ただいまただいま。いや、旅行に出かけていたんです。
奇しくも鴨川で、「こころ」の登場人物の旅先とほぼ同じでした。
>>391-392 一人の人間の死と、たくさんの花の死と。そこから死に対する
思いへと移っていくんですね。きれいな絵のような情景が印象的で、最終行も
いいですね。オニヅカ氏の死と、自らの死が結びつきにくいのが弱点でしょうね。
>>396-397 小川未明の童話を思い出しますね。ブリキの少女の不条理な設定も
その感を強くします。「野ばら」がこんな感じだったかな。
こういう詩は好きなんですが、登場人物にもう少し奥行きが欲しかったかな。
兵士の過去や持ち物、少女の捧げる手など、ひとこと書き添えるだけでも
印象は随分と違ってくると思いますよ。
『ギエロン星獣』
1
深い森の中で早起き鳥が朝を告げた
虹色の光を浴びて Y字型の頭を挙げて
喉を腹部よりもおおきく膨らませて
甲高く ひとこえ鳴いた
小さな盆地になった谷では
極彩色の被子植物たちが驚いたように
いっせいに無数の花弁で夜露をはじき
その露や蜜をもとめて
みずからの名前を連呼する虫や
長い尻尾の鼻行類が
そっと歩みよった
ギエロン星の時間は そこで永久に停止した
ひとすじの凶弾に貫かれて
ギエロン星のすべてが 一瞬にして
塵芥と 星間ガスと
放射能の混合物になってしまった
明るい彗星のような光を 見上げるひまもなく
犯人は われわれ地球人だった
(たび重なる宇宙人の侵略行為に対抗すべく
地球防衛軍とウルトラ警備隊は
恒星間ミサイル「超兵器R-1号」を開発した
強力兵器の所有により
他勢力への牽制とする いかにも地球人らしい発想だった
かくて R-1号の実験が しめやかに行われた
標的は
ギエロン星
R-1号のカウントダウン そして発射
ギエロン星は粉々に砕かれて消滅した
実験の大成功に
人々は手に手を取って喜びあった)
2
ギエロン星獣が なぜ生まれたのか
誰にもわからない
ただ 宇宙の塵となったはずのギエロン星から
確かにギエロン星獣は飛来してきた
ウルトラホーク1号に見向きもせず
眼前の小惑星を 頭のカッターで叩き割って
まっすぐに地球へやって来た
多量の放射能を周囲にまき散らしながら
或る者はいう
ギエロン星獣は ギエロン星で
たったひとつ生き残った生命体であり
核爆発の影響により
急速な変異を起こして生じたものだと
また或る者はいう
R-1号により全ての生命は死滅し
ギエロン星の有機体の残骸や鉱物が融合して
星獣となったのだと
また或る者はいう
ギエロン星獣は まだ
母星が消滅したことを知らずに漂う
ギエロン星にいた すべての生命の
思念の総和なのであると
また或る者はいう
ギエロン星自体が ひとつの知的生命体だったのだと
ギエロン星獣は 彼の怨念が実体化された
いわば幽霊のようなものであると
故郷を持たない
誰からも その誕生を祝福されない
かなしい生命
それが ギエロン星獣
犯人は われわれ地球人だった
3
(帰巣本能--
鮭の成魚たちは産卵のために
みずからの産れた川をさかのぼり
渡り鳥は ほぼあやまたず
季節ごとに飛来地をかけめぐる
また 犬や猫も
何百キロも離れた飼主のもとへ
舞い戻ってくることがあるという)
或る者はいった
ギエロン星獣は 地球人への復讐のため
地球のすべてを破壊するために
飛来してきたのだと
しかし 地球に来たギエロン星獣は
いちめんの
美しい花で彩られた
お花畑の上空を飛びまわるだけだった
まるで
帰るべき所を
探しているかのように
はたして彼は 大洋の水鏡に映る
自分の姿を見たのだろうか
怪獣としか表現できない
みずからの姿を
ウルトラセブンは 地球と地球人を守るため
アイ・スラッガーでギエロン星獣の喉をかき切った
優しく介錯をするように
何かの儀式のように
ギエロン星獣は
ひとことも語ることなく
息絶えた
犯人は
われわれ地球人だった
了。
>>402-407 久々のアップ、怪獣ポエム第5弾、『ギエロン星獣』です。
いやはや、行数制限には泣かされました…。