ロビまとめの会Z U-2

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1ほのぼのえっちさん
GL,LR違反行為はもとより、犯罪、出会い、など違法行為をまとめるスレです
違反、違法、それを助長する行為等、見かけたら貼って下さい。

■必須事項■
 【スレッド名】
 【URL/レス番】
 【本文】
 【違反・違法概要】(私的感情は省略して、簡潔に)

*貼りにコメントは不要です。ここでは募集要項のコテの情報を淡々と貼っていって下さい。
 募集中のコテ以外の情報、単なる叩きは別の場所でどーぞ

・完全sage進行
・課長がくるかも
・よろしゅう頼まれたら移動で
・テンプレ無視の人は完全スルーで

*まとめの人、まとめサイト(wiki等)立ち上げ出来る人、その他作戦募集

◆お役立ちツール
・idsearch.plの使い方
 http://mimizun.com/search/perl/idsearch.pl
・あなたのお好きにまとめtool
 http://halcyan.30.kg/myscan.php
・必死チェッカーもどき
 http://hissi.org/
・時系列ちゃん
 http://www.geocities.jp/ch2dat/htmlmiller/with2ch_net_up_data/1117499001.html
2ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:45:28 ID:0LhzDWSk0
***現在 蠅の人達の違法ログ(出会い等)受付中*** 

♂:◆zCX3dxeegQ 現在はトリップのみ使用 主に『智』のハンドル名 *晒したアドレスは'10/6/3時点で使用可
  ☆追加 ・智 ◆5GGbARIPP6・智 ◆TnAZs3.lQ1B.・智 ◆zCX3dxeegQ・智志 ◆5aPog86EpM

♀:◆Pnj1YRAlCivn 現在はトリップのみ使用 主に『知恵』のハンドル名
  ☆追加 ・知恵 ◆LyXL/Gu/b9YR ・ちえちえ ◆EcNkcIAEQo ・ちえぞう ◆xsWl5djbBM・ちえりん ◆Eja3Q0XfN. ・ちえ様 ◆EcNkcIAEQo  
      ・ちえっこ ◆xHagmY6.LQ・知恵 ◆js8Zv5XmAA(酉バレ)・知恵 ◆ZIl7ppgPNjop(酉割れ)・◆TnAZs3.lQ1B.(智と共用)
      ・知恵美 ◆ZIl7ppgPNjop
(♂♀共に複数のハンドル名とトリップを使用しています。彼らのコテ酉の情報も随時更新します)
3ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:45:58 ID:0LhzDWSk0
【スレッド名】【やっぱり】智と知恵【好き】
 【URL/レス番】http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1274977410/393-394
 【本文】394 : ◆Pnj1YRAlCivn :2010/06 /02(水) 00:44:05 ID:38fat3PbO
さて、そろそろ寝ようね♪

智と話してて、日曜マジで楽しみになってきた。
ある意味ayuはオマケ的かもwwww
早く日曜にならないかな〜☆

あのことは、明日知り合いにTELして確認しておくからね♪

毎日遅くまでありがと☆
智が大好きだよ♪

また明日ね☆
おやすみ、ダーリン♪

 【違反・違法概要】
智◆zCX3dxeegQ 、知恵◆Pnj1YRAlCivn によるメールによる直接連絡、出会いの確認
4ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:47:03 ID:0LhzDWSk0
スレッド名:【やっぱり】智と知恵【好き】

【URL/レス番】 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1274977410/


474: ◆Pnj1YRAlCivn:2010/06/02(水) 23:40:47 ID:38fat3PbO
>>469
どんだけ頭固いのよww
メアドなんて撒き餌で晒せるよw
捨てアドだったでしょ?

つか、晒す前から、あれだけ毎回時間合うのおかしいと思わなかったの?
この遊びも最近飽きてきてたからいいけど…。

【違反・違法概要】
メアド晒し容認発言
5ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:49:25 ID:0LhzDWSk0
スレッド名:【やっぱり】智と知恵【好き】

【URL/レス番】 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1274977410/


462: ◆zCX3dxeegQ:2010/06/02(水) 23:32:37 ID:J95eqiwrO
知恵、ウザいからもう、言ってやれよ!

463: ◆Pnj1YRAlCivn:2010/06/02(水) 23:33:23 ID:38fat3PbO
>>462
やだw
リアル馬鹿ばれるじゃん♪

【違反・違法概要】
メールにより裏で繋がっているということを明言
6ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:50:21 ID:0LhzDWSk0
スレッド名:【やっぱり】智と知恵【好き】

【URL/レス番】 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1274977410/


486 :ほのぼのえっちさん :2010/06/02(水) 23:47:56 ID:8oOIDDwm0
必死になるよ
だって自分たちだけ出会って楽しい思いしてるんでしょ?
羨ましいもん

491 +1: ◆Pnj1YRAlCivn:2010/06/02(水) 23:50:32 ID:38fat3PbO
>>486
そだよ。
二人で楽しんでるけど、悪い?
だってヲチ、ウケるからwwwww

智ニートってw
前も言ったけど、離婚届け持ってこいっ!
チャリで(笑)

【違反・違法概要】
質問者の「メールを利用し出会い行為を行ったのか?」との問いかけに肯定的返答
7ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:50:59 ID:0LhzDWSk0
【スレッド名】 【やっぱり】智と知恵【好き】
【URL/レス番】 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1274977410/
【本文】
530: ◆Pnj1YRAlCivn:2010/06/03(木) 18:15:39 ID:iCYmEBt4O
いや、着替えてただけww
曲覚えたかぁ〜?
駐車場はいろいろ聞いたわ☆

531: ◆zCX3dxeegQ:2010/06/03(木) 18:17:30 ID:+ORVk+pDO
>>530
駐車場?
あっ、会場近くのね?
それだけが心配なんだよねぇ〜♪

532: ◆Pnj1YRAlCivn:2010/06/03(木) 18:21:55 ID:iCYmEBt4O
>>531
サンドームの駐車場に停めると、逆に帰りとか動かなくて大変だろうからね。
少し歩いたほうが賢いかと。
昔、安室で大失敗したことあるorz

533: ◆zCX3dxeegQ:2010/06/03(木) 18:24:05 ID:+ORVk+pDO
>>532
それは言えるよね。
前もって探しときます、姫様www

【違反・違法概要】
過去のメールアドレス晒し行為によりメールで連絡を取り合っていること、
また、その延長として出会い行為にまで発展していることを証明
8ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:51:44 ID:0LhzDWSk0
【スレッド名】【雑談】とりあえず部屋がある 28 【スレH】
【URL/レス番】http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/sureh/1271842256/690
【本文】
690 名前:智 ◆TnAZs3.lQ1B. [sage] 投稿日:2010/04/28(水) 00:34:53 ID:Hyxi9il8O
>>686
ここへ来るのが怖くなったなら、もう来なくていいよ。
俺も、もう来ない。

今のまま知恵を離せない!
少しの間だけ、待ちます。
知恵の酉をメールに書いて送って欲しい。
[email protected]

二人だけで相談したい。
約束破ってごめん。
知恵が大好きだから…
【違反・違法概要】一連の発端となるメールアドレス晒し
9ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:52:18 ID:0LhzDWSk0
【スレッド名】【やっぱり】智と知恵【好き】
【URL/レス番】http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1274977410/
【本文】
412 名前: ◆Pnj1YRAlCivn [sage] 投稿日:2010/06/02(水) 07:37:25 ID:38fat3PbO
>>410
おはようです♪

ちょっと寝坊で時間がないので、後で病院についたらお返事書きますね☆

先に一つだけ。
あの、昨日裏を見たのですが…、あなたのスレを本気で埋めたいなら手伝いますよ!
考えておいてくださいね♪

では、後でまたレスしますノシ

414 名前:ほのぼのえっちさん[sage] 投稿日:2010/06/02(水) 07:49:55 ID:jA5FDLXZO
>>412
おはようございます。

自分達で立てたので放置はしたくないです。


自分一人で埋めるの馬鹿みたいなので手伝って貰えたら嬉しいです。


仕事頑張ってください。


4日後ですね。

【違反・違法概要】埋め立て荒らし宣言
10ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:53:17 ID:0LhzDWSk0
【スレッド名】【やっぱり】智と知恵【好き】
【URL/レス番】http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1274977410/316
【本文】
316 名前: ◆Pnj1YRAlCivn [sage] 投稿日:2010/06/01(火) 13:53:57 ID:B4kxgTi2O
>>313
こっちが動くとヲチも動くのが楽しいんだよねw

悪口とか嫌いなコテのことはメールでいいしwwwwww

全然構われなくなったら消えるかもね♪
【違反・違法概要】相手と継続してメールでのやり取りがある事を示唆
11ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:54:06 ID:0LhzDWSk0
【スレッド名】【お相手募集】スレカレ・スレカノ募集中 8組目
【URL/レス番】http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/sureh/1270711137/466
【本文】
466 :知恵美:2010/05/09(日) 13:21:58 ID:0axuuiM6O
スレカレ募集しまっす♪

こちらは♀♪
ちなみにMです。

趣味は植物栽培。草が好きかな☆
あと、某動物園が大好きでよく行きますwww

えと、アッパー系のテンションの♂を求めてます♪
とにかく楽しく過ごしましょ〜www

立候補待ってるよ☆
【違反・違法概要】
>趣味は植物栽培。草が好きかな☆
>アッパー系のテンションの
薬物疑惑。他にも薬物系の発言あり
12ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:54:29 ID:0LhzDWSk0
新コテ酉

智=貴志 ◆PlCd9nhdPw
知恵=菜穂 ◆mr2SmQ4IV49x
13ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 05:54:55 ID:0LhzDWSk0
【雑談】ホテルのロビー 11フロア【Only】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/sureh/1279595627/
レス番 >>139 >>140

139 菜穂 ◆mr2SmQ4IV49x 2010/07/29(木) 22:15:25 ID:NhNvnwbdO
ん?泣く?
声聞く時とはやっぱり違うって〜。

今日はちょうどお昼もタイミング悪かったもんねorz
ただ、ケータイ見るのも気を使ってしまうから、なかなか見れなくて。
なんとなくわかるでしょ?

私も寂しかったんだよ〜。
気になってもいたし♪
我慢しなくてもよかったのに。
即レス出来なかったけど(苦笑)

140 貴志 ◆PlCd9nhdPw 2010/07/29(木) 22:21:42 ID:zKpYPCJbO
>>139
確かに声聞くと安心できるよ。
ついつい長くなってしまうし(汗)

いつもは会えない時間だから、少しだけでも嬉しく思うよ。
確かに携帯弄ってたら変に思われるよね(汗)
うん、それは理解してるから大丈夫!

よし、これからは返事出来ないくらい、送ってやるからな(笑)


【違反・違法概要】
「声を聞く」という、掲示板でのやり取り上有り得ない会話をしていることから
2人が電話で繋がっていることを示す会話になっている
14ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 07:34:48 ID:MG18pUBn0
出会い厨新コテ酉情報

◆QYK8.X12dE…たかし(元智、現在は酉のみ)
◆oB5eRJ.jUsRT …ゆう(元知恵、現在は酉のみ)

◆Kabu/LUp7o…カブと呼ばれている男(あべし男、2人の唯一の信者)

関連スレ
(・◇・)
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1285155590/
(・◇・) 2
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/pinkcafe/1287932261/
15ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 07:52:46 ID:MG18pUBn0
【ログ流し】回数無制限の伝言板27枚目【隔離伝言】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/sureh/1278916089/

898 菜穂 ◆mr2SmQ4IV49x 2010/07/28(水) 00:35:46 ID:wsS2Z2YnO
>>876
貴志さんへ。

今夜もこんな時間までお話してくれてありがと♪
写真…、細かいとこまで綺麗に映ってたでしょ?

最近、貴志からの写真が来ないような…
パンチのきいたやつ、期待してます(笑)

今日、余計に待ち遠しくなっちゃったかも!
ざっと数えたら、あと25日じゃないかな?
(違ってたらごめん)
以外とあっという間なのかな…。

楽しみすぎます♪

菜穂。

900 貴志 ◆PlCd9nhdPw 2010/07/28(水) 00:54:00 ID:ivwZ4OX6O
>>898
菜穂さんへ

こちらこそ毎晩遅くまで、ありがとう。
うん、写真よく撮れてたね♪
俺、写真苦手だから…
部分的になら良いけど… (汗)

待ち遠しいのは俺も同じだよ。
土壇場で『もう行かない』なんて言わないでね。(笑)

あっという間に来たら嬉しいけど、待ってるとなかなかかもね(汗)

指折り数えて、その日を楽しみに待ってます。

おやすみなさい♪
大好きな菜穂へ


貴志

【違反・違法概要】
掲示板の利用だけではやり取りすることの出来ない「写真を見せ合う」という内容の会話
16ほのぼのえっちさん:2010/10/25(月) 07:53:21 ID:MG18pUBn0
【ログ流し】回数無制限の伝言板27枚目【隔離伝言】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/sureh/1278916089/

965 菜穂 ◆mr2SmQ4IV49x 2010/07/29(木) 00:25:52 ID:NhNvnwbdO
>>962
貴志へ。

塩辛のことは言わないで(笑)

でもやっぱり声を聞くと安心するよ♪
逢いたさも倍増だけどねorz

あ、日付変わったからあと24日だよっ!

菜穂。

989 菜穂 ◆mr2SmQ4IV49x 2010/07/29(木) 10:01:55 ID:NhNvnwbdO
>>983
貴志へ。

こっちは一段落ついたよ♪
仕事してる貴志を想像してますww

昨夜声聞いた時は幸せいっぱいになったけど、今はその反動で余計に逢いたくなっちゃってるよ(苦笑)

勉強もしなきゃいけないんだけど…、昼間はそうもいかない雰囲気かな。

あ、昨日の返事はちゃんと昼間にするからね☆

貴志が大好きだよっ♪

菜穂。


【違反・概要】
「声を聞く」という、掲示板上でのやり取りとして有り得ない会話をしていることから
2人が電話で連絡を取り合っていることを示している
17ほのぼのえっちさん:2010/10/26(火) 05:46:32 ID:N7wLQEMT0
w
18ほのぼのえっちさん:2010/10/26(火) 15:38:28 ID:yIWngO3H0
今まで見た中で、これは唯一本物。

本当におすすめできる。

http://www.tobitashinchi2.com/kenzakisusumu.html

19ほのぼのえっちさん:2010/11/01(月) 06:41:09 ID:cwlhHSI70
ho
20ほのぼのえっちさん:2010/11/05(金) 05:59:04 ID:snBCzvTI0
ほす
21ほのぼのえっちさん:2010/11/17(水) 06:04:59 ID:5DAXgd6m0
スレH板にまだいるね
22ほのぼのえっちさん:2010/11/22(月) 05:59:36 ID:ItoJ7g0Y0
新コテ酉
祐希 ◆ka6PuHdxMWy7  優希 ◆/.eoLE0Wy6

利用スレ
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/sureh/1290310132/
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/sureh/1290340198/
23ほのぼのえっちさん:2010/11/29(月) 08:07:27 ID:sxx9xm0q0
ほす
24ほのぼのえっちさん:2010/12/07(火) 05:54:00 ID:RsUSNmKr0
25ほのぼのえっちさん:2010/12/20(月) 18:40:50 ID:NS2Fp2cSO
知恵は前に女神板で乳首出してたな
26ほのぼのえっちさん:2010/12/29(水) 21:00:23 ID:1ZWyKuCb0
んな気持ち悪いもん誰も見たくないだろ
27ほのぼのえっちさん:2011/01/17(月) 09:45:44 ID:KBvC09rO0
>>25
うp
28ほのぼのえっちさん:2011/02/03(木) 10:21:58 ID:5F2Niy1zO
29拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:19:02 ID:0lmC8lCM0
[738] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 11:10:09 ID:3u0lZEHQO
もう遅いかな?

30拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:19:38 ID:0lmC8lCM0
[739] ●● [sage] 2011/01/31(月) 11:19:14 ID:HGrGO9F+0
誰もいないかな?

31拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:20:15 ID:0lmC8lCM0
[740] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 11:20:41 ID:3u0lZEHQO
●●さんいますよ。

32拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:21:17 ID:0lmC8lCM0
[741] ●● [sage] 2011/01/31(月) 11:24:08 ID:HGrGO9F+0
はじめまして、よろしくおねがいします
今日は風邪っぽいので、ダラダラしてました

33拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:21:51 ID:0lmC8lCM0
[742] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 11:25:57 ID:3u0lZEHQO
はじめまして。風邪?家でだらだらしてるのかな?

34拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:22:20 ID:0lmC8lCM0
[743] ●● [sage] 2011/01/31(月) 11:28:49 ID:HGrGO9F+0
風邪薬を飲んだら眠くて、家でだらだらしてます。
おじさんは、どうしてましたか?

35拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:22:49 ID:0lmC8lCM0
[744] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 11:31:26 ID:3u0lZEHQO
おじさんも今日は休みでダラダラだよ。どんなエッチな話が好きなのかな?

36拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:23:30 ID:0lmC8lCM0
[745] ●● [sage] 2011/01/31(月) 11:33:46 ID:HGrGO9F+0
お休みだったんだ
平日だから、あまり人がいないと思ってたから良かった
どんな・・・う〜ん  すぐに出て来ないけど
質問してくれたら、誠実に(笑)答えます

37拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:24:03 ID:0lmC8lCM0
[746] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 11:36:26 ID:3u0lZEHQO
了解。今どんな格好してるのかな?風邪だから厚着しちゃってる?ところで何歳なのかな〜

38拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 15:24:40 ID:0lmC8lCM0
[747] ●● [sage] 2011/01/31(月) 11:39:17 ID:HGrGO9F+0
厚着が好きじゃなくて、寒気はしないので比較的薄着です
ピンクのシャツに、花柄のスカート、ピンクのブラしてます
28歳の妻ですけど、いいですか?
おじさんは奥さんいますか? 

39拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:11:20 ID:0lmC8lCM0
[748] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 11:41:54 ID:3u0lZEHQO
こっちは40歳。奥さんもいるよ。ピンクのブラならパンツもピンクかな?

40拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:12:03 ID:0lmC8lCM0
[749] ●● [sage] 2011/01/31(月) 11:44:49 ID:HGrGO9F+0
40歳ならまだまだ元気? 夜も元気?
奥さんとエッチしますか?
うちは、あまりしてないです あっても月に一度くらいかな
パンツもおそろいのピンクですよ
おじさん、何色のが好き?

41拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:12:49 ID:0lmC8lCM0
[750] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 11:50:22 ID:3u0lZEHQO
元気だよ(笑)28歳の女の子のパンツなら何色でもOKだよ。奥さんとはほとんどしないなぁ〜。乳首とクリと穴はどこが一番好きかな?

42拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:13:31 ID:0lmC8lCM0
[751] ●● [sage] 2011/01/31(月) 11:53:21 ID:HGrGO9F+0
もう結婚してるから、女の子ってほどじゃないけど
ありがとう(笑)
やっぱり、奥さんとはしないんだー
でも、こういう所には来ちゃうのね?
全部好きかな・・・三か所を同時に攻められたら、ガクガクしてイっちゃう
おじさんは、どういうのが興奮する?

43拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:14:19 ID:0lmC8lCM0
[752] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:00:03 ID:3u0lZEHQO
28歳でほとんどしないなんてかわいそうだなぁ。オレだったら毎日可愛がっちゃうよ。3箇所攻めまくって!しつこい位に舐めちゃうよ!もうパンツの中に手入れてる?オイラは舐められるの興奮するな〜

44拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:14:57 ID:0lmC8lCM0
[753] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:03:13 ID:HGrGO9F+0
旦那さん疲れ切ってて、ほとんど相手にしてくれないの
毎日は無理だよ(笑)寝かせてーってなっちゃうから
まだ、何もしてないよw
みんな、中が締まりいいからって入れたがるから
舐めるのあまりした事なくて・・・上手じゃないかも・・・

45拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:15:42 ID:0lmC8lCM0
[754] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:09:27 ID:3u0lZEHQO
締まりいいんだあ。みんなに言われるってところが凄いね。名器で有名なのかな?舐めるのは下手でもいいんだよ。舐めてくれてるのを見てるのが好きなんだ。オイラが乳首舐めてあげるからブラ外しなよ。

46拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:16:11 ID:0lmC8lCM0
[755] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:11:52 ID:HGrGO9F+0
そんなに、何人も経験ないけど・・・3人だけだよ
見るのが興奮するんだね
えーここで? 恥ずかしいよ・・・

47拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:16:49 ID:0lmC8lCM0
[756] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:14:22 ID:3u0lZEHQO
今、1人だよね?ブラはずしなよ。い〜っぱい舐めちゃうから!

48拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 16:17:22 ID:0lmC8lCM0
[757] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:15:54 ID:HGrGO9F+0
うん、ひとりだけど・・・
おじさん、もっと優しく言って・・・
強く言われると、怖くなっちゃうの
優しくしてくれるなら・・・いいよ

49拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:07:53 ID:0lmC8lCM0
[758] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:21:51 ID:3u0lZEHQO
ごめんね。怖かった?じゃあ、はずさなくていいから、ちょっと胸触ろうか。

50拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:08:27 ID:0lmC8lCM0
[759] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:23:09 ID:HGrGO9F+0
うん、でもここ スレHできないよ
するなら、どこか誘導して欲しいな

51拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:08:59 ID:0lmC8lCM0
[760] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:26:36 ID:3u0lZEHQO
そうなんだ。オイラあんまり詳しくないんだ。ごめんよ。どこかある?

52拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:09:53 ID:0lmC8lCM0
[761] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:30:17 ID:HGrGO9F+0
じゃあ、ここに来て
(*******)

移動落ち
53拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:10:22 ID:0lmC8lCM0
[823] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:32:56 ID:HGrGO9F+0
使います

54拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:10:54 ID:0lmC8lCM0
[824] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:35:06 ID:3u0lZEHQO
ありがとね。全くの素人でごめんね。じゃあちょっと胸触っちゃおうかな〜

55拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:11:26 ID:0lmC8lCM0
[825] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:38:00 ID:HGrGO9F+0
いいよ 私もまだ来はじめて3週間くらいだよ
あと、今気が付いたけど、一時間くらいしか時間がないや・・・
胸はCとD間くらいだがら、あまり大きくないけど
やわらかいと思うよ 優しくしてね

56拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:11:59 ID:0lmC8lCM0
[826] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:42:28 ID:3u0lZEHQO
●●ちゃんの胸柔らかくて気持ちいいよ。少しだけ乳首硬くなってきたみたい…

57拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:12:26 ID:0lmC8lCM0
[827] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:44:30 ID:HGrGO9F+0
おじさんの手、やさしい・・・きもちいい・・・
後ろからぎゅってして、ちゅーして・・・
耳元でエッチな事いっぱい言ってほしいの

58拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 17:13:22 ID:0lmC8lCM0
[828] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:49:40 ID:3u0lZEHQO
後ろから●●ちゃんの胸そぉ〜っとやさしくさわってる。手のひらの中に硬くなった乳首がコロコロしてきたよ。後ろから耳も舐めちゃうよ。

59拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:00:11 ID:0lmC8lCM0
[829] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:51:55 ID:HGrGO9F+0
おじさん、どんな手? 大きいの? 指細長い?
あぅー はぁぁん
乳首気持ちいいよ 耳も舐められたら力が抜けちゃうよ

60拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:00:57 ID:0lmC8lCM0
[830] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 12:55:30 ID:3u0lZEHQO
オイラの細くて長い指で全身やさしくそぉ〜っとさわるね。ちょっとくすぐったいかな?

61拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:01:24 ID:0lmC8lCM0
[831] ●● [sage] 2011/01/31(月) 12:57:42 ID:HGrGO9F+0
ひゃっ  あぁぁん
細くて長い指 エロいよ 
見ただけで、ゾクゾクしちゃう
もう、おかしくなりそうだよ

62拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:02:08 ID:0lmC8lCM0
[832] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:04:34 ID:3u0lZEHQO
こんどは全身舐めてあげるね。●●の嫌らしいとこれびちゃびちゃだよ。クリもおっきくなってる。オイラのも痛いくらい勃起してる。

63拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:02:38 ID:0lmC8lCM0
[833] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:07:28 ID:HGrGO9F+0
全身? えっ そんな事したら
かわいい声で、喘ぎ続けてガクガクしちゃう
おじさんが、我慢できなくなっちゃうかもよ

64拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:03:18 ID:0lmC8lCM0
[834] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:12:05 ID:3u0lZEHQO
もっとかわいい声たくさん出させちゃうよ。ず〜っと舐め続けて●●をおかしくしちゃうよ。おっきくなったクリ触ってごらん。イヤらしいほどぬるぬるしてるよ。

65拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:03:57 ID:0lmC8lCM0
[835] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:18:19 ID:HGrGO9F+0
もう、だめ・・・
これ以上したら、わたしどうにかなっちゃうから
舐めるだけじゃなくて指を中に入れて・・・
そうしたら、おじさんのもお口でしてあげる
どこをどうしたら、いい?

びしょびしょで クリ大きくなってる 気持ちいい・・・
66拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:04:49 ID:0lmC8lCM0
[836] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:25:06 ID:3u0lZEHQO
おじさんの長くて細い指で●●の中の奥までかき回してるよ。クチュクチュイヤらしい音がすごいよ。あそこからたくさんヨダレも出てる。おじさんの硬くなったものの裏からゆっくり舌を這わせて先まで舐めあげて。

67拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:05:27 ID:0lmC8lCM0
[837] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:29:37 ID:HGrGO9F+0
長くて細い指、エッチぃ・・・
そんなに激しくしたら、潮噴いていっちゃうよ・・・

裏から・・・ぴちゃぴちゃするよ・・・こうかな?
気持ちいい?
次はどうしたらいいのかな?

ヤバイです・・・いってもいい?
68拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:05:57 ID:0lmC8lCM0
[838] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:31:40 ID:3u0lZEHQO
じゃあ入れるよ。思いっきりいかせてあげるよ。

69拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:55:10 ID:0lmC8lCM0
[839] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:33:51 ID:HGrGO9F+0
来て・・・
おかしくなるくらい、ぐちゃぐちゃにして・・・

70拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:55:41 ID:0lmC8lCM0
[840] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:37:50 ID:3u0lZEHQO
どう?気持ちいい?今度は後ろから思いっきり突くよ。もっとお尻を突き出して!

71拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:56:10 ID:0lmC8lCM0
[841] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:40:48 ID:HGrGO9F+0
ううん・・・きもちいいよ すごい・・・
奥まで届いてる・・・おじさんの、長いの?
あぁん あっ あぁぁん くぁん・・・・

72拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:56:52 ID:0lmC8lCM0
[842] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:43:39 ID:3u0lZEHQO
長いよ。奥まで当たってる?●●まだがんばれるかい?いきそうかな?

73拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:57:26 ID:0lmC8lCM0
[843] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:45:04 ID:HGrGO9F+0
長いなんて聞いたら・・・もう・・・
わたし下つきだから、長いのが好きなの
もう、無理 いってもいい? いっちゃうのー

74拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:57:53 ID:0lmC8lCM0
[844] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:46:29 ID:3u0lZEHQO
いいよ。一緒にいこうか!


75拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:58:25 ID:0lmC8lCM0
[845] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:48:23 ID:HGrGO9F+0
うん おじさんも一緒にいって
あぁぁ・・・イクー・・・いっちゃう
あぁぁぁぁぁ・・・・

本当にガクガクして、いっちゃいました
おじさん、やさしくてエロくて好き ちゅっ
76拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:59:18 ID:0lmC8lCM0
[846] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:51:10 ID:3u0lZEHQO
オイラもた〜くさん出たよ。
オイラもた〜くさん出たよ。
オイラもた〜くさん出たよ。
オイラもた〜くさん出たよ。
オイラもた〜くさん出たよ。
ありがと。最後にお掃除フェラしてくれると嬉しいな。

77拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 18:59:46 ID:0lmC8lCM0
[847] ●● [sage] 2011/01/31(月) 13:52:45 ID:HGrGO9F+0
いいよ ぺろぺろちゅーちゅするね
私のとおじさんのが混ざって、エッチな味がする
このお口で、もう一回ちゅーしちゃうよ
ちゅっ どんな味した?
78拓郎のキモいスレH:2011/02/04(金) 19:01:27 ID:0lmC8lCM0
[848] 拓郎 [sage] 2011/01/31(月) 13:56:23 ID:3u0lZEHQO
ありがと。●●のいやらしいにおいといやらしい味がしたよ。またしたくなっちゃうね。時間がないみたいだらまた●●に会いにくるよ。

●●のいやらしいにおいといやらしい味がしたよ。
●●のいやらしいにおいといやらしい味がしたよ。
●●のいやらしいにおいといやらしい味がしたよ。

時間がないみたいだらまた●●に会いにくるよ。
時間がないみたいだらまた●●に会いにくるよ。
時間がないみたいだらまた●●に会いにくるよ。
79拓郎名言:2011/02/04(金) 19:51:01 ID:0lmC8lCM0
[582]芳樹 ◆cdTwCoXKqYjW [sage] 2010/10/24(日) 09:35:53 ID:TEjOgu0TO
あーあ
本当にロビーはお節介というか馬鹿ばかりの集まりだね…
まぁ夏々もそのうちの一人なんだけどねーw

また暇になったら荒しを引き連れてあのスレに遊びに行くからw

じゃあ頑張って
80拓郎…現在はココ!:2011/02/04(金) 19:52:20 ID:0lmC8lCM0
81ほのぼのえっちさん:2011/02/15(火) 00:12:27 ID:GHE/WP9C0
82ほのぼのえっちさん:2011/02/24(木) 14:53:23 ID:9rdkA1vv0
sage
83ほのぼのえっちさん:2011/02/28(月) 14:24:21.28 ID:k5MKD0PK0
保守
84ほのぼのえっちさん:2011/03/20(日) 15:31:05.60 ID:38J49XKd0
キメーな
85ほのぼのえっちさん:2011/03/21(月) 02:44:41.83 ID:xFNf4mwv0
まちがいない
86ほのぼのえっちさん:2011/03/25(金) 00:05:33.75 ID:u8B4NGLR0
んー・・・
キモすぎですね
87ほのぼのえっちさん:2011/04/22(金) 11:25:36.97 ID:3GS4Yq4p0
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88ほのぼのえっちさん:2011/04/22(金) 11:26:27.38 ID:3GS4Yq4p0
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89ほのぼのえっちさん:2011/04/22(金) 11:31:14.23 ID:3GS4Yq4p0
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90ほのぼのえっちさん:2011/04/22(金) 11:36:36.04 ID:3GS4Yq4p0
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91ほのぼのえっちさん:2011/04/22(金) 11:37:58.37 ID:3GS4Yq4p0
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92ほのぼのえっちさん:2011/04/28(木) 00:47:34.90 ID:g2yO+Tjx0
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93ほのぼのえっちさん:2011/05/03(火) 19:32:14.01 ID:S00QWZ5t0
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94ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 12:51:25.05 ID:o4Qjx0qv0
●「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十章〜【別天津神(ことあまつがみ)の民】
                     
遠くで鳴く小鳥のさえずりが鬼狐神社まで、響き渡る冬の日。
裏庭に、少し大きい車が止まっている。8人くらい乗る事が出来るバンタイプの車だ。
この車は、他の神社の神主や、お客さんを送迎する為に鬼狐神社が保有している車。
今は朝8時くらい。この車に荷物を詰め込む秀吉と鬼子の姿があった。
昨日の晩、ヒワイドリの呪縛の解読を途中で抜けてきたきび爺ときび婆。
それに、鬼子と織田、秀吉、般若の6人で話しをしたのだ。
力を持つ人間の民に協力してもらい、今回ハチ太郎が遭遇した力の強い
悪しき輩を見つけ出す。そして、散らす事を。
秀吉と鬼子はその準備をしている所だ。
きび爺、きび婆、弥次さん喜多さん。それに織田と舞子が2人を心配そうに見つめている。
きび婆が鬼子の方に近寄ってきた。
「鬼子・・あんまり無茶はせんでおくれよ。深追いは禁物じゃて」
「解ってるわ。心配しないできび婆。それに皆も。私は大丈夫よ」
鬼子は笑顔でそう答えた。
織田が秀吉の方に近寄って来て小声で伝える。
「おぃ秀吉。鬼子ちゃんが無理しそうな時は、お前が止めるんだぞ。
 鬼子ちゃんに怪我させたら承知せんからな!」
秀吉は織田のその言葉に、深くうなずいた。
「解ってます。任せて下さい」
秀吉は口を真一文字にしてそう織田に答えた。
車に乗り込むのは、鬼子、秀吉、般若。それに今朝方やっと呪縛の解けたヒワイドリ。
秀吉が運転席に乗り込み、鬼子は助手席に乗り込む。般若は般若面となり、
鬼子の袂に入れられている。そしてヒワイドリアクセ付きカチュウシャを頭に・・・。
ヒワイドリは・・・徹夜明けで爆睡中だ。織田がそのヒワイドリを後部座席に放り込んだ。
きび爺が2人に声をかける。
「絶対に無理するんじゃないぞ。気を付けてな」
秀吉が、運転席の窓を開けみんなに挨拶をしている。
「じゃぁ行ってきます。皆さんも気を付けて」
鬼子も助手席の窓から皆に声をかけた。
「行ってきます。こにぽんに宜しく伝えて下さい」
こにぽんははだ寝ている。傷を負ったハチ太郎と、徹夜明けの般ニャーとともに。
そして、車は静かに走り出し鬼狐神社から消えて行った。

鬼子と秀吉。そして般若と爆睡中のヒワイドリを載せた車が高速道路を走っている。
鬼子は窓から見える外の景色を、寂しげな表情で見つめていた。
「鬼子ちゃん。車に乗るの初めてだよね。どう?走るより早いだろ!?」
秀吉は、鬼子の沈んだ表情を気にかけているのだ。
「ん〜・・・。私の方がもう少し早いかな」
今、車は時速80キロで走っている・・・。
「え・・・このスピードより早く走れるの・・・?」
「・・うん。でも、早く走れても輩のいる場所は解らない・・・」
秀吉は、輩とは違う話題にしようとしているのだが、鬼子の頭の中は
やはり、心の鬼からなる悪しき輩で一杯なのだろう。
「・・・そ、そうだね。早く走れてもね・・・。ハ・・ハハハ・・・」
秀吉の話しは撃沈される・・・。
一時間ほど田舎風の郊外を走っていたが、所々ビルも目立つようになってきた。
神社近くの風景とは全く違い、近代的なビルが立ち並ぶ。
後部座席ではまだヒワイドリが寝ている。呪縛が解けて直ぐ眠り込んでしまったのだ。

95ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 12:53:07.11 ID:o4Qjx0qv0
「ねぇ秀吉さん」
と、鬼子が声をかけてきた。
「ん?なんだい?」
「光の世って争い事とかはないんですか?」
輩と関連ずけを出来るだけしたくなかった秀吉だが、やはり、そうもいかないみたいだ。
「ん〜〜〜。あるよ・・・。欲のぶつけ合い、趣味、思考の違うもの同士の争いなんか・・・沢山ね」
「・・・殺し合い・・なんかも?」
「・・そうだね。この前、刑事さんが神社に来たろ!あの刑事さんはそんな争い事を
取り締まっている。大目付だったかな?闇世で言う。闇世も光の世も同じじゃないかな・・・」
「・・・そうですか・・・。何で争い事がおきるんでしょうか・・・どうして生きる者は
争い事をするんでしょうか・・・。皆幸せに過ごそうと思ってないんでしょうか・・・」
鬼子がいつも心で思っている事が、自然と口から出てしまっていた。
「鬼子ちゃんはどう思ってるんだい?光の世の事はまだよく解らないだろうけど、
闇世での争い事なんか・・・」
秀吉は、もう話題は何でもいい。鬼子に喋らせる事でなんとか元気になって欲しいと思っているのだ。
「・・・闇世では・・・悪しき輩との戦いがほとんどだけど、たまに、違う民同士のいざこざもあるの。
そんな話を聞くと、悲しくなってきます・・・」
「そっか。そうだよね。でも、それを直ぐに解決する事は出来ない。
 少しづつ、少しづつ争いの無い世界にしていく為にも、まずはその輩を何とかしなくちゃね」
「秀吉さん・・・。今から会いに行く光の世の人間の民ってどんな人なんですか?」
「ん〜・・・。僕も良く知らないんだ。住所と名前だけ渡されたからね。織田さんの言うには
わがままな奴だって・・・。でも、狐火様の紹介だから悪い人じゃ無いよ。きっと」
「・・・そうですか。その人を危険な目に合わす事出来ないから、話しだけ聞く事にしませんか?」
怪我人を出したくない、最悪死んでしまうかもしれないほど強い相手を探してもらう事を、
鬼子は心配しているのだ。本当は自分の力で探し出し解決しなければいけない事なのに、
人間の民を危険にさらしてしまう事への不安が強くなっているのだ。
「鬼子ちゃん。そういう事は会ってみて、話をしてみてから決めたらいいんじゃないかな。
 狐火様から力を貸してもらえって言われてるから、弱い人じゃ無いと思うし」
「でも・・・」
「解ってる。鬼子ちゃんの気持ちは解ってる。とにかくそれは会ってからにしよう」
「・・・はい・・」
鬼子の心は、自分一人で解決しようとしているのだ。同行している秀吉にも怪我はさせられない。
今から会いに行く人も危険な目にあってもらいたくない・・・と。

「ふわあぁ〜ぁあ」
後部座席からヒワイドリの声がした。
両腕を上に伸ばし大きなあくびをしながら目を覚ましたのだ。
「ん?ここ何処?」
周りをキョロキョロしながらヒワイドリがそう言った。
鬼子はヒワイドリから見えない様に、自分の身体を車の座席越しに小さくして隠れている。
秀吉はバックミラー越しに言う。
「ヒワイドリ、やっと起きたのか。どうだ?身体の調子は」
その言葉を聞いたヒワイドリは、呪縛を解放された事を思い出した。
「あっ!オレ今どんな風に映ってる?」
「・・・ニワトリだけど・・・」
「・・・そ、そうか。で、ここ何処?」
「車の中さ。今、狐火さまから力を借りる様にと言われた人の所に向かってる途中だよ」
「そうなんだ。まぁオレには関係ないけどな。で、鬼子。何で小さくなってるんだ?」
・・・バレてる。
「・・・ん゛?あんたと喋りたく無いからよ」
呪縛の解けたヒワイドリが、鬼子にどんなイタズラをしてくるか解らない。
今までに無いヒワイな言葉をかけてくるかもしれない。
鬼子は袂に手を入れ、般若面の口から少しだけ薙刀を出し、それを握った。
96ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 12:54:16.38 ID:o4Qjx0qv0
秀吉は笑顔だ。ヒワイドリが起きた事により鬼子は今、悪しき輩の事を忘れている。
「あ、ヒワイドリ。ニワトリの姿じゃ今後街中一緒に歩きずらいから、元の姿に戻ってろって
 狐火様が言ってたぞ。それと、悪さをするなともね」
「そっかぁ〜。ダハハハハ〜。オレの天下だ。オレ様の天下だぁ〜!!!」
ヒワイドリは目から炎を上げている様に、上を向いて天を仰いでいる。車の中だが。
「ヒワイドリ、悪さしようとしたらその時点で消すからな」
と、鬼子の袂から聞きなれたガサツな声が聞こえてきた。般若だ。
「や、やっぱりいたのね・・・。そ・・・そんな事少しも考えて無いよ・・・。
 ただちょっと吠えてみただけさ・・・」
ヒワイドリは冷や汗をながしながらそう言った。
「じゃぁ元の姿に戻るか」
そう言ってヒワイドリは、少し念を貯めた。
【シュフォ〜ッ】
ヒワイドリの周りに念の渦が出来る。車の中はその渦の風で紙切れや荷物などが浮き上がり
渦を巻いている。
「ちょ・・ちょっと、もう少し・・・」
と鬼子が言うと同時に、
【バシュー】
車の中が光に包まれ、車が・・・高速道路のアスファルトから一メートルくらい浮いてしまう。
【キキキキ〜〜〜】
慌てた秀吉が何とか車を立て直そうと必死に無言でハンドル操作している。
「こ、こら〜ヒワイドリ〜〜〜」
鬼子の叫び声が車の中に響き渡るが・・・どうしようもなかった。
【キキ〜〜キキ〜〜〜】
秀吉はやっと車を立て直したが、涙目になりハンドルにしがみ付いている。
もちろん鬼子も、涙目に・・・。
ヒワイドリは・・・自分の頭を天井に打ちつけ、抱え込んでいた・・・。
「いって〜〜〜・・・。ごめん。久しぶりだから力加減を間違えちゃった・・・」
元に戻ったヒワイドリの姿は、白髪に一部赤い髪が混じっている。
そして白色を基調とした着物姿に変わっていた。
鬼子は薙刀で突きながら言う。
「あんたねぇ〜・・・ほんっとに厄介者だわ。きび爺は何でこんな奴と一緒に行けって
 行ったんだか・・・」
「う、うるせい。仕方ないだろ。本当に久しぶりだったんだから」
「で、あんたは元々何の民だったのよ?」
「ん〜〜〜・・・。思いだせん。完全には呪縛を解いてもらって無いみたいだからなぁ・・・」
「あ、それより鬼子!」
「ん゛?何よ・・・」
「乳の話しでもしようじゃないか」
【プッス】
薙刀がヒワイドリの眉間に突き刺さる。
「お・・・鬼子。それ以上力を入れないでね・・・。
 オレ、死んじゃうから」
「ふん。役立たずが」
車はそんな皆を乗せ、高速道路を降りて行った。

97ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 12:55:14.11 ID:o4Qjx0qv0
大都会。近代的なビルしか立ち並んでいない。こんな所にその人間の民がいるのか。
人が溢れかえり、肩をぶつけながら歩く人々。そんな中、秀吉は片手にメモを握り締め
片手でハンドルを握り締め、ユックリと車を進めていた。
そのまま小さな細い路地を入っていく。少し進むと人の波もまばらになり、静まり返った所に出てきた。
「あっ、ここだ!」
と秀吉は5階建てのビルの前に車を止めた。
そのビルの前に駐車スペースがあるので、そこに車を止めなおした。
鬼子達は車を降り、ビルの看板を見上げた。
【HIBIKI STUDIO】ヒビキ・スタジオと書いてある。
小さな玄関を入ると、階段と小さな電話だけがある空間。そして階段の手前には鉄格子が施している。
秀吉は番号をクルクル回すレトロな黒電話に目をやった。その横に何か書いてある。
【御用の方は受話器を取り、○○番まで】
秀吉は受話器を取り、○○と回した。
【トゥルルルル〜・・・】
呼び出しているが、中々出てくれない。その横で、ヒワイドリが鉄格子をこじ開けようと
【ガシャガシャ】やっていた。
「ハァ〜ィ。どちらさん?」
とやけに色っぽい声が受話器から聞こえてきた。
「あっ、鬼狐神社から来た者です」
「あぁ〜早かったのね!ちょっとまってね。柵の鍵を開けるから。
 階段登って二階まできてくれる?じゃぁね」
【ガチャン】
と受話器が切れた。それと同時に
【ポーン】
と言う音が柵の鍵の所から聞こえてきた。どうやら、鍵が開いたようだ。
「うす汚い所だなぁ」
ヒワイドリが裾を少し上に上げながらそう言った。
【キッ】とヒワイドリを睨んで鬼子が言う。
「あんた、言葉を慎みなさいよ!」
階段を上がって行くと、なにやら音が聞こえてくる。秀吉は、その音が聞こえてくるドアを開けた。
すると、ガラス張りのぶ厚いドアがもう一つある。その向こう側では、誰かが何かをしているようだ。
横に有る階段から誰かが降りてきた。
「あ〜ら。良くいらしたわね〜ん」
その色っぽい声の主は、見た目20代前半の女性。とても色っぽく見える。
髪型は茶髪のセミロング、そして白いシャツを着ているのだが、
そのシャツをむやみに、そして力強く持ち上げる胸・・・。
鬼子はそれを見て・・・呆然としている。
秀吉も違う意味で呆然としているが。
【シュッ】
ヒワイドリがその女性の横に素早く動いた。
「ち、」
【プスッ】
鬼子が素早く、ヒワイドリのお尻に薙刀を刺す。
そんな鬼子とヒワイドリの無言のやり取りを他所に、その女性が鬼子の腕に手を添えた。
「あなたが鬼子ちゃんね!か〜わいぃわね」
「え・・あ・・あのぅ・・・」
「解ってるわ。連絡があったから」
そう言いながら、その女性はセミロングの髪の毛をユックリかき上げた。
薙刀がお尻に刺さっているヒワイドリが、その女性の髪の毛の香りを
【クンクン】
と心地良さそうな笑顔で匂っている。

98ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 12:56:57.42 ID:o4Qjx0qv0
秀吉は、そのヒワイドリを手で隠す様に押しのけながら言った。
「初めまして、鬼狐神社に仕える秀吉と言います。貴女が狐火様から紹介された方でしょうか?」
「いいぇ、違うわ。私はここの事務所の社長よ。社長兼神主だけどね。響って言うの。宜しく〜」
「あ・・・宜しくお願いします」
その響社長はガラス張りの中にいる人達を指差しながら言った。
「紹介されてるのは、あの子達よ」
手前に三人。そのまた奥にガラス張りの部屋があり、その中に一人。
「今、新曲の音合わせ中だけど入っていいわよ」
響社長はそう言いながらガラスの扉をあけた。すると、中では心地のいい音楽が流れている。
「あっ!」
鬼子が目を見開き、焦りながらその人達に指をさしている。
「ぁあ〜・・・金色のビルの看板の人達〜〜〜!」←第五章参照。
秀吉も驚き、唾を飲み込んでいる。
「あぁ・・・テレビに出てる人だ・・・」
その言葉を聞いた響社長は、キョトンとした表情で言う。
「あれ?聞いて無かったの?彼等は歌手よ〜」
「歌手!?」
「そう。中で一人音あわせしている男の子が音麻呂で、手前にいる男の子が歌麻呂。
2人一組のグループで唄ってるわ。そして、手前にいる女の子2人、茶髪の子が
詠麻呂で金髪の子が奏麻呂よ。彼女達も2人一組のグループなの〜」
「知ってます、見たことあります。テレビにもよく出てますよね」
秀吉が目をキラキラさせながらそう言った。
「そう。最近人気が出てきてね、彼らが作る曲っていい曲なのよ〜ん」
響社長は両手を掴み、腰を振りながら満面の笑顔になっている。
「入っていいわよ〜ん!」
秀吉は、響社長の揺れる腰に誘われながら中に入って行った。鬼子も付いて行ってるが。
ヒワイドリは鬼子により、中には入れてもらえなかった。
中にいる女性二人と響社長に悪さをしてもらいたく無いからだ。
見た事の無い空間に圧倒されながら、鬼子が挨拶をする。
「こ、こんにちは。初めまして、ひのもと鬼子と言います」
「ぼ、僕は秀吉です」
歌麻呂(男)と言う人が2人の言葉に返事をしてくれた。そして、鬼子の方を見た。
「あぁ〜よく来たね!君の事聞いてるよ。闇世の鬼の民なんだってね。初めて見たよ〜。
 可愛い顔してるから君なら絶対売れるよ〜。俺は歌麻呂。宜しくね。」
歌麻呂はニコニコ笑顔で手を振りながらそう答えた。
すると、その横にいた茶髪の詠麻呂(女)が歌麻呂(男)の背中を【ポン】と叩きながら言う。
「違うでしょ!力を借りに相談に来てるんだから。ね、鬼子ちゃん!」
鬼子は少し引きつった笑顔で返事をする。
「は・・・はい」
「私は詠麻呂。宜しく〜」
詠麻呂(女)も手を小さく振りながら挨拶した。
鬼子も少し焦りながらまた挨拶をする。
「あ・・よ、宜しくお願いします」
奏麻呂(女)が鬼子と秀吉の手を引いて言った。
「まぁまぁ立ち話もなんだから、座ってよ。私は奏麻呂よ。宜しくね」
またまた、鬼子と秀吉は挨拶をする。
「宜しくお願いします」
音麻呂(男)と言う人は、もう一つのガラス張りになった部屋の中で、ピアノを弾いているみたいだ。
音合わせ中と言ってたから、その作業中なのだろう。
中から手を振ってくれているので、鬼子は頭をチョコンと下げて挨拶をした。
ヒワイドリは・・・ガラス張りの部屋の外で、口に指を入れながらこちらの雰囲気を
うらめしそうに覗いていた。

歌麻呂(男)は、自分の前の機械のつまみを、鬼子達には見えない様にしながらスライドさせた。
そして、鬼子達の方に向き笑顔で言った。
「で、その鬼の民の子が俺たちに相談って何かな?」
「は、はい・・。実は・・・」
と鬼子はココに来たいきさつを丁寧に全て話した。
99ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 12:58:10.82 ID:o4Qjx0qv0
歌麻呂(男)はその話を静かに聞き、腕を組みながら鬼子を見つめている。
「ふ〜ん。そんな事になってたのか。大変だったね。それで、俺達にそいつの居場所を
 探して欲しいと」
「は、はい。ハチ太郎の・・犬の鼻を頼りに出来なくなってしまったので、
 狐火様が貴方たちの力なら探し出せるんじゃないかと・・・」
神社の人達、そして同行している秀吉からも、しっかり説明して力を貸してもらえる様にと
念を押されていたので全てを話した。
だが、やはり鬼子の心は人間の民に迷惑をかけたくないと思っているようだ。
迷惑だけでは済まないかもしれない、とても危ない場所に同行してもらう事をためらっていた。
鬼子は、歌麻呂(男)と目を合わさず少し下を見つめている。
歌麻呂(男)は、鬼子のその表情を見ながら言う。
「山の中を探すとなると、俺達4人の力が必要だなぁ。単独ではまず見つからないからね。
 何日かかるか解らないから、食料も持って行った方がいいよなぁ」
詠麻呂(女)は歌麻呂(男)をからかう様に言う。
「シャンプーやリンス、歯磨きセットとお化粧道具も持っていっていい?」
「キャンプじゃねぇんだから、だ〜め!」
「え〜、じゃぁ着替えくらいはいいでしょ!女の子なんだから」
詠麻呂(女)は奏麻呂(女)にくっ付きながらそう言った。
「き・・・危険な目に合うかもしれません。私はまだ、その悪しき輩に遭遇してませんが、
 とても強い心の鬼が取り付いた輩なのは、間違いありませんから」
鬼子の表情は寂しげだった。歌麻呂(男)、詠麻呂(女)、奏麻呂(女)も、その鬼子の表情に
どことなく自ら壁を作っている様に見えた。
鬼子は続けて言った。
「闇世では、その心の鬼に取り付かれてしまうと悪しき輩となってしまうんです。
 そうなってしまうと・・・人間の民にはもどれません・・・」
奏麻呂(女)が鬼子を上目使いしながらジッと見つめる。
「鬼子ちゃん・・・。さっきから怖い話ししかしないね。私達の事を・・・
 遠ざけてる?・・・」
鬼子は【ドキッ】っとした表情を浮かべる。
「ち・・・違います。じ・・事実をちゃんと伝えなきゃと思って・・・」
歌麻呂(男)の表情が少し厳しくなる。
「・・・鬼子ちゃん。独りで行くのかい・・・?」
その言葉を聞いた鬼子は・・・下を向きながら、膝の上で握りこぶしを作っていた。
「いや・・私は・・・」
秀吉は慌てて、鬼子の言葉をさえぎる様に言う。
「私も行きます。行きますって言うか・・・私は当事者なので」
歌麻呂(男)は鬼子を見つめながら首をかしげている。
「いや・・・秀吉さんを置いて、独りで行こうとしている様に見えるんだけど、
 違うかな?鬼子ちゃん・・・。狐火様からの紹介なので、ココへ来たけど
 断ってもらえる様に・・・って・・心がそう言ってるよ」
秀吉は驚いた表情で、鬼子の方を見て言う。
「お・・・鬼子ちゃん・・・それ本当なのかい・・・?」
鬼子は目をつむり、下を向きながら少し震えていた。
「・・・だ・・だって・・・秀吉さんも見たでしょ・・。ハッちゃんのあの姿・・・。
 もし、秀吉さんや皆さんがあんな事になってしまったら・・・。
 死んでしまうかもしれない・・・」
歌麻呂(男)が、鬼子の方に背を向けて、中にいる音麻呂(男)の方を見ながら話した。
「鬼子ちゃん・・独りで行ってどうするの?」
「・・・私独りでも大丈夫です。時間はかかると思いますけど、
 絶対光の世は守ってみせますから・・・」
歌麻呂は振り向き、鬼子の顔をジッと見る。
「独りで?」
「はい」
「傷ついても?」
「・・・はい」
歌麻呂(男)は鬼子の目を見ていた。鬼子の心の声を読みとろうとしているみたいだ。
ジッと見つめ続ける。その状態で時間が少し過ぎて行く。


100ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 12:59:39.75 ID:o4Qjx0qv0
歌麻呂(男)が急に立ち上がった。
「ダメダメ〜鬼子ちゃん。駄目だよ〜。そんなんじゃぁ悪しき輩に勝てないよ!
 みんなの力を合わせないと、倒せる者も倒せなくなる。そうだよなぁ?音麻呂(男)!」
歌麻呂(男)がガラス張りの中の音麻呂(男)にそう声をかけた。
中にいる音麻呂(男)に今までのやり取りが聞こえていたみたいだ。
音麻呂(男)は大きくうなづいている。
詠麻呂(女)が鬼子の方を向き笑顔で言った。
「闇世だけの問題じゃぁないんだし、協力して探し出さなくちゃぁね。
 鬼狐神社の狐火様からのお願い事なのに、鬼子ちゃんを独りで行かせるなんて出来ないわ」
「で・・でも・・・」
鬼子のその暗い表情を見ていた奏麻呂(女)が少しおちゃらけて言う。
「それに、織田さんがお世話になってる神社だもの、なおさらほっとけないわ」
奏麻呂(女)のその言葉を聞いて、秀吉は思わず口から言葉が出てしまった。
「お、織田さんとはどんな関係があるんですか・・・?」
「関係って・・・ぃやね〜そんな事聞かれたら恥ずかしくなっちゃう」
奏麻呂(女)は顔を赤くして下を向いた。
それを見ていた歌麻呂(男)が笑いながら言う。
「こらこら、からかっち〜駄目だろ奏麻呂。秀吉さん、俺達織田さんに古武道習ってた
 時期があるんですよ。子供の頃なんですがね。あの人だけは倒せなかったなぁ〜」
「え・・・習ってたの!?」
「うん。小学5年生くらいの時だったかな。生意気な俺たちをぶん投げて自慢してたよ」
「5年生をぶん投げて自慢・・・」
「だから鬼子ちゃん、俺達は一緒に行くよ。それと、手紙にも書いてたけど狐火様が
 鬼子ちゃんの事をすごく心配しててね。ひどく傷ついた友達や、怪我をした神社の人達の事が
 心に残ってるから、俺達の同行を断るかもって、独りで行こうとするかもって書いてあった。
 狐火様が書いてた事、当ったなぁ」
続けて歌麻呂(男)は言う。
「鬼子ちゃん。仲間って大事だよ〜。独りで解決するとか、守ろうなんてしちゃ駄目さ。
 協力し合って、初めて力が発揮される。だから皆を守る事ができるんだ。
 その事を解ってて欲しいな」
鬼子は嬉しい様な、でもやはり心配なのは拭い切れないでいた。
「あ・・・有難う御座います」
歌麻呂(男)が、場の雰囲気を少し変えようと笑顔で話しだした。
「俺たちの紹介がまだだったね。今はこの音楽活動に落ち着いてるけど、それまでは色んな事をしたよ。
 元々俺たちって、主体にしている核たる物が無かったから。色々やりすぎて、
 色んな所から破門状態だし・・・。唯一歌手としての活動は自由って所かな」
「は・・・破門・・ですか?」
「そうなんだ恥ずかしい話しだけど。神主も山伏も陰陽師も古武道も、
 その他の神に関わる事全部ね・・・。神職では浄階って言って最高位になる所だったんだけど、
 面白くなくなってきて・・・。もう全部笑い話だよ」
秀吉はその言葉に驚きの表情を浮かべた。
「え?浄階って年齢など関係ないんですか?長く仕えてる人がなれると聞いた事がありますけど」
「その通りですよ。浄階の職に就いてた人が俺たちにはその力があるって言って、
 勝手にその職に就けようとした事があったんです。
 でも、俺達の年齢や態度やら回りからすごく反対されて」
秀吉の驚きはまだまだ続いている。
「皆さんは何故、神主や山伏や陰陽師、古武道と色んな神職に精通してるんですか?」
「それが・・・良く解らないんです。何か俺達の血には、大昔、この世を作り上げた神様の血が
 濃く混じってるって誰かが言ってたんだけど。架空の神話なんですよ。
 俺達の神職の吸収の早さに冗談で言ってると思います。
 別天津神(ことあまつがみ)って神様達らしいんだけど。でも今の俺たちには関係ないし、
 どうでもいい事なんですけどね」


101ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 13:01:02.79 ID:o4Qjx0qv0
歌麻呂(男)は鬼子の方に向いて話した。
「俺たちの音楽活動の原点は祝詞(のりと)なんだよ。神に捧げる歌や舞をしてた時に
 なんかこう、ピーンときてね。人の心を和らげるって言うか、癒すって言うか。
 笑ったり怒ったりも表現出来るから、今の俺たちにとても合ってるんだよ。
 さっき、鬼子ちゃんが悪しき輩の居場所が解らないって言ってたよね。俺たちにもすぐ
 その居場所が解るかって言えば無理だと思う。でも、自然の力を借りれば何とかなるかもしれない」
「し、自然の力・・ですか?」
「そう。何かを探す時は、神主、陰陽師の力ではなく山伏の力の方が勝ってるからね。
 特に山の力を借りて探してみるよ」
鬼子の耳には聞きなれない言葉だ。山伏、陰陽師、祝詞・・・。そう言う神職が
光の世にはあるのだ。
「皆さんは、必ず私が守ります。だから安心して下さい」
鬼子のその言葉に、歌麻呂は呆れ顔だ。
「いや、俺たちは大丈夫だよ。自分の身くらいは自分で守るよ」
「いえ・・・本当にとても強い輩みたいなんです。
 皆さんに怪我でもされたら・・・必ず守りますから。」
「ハハ・・。大丈夫だって、そんなに守る守るって言ってちゃぁ自分の事も守れなくなっちゃうよ」
そんなやり取りをしている所に、音麻呂(男)が中のマイクを通じて話しかけてきた。
「歌麻呂〜詠麻呂、奏麻呂〜。ちょっと中に入ってきてくれ」
音合わせの打ち合わせ中だと響社長は言っていた。鬼子達は彼らの邪魔をしないように
この場で待つことにした。
すると、音麻呂(男)が中から初めて出てきた。
そして、目の前の機械をイジっている。何かのボタンを押したようだ。
「鬼子ちん!ガラス越しに鬼子ちゃんを観察してたんだけど、
 俺たちと同じように、すごく頑固だね〜。気が強いって言うか優しすぎるって言うか。
 そんな鬼子ちゃんを見て今作った曲があるから聞いていってよ!」
「え・・?」
と、あっけに取られている鬼子と秀吉。
その2人を置いて、音麻呂はまた中に入って行った。


102ほのぼのえっちさん:2011/05/07(土) 13:02:55.10 ID:o4Qjx0qv0
【信じてくれればいい】
http://ux.getuploader.com/oniko3/download/46/sinjitekurerebaii001.mp3
1番歌詞
黒髪がなびく、君に逢うとふと 懐かしさ溢れ、心が温かくなる
君に触れたいと、手を伸ばしてみる でも悲しい目が、僕の心遠ざける

瞳に映る、本当の心
想いを投げつけたら、傷つくきみがいるの?
伝える事をせずに、背負うとふと消えるの?
独りで生きる事を、優しさと信じるの?

くれない色の、夕日見つめる 君の居場所を、照らしてくれるの?
冷めた視線に、疲れたみたい 独りたたずみ、静かに泣くの?

遠くの陰を、手探りして 見えない道を、ただ歩くの?
本当は君に、寄り添って 全てを支えてあげたい

独りで悩まないで、君のそばにいるのは
大切に思う人ばかりなんだから
信じてくれればいい、強さと言う弱さを
みんなが必ず受け止めてくれるから

2番歌詞
はにかむ笑みから、優しさ伝わり 何気ないしぐさ、いつも心が引かれる
そばにいる君に、声をかけてみる でも寂しい背が、僕の思い遠ざける

抱え込む君の、本当の心
気になり問いかけると、胸締め付けられるの?
うつむくと心から、笑うことが出来るの?
目を閉じて離れると、忘れる事が出来るの?

僕に逢うたび、見上げる空 大切なもの、見当たらないの?
悲しみ背負い、見えない場所で 声を出さずに、静かに泣くの?

