720 :
名前はいらない:
「犬が降るから」
夢にまで見た愛犬を抱えて歩道橋で貴方の操縦する爆撃機に出会う、
胃から込み上げる雪や靴の中の泥に炒められる足なんか気にしない、
吹く風が肺の真ん中で裂けて流行り廃りの音楽の根を吐き出す、
だから一瞥、
車の流れは切れ目のない舌、それ舐める足の裏から逃げられない、
濡れた髪の女がバス停で逆立ちしている、
前歯の取れた僕は差別用語を一つも知らないまま肋骨で格子を作って愛犬を幽閉する、
知恵を餌にしては蔑視の線で織られたナマコをおびき寄せて僕の唇に群れている間に待ち針で刺す、
風船みたいな象が排水溝に吸い込まれてゆっくりしたスープになる、
まだまだ歩道橋には容赦が生まれない、
僕が寝ている間に頭上を何人もの巨大な美女がまたいでゆく、
膨張したアルミ箔を巻いた空には好かれるが、
変色した臓物で満杯の電車には嫌われる、
口から吐き出す雪の塊、
僕は貴方の乗った爆撃機に向かって逆さまに石を投げる、
ご褒美に犬が降るから、
だって犬が