『ノンストップ・キッチュ・ポエム2 灰色の菫』

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613Canopus ◆DYj1h.j3e.
『光の馬〜平成6年 第45回毎日王冠〜』

「光のような馬だった」と
当時 塩村騎手は語っていた
彼は 不遇を囲っていた
塩村の希望の光であり
府中の直線を誰よりも速く
駆け抜けた一瞬の光だった

ネーハイシーザー

新人時代 同期の武豊と並び称された塩村は
大怪我を負って長期離脱を余儀なくされ
復帰後には騎乗依頼もなく
調教スタンドで ひとり佇んでいた
「泣きそうな顔をしてボーッと座っていたんや」と
当時 布施調教師は語っていた
布施師が塩村の肩をポンと叩き
「乗らんか」と声をかけた

それがネーハイシーザーだった

彼らの快進撃が始まった
父内国産の地味な血統であるシーザーと
挫折を経験した塩村との相性が良かったのかもしれない
黒鹿毛の快速馬は 小雨降る京都で
明け5歳の仁川で 幾度となく勝利の雄叫びをあげた
そして
秋晴れの府中
第45回 毎日王冠
芝1800mの長い直線を
彼らは誰よりも速く駆け抜けていった
614Canopus ◆DYj1h.j3e. :02/12/30 22:32 ID:5MqnMezx
続き。


1分44秒6
未だ破られないレコードタイム

塩村はその後 体を壊して
ひっそりとステッキを置き
調教助手に転身した
ネーハイシーザーは 強豪なみいる
秋の天皇賞に勝ち それを勲章に引退
元気に種牡馬として仔を送りだしている

光のような馬だった
ぼくらの胸に突き刺さる熱い矢だった
ぼくらは思い出すだろう
かつて塩村という男がいたことを
かつてネーハイシーザーという馬がいたことを
秋晴れの競馬場で
夕暮れの帰り路で
次第にうずもれていく日常のなかで

この体を駆け抜けていった
一瞬の光を