悩み隠して、笑顔でいると、無くした物が、見つかると言うの?
泣いたまま胸を張らないで かける言葉無くなるから

独りで悩まないで、君のそばにいるのは
大切に思う人ばかりなんだから
信じてくれればいい、強さと言う弱さを
みんなが必ず受け止めてくれるから

心照らす光を、探さなくても近くに
君を見守り寄り添う人がいるから
信じてくれればいい、全ての悲しさ辛さを
みんなが必ず受け止めてくれるから

手を取り合い進もう、君の目指す所へ
暖かい手差しのべる、みんなが待っているから

投下終り。

「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十一章〜【光の世の力】に続く。


103ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 20:56:25.04 ID:rDy6MD070
●「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十一章〜【光の世の力!?】

 空高く、筋雲が伸びる冬の15時頃。高速道路を走る鬼狐神社所有の車がある。
運転席には秀吉、助手席には人の姿のヒワイドリ。
その後ろに鬼子と詠麻呂(よみまろ女)、奏麻呂(かなまろ女)、
歌麻呂(うたまろ男)、音麻呂(おとまろ男)が乗っている。
HIBIKI スタジオの響社長は、一応神主なので事務所を離れる訳にはいかない。
と言うか・・彼らが鬼子と同行を決めたので、スケジュールの調節に
あたふたと謝りの電話などをしなければいけなかった。
車の中は、彼らの曲が流れていて心地のいい空間になっている。
車の向かう先は、鬼狐神社から北へ50キロほど離れた山間の中。
そこに、小さなお寺があるらしい。その場所を基点に、
心の鬼に取り付かれ強い悪しき輩となった者を探す為、移動している所だ。

 ヒワイドリが・・・助手席から後ろを覗き、鼻を大きく開いて笑顔で匂いを嗅いでいる。
鬼子は、薙刀の枝の部分でその鼻の開いたエロ顔を一生懸命前へ押し返していた。
「ねぇねぇ、鬼子ちゃん。この鼻の下が伸びている変顔さんは誰?」
鬼子の横に座っている詠麻呂が、そう聞いてきた。
変態の話題にしたく無かった鬼子だが、同行している者の紹介はしなくちゃいけない・・。
仕方なく、恐る恐る話す事にした。
「あ・・あのう・・・。こ、こいつも闇世の民で、多分鳥関係の鶏の民だと思います」
4人は目が輝いている。聞いた事は有るが、実際に闇世に生きる色々な民達を見た事が無いからだ。
「へぇ〜。鶏の民かぁ〜。でも人間と同じ姿してるのは何故なの?」
奏麻呂達の興味は当分続くだろう・・・。そう思った鬼子は、早くヒワイドリの話から
離れたかったので、口早にこの変態の説明をした。
「闇世には数多くの民が住んでますけど、元々は皆さんと同じ姿なんですよ。
 力を出す時にその民の本来の姿に変わるんです。でも、こいつは、闇世でイタズラばかり
 していたみたいなので、光の世で言う警察、闇世で言う大目付によって
 罰として鶏の姿にされてたみたいなんです」
すると奏麻呂が椅子から乗り出して来た。
「ぇえ?鶏??なってみて!」
超〜笑顔な奏麻呂。それにとても良い香りがするので、ヒワイドリは上機嫌だ。
「よお〜っし!女性人の頼み事とあっちゃぁ人肌脱ぐしかないなぁ!」
と、ヒワイドリは少し念を入れた。
それを見ていた秀吉が、慌てて言う。
「ヒ、ヒワイドリ。念の込め方を間違えるなよ。事故っちゃうから」
「わ〜かってるって!うっせ〜なぁ。ほらよっ!」
【バシュン】
・・鶏の姿に一瞬にして変わった。今回、車は中に浮く事無く・・・。
「ぉおお〜」
詠麻呂達のどよめきが興る。
「ほ、本当だぁ〜!鶏になってる〜。キャハハハハ〜!か〜わいぃ」
詠麻呂の意外な反応。奏麻呂も一緒になって喜んでいる。
「乳の話をしようじゃ無いか」
ヒワイドリのいつもの唐突なその言葉に凍りつく・・・のは、鬼子と秀吉だけだった。
詠麻呂は、ヒワイドリをバンバン叩きながら喜んでいる。
「なぁに〜、乳の話って〜。お子茶間なのね〜ヒワイドリって!」
叩かれているヒワイドリは喜んでいいのか・・顔を歪めながら悩んでいた。
何故なら、痛いのだ。とても痛いのだ。詠麻呂の叩く力が尋常じゃ無い・・・。
奏麻呂が後ろから手を伸ばしてきた。そして、ヒワイドリの首を掴み、
【グイッ】と自分の方へ引き寄せ、抱きついた。
「キャッハ〜!いい感じいい感じ〜!」
ヒワイドリは、奏麻呂の胸に押し当てられているのだが・・・顔は・・苦痛に満ちている。
ヒワイドリの顔が・・徐々に赤くなりだした。そして、赤くなった顔を通り越し、
青くなり始めた。・・・息が出来ないほど締め付けられているのだ。
「あ・・ぁあ・・」
ヒワイドリの言葉が小さく口から漏れて聞こえてくる。

104ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:01:34.84 ID:rDy6MD070
詠麻呂が奏麻呂からヒワイドリを取り上げようと、足を引っ張った。
すると、負けじと奏麻呂も首を引っ張る・・・。
「私のよ〜返してよ〜」
「あんた独り占めする気?貸しなさいよ」
と声を掛け合いながら、ヒワイドリを引っ張り合いしている。
息が出来ない状態で、引っ張られるヒワイドリ。彼には・・もう意識は無かった。
強い・・とても強い人達だ・・・。と鬼子は思った。
ヒワイな言葉を受け流し、自らそれを楽しんでいる・・・。
鬼子には到底真似出来ない光の世の力だ・・・。
歌麻呂、音麻呂もその光景を見てケラケラ笑っていた。
そんな楽しい?時間が過ぎ、車は小さなお寺へと着いた。

 本当に小さなお寺だ。本堂と、ここの神主が寝泊りしている建物だけある。鬼狐神社とは全然違う。
参拝客も見当たらない。車の音に気付いたのか、お寺からカラフルな洋服を着た人が出てきた。
鬼子達は、車から降りてその人物に挨拶をする。
ヒワイドリは・・・鶏の姿で、助手席で気を失ったままだ。
「いやぁ〜よう来なすった来なすった。鬼狐神社の人と、響ちゃん所の人達だね!」
出迎えてくれたのは、腰が曲がった見た目80歳過ぎくらいのお爺さん。
白いヒゲが長く伸びた神主さんなのだが、着ている服が・・・
赤、黄、青と・・・原色に近い色の洋服を着ている。
「わしゃぁ〜ココを守っとる神主で、鷲の民の鈴木ちゃんっちゅーんじゃ。宜しくな」
【ちゃん・・・って・・】と皆思い苦笑いしているが、
鬼子の目の色が変わる。もちろん他の皆も同じだ。
「宜しくお願いします。私はひのもと鬼子です」
他の者も挨拶をしたが、頭の中には、“鷲の民”と言う言葉がこだましている。
光の世の民の人達はもちろん、鬼子も鷲の民を見るのは初めてなのだ。
「鈴木ちゃん!鷲の民になってちょうだい!」
奏麻呂が飛び出して行き、そのお爺さんである鈴木ちゃんにそう言った。
怒られると思った鬼子と秀吉は肩を少しすぼめ、鈴木ちゃん(お爺さん)を伺うように見ていた。
鈴木ちゃん(お爺さん)は・・・超ニコニコ顔だった。
「おぉ〜う。えぇじゃろ。その代わりアンタ等のサインをちょうだいな。
 わしゃぁ〜詠ちゃん奏ちゃん2人の大ファンなんじゃ。ダハハハハ〜」
「ぇえ〜私達の事を知ってるんですか?ラッキー!」
秀吉が小さく手を伸ばす。目の前の状況が、心の鬼に取り付かれ悪しき輩となった話題とは、
正反対のミーハーな話しになっていたからだ。
「あ・・あのぅ、鈴木さん・・・」
秀吉の声は、鈴木ちゃん(お爺さん)に全く届かない。
「よ〜し!見ておれ」
と、鈴木ちゃん(お爺さん)は言いながら念を軽く込めた。
【バシュー】
凄まじい音とともに、鈴木ちゃん(お爺さん)の姿が変わっていく。
この世の者では無いとてつもない威圧感の有る形相。鋭い爪とクチバシ。鬼子達を覆う様な大きな体と翼。
鷲の形はしているが、どこと無く人間の形も残している。
そして、何より鷲が持ち得る強大な力が、鬼子達を震わせていた。
腰の曲がった先ほどの弱々しい姿はどこにも見当たらない。
「す・・・すごい・・・。こんな事があるなんて・・・」
鬼子は鷲の姿になった鈴木ちゃん(お爺さん)を呆然と見上げていた。

105ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:06:56.66 ID:rDy6MD070
 鬼子達は、鈴木ちゃん(お爺さん)が寝泊りしている部屋にいる。
壁には・・・詠麻呂と奏麻呂のポスターばかり・・。
目の前にいる鈴木ちゃん(お爺さん)とこの部屋を見る限り、弱々しいミーハーなお爺さんにしか見えない。
先ほどの姿は、やはり闇世の力の民の本来の姿なのだろう。
鬼子達は、そのお爺さんの底知れぬ力を感じてからは、身震いばかりしていた。
ヒワイドリは、元の姿に戻り皆と同じ場所にいるが、まだ青い顔をしてうな垂れている。
締め付けられてた後遺症がまだ残っているのだ。
部屋の中には詠麻呂と奏麻呂の曲が流れていて、鈴木ちゃん(お爺さん)はノリノリでみんなに出すお茶を入れていた。
鈴木ちゃん(お爺さん)は上機嫌だ。大ファンの詠麻呂と奏麻呂が目の前にいるからだ。それと・・・。
「鬼の民の鬼子ちゃんだったね!?そんな隅に座らずにこっちに来て囲炉裏にあたりな!」
「あ、は、はい。有難う御座います。でも私はここで・・・」
「・・・気にしとるのかぃ?闇世の事を。光の世にいる時はそんなこたぁ〜気にせんでえぇよ」
鈴木ちゃん(お爺さん)は優しい顔を作りそう言った。
疑問に思った音麻呂が鬼子の方を見た。
「え?気にするって何を?」
「そ・・それはぁ・・・」
鈴木ちゃん(お爺さん)は皆にお茶を出した後、鬼子の手を引っ張って囲炉裏のそばに座らせた。
「ワシらの鷲の民と鬼の民は、昔っからいざこざが絶えんでな。血の気の多い奴等が
 お互いの民に手を出したりして、色々あるんじゃ。鬼子ちゃんはそれを気にかけとるみたいだが、
 そんなこたぁ〜今ココじゃぁ関係ありゃせんよ。そうじゃろ般若面」
音麻呂(男)、歌麻呂(男)、詠麻呂(女)、奏麻呂(女)はキョトンとしている。
話しの内容は解ったのだが、最後の般若面と呼びかけたのは誰に対してなのか・・・。
すると、鬼子の辺りからガサツな声が聞こえてきた。
「そうじゃ、鬼子よ。光の世ではそんな事関係ないわぃ」
4人は少したじろぐ。鬼子からガサツな声が聞こえてくるからだ。
「お・・鬼子ちゃん。い、今の声は・・鬼子ちゃんなの?」
詠麻呂が驚いた顔でそう鬼子に聞いた。
「ち、違います。これです」
と、鬼子は自分の袂から般若面を出してきた。
すると、ヒワイドリが飛び上がり般若面に指を指しながら言った。
「そこの4人さん。こ、こいつには気をつけろよ。とんでもない悪党だからな」
「誰が悪党じゃぃ。馬鹿たれが!」
4人は鬼子から少し離れてその様子をジッと見ている。
鬼子の頭には汗が流れる。
「ホホホ。お前さんもだ〜いぶ気が長くなったな」
鈴木ちゃん(お爺さん)が般若面にそう言った。
「以前のお前さんなら悪口を言った奴は直ぐ食べてたんだがな」
ヒワイドリの額から汗が流れる。
「え・・・食べる・・?」
「冗談はそれくらいでえぇ。鷲の民の元長老よ」
般若面はそう言って、白い縦長の膨れ上がったお餅のような姿に変わった。
また、4人はその般若の姿に驚きと・・感動と。
「おぃおぃ。闇世の民って何か・・・楽しそうだな」
鈴木ちゃん(お爺さん)は、般若のその姿に驚き優しい顔の眉間に深いシワが出来る。
「お・・お前さん・・・。その姿になれるっ中事は、狐火様に解いてもらったのか。
 そ・・そうか。今回の悪しき輩は・・そんなにヤバイ輩なのか・・・」
「いや、まだそうと決まっておらん。やられた仲間は、力が弱いからな。
 ここに座ってる鬼子もそうじゃ。まだまだ鬼としては未熟なほうじゃよ」
そう言いながら、般若はヒワイドリに出されたお茶を自分の前に持ってきて飲んだ。
ヒワイドリは・・・何も言えない。


106ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:10:13.32 ID:rDy6MD070
「あのう・・・」
と鬼子は鈴木ちゃん(お爺さん)に声をかけた。
「鈴木さんは、今般若が言ってた元鷲の民の長老・・・って」
鈴木ちゃん(お爺さん)は笑顔で答える。
「そうじゃよ。だ〜いぶ昔じゃが鷲の民の長老をしとった。
 今は隠居の身で、大白狐様からの命(命令)で、ココの守り役をしとるんじゃ。
 こっちの世界はえぇのう。平和だし、綺麗なお姉ちゃんは多いし、
 何より、心地のいい歌もあるからなぁ」
詠麻呂達4人は苦笑いしている。闇世の力の民の中でも恐ろしいとされている鷲の民・・・。
しかもその長老をしていた人が、自分達の音楽を気に入ってるとは・・・。
とても複雑な気分だろう。
音麻呂はふと何かを疑問に思い、鈴木ちゃん(お爺さん)に声をかける。
「鈴木ちゃん、」
音麻呂がそう声をかけると、鈴木ちゃん(お爺さん)の形相が一瞬にして非常に怖い顔になる。
「“ちゃん”とはなんじゃぃ!?“さん”を付けろ!ワシの事を“ちゃん”で呼べるのは
 綺麗なね〜〜〜ちゃん達だけじゃ」
男陣の音麻呂、歌麻呂、ヒワイドリの脳内は、
【・・・・・・・・・・殺される・・エロジジイには気をつけよう】である。
もう一度音麻呂は言いなおした。
「す、すみません・・。ちょっと疑問に思った事がありまして・・・。
 それほど力の強い鈴木さんがいらっしゃるのに、何故輩退治にいかれないんですか?」
鈴木ちゃん(お爺さん)は、彼等4人の方を見て少しうなだれる。
「そうか・・・今の神職経験者って、そんな事も知らんのか・・・。
 ぬるいお湯の中に浸かってしまった者は、皆そうなのかのぅ・・・」
その言葉を聞いた彼等4人は冷や汗を流している。
鬼子も無言で冷や汗を流している。同じような疑問をいだいていたからだ。
「すまんのう鷲長(わしおさ、元長老の事)殿。こやつらはまだまだ半人前でな。
 わしの方から説明するわぃ」
見かねた般若が、みんなの方へと振り向いた。
「この鷲長も、鬼狐神社の狐火も、その他、神社、寺、祠などに仕える守り役は皆
 鬼子やそち達(4人)より力の強い民達ばかりじゃ。当然悪しき輩をも上回る力を
 持っておる。しかし、光の世の神社、寺、祠からは出らんのじゃ。
 神職関係での行事などで、神社から出たり、私用で出たりは出来るんじゃが、
 心の鬼関係では出られんのじゃよ。出られんと言うより出ないと言う方が合ってるがな」
歌麻呂が、その言葉に反応した。
「あ・・それって・・ひょっとしたらこの国の結界に関係あるとか・・・」
「ほほう、お主は少し勉強しとるみたいだな。その通りじゃ」
歌麻呂が、音麻呂、詠麻呂、奏麻呂の方を見た。
「ほら、俺達勉強したじゃないか。神社や寺、祠の位置関係を」
歌麻呂以外の3人は小さく声を上げる。
「あ・・この国を包む大きな結界の網の目の事か!」
それを聞いた鷲長は少し安堵する。そして、般若は言葉を続けた。
「そうじゃ。光の世では今まで力の強い悪しき輩が出なんだが、
 今は状況が違う事を他の守り役は知っとる。もしその時に一部の守り役が
 神社を出て、万が一輩に殺されでもしたら、そしてその時にその神社を破壊されたとしたら、
 その部分に関係する結界が壊れてしまうんじゃ。結界が壊れてしまえば、
 発祥が謎の心の鬼の繁殖が強くなってしまう。そうすると、心の鬼から徐々に力の強い
 悪しき輩へと姿を変えてしまう。そしてその悪しき輩が増えてしまえば・・・
 いずれは闇世と同じ状態になってしまうじゃろ・・・」
色々な話をしたその日は、そのままこのお寺に泊まる事にした。
そして、セクハラヒワイドリは詠麻呂、奏麻呂には近づかず、音麻呂、歌麻呂の近くで
くつろいでいた。

107ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:17:35.22 ID:rDy6MD070
 次の日の朝、お寺の庭先で出発の準備をしている皆の姿がある。
鬼子は、いつもの様に自分の角にヒワイドリアクセサリーを着けようとしていた。
出かける前の癖になっているようである。
鬼子の頭に着いてる般若面は、一言鬼子に言う。
「鬼子、今はその変てこなアクセサリーは要らんのじゃないか」
「あ・・そ、そうね。ついいつもの癖で・・・」
その様子を見ていた山伏装束の奏麻呂が鬼子に近づいて来た。
「あ〜そのアクセ着けないなら私に貸してよ!鬼子ちゃんが着けてていいなぁ〜って思ってたの」
奏麻呂の意外な趣味?ファッションセンス??なのだろうか・・・。
奏麻呂は鬼子からそのヒワイドリアクセを貸してもらい、自分の髪の毛に着けた。
その様子を見ていた音麻呂と歌麻呂はお腹を抱えながら涙を流し、無言で笑っている・・。
「さ〜いくぞ!おまえら!!俺様に付いてこい!」
と大声を張り上げながら歩いて行くのはヒワイドリである。
皆は、ヒワイドリと正反対の方に歩いて行った。
ヒワイドリが焦りながら言う。
「おぃおぃ、お前等何処にいくんだよ」
すると鬼子が答えた。
「そっちは南の方角よ・・・」
その様子を見ていた鈴木ちゃん(お爺さん)はケラケラ笑いながら手を振って
みんなを見送っている。

お寺を出ると、辺りは直ぐ薄暗くなる。
朝陽は照り付けてるのだが、日差しが高い木々にさえぎられ、地面まで届かないのだ。
「よ〜し」
と音麻呂が言いながら、腰に掛けていた法螺貝(ほらがい)を口にくわえた。
【ブオォ〜ン、ブオォ〜ン】
とその法螺貝を力一杯吹いた。
音麻呂、歌麻呂、詠麻呂、奏麻呂の4人は、その場にジッとして動かない。
法螺貝の音が鳴り止んでから少し経った。
「う〜んやっぱり反応なしか。錫杖(しゃくじょう)が響かない・・・
 やっぱり俺達4人は、別れて行動した方がいいな」
音麻呂がそう言うと、鬼子が直ぐに近づいて来た。
「え・・別れてって、危険ですよ。皆一緒に行動しなくちゃ・・・」
「いいや、この広い山で一箇所に固まって法螺貝を吹いていてもそう簡単に悪しき輩を
 見つける事は出来ないだろ。それなら散らばって色んな方面から法螺貝を吹いて、
 山の反応を探らなくては意味ないからね」
「で・・・でもそれじゃぁ危険すぎます・・・」
鬼子の頭の上で般若面となっている般若がしゃべる。
「そうか、お主等のその力は多方面の方が力を発揮する・・と言う事じゃな」
それに音麻呂が答える。
「はい。危険なのは解っていますが、無意味に時間を費やすよりいいと思います」
すると、般若面が白いお餅を伸ばしたような般若の姿へと変わり、地面に降りた。
「奏麻呂とやら。お主が頭に着けとるアクセサリーをちょいとワシにかしておくれ」
「え?こ、この可愛いアクセを?」
「そ・・・そうじゃ」
般若は奏麻呂の独特の感性に驚きながら、そのヒワイドリアクセサリーを受け取った。
「な、何するの?」
と鬼子は般若に聞く。
「ちょぃ見とけ」
と般若は言いながら、両手を前に出しそのアクセに念を送っている。
すると、一瞬そのアクセが輝き、そしてまたすぐ消えた。
「これをお主等4人がそれぞれ持つんじゃ。何かあった時、お主等の念をこのアクセに込めると
 その位置がすぐ解るし言葉も交わせる。ワシにも、鬼子にも、お主達にもじゃ。
 それと、音麻呂と歌麻呂は一人で行動じゃ。気をつけるんじゃぞ。
 詠麻呂には秀吉が付け。奏麻呂にはヒワイドリじゃ」
4人はヒワイドリアクセをそれぞれに分けて渡し、袂に入れた。
鬼子と般若面。音麻呂。歌麻呂。詠麻呂と秀吉。奏麻呂とヒワイドリ。
この5組がそれぞれ違う方向へ歩いていった。
108ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:22:21.89 ID:rDy6MD070
 冬場だが、鬱蒼と生い茂る木々。出発した時より少しは明るくなっているが、それでも
やはり辺りは薄暗い。皆と別れてから3時間くらい経っただろうか。
音麻呂、歌麻呂、詠麻呂、奏麻呂はそれぞれの場所で法螺貝を吹き、山の反応を伺っているが、
錫杖の反応は無いままだった。
白いお餅状態で鬼子の頭の上に乗っていた般若が、何かに気付いた。
「鬼子ちょぃ止まれ。あの右側の枯木の近くまで行ってくれぬか」
「え?どうしたの般若」
と鬼子は言いながら枯木の近くまで歩いていった。
すると、般若が鬼子の頭の上から【ピョン】と飛び降りた。
般若はその枯木の下にある黒い石を拾い上げた。
「そうか・・・ハチ太郎の鼻が効かん訳じゃ・・・」
そう言い、その黒い石を鬼子に見せた。
「なにか・・その石に何か書いてあるわね。何なのこれ?」
「これは、神代文字じゃ」
「神代文字!?」
「そうじゃ。この文字の配列は、犬の民の鼻を効かなくする為の念が込められておる」
鬼子は目を見開いた。
「じゃ、じゃぁその術にハチ太郎は引っかかってしまった訳なのね・・・」
「そうじゃ。多分このような石を、この山に配置して犬の民の鼻を効かなくする
 結界をはっていたんじゃろう」
「じゃ・・・じゃぁやっぱり般若が言っていた・・知恵の有る悪しき輩がいるって
 事なんじゃぁ・・・」
般若は腕を組みながら言う。
「う〜ん・・・。推測じゃがな。しかし、そう考える方が普通じゃろぅ。
 知恵の有る輩がいると考えながら、こちらも行動する方がえぇじゃろな」
そう言いながら二人はまた歩き出した。
が、鬼子の表情が先ほどから少し曇りがちだ。
鬼子の頭の上に乗っている般若が聞いた。
「鬼子、さっきから変な顔をしとるがどうしたんじゃ?」
「う〜ん・・・。奏麻呂さんはアクセに念を入れてないのに、居る位置が
 手に取るように解るのは何故なのかな〜って思って」
「あ!」
般若はそう言い、鬼子に叫んだ。
「鬼子!奏麻呂の所へすぐ飛んで行くんじゃ。早く!」
鬼子は森を裂く勢いで奏麻呂の所へ走りながら飛んでいく。
そして鬼子は走りながら般若に聞いた。
「は・・般若・・。どうしたの?何故急に?」
「ワシとした事が・・うかつじゃったわぃ。奏麻呂の近くにはヒワイドリがいる。
 あやつの呪縛を解いた時、以前より増して力が強く成っておる。力が強くなるって事は、
 相手からもその位置が解りやすいって事だ」
鬼子の表情が変わる。目が赤く染まっていき、くれない色の着物からはもみじが舞い散る様になった。
鬼子の鼓動が速くなる。その表情は、悲しさを背負っている様にも見えた。
鬼子は無言で奏麻呂のいる所へ力一杯走って行った。
【バッ】
鬼子が突然、奏麻呂とヒワイドリの目の前に飛び出して来た。
突然の事なので、奏麻呂は素早く一歩後ろへステップし、険しい表情で身構えている。
ヒワイドリはその奏麻呂の後ろに隠れていた・・・。

109ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:26:02.17 ID:rDy6MD070
状況を把握した、奏麻呂の表情が穏やかになっていく。
「あ〜・・ビックリした。鬼子ちゃん驚かせないでよ〜」
「ご・・ごめんなさい。ちょっと心配になって・・・。
 で、ヒワイドリ・・。何であんたが奏麻呂さんの後ろに隠れてるのよ・・・」
鬼子はキツイ表情でヒワイドリを睨んだ。
「だ・・だって・・。怖かったんだもん・・・」
ヒワイドリは弱々しくそう返事した。
般若が鬼子の頭から飛び降りてきた。
「ヒワイドリ、お前は鬼子と一緒に行動せい。奏麻呂にはワシが付く」
すると、ヒワイドリが般若に指をさしながら叫んだ。
「ぁあ〜あんた、奏麻呂ちゃんに手を出そうとしてるだろ!」
【ガツン】
ヒワイドリの頭が地面に埋まり、足をバタバタさせている・・・。
般若が殴りつけたのだ・・・。
その時、詠麻呂からヒワイドリアクセを伝って皆の心に連絡が入った。
【皆、ただの連絡よ。まだ遠いと思うけど、微弱ながら錫杖が反応してるわ】
すると、それに反応する様に鬼子が念じた。
【解ったわ、詠麻呂さん。今からそっちに行くからその場で待っててね】
般若もそれに反応する。
【音麻呂と歌麻呂は詠麻呂と近い位置にいるから、用心しながら詠麻呂の方へ
 移動せい】
音麻呂、歌麻呂もそれに反応する。
【はい、解りました。回りを探りながら徐々に詠麻呂の方へ近づいて行きます】
般若は鬼子の方を見て言った。
「鬼子、詠麻呂、秀吉と直ぐ合流するんじゃ。ワシと奏麻呂の2人を背負って行けんからな」
「はい。解りました」
と鬼子は言い、直ぐに詠麻呂と秀吉の所へ走り飛んで行った。
ヒワイドリはとっさに鶏の姿に成り、鬼子の背中に飛びついた。
森を凄い速さで駆け抜ける鬼子。やはりその目は赤くなり、着物からはもみじが舞っている。
そして先ほどと同じように悲しい顔をしていた。
詠麻呂と秀吉が悪しき輩と遭遇した訳ではない事は解っている。
解っているのだが、鬼子の心には今までの辛い出来事が蘇っているのだ。
決して、傷つけさせてはいけない、悲しい想いをさせてはいけない・・・。
そう思いながら鬼子は森の中を駆け抜けているのだ。
【ズザッー】
鬼子はあっと言う間に詠麻呂と秀吉の前に出てきた。
ヒワイドリは鬼子の背中にしがみ付きながら白目を向いている。
鬼子のあまりの速さに目を回したのだろう。
詠麻呂と秀吉は少しビックリしたが、それより驚いたのは、鬼子の表情だった。
角が伸び、目が赤くなり、着物の裾が動きやすいように短くなり、そしてその着物から
もみじが舞っていて、手に持った薙刀が少し輝いていたからだ。
「お・・鬼子ちゃん・・・?」
そう詠麻呂は鬼子に声をかけた。
鬼子は笑顔でそれに答える。
「はい。輩の反応はどうですか?」
鬼子は心配していた自分の心を隠し、精一杯の笑顔でそう詠麻呂に聞いた。
「あ、あぁ輩ね。大丈夫。反応は小さいわ。まだ近くには居ないわね」
「そうですか。ココからは私と一緒に行動しましょ!」
心配している心を隠した鬼子の表情を、秀吉は読み取っていた。
「よ〜し。僕が2人を守ってあげるからね。こう見えても、僕は強いんだぞ〜!」
秀吉は、鬼子の緊張した心を少しでも和らげようと織田がいつも言うような口調で
腕まくりしながら力拳を作っている。
それを見ていた鬼子と詠麻呂は笑っていた。


110ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:31:23.82 ID:rDy6MD070
「鬼子ちゃん見て!ほら、錫杖がすこ〜し振動してるでしょ。これって、山の自然の力が
 私達の問いかけに反応してくれてるのよ。この山の木々や大地が生きている事を実感出来るって、
 すっごく興奮しない!?だ〜からやめられないのよね〜山伏って!」
「へぇ〜山が生きているっていままで考えた事無かったから、不思議で不思議で」
鬼子の表情は笑顔だった。鬼子の心を和らげるのは、秀吉より詠麻呂のほうが、
一枚も二枚も上手のようだ。
鬼子達の前の方から声が聞こえて来た。
「お〜ぃ」
手を振っているのは、一番近くに居た音麻呂だった。
その音麻呂が笑顔で手を振っている。
「あれ?鬼子ちゃんも居たの!?奏麻呂の近くにいたんじゃぁ」
「はい、走り飛んで来ました!」
「え・・?は、速いね・・。とても・・・」
音麻呂はかなりビックリしている。鬼子の位置は、ヒワイドリアクセで読み取っていた。
かなり遠くにいた奏麻呂の所からここへこんなに速く走って来たなんて・・・。
その時突然、音麻呂と詠麻呂が手に持っていたヒワイドリアクセから急に痛みが走った。
【鬼子!】
般若の声が聞こえた。
【バッ】
っと飛び出していく鬼子。
みんなに伝わった痛みとは・・・。

・・・歌麻呂の痛み・・・。

森の中を凄まじい速さで駆け飛ぶ鬼子。
その姿は、角が少し光ながら鋭くなり、着物からもみじが大量に舞い散っている。
薙刀は光輝き、そして・・・目は見開き、赤黒く染まったその瞳からは・・・涙が溢れていた。


投下終り。


「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十二章〜【ヒワイドリの怒り】に続く。

111ほのぼのえっちさん:2011/05/09(月) 21:39:40.68 ID:rDy6MD070
こんなおちゃらけ曲も作ってみました。
「君とドライブ」by、5変態
セカンドシングル・・・
*最初の方音割れに注意・・・。

「君とドライブ」by、5変態
http://ux.getuploader.com/oniko3/download/47/kimitodoraibu-gohentai002.mp3

アーアア アーアア アーアア アーアア
近寄って行く俺達 誰が見ても男前
君はまだ気付かない そっと肩を叩くまで

ドライブしよう俺達と一緒に 目が光る俺
自身満々アゴを上げて言う ほら決まったぜ〜 
逃げないで 走らないで 叫ばないで〜
投げないで 叩かないで 蹴らないでよ〜
ただ君と 一緒に 風を切って〜
この街を ドライブ したいだけさ〜(下の「い」と被る)

いつも〜手探りしてる 俺達の居場所が無い 遠い道のりか〜
光当たる場所まで 飛ばしていこう今すぐ 君の笑顔とともに〜 

紅色のお姉ちゃん 恥ずかしがらずに乗りなよ
君はまだ気付かない 俺達の良い所に

刺さないで 殴らないで 散らさないで
切らないで えぐらないで 食べないでよ〜 
ただ君と 一緒に 風を切って〜
この街を ドライブ したいだけさ〜

みんな心の鬼に 取り付かれても平気さ 必ず萌えようぜ!
光当たる場所まで 飛ばしていこう今すぐ 君の笑顔とともに〜

112ほのぼのえっちさん:2011/05/12(木) 00:28:56.01 ID:QGkEbfsT0
小日本がハンニャーを抱えながら、地図に書かれた家へと向かう鬼子達。
ハンニャー『そこに住んでる子はね、去年に図書館の絵画コンクールへ応募してくれた子だったんだけど…』
鬼子『何があったんですか?』
ハンニャー『その子が描いた絵を見た男の人たちが、揃って係員さんのお尻に痴漢をしてったのよ』
鬼子『それって…観た者が心の鬼に憑かれた、って事ですか?』
ハンニャー『そうね。…着いたわ、ここよ』
古びたアパートの二階、下手すればお化けでも出そうな程ボロくなったアパートに辿り着いた。

第十三話:現代の鬼絵師、匠ちゃん

ピンポーン…。インターホンを押しても、何の反応も無い。奥からは何かの音楽が聞こえてくる。
ハンニャー『しょうがないわね…。ちょっと窓から回ってくるから少し待ってて』
小日本の腕から屋根に上げられると、ベランダ側へと降りたハンニャーはガラスを爪で掻き、不快な音をたてる。
ハンニャー『田中さん、開けて頂戴。前に言ってた鬼子ちゃんを連れてきたわよ』
呼ばれた田中さんは、窓を開けて玄関の方へと向かう。
ガチャリと扉が開くと、そこには鬼子と同年代の女子が立っていた…。
田中『あの…あなたが鬼子さん?本当に角があるの?若般さんみたいに霊能力があるって本当?』
ハンニャー『あのねぇ、そんなに一度に聞いたら誰だって答えられないわよ。もう少し落ち着きなさい』
突然の質問攻めに鬼子はキョトンとしているが、それを遮って小日本が質問を返す。
小日本『ネネさまがいつも言ってたよ!まずは相手に尋ねようとする人がなのりなさい!って』
得意げな顔で胸を張る小日本は、少し大人になったと思って嬉しいのであろう、自信満々な顔だ。
田中『これはこれはお嬢様、失礼を致しました。私の名前は田中匠と申します。一介の絵描きでございまして、
   そちらにおられます若般様にお世話になって依頼、時折絵を見て貰ったりしている者でございます』
小日本『あたしの名前は小日本、こちらにいるネネさま…日本鬼子よりお名前をお借りしました居候でございます』
真似をして、小日本が少し威張り気味に自己紹介するが、すかさず突っ込みが入る。
鬼子『小日本、居候はそんなに誇れる事じゃないのよ?柚子さんの優しさに感謝しなきゃ…。
  私は、日本鬼子と申します。そちらの若般さんに鬼祓いの修行をつけて頂き、現在もその鬼祓いを生業としております』

113ほのぼのえっちさん:2011/05/12(木) 00:30:04.83 ID:QGkEbfsT0
田中『本当に鬼を退治できるんだ!その…角を見せてもらって良い?』
ハンニャー『田中さん、興味深深ね。でもまずは中に入っても大丈夫かしら?』
小日本『ハンニャーはもう中に入ってるじゃん!変なの〜』
田中『ねぇ、小日本ちゃん、なんで若般さんがハンニャーって名前なの?』
小日本『ハンニャーはね、いつもネネさまの般若のお面を気にしてるし、ニャーとも鳴くからハンニャーなの!』
鬼子『…あの、本当に上がらせて貰っても大丈夫でしょうか?それに…もし鬼の角があったなら…それは怖く無いのですか?』
田中『大丈夫よ、汚い所だけど上がってって。小日本ちゃんも一緒にね』

中に入ると部屋の壁には沢山の絵やポスターが貼られている。机の上には描きかけの絵が置いたままだ。
お茶の準備と終えた田中さんは、帽子を取った鬼子の頭をマジマジと見ている。そ〜、っと手を伸ばされると、鬼子はビクッと身構えた。
田中『ごめん、怖かった?ちょっと触ってみたくなっちゃって。それ…本物なんだよね?』
鬼子『はい、本物です。それより、怖くは無いのですか?本当に鬼だとしたら…』
田中『あたしは何か作っている時に、そればっかり集中しちゃって、他は普段も含めて全然無頓着になっちゃうのさ。
全然怖く無いし、むしろ作品のネタにもっと見せて欲しい位だよ。触っても良い?』
ハンニャー『いい加減にしなさい。それより、田中さんの中に潜んでいるモノを見せて上げて欲しいの』
田中『…解ったわ。けど、目に見えるほどなんてそう無理だと思うんだけど…』
机に向かい、田中さんが創作に集中しだすと、鬼子の目には白い靄が形を成していくのが見えた。
ハンニャー『この子が抱えている心の鬼は、鬼と言うより守り神に近いのかしらね…自分の『拘り』を紙の上へ表現する力よ』
鬼子『でも…害は無いんですか?前に大事になったって…』
ハンニャー『まぁ、こいつのせいで、見ただけで何かムラムラする絵になっちゃうみたいなんだけどね。基本は本人の実力でしょ』
鬼子達が話している間にも、一枚書き終えたのかフッと気配が消えていく。本人に対して害を与える事も無いようだ。

田中『で…何か解ったんですか?私はただいつも通り絵を描いていただけですけど。』
ハンニャー『あなたは普通にその状態を切り替えられるけど、この子にそれは難しいのよ。そのコツを教えて上げて頂戴』
鬼子『ど、どうか宜しくお願いします!私はもっと上手く力をコントロール出来ないと駄目なんです!』
深々と頭を下げる鬼子を見て田中さんはため息を吐いた。
田中『そんなに肩肘張ってちゃ気持ちの切り替えなんて出来ないでしょ?…!そうだ若般さん、この子一日借りて良い?』
ハンニャー『良いけど、どうするつもりなの?』
田中『鬼子ちゃん、あんまり街で遊んだこと無いでしょ?明日一日遊びましょ!何抱えてるのか知らないけどさ、一度全部忘れようよ!』
鬼子『遊び…ですか?本当にそんなので大丈夫なんですか?』
田中『ほら!またそうやってまた硬い事を言う。全部気にしないためだから忘れなさい!明日この駅で十時ね』
鬼子が戸惑うまま、駅名が書かれた紙を、田中さんが手渡してその日は分かれた。

114ほのぼのえっちさん:2011/05/12(木) 00:31:01.68 ID:QGkEbfsT0
新宿駅北口付近
深夜1時。まだ活気がある街にに銃声と悲鳴が絶えず鳴り響いている。
発砲目標は3mを超えるであろう巨大な鬼。
「ちっ!本部は何をしてるんだ!これ以上は防護結界が持たないぞ!」
「もう少しで特殊部隊が来るはずなんです!」
「待っていたら被害は増大するぞ!ここで仕留めることが出来ればっ!」
「無理です!装備が足りません!」
「なら奴もろとも俺が!」
「む、無理ですって!」
――遅れてすまない。こちら特殊作戦部隊。目標を視認した。作戦行動に移る。地上部隊は避難を。
隊長であろう男を抑えている兵士に無線が入る。
上空にはヘリが見えている。全滅はしなくて良さそうだと兵士が胸を撫で下ろす。
「隊長!特殊部隊です。結界を維持したまま避難しましょう」
「やっとか……生存者に通達!防護結界を維持したまま鬼から距離を取れ!結界が薄くなっても構わん!」

ヘリ内部
「パイロットさん。もっと近づけない?」
ヘリから長髪の女性が目標である鬼を覗き込むようにして見ながらパイロットに相談する。
どうやら、彼女は人ではないようだ。頭部に二本の小さな角を生やしている。
「パイロットじゃない。監視員だ」
「どっちでも良いじゃない。それよりこれ以上は近づけないの?」
「不可能だ。これ以上近づけば、結界が崩壊する。被害が増えるのはゴメンだ」
「それじゃあ、私は部隊が全滅するのを見ていますね。可哀想に……」
ヘリを操縦している男が被っているヘルメットを外し頭を掻き毟る。
どうやら相当悩んでいるようだが決心したようだ。
「あっー!どうなっても知らんからな!くそっ、なんでこんな仕事を請け負ったんだ俺は……」
「愚痴るなら無事に退治してからにしてね」
「分かってるよ」
ガクンッとヘリが一度旋回し急降下を始める。
まるでジェットコースターのように体が浮いている気分がする。
「まだ、あと少し……」
「これ以上は墜落する!」
「ありがとね。監視員さん」

115ほのぼのえっちさん:2011/05/12(木) 00:31:54.50 ID:QGkEbfsT0
ふわっと風がヘリの内部に流れ込んできたと思ったら彼女の姿は既になかった。
飛び降りたのだろうか?
次の瞬間、ガラスが割れるような音と共に青白い光が視界を覆う。恐らく、結界が割れたのだろう。
「くそっ!墜落する!飛び降りるぞ記者さん!」
男が焦りながら私の服を思いっきり掴み外へ飛び出す。
一瞬の出来事で訳が分からなかったが私はヘリから飛び降りたのだ。
頭を打ったのか酷い頭痛がする。しばらくして、少しぼやける目を開けると先ほど乗っていたヘリが頭上を通り過ぎ、
新宿駅へ墜落するのが見えた。言葉では表せないほどの衝撃音と熱風が私を襲う。
冷たいアスファルトとの温度差が何とも言えない。
「大丈夫か記者さん。あんたがボッーとしてるから目標は退治されちまったぞ。決め台詞を言ったところだけでも撮って置けよ」
「あ、あぁ……」
自ら彼らのヘリに乗りたいと志願したというのになんという失態だろう。
彼女が鬼を退治する瞬間はどうやらカメラに収めることは出来なかったようだ。
落胆しながらも彼女達の監視員である彼の言うとおり最後の場面でも写真に収めておこう。
「萌え散れ……」
彼女がそう呟くと、鬼は一瞬のうちに大量の紅葉の葉へと変わってしまった。
あまりの美しさに私はカメラのシャッターを押したまま時が止まれば良いと思ってしまう程だ。
「あのさ、毎回毎回ね。紅葉を散らすのはやめてくれない?」
「えー。だってカッコいいじゃないですか。こう、ブワッ―っと紅葉が舞う中を私が歩くっていうのが」
「知らねぇよ!経費がスゴイの!今回もヘリは潰すわ、駅は潰すわ、紅葉は散るわで本部に帰りたくないわ!」
「ヘリと駅は知りませんよ勝手に落ちたんですから」
「無茶な要求をするからだろうが!また給料が……」
「それは私には関係が……あれ?記者さんどうしたんですか?」
彼女が私に気づいたようで話しかけてきてくれた。
「あ、いや。今回は取材にご協力いただきどうもありがとうございました」
「いえいえ」
「何照れてるんだ。照れる要素は一つもなかったぞ」
「え?そう?」
「はぁ……記者さんはもう帰るんだな。警察が来たら厄介だぞ」
「そうですね。本日はありがとうございました」
「二回目―」
「次に取材するときは安全な日だと良いな。ま、あり得ないだろうけどな」
私は彼らに礼をすると、直ぐにその場を後にした。
特殊作戦部隊、思ったより危険な人たちでは無さそうだ。今後も彼らの取材を続けていきたい。
                   週刊鬼報!

