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TK:
臨月の豚
父達は夜の浜辺で
豚を殴り続ける
母達がそれを見ている
数十種類のスパイスを混ぜ合わせ
作ったソースはもうできている
食料に困っているわけではない
娯楽として豚を食うのだ
肉が柔らかい方がいいからと
父達は加減しながら
程よい柔らかさになるまで
殴り続ける
豚は生きていた方がいいという
血が巡っているから
子供達がそれを見ている
母の袖につかまって
父達の黙々とした作業を見ている
誰もその豚が臨月であることを知らない
まだ生まれない命に手をかけていることを
誰も知らない
父達は汗を拭き
母達は時間を気にする
子供達はこの光景に飽きて
砂の投げ合いをして遊ぶ
月光が宿ったような白い浜辺で
臨月の豚は息絶える
家族達は食事にありつく
子供達は皆笑っている
父も母も
その笑顔を守るために
生きている