
「ぼくら、将来ヒーローになるかもしれないしね!」
後ろから背中を貫いて心臓に透明な矢が刺さった
打ち果てたわたしは幼い子どもの言葉に服従するしかなかった
「ぼくら、将来ヒーローになるかもね!」
たくさんたくさんはだかになった
はだかになって
わたしはカーテンのすきまからゆうひをみた
めを ほそめながら
わたしのはだかはまっかで
こと の おわり
ただのおんなのしかばねだった
たくさんたくさん
はだかのままでしんだけど
そのかずだけたくさん
いきかえった
いろとりどりのパンツやブラジャーやおようふくと
いっしょに
「わたしたち、将来、」
ヒーローはそそくさと服を着て
煙草をふかしていた
生き返った私はさしずめお姫様という設定で
ビリー・ホリデイのCDをかけた
夕日はアスファルトにおしっこをしてから
気持ちよさそうに沈んでいった
なんでもない夜のはなし
例えば僕の他に誰もいないという状況になったとき
僕が真っ先に思うことは君のことだ
例えば日曜の新宿の雑踏の中で
僕に聞こえてくるのは君の声だ
固く手を繋ぐ
僕の右手と君の左手を
利き手が二人とも違うというのは
とても便利なのことだと知ったのは最近
そして手を繋ぐという行為が
決して一つにはなれないという前提の上に成り立っているということを知ったのも最近
「孤独と孤独が寄り添いあってる。」
そう言って君は笑う
例えば虫は本能で光に向かって走っていくけど
弱虫2匹の僕にはもちろん君にもそんな本能は残されていないから
ただひたすら深夜のホームで電車が来るのを待つ
「今日この時間の割に人が少ないのはサッカーがあるからかしら」
そう言って君は線路の向こうのネオンを見る
日付を塗り替えながら走る車内でドアの前の端に立つ癖を知っている
もう話すべきことはなかっただろうかと考えあぐねている僕に
「見て。レールが青く光っている。」
進行方向とは逆に流れていくレールはネオンの光を受けて
深夜の影の中青く光って
あっという間に見えなくなった
いつもわからなくなる
僕は本当は君で君は本当は僕なのではないか
馬鹿げていると知っていても
多分馬鹿な僕はいつもわからなくなる
車内は密度の割に静かで皆知らないふりをしているのだろうか
君と僕がいつの間にか入れ替わってしまったことに
「あの歌の中でどうしても、小さい鬼太郎がさぁ〜って言ってるように聴こえる部分があるの。」
電車が新宿でとまるといつも車内が明るくなる
君の白い顔も明るくなって
走り出すとまた
泣き出しそうな白い顔に戻る
雨の中歩く犬の夢を見た
犬は赤茶けた雑種の犬で小雨が降る中を歩いていた
アスファルトに落ちる雨粒を4本の足で弾きながら歩いていた
あるとき犬は立ち止まったんだ
そしてなにかをじっと見た
視線の先には雨でできた水溜りがあって
そこには孤独が映っていた
「そして、その犬はどうしたの?」
明るい部屋の中で君は両目を僕に向けてきく
犬は
雨でできた水溜りを
そっと舐めて
波紋を作ってまた歩き出したのさ
赤茶けた毛並みを雨に濡らしながら
「きっとその孤独は幸せにふるえたのね。」
君はにっこり笑っている
なんでもない僕となんでもない君と
なんでもない夜となんでもない会話の中で
「感傷的すぎるのは、
こんなにもなんでもなさすぎるからかしら。」
それから
なんでもない二人は
なんでもない眠りに入った
明日の幸福ななんでもない一日のために
キキララ
頭に星をつけたキキとララが手と手を取り合って雲の上を走る
走る
走る
走る
これが波打ち際だったら水のかけあいとか
アハハ、待てよぉーララー
ウフフ、キキ、捕まえてごらんなさぁーい
のようなやり取りの仕様もあるものだが
ここはただひたすら雲しかないので
キキとララはお互い目を合わせることも話すこともなく
走る
走る
走る
走る
はぁはぁはぁはぁハァハァハァハァハぁはぁはぁ
走る
走る
走る
走る
あっ
走る
走る
走る
走る
走る
生まれたときから二人きりで
生まれたときから二人には頭の星と足元の雲しかなかった
だから二人は走るしかなかった
なんのためにとかは
分からないまま
こんなに真っ暗な部屋では
皮膚二枚分の隔たりだけが本当
頭の星がチカチカ光るたびに
細胞が死んでいく
「このような死は幸いである」 と
音も立てずに細胞が ひとつ ふたつ 死んでいく
私は幸福だ
全身 細胞 ひとつ残らず
あっ
肩越しに見える天井の白い壁の隙間から
キキとララが 見てる
私たちを 見てる
だめ だめよ あなたたちは 走ることだけ知っていればいいの
こんなこと知らなくていいの お願い 見ないで
あっ
太陽が昇ってしまう
あっ
あっ
明るくなると 私の 接合部分が 見えてしまう キキとララに
見ないで 見ないで 見ないで 見ないで
あっ
何も知らない雲の上の王子様とお姫様は
いつか走ることをやめるだろうか
手を繋ぐこととは別のことを覚えてしまうのだろうか
密やかに密やかに
真っ白な何もない雲の上で 二人
ご覧
キキとララの星が見える