「――だってさ監視員さん」
「あぁ、あの記者さんね。ヘタレかと思ったら何気に受身とってたからびっくりだよ」
「え?受身取れたの?」
「いや、受身って言うかただ転がってたというか――」
「私語は慎め!どういう状況か分かってるのか?ヘリを墜落させ、挙句の果てには駅まで潰すという
訳の分からない大惨事を引き起こしてどうするつもりだ!」
「……すいませんでした。以後はこのような事が無いように監視員の私がしっかり見張ります」
「見張られます」
「毎回毎回同じことを言ってるじゃないか!この前の事件では、ヒワイドリが大怪我を負うような――」
『また同じこと言ってるぞチチメン』
『仕方ないよ。ま、アレは私じゃなくヒワイドリが悪いんだけどね』
「それに付け加え、鬼子の方はどうだ?毎回毎回……」
『『早く説教終わらないかな』』


116ほのぼのえっちさん:2011/05/12(木) 00:35:15.42 ID:QGkEbfsT0
−ここはとある都会にある電気街。都会の空気に馴染みそうにない、和服姿の少女が一人。
駅の改札口で時計を何度も気にしながら待っていた。その文字盤は…まだ九時を指している。
鬼子『…凄い所。みんな色んな想いが渦巻いてるみたいだけど、大丈夫なのかしら?』
見渡す街には「心の鬼」とまではいかないが、多少の黒い感情や集中した白い感情が鬼子の目には見えていた。
田中『ごめんね〜!待ったでしょ?』
後から、改札を抜けた田中さんが声をかける。
鬼子『いえ、大丈夫です。それで…ここで何をするんですか?どこかに潜んでいる鬼を祓うとか…?』
田中『ちょっと、何もしないってば!ただ遊ぶだけ。行きましょう』
そういうと、鬼子の手を取り、人ごみの中へと入っていった。

第十四話:初めての友達
(注:私は秋葉原に行った事がありません。モデルはあの街ですが、表記は絶対本物を表現し切れていないかと)

街中を歩くと、鬼子は帽子が取れないかどうか必至に気にしている。人ごみに押されて今にも外れそうだ。
田中『何やってんの?その帽子、取っちゃって良いよ?』
鬼子の返事を聞く前に帽子を取ってしまう。昔は小さなお面で隠せていたが、大きくなってくると高い麦藁帽の様な帽子で隠していた。
慌ててもう一度被ろうとするが、その手を田中さんが止める。
田中『大丈夫、大丈夫よ、この街では。周りをよく見てご覧よ。もっと変な格好をしている人達が沢山居るから』
人々に見えた想いの渦にばかり囚われていた鬼子は、姿や格好までに目がいってはいなかった。
よくよく見てみると、冥土姿、何か西洋中世の格好に似た姿や、髪を様々な原色系に染めた者までいる。
鬼子『…ここは、不思議な街ですね。なぜこんな奇天烈な格好をしてらっしゃるんですか?』
田中『みんな自分の好きな事に正直だからじゃない?基本的にここで表現されてる趣味はオタクだ何だと世間一般に嫌われてるから…。
   でも、鬼子さんみたいなコスプレをしてる人も多いから、ここなら何も気兼ねなく遊べるでしょ?ね?』
突然提案して、何も考えていないと見えてもきちんと考えて場所を選んでいた様だ。その気遣いに鬼子も少し笑顔を見せる。
鬼子『…有難うございます、田中さん。いつも私は怖がられると思っていました』
田中『匠でも良いよ。良かった、気に入ってくれたみたいで。じゃあ悪いけど、最初に本屋さんへ寄って良い?』
鬼子『はい、大丈夫ですよ。何処へなりともお供いたします』

本屋へ立ち寄ると、色々な本が並ぶ中で普通に春画や男色本のあるコーナーへと立ち寄る。
周りに並ぶ本を見て、顔を赤らめる鬼子に対して水を得た魚のように色々と物色する田中さん。
田中『ちょっとこれとこれ持っててくれる?』
鬼子の手に本をヒョイヒョイ手渡すが、その表紙はやはりある程度露出の高い女性ばかり。
ドンドン顔を赤らめる鬼子に対して、最終的に十冊位集めた田中さんは満足げにレジへと向かう。
鬼子『あ、あの…本当にコレをこんなに沢山買うんですか?!』
田中『そ〜よ〜。買うだけじゃなくて自分でも書くんだから、資料資料。後で私が持つから大丈夫よ』
結構な値段になったが、平気な顔で全てお買い上げして、そのまま本屋を出る。

117ほのぼのえっちさん:2011/05/12(木) 00:35:41.65 ID:QGkEbfsT0
鬼子にとってはどれも見た事が無い風景、事柄である自然に顔もほころぶ−が、一瞬心の鬼の強い気配を感じた気がして振り向く。
田中『どうしたの?急に?』
鬼子『いえ、何か嫌な気配を感じた気がして…でも気のせいみたいです』
そう、その視線の先には何も無かった。ドロドロとした心のモヤも、集中した人が見せる気配も『全く何も無かった』のだ。
田中『そろそろお腹空いてない?ご飯食べようよ』
二人はカフェに入ると向かい合わせに座った。普段は御飯派な鬼子も、郷に入っては従い洋食を前にする。
鬼子『あの…本当にこんな感じで、自分の中に潜んだ鬼を制御出来るんですか?』
田中『また考えていたの?一体何を抱えているのか知らないけど、考えすぎは良くないよ。私なんて気が向いた時に集中してるだけだし』
鬼子『…私の場合は、本当に鬼が憑いてしまったんです。『道引鬼』という鬼の世界へ引きずり込む悪鬼で、今は若般さんが封じてくれてますが、
   もし怒りに任せて力を振るえば、その鬼さえも開放されて私が鬼の道へと落ちてしまうかも知れないんです。だから…』
田中『じゃあ、落ちちゃえば?』
鬼子『え!そんな事したら私は人に害を成すかもしれないんですよ!前に同種の『囁鬼』に引き込まれた先々代の…』
田中『ゴチャゴチャ考えてないで、自分で選んじゃえって言ってるの。今日は私と一緒に遊ぶって『人の道』を選んだ、
   明日は違う考えが生まれるかもしれない、いつかそれに答えを出して、自分で選べば良いじゃない』
鬼子『本当にそれで大丈夫なんでしょうか…若般さんもかなり警戒されてますし、うちの本家でも…』
田中『全然関係ないよ。若般さん時々酷いんだよ?私が全力で描くと「人を惑わすかもしれない」って控えめにやれって言うんだ。
   でも私は本気で描く。それは自分で選んだ道だし、誰にも止めさせたくない。だから私は一人で住んでるし周りも気にしない』
鬼子『強いんですね。私もそれ位強くなれるでしょうか?』
田中『あんまり気負いしすぎなきゃなれるんじゃない?他人のためだけに自分が居るわけじゃないし、楽しみなよ』
鬼子『はい。有難うございます』
二人はその後も街中でゲームセンターやらで遊び、旅館の前まできた。一日全然構って貰えなかった小日本が膨れている。
田中『最初に本買ったのは失敗だったわ。重くてもうヘトヘト…』
鬼子『またご一緒させて下さいね。本日は有難うございます』
その場で深くお辞儀をする鬼子に苦笑いしながら、田中さんは手を振りながら帰っていった。


118ほのぼのえっちさん:2011/05/12(木) 00:37:12.63 ID:QGkEbfsT0
第十と二分の一話(バレンタインだよ!鬼子と集合!)

鬼子が三つの包みを持って、近くの神社へ行く。そこはいつか皆で綺麗にした場所である。
鬼子『お三方〜居るの〜?』
一番奥に鎮座する社が、ギィ…っと音を立てて扉が開いていく。中から出てきたのは鶏型のエロ神の一種…ヒワイドリだ。
ヒワイ『あぁ、ここに居るぞ?今日はどうしたというのだ?』
出てきた社の奥には、何やら色々な人形やら冊子がいくつか置かれている。
鬼子『最近悪さをしなくなってきている様だから、そのお礼にでもと…もしかしてその後ろのってお供え物?』
ヒワイ『あぁ、そうだな。私は肉欲系の神、それを過剰に感じさせるものをお払いも含めて置いていっている様子だ。
    たまる一方ではあるが、おかげで退屈はしていないのさ。これも鬼子、そなたのおかげでもある』
鬼子『なんか前の元気さが無いわね。でも偉いわ、それを見る限りお焚き上げもやって、人々が惑わぬようにもしてるんでしょう?』
ヒワイ『お焚き上げ?何の事だ?せっかくの秘宝(?)を焼いてしまうなど誰もせんぞ?』
鬼子『…じゃあ、今までに溜まった分でそれだけ?「溜まる一方」って言うほど無いみたいだけれど…』
あの大晦日以降も少なからず参拝客はいたはず。約一ヶ月と少し…それにしては少ない。片手で足りる程度だ。
ヒワイ『当然、これ以上溜まっていたさ。だがな、鬼子よ…秘宝とは多くの若者に受け継がれてこその秘宝なのだ。
   ここに無い分は全部、近所の性欲旺盛な中学生辺りが持って帰ってくれたよ。あの子らの将来が楽しみだなぁ…』
鬼子『…じゃあ何?有害図書認定なんて軽くしそうな本を、年端も行かない少年が持っていくのを黙って見てた、っていうの?!
   せっかく少しでも義理を通そうと思ってチョコレート持ってきてあげたのに…もう知らないわ!萌え散れ!!』
言うなり石突部分でボコスカ殴る。その反動で社にあった魔改造されたフィギュアや無修正のいかがわしい本も散る。
ヒワイ『グ…グケェ…そうか、今日はばれんたいんでーという奴か…道理でエロ心が半端な訳だ。今日ばかりは精神純愛が主になり、
    純粋な心でワクワクしておるんだろうなぁ…ここで何度も秘宝を漁っていた彼らも、何か貰えているかなぁ…』
どこか哀愁を漂わせた目で遠くを見つめるヒワイドリは、あと二人の分も合わせた三つの義理チョコの下で気を失った。

一方その頃…ヤイカガシの所では、先日の勇ましく(?)心の鬼とも対峙し、病気の少女を労わる姿に感動した小日本が、
一生懸命考えて作った手作りチョコを手渡そうとしていた。もちろん、躊躇無く受け取るヤイカガシ。
ヤイカ『いいんでゲスか?あっしにこんな大層な物を頂やして。あっしも罪な男になれたでゲス』
小日本『本命チョコ、ってのじゃあ無いんだよ。でもお友達として一生懸命頑張りました!』
ヤイカ『すまないでゲス。さっそくいただくでゲス!…これは!?』
すぐにがっつくヤイカガシであったが、何やら様子がおかしい。チョコの割れ目からは小骨が出ている。
小日本『美味しい?「いわし」ってもっと小さいお魚を食べるんだよね?だから頑張って煮干を砕いて入れたの!ねぇ、美味しい?』
ヤイカ『(この笑顔を消したら…)美味しいでゲス、美味しいでゲス…涙が出るほど美味しいでゲスよ!でもちょっと飲み物が…』
小日本『良かった〜。あ!飲み物なら腐葉土を溶かした特製ココアがあるよ!「ひいらぎ」の葉も育てなきゃね〜』
その日、ヤイカガシの目からは感動か不味さからか解らない涙がさめざめと流れ続けていた。


119ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:24:53.21 ID:IKUA+5ia0
2月14日!バレタイン!
鳴「日輪さん、鬼子さん」
日「ん?」
鬼「なんですか?」
夜「チョコが欲しいです」
日「ほほぉ〜う」
鬼「私、チョコは作ったことが……」
日「よし!作ってやろう。一時間待てば良い」
鬼「えっ!?」
鳴「キター!」
夜「ヤター!一時間っすね!出かけてくるっす!行こう陽介」
鳴「もちろんさ!」
ダダダダダ……
鬼「どうするんですか?私チョコなんて作ったことが……」
日「誰がチョコを作るって言った?ふふふふふ……」
鬼「日輪さん。何か企んでますね」
――3時間後
鳴「遊びすぎた……3時間も経ってしまった……」
夜「いいじゃないッスか。チョコは冷えたほうが美味しいんっすよ!」
ガチャ
日「ほいっ。バレタインチョコ」
夜「えー。俺、日輪のはいら(ry」
日「あぁん?」
夜「ありがたく貰います」
鬼「えぇと……その……」
鳴「ワックワク」
鬼「ここここれ!受け取ってください!」
鳴「キター!鬼子からチョコキター!ありがとう鬼子」
日「ふふふふ……」
夜・鳴「では、早速いただきます」
モッグモッグ……
夜・鳴「美味い美味い……ってあれ?なんだか眠たく……」


120ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:26:25.20 ID:IKUA+5ia0
――1時間後
鳴「ん……なんだ。寝てたのか?体が重い……」
夜「なななななんじゃこりゃあああああ!」
鳴「どうし……ってなんじゃこりゃあああああ!なんで胸があるんだ夜烏賊!」
夜「陽介にもあるぞ!」
鳴「ということは……え?性別変わったの?」
夜「なんだってぇー!っは!待てよ……ということは合法的にパンツを盗みほ(ry」
鳴「いや、それはないだろう」
日「ふふふふ……起きたようね」
夜・鳴「!?」
鬼「ご、ごめんなさい!日輪さんの暴走を止めることが……」
鳴「え?なんの話」
日「それはね……チョコに性別を変える薬を混ぜておいたのだ―!」
鳴「Oh...My God!」
日「日頃の恨みを、今こそ……今こそ、返してあげるとき!」
鳴「ま、待て!何の恨みだよ!ていうかなにする気!?」
日「こき使われてる恨みです。あと胸のサイズを測ります」
鳴「えー。そんなに使ってないってヤダー。近寄るな!ケダモノ!助けて鬼子さん!」
鬼「すいません……私も面白そうなので参加します!」
鳴「えーってやだーーーーー!」
鬼「うふふふっふふふ」

鳴「だーーーーー!って……夢か」
鬼「どうしたんですか?大分うなされてたようですけど……」
鳴「いや、なんでも無い。心配してくれてありがとう」
鬼「?」
夜「日輪さん。鬼子さん。チョコが欲しいです!」
日「よし!作ってやろう!一時間も待てば良い!」
鳴「えっ?」
デッデレレーーーン。夢オチEND

いやー。性転換ネタって一回はやりたくなるよね!
121ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:27:56.71 ID:IKUA+5ia0
…何やってるんだ。間違えて自分も上げてしまってるし。以下、十五話分投下。
自分なりに刀を背負い、縁結びを行う小日本を説明できそうな話を考えてみました。


水撒きをしている柚子の前に、若般さんと田中さんがやってきた。
田中『こんばんは〜。一晩泊めてもらって良いですか?』
柚子『えぇ、大丈夫ですよ。お部屋は空いてございます。確か鬼子さんのお友達ですよね?呼んで来ますね』
その様子を物陰から小日本がジィッと睨んでいた。

第十五話:小日本はどこから来たの?

旅館に入ると、ヤイカガシに跨った小日本が待ち構えていた。新聞紙を丸めた武器(?)を持っている。
小日本『田中〜!ネネさまを連れて行くな〜!帰れ〜!!』
ヤイカガシは尻をペシペシと叩かれると、仕方無さそうに前に進む。無理やり馬とされている状態だ。
柚子『ハイハイ、お客様に乱暴はいけませんよ。絵本なら私が読んであげますからね〜』
すぐにたしなめられて、奥へと引っ張っていかれる小日本。振り返り、田中さんに向かってアッカンベーをしている。
鬼子『あの…お待たせしました。ようこそお越し下さいました。本日はごゆっくりとお過ごし下さいませ』
田中『そんなに畏まらなくても良いって。ちょっと温泉浸かりにと遊びに来ただけだし…』
ハンニャー『あたしは先にお風呂頂くわね。…なんか変な気配もするけど、本当にここ大丈夫なの?』
訝しげにキョロキョロと見渡しながら、奥の女湯へと向かっていく。
田中さんを先に客室へ通すと、そこには既に小日本が待ち構えていた。背中の刀を無理やり抜こうとしているが…抜けない。
小日本『う…う〜。この刀さえ使えればネネさまをたぶらかす人なんてぇ〜』
田中『べ、別にたぶらかしなんてしてないよ?…小日本ちゃん、鬼子ちゃんを取られたみたいで寂しいんだ?』
刀を無理に抜こうとした小日本は、ひっくり返り外へ転がった所をヤイカガシにキャッチされ、また何処かへ連れて行かれた…。

田中『…ねぇ、小日本ちゃんって、鬼子ちゃんの妹で合ってる?とっても仲が良さそうだよね〜』
鬼子『そうねぇ…でも、本当に妹って訳でも無いのよ。あの子は言ってみれば神様の一人なのかも知れない』
田中『それって、どういう事?若般さんが「心の鬼」と呼ばれる者も、力をつければ別の存在になるって言ってたけど、まさか…』
鬼子『あの子には去年の春頃に出会ったの。私が「後悔の念」から産まれた心の鬼を退治したときにね…』


122ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:30:23.93 ID:IKUA+5ia0
その日、鬼子は心の鬼を退治した…が、その女性に纏わり付くモヤは未だ晴れない。聞けば自らの宿した子を相手との結婚が許されず、
堕胎した事を強く悔いているという。そこで、若般さんの勧めで近場の水子供養の寺へと共に向かう事になった。
水子供養は恨みを残さぬようにと、この世での縁を切る所…頭の隅に残り続ける迷いを断ち切る事。
そこで鬼子が感じたのは、そこに飾られた刀に多くの白いモヤの様な気配が漂い、纏わり付いている光景だった。
鬼子『住職様、あの刀は何なんですか?』
住職『あの刀が、ここの水子供養に用いられる御神体なんですよ。銘を「童切り緒結」という御神刀にございます。
   大昔飢饉があった頃、口減らしのために童を切った刀の持ち主が、どうかへその緒にまた結ばれて産まれてきてくれと、
   そう願いながら刀を抱え祈っていると、豊作になった年に切ってしまった子供と瓜二つの子供に恵まれたそうじゃ』
一緒に来ていた女性も、お腹へそっと手を触れながら聞いている。理由は違えど、状況は似たものと感じる状態である。
住職『その刀は寺へと寄進され、水子や亡くした幼子への未練や縁を断ち切り、また新たな出会いの縁と結ぶ御神体としているのだよ』
女性『私…いつか本当に信用できる方を探して、夫婦となり…しっかりと子供を育てます。本当に有難うございます』
幾分か晴れやかになった女性のお腹から、すっと白い魂の様なモヤが、また刀へと引き寄せられる。
それに気づいていない様子の女性は、そのまま深くお辞儀をすると寺を後にして外に出ようとしていた。
鬼子『…住職さん、この刀に触ってみて良いですか?何故か少し懐かしい気がするの』
住職『良いですよ…若般さんのご紹介だ。日本家にも幾分かご縁のある刀と聞いておりますゆえ』
鬼子が近づくと、より一層光を増す。それに触れると、徐々に光が人の形を取っていく…!
???『…ん…ネネさま??鬼子ネネさまよね?会いたかった…ネネさまが消えちゃったかと思ってた…』
そこには桜模様の着物を着て、先ほどまで台に乗っていた刀を背負った少女の姿があった。
鬼子『え…あなたは?私の事を知っているの?』
小日本『えへへ…私の名前は小日本、ネネさまから名前を貰ったんだよ?ネネさまったらまた忘れてるんだね』

田中『…え?あの子は刀から産まれたの?しかも鬼子ちゃんの事を既に知っているってどういう事?』
鬼子『話せば長くなるけど、私の一族には私と同じ様に角のある「鬼子」と呼ばれる女が時々生まれるの。
   小日本の言っているのは、多分先代以前の事を言っていると思うんだけど、私の家族は本家を離れたから詳しくは知らないの…』   
ハンニャー『ちょっと鬼子!なんでこの旅館にはこんな変態のまで来ているのよ!あんたは本当に甘すぎだわ…』
若般は猫耳まで飛び出し爪の伸びた姿で、バスタオルのみ身に纏い爪の先にはチチメンチョウとヒワイドリを串刺しにしている。
二羽『ふ…ふふ、良い乳を拝ませて貰えれば我らが生涯に一片の悔いも無し!!』
暴れて爪からずり落ちると、一目散に逃げていく。それを湯上り姿で追いかける若般。ほとんど野生に戻った猫だ。体は妖艶な女性だが。
田中『…何、アレ?鳥が喋ってた…。いやまぁ猫又と一緒に泊まりに来た私も変なんだろうけど』
鬼子『…どこまで話しましたっけ?そうそう、それでついて来ちゃってしばらく若般さんと一緒に三人で住んでたんだけど…。
   夏にね、彼女が若般さんの前で力を使っちゃったの。図書館に飾る絵が少ない、って時にね…』

小日本『えへへ…私の力なら色んな人を呼べるよ〜!…絵を描きたりし方々よ、この地へ集まりたまへ…萌え咲け!』
目を閉じた小日本が祝詞を上げると、ピンクの花びらが街へと散り、パラパラとコンクールに出展する作品を人々が…。


123ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:35:38.89 ID:IKUA+5ia0
田中『ちょっとまって!それって夏がテーマの市のコンクールだよね?その人達の中に多分私も入ってるよ。
   友達と水着は尻が良いか胸が良いかで喧嘩してて、突然コンクール応募して決着ってのが思い浮かんで…』
鬼子『そう、人の想いにも干渉出来る力、運命すら左右できる力は危険すぎるから、小日本を封印する事も考えないとならない
  って言われて、若般さんと大喧嘩しちゃったのよ。それから二人で飛び出して、空き家を見つけてそこに住んで…』
話している所に、また小日本が飛び込んできた。その手には絵本が握られている。
小日本『やっぱりネネさまに読んで欲しい…駄目?ネネさまも遊んだりしたいのよね?邪魔だったらごめんね…』
見つめる二人の目は、いつも以上に優しくなっている。ふと、田中さんが何かを思い出して鞄を漁る。
田中『そうだった、小日本ちゃんにプレゼントがあるんだ〜。ちょっと付けてもらって良いかな?』
そう言うと三つのリボンを取り出す田中さん。それを小日本の頭頂部の髪に一つ付けて『P子』と言ってみたり、
側面の二つ髪に付けて『U子』と言ってみたりする。『私で遊ばないで〜』と恥ずかしそうだが、プレゼント自体は嬉しそうだ。
田中『もし気に入ったなら、鬼子さんに付けて貰いなよ。今度遊びに行く時は小日本ちゃんも呼ぶからさ』
小日本『絶対だよ〜。ネネさま…また私を置いて行ってしまったら嫌だよ〜』
三人は約束をして、そのあと変態がコソコソ覗こうとする湯船に三人で入って温まっていった。


