935 :
ぐずがさえび:
【J'A 20 ANS】
私は20才。
一個のしがない労働者、無能な擦過傷の青色、愛の無い小河、
地獄の彼岸に生えたゼンマイ、揮発性高周波から突き出た蜃気楼、
ジプシー出の喜劇役者の後ろに結わえた油っぽい髪、
無重力のコールタールに溺れた単眼症の黒い山羊、
私は20才。
哄笑の透視図、気候に伴う植物の変色、幸福の永久機関、
分断された国を象徴する壁の破片、通俗画家の色の効果、
レトロな皮パンツの染み、コブラの牙の齲蝕、
私は20才。
ベースアンプの真空管、試験問題集の赤いアンダーライン、
散らばる反物質、如何様裁判の証拠物件、解剖された表情筋、
私は20才。
サナトリウムに安置された半遺体、春に萌えたフキノトウを摘む右足の無い烏、
日射に照らされたブランコ、戦禍における艶歌師の神聖、曇った吠瑠璃、
タングステン製のムカデの模型、ムカデのような坐骨結合児、
ロリータ体型の女性の太腿、平易に書かれた哲学書、
磁場の流動性、銀蠅とヒトの遺伝子の差異、
カシスジャムの酸味、立体派に解体されたモデルの内臓、
私は20才。
高襟の令嬢の長く伸びた影、三度の否定、雨後の庭園で野蛮に刺す茜、
華奢なナナカマドにぶら下がる蓑虫、盆地に沈殿した濃霧、
寂れた鐘楼に棲むシコメ、公衆便所で行われる逢引、
贖罪の奴隷、黒曜石と金剛石で飾られた大仏像にかかる埃、
多淫な聖職者の精液、霜のようなキヌシッポゴケ、南国での獣姦、
望まれない変拍子、
私は20才。