その夜から二つの星はずっとずっと点滅し続けた
そんなことを
私は真っ最中に考えてしまう
それから蜜柑
わたしの蜜柑
甘くてすっぱい
味覚をくすぐる色彩に
わたしの胸までふくらんだ
わたしの蜜柑
てのひらの上
ひんやりとして
目と目が合った
わたしと蜜柑
くちづけをして
それからお互い探りあった
わたしと蜜柑
傷つけあった
ひっかいた痕と
爪に残る甘い匂い
わたしと蜜柑
仲直りして
涙を拭って舐め合った
少し震えて嬉しげ蜜柑
わたしは蜜柑
名もない蜜柑
熟したぶんだけ
痛みを知った
わたしは蜜柑
あなたの蜜柑
その舌先で
転がりたい蜜柑
わたしとあなたと
その間に蜜柑
シーツに残った
小さな果汁
蜜柑満たされて
ベランダへ飛び出していった
それから蜜柑
ふくらんだ
オレンジの風船になって
はるか宇宙を目指すだろう
わたしとあなた
蜜柑を見送る
いつかふたりで
蜜柑を産むため
太陽について
軟体動物の気持ちで
深呼吸をしています
春になったら
目を覚まそうと思っています
雪の上を
2人の子どもが走っています
真白な雪を踏み潰して
後少しで死に絶える彼らの命など
子どもたちは知りません
今日は気持ちの良い氷点下の午後です
紅茶も白い息を吐いてからだを震わせています
軟体動物なので
皮膚の下の骨のことは忘れます
心臓が淡く浮き出る肌色の膜に覆われている
と
思い込んでいます
隣の家のお姉さんは昨日
知らないおばあさんに殺されてしまったそうです
なんでも
毒林檎を食べてしまったのだとか
軟体動物なので
塩水に浸かろうと思います
浸透圧のことなら
半透膜に聞いてください
やかんが泣いています
涙は熱いと聞きます
紅茶はやがて息を止めて冷えていきます
紅茶は冬の寒さに凍えて死んでしまったのです
砂糖が葬列を作っています
軟体動物はテーブルの下で葬列を見送っています
軟体動物はやかんの涙でふやけてゆきます
軟体動物は静かに冥福を祈るのです
軟体動物は深呼吸を続けます
子どもたちは
好きなだけ足跡を残したら
雪のことは忘れて手を繋いで走り去っていきました
軟体動物は静かに冥福を祈るのです
窓辺の植物は
この冬の寒さに耐え切れず少しずつ枯れていっています
軟体動物は静かに冥福を祈るのです
深呼吸をしながら
毒林檎を食べたお姉さんの元には
まだ王子様は現れません
軟体動物は静かに冥福を祈る準備をするのです
すべて冬がもたらしたことです
軟体動物になったのも
この冬の寒さによるものです
軟体動物の身体には
冬の太陽はどこかくすぐったく
やわらかく
だから軟体動物はもっと身体を伸ばしてしまいます
深呼吸をすると
白い息が生まれては天井に届く前に死んでゆきます
春になったら
目を覚まそうと思っています
それまで起こさないでください
エレクトロピカ
エレクトロピカ。
少女は、
電撃。
まだ青い肌の上を滑る白い蛇。
少女の欠陥とはつまり、
なにも知らないということ。
恋焦がれた輪廻を、何度も繰り返し、
少女は。
消耗しつつある肌を、
破る蛇。
つぼみが膨らんでいくのに。
見て見ぬふりできる蛇。
つぼみがしぼんでしまうことを、
恐れている、
少女は。
少女の楽園、
エレクトロピカ。
上空を飛び交う鳥の名前を、
誰も教えてくれなかったから。
闇夜に捕らわれ連れ去られる、
少女。
もう永遠に帰ることだけができない、
少女の、
輪廻。
無数の、少女が、手招きして。
誘いながら、迷う、
楽園の中で。
どの少女もやがて、
消えて、
新しい少女が、
やってくる。
淡い光の中、通り抜けていったのは、
エレクトロピカ。
少女を連れ去り、置き去りにしたのは、
エレクトロピカ。
ただいまも、おかえりも、存在しない、
大きな鳥の嘴に捕まり、ひとり、ふたり、消えて、そして、新しく少女を、ひとり、ふたり。
無数の少女たちの、
風に揺れる無数の髪の毛。
エレクトロピカ。
少女の、
残酷。
引き裂かれた、白い蛇。赤いはらわた。
エレクトロピカ。
少女の、
非力。
連れ去られてゆく少女の、
悲鳴。
ひかりと、はなと、はちみつと、不穏を、混ぜて。
さようなら、だけが鳴り響く。
少女の、
輪廻。
エレクトロピカ。
終
さよなら、線路。今までありがとう、線路。
ようやくここでお別れだ。
きっと君のことなんてすぐ忘れる。
君はすぐにデータの海に落ちていく。
今まで生温かく見守ってくださっていたのかどうか分かりませんが皆様、どうも有難うございました。
ここで私の車掌業務も終わりです。
皆様、あとはご自由にご歓談ください。
なにも上手い最期の言葉なんて考えていなくて今、後悔しています。
この線路はここで息絶えるけれど、私はまだ死んではいないし、これからもまだ道のりは続いていきます、
皆々様においても、この先、どうかご無事で。
それでは、さようなら。
ありがとう。本当に。
1001 :
1001:
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。