植物をテーマに詩を書こう

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376快楽童子 ◆plhXCa4.HY
「山を超えて」

大きなカリフラワーの上にゴボウが敷きつめられ
その上に彼女は寝ていた

ちいさなシイタケに座ったテントウムシたちはせわしく密談して
ニンジンを挿した容器の前でアリたちは列をなし律儀に頭を下げている
フンコロガシは上下さかさまのまま現れてどこか畏敬の目で見られていた

 僕が生まれるずっと前からそこにいて
 僕が死んでもそこにいるはずだった
 樹齢1000年の彼女は無残にちぎられて
 その大きな年輪をさらしていた

イノシシ長老がやってくるとみなが立ち上がりおじぎをした
ミツバチおばさんはすがるように長老に寄りチィチィとないた
長老は彼女の遺体に近づくとしばらくは静かに見つめあっていて
やがて山が破裂するほどの咆哮をあげた

 僕は彼らのそんな様子をじっと見ていて
 時々羽根がひらきそうになった

背丈がバラバラのみんなで彼女を運んでいく
いろんな香りにくるまれた、彼女を運んでいく
雨が肌に感じるほどに降っていて
ぼやけた空ではトンビたちが回っていた

すこし湿り気のある土の中に彼女は隠されて
草笛の音が美しく高らかに鳴ると

 おもいだす

 彼女のそばで休んだこと
 彼女のそばで遊んだこと
 彼女のそばで話したこと
 彼女のそばで眠ったこと
 彼女を守ったこと
 彼女に守られていたこと


羽音と遠吠えとうなり声の合唱が渦巻いていき
山には悲しみと怒りが立ちのぼり乱舞しあっていた

 僕の背中に長老の力強いひづめが乗せられると
 なぜか涙を見せてはいけないと強く思ってしまった
 でも下を向くと新しい土が盛り上がっているのが見え
 僕はうっうっうと泣いてしまった

山が、荒れている
僕の羽根も痙攣しそうになるほど震えだし
頭の中に真っ黒い蜜が広がる
誰ともなく悲哀と憤怒の矛先を求め津波のように山の下へ怒涛をはじめると
くちをあけても呼吸のできない僕は我を忘れて
山を越えた