…以上です。『御結』という刀の銘の案を読んだ時に、どうやればストーリー付けられるか考えて、
結局『御』を『緒』に変えて、前に本スレへ書いた水子の本当は産まれたかったというのに無理やりくっつけました。
次に書くのはいつか解りませんが、モモサワガエルを登場させる予定です。
ところで…コミケってどんな雰囲気なんですかね?まぁ結局は想像を頼りに書いてしまいますが…。


124ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:38:44.26 ID:IKUA+5ia0
 当たり前のように続いている日常もいつか終わりを迎える日が必ず来る。
 だからと言って諦めた訳ではないのだが……どうしたものかな。
 部屋には人外の者が6人。その内、人の形をしているのが4人。
 残り二人は鶏と魚だ。二足歩行のな。
 まぁ、もともと俺の日常は人の形をしている人外の日輪と夜烏賊が
 一緒にいることで形成されていたんだが……いやはて、鬼子を匿ってからというもの
 トラブルが頻繁に起きそうな予感がする。現に一週間も立っていないのに居候が
小日本という居候が一人増え、またヒワイドリとヤイカガシという二人増えそうだ。
鳴「なぁ、日輪」
日「なんですか?今はロケットの形をしている乳について語り合っているところで……」
鳴「まぁ、それはいいんだがな。お前、昨日いくら使った?」
日「えーと……いくらでしょうね?」
鳴「今月の食費が……無いんだけど。ってコレは昨日から言ってるが」
日「だから私と鬼子ちゃんがバイトに行くんじゃないですか。ねぇー鬼子ちゃん」
鬼「え、えぇ……」
 昨日の事があるのか少し気まずそうだ。
 まぁ、それもそうか昨日は着物を脱ごうとしたんだからな。
 危うく事務所がストリップ劇場に早変わりするところだ。副作用は考えないといけないようだ。
鳴「それもそうなんだが……それでも食費が足りないんだ。7人だぞ!?7人!」
日「え?ヒワイドリ達も居候していいの?」
鳴「いや、それは別に構わないんだが……」
ヒ「いや、居候はしないから安心してくれ鳴木よ。鬼子と小日本を連れて、山に帰る」
鳴「え?どういう事だ?」
ヤ「どうもこうも無いですよ。元々、そういうつもりだったんです。小日本は想定外でしたけど」
ヒ「そういう事だ。元々、鬼子が記憶を失う原因を作ったのも俺達だ。責任は俺達が取るべきなんだ」
鳴「鬼子はそれでいいのか?」
鬼「わ、私は……」
ヒ「帰るんだよ鬼子。ここは住む世界が違う」
鬼「けど……私は、この相談所の一員です」
ヤ「ならそれも今日まで。帰るの鬼子。家だって放ったらかしなんだから」
鬼「嫌です!私は……貴方達のことは……しらないですし……」
ヒ「はぁ……いいか?鬼子がどう言おうが構わない。だが記憶を取り戻すためだ」
鬼「で、でも……」
鳴「記憶がなくなった原因をしってるのか?」
ヒ「……あぁ、知ってるさ。記憶喰だ」
 こいつ、何か隠してやがるな。
 まぁ、今は答えたことだけ聞いておこう。
鳴「じゃあ記憶を奪った記憶喰はそこにいるのか?」
ヒ「それは分からない。だが探してみるしか無いだろう?」

125ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:40:44.35 ID:IKUA+5ia0
鳴「一体はこの街にいたぞ」
ヒ「この街に?そうか、だから昨日は鬼子の様子が可笑しかったのか」
鳴「あぁ、だが記憶喰はそんなに頻繁に出るはずじゃない。なのにこの部屋に居たんだ」
ヒ「あいつらか」
鳴「知ってるのか?」
ヒ「知ってるも何も、住んでたところじゃ頻繁に会ってたからな」
鳴「そいつらが記憶を失う原因か?」
ヒ「いや、違う。あいつらは鬼子の補佐だ。守り神みたいなものさ。鼻が利くからな」
鳴「狛犬か」
ヒ「少し違う。犬神だ。といっても婆さんから受けた恩を返すためにしてるんだろうけどさ」
鳴「婆さん?」
ヒ「あぁ、俺達は鬼だから何百年も前の話になるが……」
ヤ「ヒワイドリ!」
ヒ「あ、すまないヤイカガシ。まぁ、何にせよ鬼子は連れて帰る」
鳴「……なら俺も連れてけ」
鬼「鳴木さん。何を……」
鳴「どの道、記憶が戻らなくてもいつかは帰るんだ。場所を覚えといて損はない。
  あ、そうだ。ちょっとだけでも記憶戻った?」
鬼「あ、記憶は戻りました。鬼についての記憶と、薙刀の使い方をですが」
鳴「それは良かった。で、俺は行ってもいいのか?」
ヒ「……荒らすなよ」
鳴「何を荒らすんだよ」
ヒ「鬼子の箪笥」
鳴「俺はお前らみたいに変態じゃない!」
ヤ「失礼な!私たちだってバレないように持ち出してるんだからね!」
鳴「それが変態行為だ!というか盗むじゃないか!」
ヤ「一緒に住んでるので盗みになりません」
鳴「なります」
鬼「というかそういう事されてたんですね……」
ヤ「や、それはその……言葉のあやというか……」
鬼「変態!」
小「ネネさま待って!こにも行く!」
 バタバタと鬼子は小日本を連れて出ていってしまった。


126ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:43:45.93 ID:IKUA+5ia0
夜「下着盗むのはやり過ぎじゃないか?」
日「というか本人の前でそれを言っちゃうのがなぁ」
鳴「いや、お前らが言うなよ」
ヤ「この言葉を聞くのは何度目だろうか……」
鳴「涙拭けよ」
ヒ「それは涙じゃない。心の汗だ」
鳴「かっこ良く言っても涙だ」
ヒ「かっこ良ければ問題ない。イケメンなら乳と……」
鳴「くだらんこと言ってないで、鬼子と小日本探しに行くぞ―」
――まちなか!
鳴「居ねぇよ。蕎麦屋とか探したけどやっぱいねぇよ」
ヒ「そばが好きだからな鬼子は」
鳴「なぁ、なんか電波っぽいので居場所探せないの?鬼電波とかさ」
ヤ「というかさっきから事務所のビルに居るからね。鬼電波で探したところ」
鳴「早く言えよ!というか鬼電波で合ってんのかよ!」
ヒ「残念不正解だ。これは愛という――」
日「それはないわね」
夜「それはないっスね」
ヒ「お前ら……仲間じゃないのか」
――再び事務所!
  ガチャ
鳴「鬼子、心配かけr」
  バタンッ
日「どうしたのさ?」
鳴「なんかちっこいのが居た。あと大きいの」
夜「何いってんスか?」
鳴「なんかだかな……小さい鬼子と大きい巨乳が居た」
日「まじかよヒャッホーーーウ!」
 ガチャ
日「……」
 バタンッ

127ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:46:28.01 ID:IKUA+5ia0
鳴「どうだった?」
日「目が血走ってた。というか鼻血吹いてた。あれは狩人の目だよ。怖いよ!」
ヒ「そんな訳ないだろ。怒った鬼子のほうが怖いに決まってる」
鳴「まぁ……入ろう」
 ガチャ
鳴「えぇと……そのですね」
ヒ「おぉ、小日本」
小「やほ、ヒワイドリ」
ヤ「ありゃー鬼子ちっちゃくなっちゃった」
鳴「Hey,You!どういう事か説明を」
小「カクカクシカジカ」
日「そんな事が……ていうか乳すげー!お姉さんと乳についてアンドロメダまで語り会おうぜ!」
鳴「ちょっと黙ってな日輪!カクカクシカジカってなんだよ」
小「漫画等でよくある説明です」
鳴「俺には伝わりませんでした」
小「分かりました。では説明を始めます。なんかー鯖みたいなのがー」
鳴「普通にしてくれ」
小「なんだか、鯖みたいな変な鬼が事務所内に変な術をかけていたらしく、ネネさまと私が
  入った瞬間にこう……ネネさまと私の時間が逆になったみたいで」
鳴「……時間系の鬼か。鯖って言うんだったら、逆時鬼でほぼ間違いないな。で、本体は?」
小「知らないよ?」
鳴「えー。元に戻れないじゃん」
小「知りませんよ。というか戻らなくていいじゃないですか。ネネさまがこんなに愛くるしい……ブハッ」
鳴「鼻血出てるぞ小日本」
小「すいません。ネネさま―。今日はお蕎麦ですって!」
鬼「なにっ!?本当か!?」
鳴「おい、今日は飯はな――」
小「本当です!」
鬼「やったー。お蕎麦!お蕎麦!わんこ!お蕎麦!」
小「空気読んで下さい鳴木さん」
鳴「えぇー。だってお金がないからさ」
小「お金とかいう問題じゃないんです!ネネさまだけを幸せにできるかどうかなんです!」
鳴「分かった。蕎麦だな?言ったぞ?ネネさまだけを幸せにって言ったよな?」
小「え?まぁ、言いましたけど」
鳴「出前を取る……あ、すいません。蕎麦の出前、大盛り一人前」
一同「えっ?一人前!?」
鳴「お金がないものでな」
小「それじゃあ私たちは?」
鳴「飯抜きです。ついでに鬼子だけの蕎麦ですので」


128ほのぼのえっちさん:2011/05/14(土) 00:48:30.32 ID:IKUA+5ia0
小「そんなぁ〜」
  馬鹿なやりとりをしていると鬼子(小)が袖を引っ張ってきた。
鬼「お前、イイヤツだな!名前はなんていうの?」
鳴「えっ?俺?」
鬼「うん!」
鳴「鳴木だ。ナルキ」
鬼「ナイキだな!ナイキはいい人!」
鳴「ナルキ……というかそのスポーツ用品みたいな名前はやめて」
鬼「ナイキはいい人ー!」
鳴「……もういいよナイキで」
日「がんばれNIKE」
夜「頑張るっスよNIKE」
ヒ「がんばれよNIKE」
ヤ「きっといいことあるってNIKE」
鳴「ちくしょう……バカにしやがって」
  バイクの音が近づいてきた。どうやら蕎麦が届いたようだ。
  財布から1600円取り出し、受け取りに行く。
出前「しゃーすっ!1580円になりまぇあああす!」
鳴「じゃあ、1600円から」
出前「しゃーすっ!20円のおつりです!ありやしたー」
  大盛りと言ったが相当多いな。
  鬼子(小)一人で食べきれるかな?
鬼「お蕎麦きたの?」
鳴「はい、お蕎麦」
鬼「やたー。ありがとうナイキ!一口あげる!」
鳴「おぉ、それは嬉しい」
小「断れ」
鳴「えっ!?」
小「断るんだNIKE。じゃないと運命の赤い糸が未来永劫消えることになるぞ」
鳴「それは困る!……あー、鬼子?」
鬼「なにっ?そんなに食べたいのか?食いしん坊だなナイキは」
鳴「そうじゃない!お兄さんあんまりお腹減ってないから一人で食べな」
鬼「本当にいいの?」
鳴「いいぜ☆」
鬼「ありがとうナイキ!」
鳴「……泣けてくるな」
ヒ「あ、俺腹減ってきた。鬼子ちょっとくれ」
鬼「やらないよ!」
ヒ「ケチ」
鬼「ベーっだ」
小「可愛すぎ!ブハッ!」
日「あ、倒れた。この内に胸のサイズを……」
夜・ヤ「では私どもはパンツの柄と採取を……」
鳴「やめないか」

あっるぇー?小日本ってこんなキャラだったっけ?
どうやら、鬼子と小日本の歳が入れ替わったようです。ではでは。
129ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:39:13.29 ID:2Zd5nxjZ0
【日本カレンダー・二月】




「日本さん!あそぼー!」
「た、田中さん……うえぇぇ……」
「ちょっと、どうしたの?
 よ、よーしよし泣かない泣かない!」
「ひっく、バレンタインだから、
 田中さん、に、お菓子をと思って…ッ
 でも、上手くいかな、くてぇぇ…うぇぇ……」
「よしよし。一体何を作ろうとしたの?」
「生チョコっていうの、
 簡単だってテレビでやってたから、見よう見まねで…
 でも私、生チョコって食べた事なくて、
 わかんなくて…ひっく」
「ありゃりゃー。
 クリーム入れすぎで固まらなくなっちゃったんだよ。
 チョコ増やせばなんとかなるって。だから泣かないで?ね?」
「ひっく、…はい、泣きま、せん!」
「それにしても…日本さんって料理上手なのに、
 お菓子作りで失敗なんて意外だなぁ〜」
「お菓子って、お味噌汁作るみたいに目分量じゃダメなんですね…」
「あはは、そりゃーね!
 さ、アタシも手伝うから作っちゃおう!」
「ありがとうございます。今度こそ頑張ります!
 まだまだ材料のチョコは沢山ありますから!」
「うわぁ!そんなにいっぱい買ったの?」
「どのくらい必要か、よくわからなくって……」
「それにしたって買いすぎだよ…。
 よーし、この際だ!色んなの作っちゃお!
 私もバレンタインにってクッキー焼いて来たんだ!
 あんまり上手じゃないけど。」
「わぁ、美味しそうです!」
「このクッキーに、チョコ溶かして塗っちゃおうよ!
 それからホットミルクにチョコを溶かすのも良いよね!」
「あ、私チョコ大副も食べたいです」
「良いね!作り方調べようっと」
「出来あがったら、小日本も呼んでおやつの時間ですね!」
「仕方ないから、ヒワイドリとヤイカガシにも恵んでやるか!」



そんな、二月の思い出。





130ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:40:43.81 ID:2Zd5nxjZ0
●「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十二章〜【ヒワイドリの怒り】

 陽の光が傾きかけた午後。薄暗い森の中を凄まじい速さで駆け飛ぶ鬼子の姿があった。
その姿は・・角が光りながら鋭くなり、裾が短くなった紅色の着物から大量のもみじが舞い落ちている。
そして、妖しく光り輝く薙刀を右手に持ち・・・赤黒く染まったその瞳からは・・・
・・・涙が溢れ出していた。

皆が感じた歌麻呂の痛み・・・。その痛みが鬼子の心を強く締め付けている・・・。
みんなを守る・・・と、心で決めていたのに・・・。
 【無事でいて・・・】
そう思う一心で鬼子は、木々の小さな枝を避ける事無く森の中を一直線に駆け飛んでいる。
鬼子の顔は・・・木々の枝が当り、血が滲むようになってきていた。
自分のこの小さな痛みなどどうでもいい。歌麻呂の安否だけが・・・・・・。

 歌麻呂が何かの影を相手に、険しい表情で身構えている。
右手に錫杖(しゃくじょう)を持ち、その枝の先には、刀の様な薙刀の様な鋭い刃物が付いていた。
歌麻呂の左腕から・・血が流れ出ている。そして、足を引きずっていた。
 「くそう・・・。不意打ちたぁ〜卑怯な奴だな・・・。こ、これが心の鬼に取り付かれ、
  悪しき輩と変貌した奴の姿か・・・。醜い姿だな・・・」
彼が見上げたその先には、自身の身体の三倍ほどの大きさのある熊の様な姿の悪しき輩がいた。
歌麻呂は錫杖を左手に持ち替え、右手で素早く九字(くじ)を切り出した。
 「臨兵闘者皆陣列在前」←【指を四縦五横に切る動作を伴う】
その言葉を唱えた後、何かの紙をその悪しき輩に投げつけた。
そして叫ぶ。
 ≪「式神!!」≫
すると、その投げつけた紙が、獅子の姿に変わり悪しき輩に飛び掛って行った。
今回のこの力は、山伏ではなく陰陽師の力だ。
その隙に、歌麻呂は足を引きずりながら少し後ろへ後退する。
獅子にまとわりつかれている輩が大きな爪で、その獅子を一刀両断した。
 【ガシーン】
歌麻呂は、険しい表情で下唇を噛締める。
 「・・これなら」
そしてまた九字を切り出した。
 「朱雀・玄武・白虎・勾陳・帝后・文王・三台・玉女・青龍」
先ほどとは違う唱え方だ。
そう言いながら今度は木の板を懐から出し、それを輩めがけて力一杯投げつけ、叫んだ。
 ≪「霊符!!!」≫
 【ドドーーーーン】
大きな爆発音とともに、あたり一体が炎の海に飲み込まれる。
大きな炎が燃え盛る中、歌麻呂はその場で炎を見つめ身構えていた。
 「ハアハア・・・やったか・・・?」
目の前の炎の中で、黒くうごめく影が見える。
歌麻呂は、顔の前に腕をかざし、炎の中のうごめく影をじっと見ていた。
 【ドバァッ】
突然炎の中から悪しき輩が現れ、歌麻呂めがけて襲い掛ってきた。
歌麻呂は後ろに飛んで逃げようとしたが、くじいてる足が言う事を聞かない。
そして・・その場に倒れこんでしまった。
 「し・・しまった」
歌麻呂はその影を、目を見開きながら見上げた。
覆いかぶさる様に歌麻呂の前に飛び出して来た悪しき輩。
その輩が、大きな爪を勢い良く振り下ろしてきた。
 【ガシーーーーンッッッ】
辺り一面に鳴り響く大きな鈍い音。
 【ドスン】
と地面に落ちる輩の片腕。
その音に目を開いた歌麻呂の前には・・・・・仁王立ち姿の鬼子がいた。
鬼子が熊の様な悪しき輩の片腕を切り裂いていたのだ。
赤黒い瞳からは・・・小さく輝く涙が流れている様に見えた。
●挿絵1 http://loda.jp/hinomotooniko2/?id=735.jpg
131ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:42:26.39 ID:2Zd5nxjZ0
 「ヒワイドリ、早く歌麻呂さんを安全な場所まで!」
人型に素早く変ったヒワイドリは歌麻呂を抱きかかえ、即この場から走り去る。
歌麻呂の目には、ヒワイドリの着物の合間から燃え盛る炎の中へ飛び込んでいく鬼子の姿が映る。
手を伸ばしながら歌麻呂は叫んだ。
 ≪「鬼子ちゃーーーーん・・・」≫

 燃え盛る炎の中で、鬼子とその悪しき輩は対峙している。
輩の爪を見ると・・・白い毛がその爪の中に挟まっていた。
鬼子には直ぐ解った。それが、ハチ太郎の綺麗な白い毛だと。
鬼子の髪の毛が逆立って行き、赤黒い瞳が怒りを爆発させる。
 ≪「・・・お前が・・・お前がやったのかーーーーー!」≫
鬼子は叫び、見た事の無い険しい形相でその輩に飛び掛って行った。
光輝く薙刀を力一杯振り下ろす鬼子。それをかいくぐりながら鋭い爪を
鬼子に突き出す悪しき輩。
炎の中では、【キーン】【ガスッ】【ドガッ】という音が何度も鳴り響いていた。

