第三回葉鍵板最萌トーナメント支援スレ Round1!!
「今日の種目は…これよん!」
志保に連れられて来たコーナーには、ボタンも何もついていない画面だけの台がいっぱい並んでいる。
「マジアカか…俺、やったことねーんだよな」
夏休み前の、期末試験の最終日。私達はいつものように志保の誘いでゲームセンターに遊びに来ていた。
「タッチパネル式だから、初めてでも問題無いよ」
クイズを遊んでいる人の後ろからこっそり覗いてみると、○×とか四択の問題がいくつか連続で出ていた。
うーん…これなら私でもできる、かな?
「じゃあ早速はじめましょ。悪いけど私、容赦しないわよぅ〜?」
志保がお財布から何か赤いカードを出して、台に入れている。
えっ、あれが無いとダメなのかな?
「けっ。こういうのはな、テクニックじゃなくて知識なんだよ、知識。こう見えて博識だぜ?俺」
浩之ちゃんは台に座って、カードを入れずにお金を入れた。
…別に無くてもいいのかな。
「志保には悪いけど、僕も本気でいくよ」
あれっ、雅史ちゃんもカードを入れている。しかも志保のと違って女の子の絵がかいてある…
「???」
「どした? あかり。百円だぞ、百円」
「あ、うん。…百円、だけでいいの?」
ちゃりん。
「雅史や志保はカードで成績を記録してるけど、別にこういうのは無くてもできんだよ。気にすんな」
「そうなんだ?」
「そうだぞ」
…ごめんね。私、ゲームのことはよく知らないから…。
そのあとは、志保と雅史ちゃんに教えてもらいながら画面の案内通りに進んでいった。
「キャラクターを選んでください、って出たよ」
「どれ選んでも違いは無いから、テキトーに選んじゃいなさいよ」
「うーん…じゃあ、これ」
私は女の子のキャラクターの中から一人を選んだ。
元気そうな茶髪の女の子。ちょっと、志保に似てるかも。
「ここでくぎゅを選択するとは…お目が高いわね」
志保の言っている意味はよくわからなかったけど、可愛い子だったので私は満足。
「えっと、この出題ジャンル…って?」
「なーんでもいいわよ?あかりの得意なのを選んじゃいなさい」
「あかりちゃん、料理の問題はライフスタイルのジャンルに入ってるよ」
「ほんと?じゃあ、それにするね。雅史ちゃん」
「おい志保おめー、芸能ジャンル以外からっきしじゃねーか」
「ちっちっち。このグラフは相対評価よ?私は、あくまで芸能問が得意なだけなの」
「へっ、どーなんだか」
「何で来ようが無駄よ、ムダムダ」
全員の準備ができて、いよいよ対戦!最初の6問は…理系学問、四択。
「ちょっ、何投げてんのよヒロ!?やめてー、学問は勘弁して〜!」
志保の悲鳴が聞こえるけど、私はそれどころじゃなかった。アンモニアの化学式って、えっと…どれだったっけ?
「へっ、やっぱしダメなもんはダメなんじゃねーか。今更泣きついても遅いぜ?」
「なによう!せっかくテストが終わったってのに、なにもゲーセン来てまで勉強しなくていいじゃない!」
「いーや、真面目に勉強しなかったお前が悪い!」
ふたりの掛け合いが聞こえてくる。私は学校のテストを思い出しながらなんとか解答していくのに必死。
「…うーん、なかなか、一筋縄ではいかないね」
「なんだ、あかりもなかなかノリノリじゃねーか」
「そ、そう…かな?」
うん。これ、けっこう面白いかもしれない。
理系学問の問題は6問全部がすぐに終わって、次の問題が出てきた。
「芸能タイピング…あたしの入れたやつね」
「ちょっ、おい志保、汚ねえぞっ」
タイピング、って…
「ええっ、これ何!?」
突然、解答欄にいっぱいボタンが出てきた。50音みたいだけど…これでクイズに答えるの!?
「わっ、わっわっ」
ジリリリ。入力が間に合わなくて時間切れになって、私の使うキャラクターに雷が落ちた。
うう〜、無理だよ…こんなの制限時間内になんてできないよ…
また次の問題が出る。どうしよう、答えはわかるけど指がうまく動かないよ。
こういうの、志保とかは得意なんだろうな。私だって、志保みたいに普段からゲームに慣れてたら…
「タッグマッチだ!雅史!」
にょきっ!
「えっ!?」
突然、私の肩の上から腕が2本…って、えっ?浩之ちゃん!?
「オッケー、わかった。志保、隣座るね」
「ちょ、ちょっと!あんたたち、自分の台は!?」
「こっからはルール変更だ!おいあかり、問題の答えは何だ?」
「えっ?えっ?」
「問題の答えだよ。今出てる問題の答え」
「えっと…も、森川由綺!」
「よし。任せろ!」
そう言うと浩之ちゃんは、私よりずっと早い動きでパネルを押していった。
「も…り、か、わ…ゆ、き、っと。…正解!」
「浩之ちゃん…」
「おう。パネルのほうは任せてくれ。あかりは問題の答え頼むぜ!」
「う、うん。わかった!」
「二人羽織りで来るとはね…。雅史、アタシ達も負けないわよ!」
「もちろん。負けるつもりは無いよ」
とっさのことで何も考えられなかったけど、浩之ちゃんが助けにきてくれたことだけはわかった。
「お、今度のはわかるぞ。えーと、や、ま、も、…と、け…」
「ちがうちがう!極楽とんぼのツッコミは山本じゃなくて、加藤だよ!」
「うおっ!そーだ、そうだった!」
「ふふっ、浩之ちゃん、それよく間違えるよね」
私が笑って言うと、頭の上からチョップが降ってきた。
「あうっ」
「余計なことは言わんでよろしい」
頭に当たったその手は、やっぱりとってもあったかかった。
浩之ちゃん、優しいな。小さい頃からそうだった。私が困っていたら、いつでもすぐに助けてくれる…
「ありがとう、浩之ちゃん。うれしいよ」
私は心の中でそっとつぶやいた。
「えへへ〜、じゃーん」
「あかりっ!?まさか、それは…」
2学期の始業式の日。
いつものように集まって寄ったゲームセンターで、私はついに「それ」をみんなにお披露目した。
「えっ、あかりちゃんも買ったんだ?」
私の手にはゲームの成績を記録するための、あの赤いICカード。
「うん。あれからすっかりはまっちゃって、ちょっとずつ特訓してるんだ」
「あのあかりがねぇ…志保ちゃんもビックリよ?」
「嬉しそうだね、志保」
「そりゃもう当然よ。ライバルは強いほど燃えるってもんだわ!」
「マジかよ、持ってないのって俺だけか!?」
「じゃあヒロも買いなさいよ。んで、みんなでハマっちゃえばいいじゃない」
「そうだな…ならあかり、お手柔らかに頼むぜ?」
「うんっ」
四人で台に着いて、対戦を始める。
私の画面には、前と同じ志保似の女の子。
志保のことが羨ましかった。志保みたいになれたらとも思った。
だけど、私にも無理しないでできることはあるんだ。
「ライスタ、グルメ&生活か…負けねーぜ、あかり!」
「うんっ。私もだよ!」