〜〜詩で遊ぼう!投稿梁山泊 3rd edition〜〜
729 :
Buuuuurn!!:
山は落ち葉で出来ている
落ち葉の下にも落ち葉があって
掘っても掘っても落ち葉の匂い
たまに死体の匂いがしたりもした
落ち葉の上で煙草をふかすことが、どれだけ危ないことかなんて
あの頃の僕は知らなかった。かっこいいと思っていたわけじゃな
く、ただ本当に煙草がうまかった。特にその場所では。カエデ、
ニシキギ、ヌルデ、ドウダンツツジ、そしてイチョウ。そんな落
ち葉たちに囲まれてふかす煙草がどれだけうまかったか、きっと
同級生どもにはわからなかったろ。
落ち葉たちは、落ち葉だった。
虫食いや、末枯れに彩られた葉は、木にしがみついている奴まで
落ち葉だった。下に落ちている奴は、腐葉土からゾンビ葉、虫の
棲家、液体落ち葉、人間好みの落ち葉まで、どいつもが美しく、
触れたくないほど汚いものだった。僕は、人間には考えもつかな
いほどの意外なかたちを探しながら、煙草をふかすのだった。
親父は煙草を吸わない人で、時間に決められた生活をしていた。
夕飯までに帰らないと殴られるので、鴉が鳴く前に僕は鞄を持つ。
どうして親父に従わないといけないんだろ。僕は下山した。
下界
に降りて、気がついたことは。人の目がある世界って無色だ。す
べての色は、すべての目によって色を奪われてしまう。すべての
手によって作り替えられてしまう。たとえばルージュの広告。そ
れはビルの最上部に貼られて目線を待っている。誰の目にも気に
入られるように、無色の赤で作り替えられている。
山の紅葉はどんなに赤かったか。振り返って思い出そうとした。
730 :
Buuuuurn!!(続き):02/10/18 00:41 ID:l22vmYsw
ちょうど僕が煙草をふかしていた辺りから、どくどくと黒い血を
噴き上げているじゃないか。僕が気づいた途端、炎は紅葉の山か
ら立ち上がり、僕の瞳を焦がして燃え移った。
通りの向こうから
親父が僕を捕まえに来て、「ヒデヒロ、食事だぞ」と犬が唸るよ
うに言う。魚屋の政さんが、「いらっしゃい、いらっしゃい」。
呉服問屋の若旦那が庄屋さんと立ち話、「本日はいい天気でござ
いますねぇ」。時計屋の主人は無愛想な顔でスーパーマーケット
の袋を持って通り過ぎて行った。
僕は、「火事だ! 山火事だよ!」
と、西のおっぱい山を指さす。大人たちは声を揃えて、「紅葉だ。
紅葉だ」「紅葉すれば、ドライブインが儲かる」「燃え上がるよ
うな紅葉だ」「ああ今年はいい紅葉だ」。まるでミュージカルの
合唱みたいに。ダウン症の徳ちゃんだけが、僕と一緒になって怯
えていた。犬のようにキャンキャンと叫んで、連れのお母さんは
「よしよし、ドウドウ」と、徳ちゃんを連れ戻した。
その頃には、西のおっぱい山は完全燃焼。きっとあちこちに埋葬
されていた殺人死体もお蔵入り。夕焼けの終わろうとしていた空
をもう一度赤く染めた。落ち葉は無数の火の玉に化けて、一枚一
枚、空へと駆け上がって行った。
山は落ち葉で出来ていて
燃え上がったならすべてが燃えて
落ち葉の底まで燃え尽きて
跡形もなく消えてしまって