[4月とは何だったのか?]
身を締めつけていた現実感が 緩んで
やわらかいメルヘンが生きはじめる 4月
やわらかい人間の希望を 破壊するように
春の河原に ブルドーザーは 在る
洗濯女の似合うような 河で
ひとりの男が 投身自殺をした
それはどうにも 儚いようで
されどどうにも 無関心に流される死体
4月に死体は 似合いすぎる
似合いすぎてそれは 死体でなくなる
ひとつのメルヘンと なる
やわらかい桃の果肉となり 芳香を巻き散らす
ブルドーザーが狙っている
獰猛なブルドーザーが
河を流される桃を
血肉に飢えすぎた鋼鉄
建設重機の存在しない場所は ない
田んぼの中にも 在る
高層ビルの上にも 在る
人の心の下にも 在る
春の成長を嬉しがる蛙の 背後にも
ブルドーザーが 在る
建設重機の存在しない場所を
思い浮かべることができるか?
今になって思えば
それは4月の悪事
今ではブルドーザーは
従順な大型犬のように
工事現場に鎖で繋がれて いる