 少し離れた高台に、ヒワイドリは歌麻呂を降ろす。
ヒワイドリは、自分の白い着物の袂を破り、それを歌麻呂の怪我の部分に巻き付けた。
 「大丈夫かぃ?歌麻呂」
初めて見る優しい目つきのヒワイドリだ。
 「あ・・あぁ。俺なら大丈夫。ちょっと、足をくじいちまってね。それより・・
  鬼子ちゃんの方が心配だ。鬼子ちゃんがどれほど強いかは知らないけど、
  あの悪しき輩は・・・鬼子ちゃんにとっても強すぎるんじゃぁ・・・」
ヒワイドリが炎の方を見つめる。
 「・・・・・解らない。おいらにも解らないんだ。鬼子の強さがどれ程かは・・・」
後ろの草むらが急にガザガザと揺れる。
ヒワイドリは振り向き、とっさに身構えた。
すると、音麻呂と詠麻呂、秀吉が出てきた。
3人の目に、歌麻呂の身体の状態が飛び込んで来た。
音麻呂が、血相を変えて飛び寄って来る。
 「う、歌麻呂。大丈夫か!?」
 「あぁ、大丈夫。危ない所を鬼子ちゃんに助けられたよ」
秀吉が辺りを見回す。
 「お、鬼子ちゃんは何処に・・・?」
すると、ヒワイドリが指差した。
 「・・・あの・・炎の中さ・・・。悪しき輩とあの中で闘ってる・・・」
その言葉を聞いた秀吉の表情が、みるみる怒りに満ちた顔つきに変わっていく。
眉間にシワを寄せた秀吉は、ヒワイドリの胸ぐらを掴み、押し上げた。
 「お・・お前・・・。鬼子ちゃんを一人で・・・」
 「秀吉さん。違います。今さっきヒワイドリが俺をココへ運んでくれたんです」
歌麻呂は、痛む足を押さえながら立ち上がり、秀吉の腕をつかみながらそう言った。
 「そ・・そうか。すまん・・ヒワイドリ」
そう言った秀吉は、直ぐに鬼子の方に走って行った。
 「君達はココで待機だ。危ないと思ったらすぐ逃げるんだよ!
  決してあの場所には近づかないでね」
そう言い残し、秀吉は鬼子の方に走って行った。
秀吉が駆け込んで行った時、炎は煙へと変わっていた。
そして大声で叫んだ。
 ≪「鬼子ちゃん!鬼子ちゃん・・・」≫
黒く立ち込める煙の中から鬼子の声が聞こえて来た。
 「秀吉さん?こっちには近づかないで!」
その声がした方へ、秀吉は何も考えず駆け込んで行った。
薄暗い煙の中、秀吉の目に飛び込んで来たのは、鬼子の着物が所々切り刻まれていて、
口からも・・・頬からも血を流している姿だった。
 「鬼子ちゃん!」
 「ひ・・秀吉さん・・・」
鬼子は目を見開き驚いている。
 「な、何で来たんですか・・。ここは危険だって・・・」
 「・・・鬼子ちゃん・・。一旦下がるんだ。その状態では勝てなくなるよ」
132ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:43:29.16 ID:2Zd5nxjZ0
2人の前には、異形の形をした悪しき輩がいる。こちらの動きをジッと見つめているみたいだ。
 「だ・・駄目です。先に逃げて下さい。秀吉さんは何も武器を持っていないじゃないですか」
その言葉が終わるのと同時に、悪しき輩が飛び掛って来た。
素早く鬼子の前へ出る秀吉。
輩の大きな腕を瞬時に掴み、相手の力を利用してそのまま下へ押しやる。
下へさがった輩の首元めがけて、秀吉の足が力強く食い込んだ。
 【ドガッ】
輩は地面に叩きつけられる。一瞬の出来事だった。
秀吉は、鬼子の腕を掴み後ろへと下がっていく。
 「これが僕の武器さ。古武道ってね、相手の力を利用しながら倒すんだよ」
鬼子は秀吉の力強さに圧倒されていて言葉が出なかった。
 「あ〜あ。鬼子ちゃんのその姿を織田さんが見たら・・・僕怒られちゃうな・・・」
 「で・・でも・・・。やっぱり秀吉さんは下がってた方が・・」
 「鬼子ちゃん。鬼子ちゃんがいくら強くても、倒せない相手がいるかもしれない、
  そういう時は、みんなの力を借りないとね。力を合わせれば勝てるようになるよ、きっと」
叩きつけられた輩の周りに立ち込めていた煙が、徐々に薄くなってきた。
その時・・・鬼子と秀吉の目に映ったのは、倒れている輩の後ろにもう一体、
大きな異形の形をした輩の姿が映った。
秀吉が、目を凝らしながらその輩を観察している。
 「形が違う・・・。やけに長い手足だ・・・」
 「あ・・あれは多分、昆虫か何かに取り付いた輩だと思います。でも・・・
  ここまで身体が大きくなるなんて・・・」
 「鬼子ちゃん・・少し距離をとろう。相手の動き方を読むんだ」
 「は、はい」

 少し離れた場所にいるヒワイドリ達。彼等もまた、鬼子達の状況を見ていた。
ヒワイドリが険しい表情でそれを見つめている。
 「やばい・・・やばいぞあれは・・・。もう一体出てきやがった。
  秀吉がいると言っても、一匹相手に苦戦していた鬼子では・・・」
 ≪「俺が行く!」≫
と声を張り上げたのは音麻呂だった。
 「まてぃ」
後ろからガサツな声が飛んで来た。出てきたのは、般若と奏麻呂だった。
 「後ろから近づいてるワシ達に気付かんようでは、あの輩は倒せんよ」
奏麻呂が歌麻呂の状況を見て、近くに飛んで来た。
 「ど・・どうしたの!?怪我してるじゃない・・・」
 「ハハ・・ちょっと不意をつかれちゃってね」
般若は、彼等の周りに素早く結界を張る。
 「この結界から出るんじゃないぞ。この中にいれば安心じゃからな。絶対に出るな!
  ヒワイドリよ、どういう状況か説明してくれ」
ヒワイドリは、鬼子がココへ到着してから今までの状況を般若に説明した。
 「・・・そうか。苦戦しとると言う訳じゃな」
 「そ、そうだよ。だから速く助けてやれよ般若」
ヒワイドリはそう荒々しく般若に言った。
 「・・・今は駄目じゃ・・・」
 「ハァ・・?何言ってんだ般若。お前は鬼子の守護者だろ!」
 「そうじゃ・・・。ヒワイドリは知らんのか?守護者とは、必要以上の事をしてはいけないんじゃ。
  もしワシが手助けなどしてしまったら、今必死になって考えておる鬼子が成長すると思うか?
  今以上に強くなろうとしている鬼子の邪魔をするだけじゃ」
 「しかし・・・あの状況じゃぁ・・・」
 「解っとる・・・。もう少し様子をみるんじゃ」
般若は鬼子達を見つめている。
ヒワイドリは、握り拳を作りながらその様子を眺めていた。


133ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:45:00.98 ID:2Zd5nxjZ0
 ジリジリと後ろへ下がる鬼子と秀吉。そして秀吉が鬼子に言った。
 「あの這いつくばってる方の輩の攻撃パターンは解ったかい?」
 「はい、大体は。あの大きな爪でしか攻撃してきませんから」
秀吉は、もう一体の輩の方を見た。
 「じゃぁ後は、あの手足の長い輩の攻撃パターンが解れば、何とかなるかもしれないね。
  僕があの輩と対峙するから、鬼子ちゃんはその攻撃パターンを良く見ておくんだよ」
そう言い少し前へ出る秀吉。鬼子はその秀吉の肩に素早く手をやった。
 「だ、駄目です。危険ですよ・・・。秀吉さんは相手の力を利用して倒すんでしょ!?
  なら、あの手足の長い輩には不利なんじゃぁ・・・」
鬼子のとても不安そうな顔つき。秀吉はその鬼子の顔を見ながら微笑んだ。
 「さすがだね!良く見てる。僕の弱点も解ってるなんて凄いよ。
  でもね、今君は、肩で息をしているだろ。その状態で突き進んでも解決策は見つからない。
  僕は、自分の身が危なくなったら一度後ろへ下がるから、それまではその目で
  相手のパターンと弱い所を読み取ってくれるかな。それと、体力を回復させといてね」
 「わ・・・解りました・・でも・・・」
鬼子の表情はまだまだ不安そうだ。秀吉は、人差し指を立てて笑顔で鬼子に言った。
 「頼んだよ。これから光の世を守っていかなくちゃいけないのは僕じゃなく、鬼子ちゃんなんだ。
  その鬼子ちゃんには、もっともっと強くなってもらわなくちゃ。ね!」
そう言って、秀吉は輩の方へと飛び込んで言った。
 ≪「ひ・・秀吉さーーーん」≫
手を伸ばし叫ぶ鬼子の指先越しに、秀吉の姿が小さくなっていく。
手足の長い輩を一言で言うならカマキリのようだ。
秀吉がカマキリの様な輩の近くに行った時、鋭いその長い手が飛んで来た。
それをしゃがんで避ける秀吉。そして素早くその輩の真下へと潜り込んだ。
お腹の様な部分に、力一杯拳を振り上げる。
 【ドグッ】
少しヨロめく輩だが、長い足が横から飛んで来た。
秀吉はすかさず状態を反らす。目の前をかすめ飛んでいく輩の足。
とっさに、秀吉は輩の前に出て飛び上がった。
そして、秀吉の右足が空間を裂く様に輩の顔めがけて飛んでいく。
 【ガツーーーン】
輩の首が捻じ曲がる。
 「いけるか・・・」
秀吉がそう思った瞬間、背中に熱い激痛が走った。
中を舞いながら振り向くと、そこにはさっきまで横たわっていた熊の様な輩がいた。
その輩が、秀吉の背中をえぐったのだ・・・。
 【ゥグッ・・】
秀吉は・・地面に膝を付き、倒れ込んでしまった・・・。
それを見ていた鬼子の赤い目がさらに大きくなり、一瞬にして髪の毛が【ブワッ】と逆立つ。
凄まじい速さで駆け込む鬼子。その目には秀吉しか映っていない。
立ちはだかる二匹の輩の間に素早く入り、秀吉を抱きかかえてその場を飛び出して行った。
鬼子は右足で地面を蹴ると同時に、秀吉をその場に置き、
身体を反転させて、今度は輩に向かって突進して行った。
秀吉の身体の周りは、小さく光るもみじの葉っぱで覆い尽くされている。
輩に飛び込んでいく鬼子の表情は、怒りに満ちている。
激しく光り輝く薙刀が、動きの鈍い熊の様な輩を切り裂いた。
 ≪「萌え散れー!」≫
●挿絵2 http://loda.jp/hinomotooniko2/?id=736.jpg
大きく叫ぶ鬼子。その鬼子めがけてカマキリ型の輩の長い手が飛んで来た。
鬼子はその手を避けようとしない・・・。頬をかすめ、鬼子の頬を切り裂いた。
しかし、鬼子は瞬き一つしない。かまわず、そのまま突進する鬼子・・・。
鬼子の表情は・・獣のようだ。


134ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:49:26.03 ID:2Zd5nxjZ0
 ジリジリと後ろへ下がる鬼子と秀吉。そして秀吉が鬼子に言った。
 「あの這いつくばってる方の輩の攻撃パターンは解ったかい?」
 「はい、大体は。あの大きな爪でしか攻撃してきませんから」
秀吉は、もう一体の輩の方を見た。
 「じゃぁ後は、あの手足の長い輩の攻撃パターンが解れば、何とかなるかもしれないね。
  僕があの輩と対峙するから、鬼子ちゃんはその攻撃パターンを良く見ておくんだよ」
そう言い少し前へ出る秀吉。鬼子はその秀吉の肩に素早く手をやった。
 「だ、駄目です。危険ですよ・・・。秀吉さんは相手の力を利用して倒すんでしょ!?
  なら、あの手足の長い輩には不利なんじゃぁ・・・」
鬼子のとても不安そうな顔つき。秀吉はその鬼子の顔を見ながら微笑んだ。
 「さすがだね!良く見てる。僕の弱点も解ってるなんて凄いよ。
  でもね、今君は、肩で息をしているだろ。その状態で突き進んでも解決策は見つからない。
  僕は、自分の身が危なくなったら一度後ろへ下がるから、それまではその目で
  相手のパターンと弱い所を読み取ってくれるかな。それと、体力を回復させといてね」
 「わ・・・解りました・・でも・・・」
鬼子の表情はまだまだ不安そうだ。秀吉は、人差し指を立てて笑顔で鬼子に言った。
 「頼んだよ。これから光の世を守っていかなくちゃいけないのは僕じゃなく、鬼子ちゃんなんだ。
  その鬼子ちゃんには、もっともっと強くなってもらわなくちゃ。ね!」
そう言って、秀吉は輩の方へと飛び込んで言った。
 ≪「ひ・・秀吉さーーーん」≫
手を伸ばし叫ぶ鬼子の指先越しに、秀吉の姿が小さくなっていく。
手足の長い輩を一言で言うならカマキリのようだ。
秀吉がカマキリの様な輩の近くに行った時、鋭いその長い手が飛んで来た。
それをしゃがんで避ける秀吉。そして素早くその輩の真下へと潜り込んだ。
お腹の様な部分に、力一杯拳を振り上げる。
 【ドグッ】
少しヨロめく輩だが、長い足が横から飛んで来た。
秀吉はすかさず状態を反らす。目の前をかすめ飛んでいく輩の足。
とっさに、秀吉は輩の前に出て飛び上がった。
そして、秀吉の右足が空間を裂く様に輩の顔めがけて飛んでいく。
 【ガツーーーン】
輩の首が捻じ曲がる。
 「いけるか・・・」
秀吉がそう思った瞬間、背中に熱い激痛が走った。
中を舞いながら振り向くと、そこにはさっきまで横たわっていた熊の様な輩がいた。
その輩が、秀吉の背中をえぐったのだ・・・。
 【ゥグッ・・】
秀吉は・・地面に膝を付き、倒れ込んでしまった・・・。
それを見ていた鬼子の赤い目がさらに大きくなり、一瞬にして髪の毛が【ブワッ】と逆立つ。
凄まじい速さで駆け込む鬼子。その目には秀吉しか映っていない。
立ちはだかる二匹の輩の間に素早く入り、秀吉を抱きかかえてその場を飛び出して行った。
鬼子は右足で地面を蹴ると同時に、秀吉をその場に置き、
身体を反転させて、今度は輩に向かって突進して行った。
秀吉の身体の周りは、小さく光るもみじの葉っぱで覆い尽くされている。
輩に飛び込んでいく鬼子の表情は、怒りに満ちている。
激しく光り輝く薙刀が、動きの鈍い熊の様な輩を切り裂いた。
 ≪「萌え散れー!」≫
●挿絵2 http://loda.jp/hinomotooniko2/?id=736.jpg
大きく叫ぶ鬼子。その鬼子めがけてカマキリ型の輩の長い手が飛んで来た。
鬼子はその手を避けようとしない・・・。頬をかすめ、鬼子の頬を切り裂いた。
しかし、鬼子は瞬き一つしない。かまわず、そのまま突進する鬼子・・・。
鬼子の表情は・・獣のようだ。


135ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:50:51.56 ID:2Zd5nxjZ0
 その様子を見ていたヒワイドリが何かに気付く。そして手を上げ指した。
 「あ・・あれ・・。あの輩の後ろに3匹目の輩が・・・」
その3匹目の輩の姿も大きく、トカゲと狼を合わせた様な姿をしていた。
 「も・・もう駄目だ。般若、鬼子を助けに行こうよ」
ヒワイドリは真剣な表情で、般若にそう言った。
しかし・・般若の答えは・・・。
 「・・・まだだ」
般若を酷く睨むヒワイドリ。
 「き・・・貴様〜・・・」
そして握り拳を作りながら叫んだ。
 ≪「鬼子を見殺しにする気かーーーーーーーーーーーーーー!!」≫
そう叫びながら、ヒワイドリは結界から出て、鬼子の元に走って行った。
 「は・・・般若・・さん」
そう声をかけて来たのは音麻呂だった。
 「俺も行きます。これは・・・どう見ても鬼子ちゃんには不利ですよ・・・。
  俺達の力が弱いのは解ってます。だけど、これじゃぁ・・・」
般若は腕組しながら語った。
 「駄目じゃ。お主等が行くと、鬼子は必ず守ろうとする・・・。
  今のあの表情では、自分の身を犠牲にしてまでもな。お主等にはそれが解ると思うがの」
音麻呂達4人は、般若の言葉は直ぐに理解できた。彼等もまた神職に精通する身。
鬼子の目からは、それが非常に解りやすく読み取れていたのである。
 「大丈夫じゃ・・・・・。そん時はワシが出る」
般若はそう語り彼等の動揺を抑えた。

 ヒワイドリが、怒りに満ち溢れている鬼子の目の前に飛び出てきた。
切羽詰った状況に似合わない笑顔のヒワイドリ。
 「よ!助けに来たぜ」
 「ヒ・・ヒワイ・・」
少しばかり鬼子の目の色が変わり、落ち着きを取り戻す。
そしてとっさに輩から離れる鬼子。ヒワイドリもそれに付いていった。
 「あ!あの輩は・・!?」
鬼子はやっと、3匹目の輩に気が付いた。
 「だろ〜。全然気付いて無かっただろ。もうチョッとで殺される所だったぜ」
 「・・・な・・何であんたまでココに来たの?」
 「何でって・・・助けに来たんだろ」
 「た・・助けにって・・・足手まといになんないでよ・・・」
邪魔だな〜と言いたげな表情の鬼子。そんな鬼子をよそに、ヒワイドリは腕まくりしている。
そして、ヒワイドリは鬼子の方を見て言った。
 「で・・・どうやって倒そうか・・?」
鬼子は口をアングリと開ける。やっぱり・・今のヒワイドリは
呪縛を解く前のヒワイドリと性格が同じだった・・・。
頭をかきむしりながら鬼子は言う。
 「あの手足の長い輩は、接近戦に弱いみたい。でも・・・その中に入るまでが危険なの・・」
 「接近戦に弱い・・・か」
ヒワイドリは【ニヤッ】っと笑った。
 「よ〜し。見とけよ鬼子」
そうヒワイドリは言いながら、目の前に両手をかざした。
すると、ヒワイドリの回りの空気が渦を巻く。髪の毛と着物が激しく舞い上がった。
 【ブワアァ〜〜〜】
●挿絵3 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/53/12-3.jpg
 【プッスン・・】
●挿絵4 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/54/12-4.jpg
 「あ・・・あれ・・・???」
ヒワイドリの姿が・・・弱々しい鶏に変わって・・・。
鬼子が後ろでこけている・・・。


136ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:51:42.09 ID:2Zd5nxjZ0
ヒワイドリの額から、冷や汗が流れ落ちる。
情け無さそうな表情で鬼子の方を見た。
 「じゅ・・呪縛が・・・」
 ≪「ヒワイ!!下がって!!」≫
鬼子がそう叫ぶ。
カマキリ型の輩が襲いかかって来たのだ。
ヒワイドリはまた人型に変り、とっさにしゃがみ込んだ。
その背中をかすめる様に、輩の長い腕が飛んでいく。
鬼子が輩の近くに素早く走り込む。そして薙刀を力一杯振上げた。
 【ズバーーーン】
・・・空を切る薙刀。その鬼子めがけて輩の長い手が飛んでくる。
鬼子は、薙刀を振り切った勢いで体勢を整える事が出来ずにいた。
 【ドンッ】
ヒワイドリが鬼子に体当たりして突き飛ばす。
鬼子の身代わり・・の様な形になってしまったヒワイドリめがけて、
輩の手が・・・。
 【ガシーーーン】
ヒワイドリの頭にかすかに当った。脳震盪を起こしその場に膝を着くヒワイドリ。
カマキリ型の輩が、両手と前足2本で再びヒワイドリを襲う。
それを見ていた鬼子が叫んだ。
 ≪「ヒワイーーーーー」≫
 【ガキーーーーン・・・】
鈍い金属音が鳴り響く。
輩の長い手足が、ヒワイドリの目の前で止まっている。
ヒワイドリが首に巻いていた羽付きファーが、硬く鋭くなり七支刀の形になっている。
七支刀は2本出現し、それが鎖と紐で繋がっていた。
●挿絵5 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/55/12-5.jpg
それを使ってヒワイドリ自身が、輩の手足を止めたのだ。額から血を流しながら。
 「・・そうか・・・昔、こんな武器も使ってたよなぁ・・・」
輩の手足が、そのままヒワイドリを押しつぶそうとしている。
鬼子は、ヒワイドリを助けようとカマキリの様な輩に近づいて行くが、
輩の他の足に阻まれている。
押し潰されそうになるヒワイドリ。鬼子は強引にヒワイドリの方へと走って行った。
輩の足が、鬼子めがけてかすめ飛ぶ。鬼子の紅い目が、その動きを読み取ろうとしていた。
そして、薙刀を振りかざす。
 【ザシュ・・】
鬼子が、何とか輩の足一本を切り裂いた。
ヒワイドリを押し潰そうとしていた輩の手足がかすかに緩む。
その隙に、鬼子はヒワイドリの腕を掴み、外へと飛び出した。

 【ドガッ・・・】
・・・鬼子の頭から、血が流れ出す・・・。
輩の鞭の様にしなる手が・・・鬼子の頭に直撃したのだ。
ヒワイドリの目の前で、倒れていく鬼子。彼は、手を差しのべ鬼子を抱きしめた。
ヒワイドリが鬼子を見ると・・・輩の強い一撃で、気絶していた・・・。
 「・・お・・・俺なんか・・助ける価値なんてないのに・・・」

カマキリ型の輩が、ヒワイドリ達を再度襲い始めた。
・・長い・・輩の手足が・・・、身動き取れない彼等めがけて飛んでいく。
ヒワイドリは・・・鬼子を抱きしめたまま・・その場を動けないでいた。
彼は・・・黒い空を見上げ・・・力一杯叫ぶしか出来なかった。

 ≪「は・・・般若ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」≫
.

137ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:53:47.80 ID:2Zd5nxjZ0
そのヒワイドリの叫びを聞いた音麻呂達4人が、般若の方を見た。
しかし・・・・・・・・・その場にはいなかった。
般若が立っていたと思われる部分だけ・・・草が揺れていた。
 【ズザーーーン!!】
鬼子とヒワイドリの前で、何故か粉々に切り刻まれているカマキリの様な輩。
その場には・・・赤く光る目を持つ般若の姿があった。可愛い姿には似合わない程の大きな妖気。
その般若が持つ強大な気が一瞬だけ、異形の形をかたどる。
●挿絵6 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/56/12-6.jpg
 「鬼子を連れて下がれ、ヒワイドリ」
 「は・・・般若・・・」
 「秀吉が横たわっている所まで、今すぐ下がるんだ」
そう言われたヒワイドリは、気絶している鬼子を抱きかかえ、
横たわっている秀吉の所まで駆け飛んで行った。
秀吉の横に、鬼子をそっと寝かすヒワイドリ。
彼が秀吉の方を見ると、鬼子から舞い落ちたであろう淡く光るもみじが、
秀吉の傷口へと消えていっている。ヒワイドリはそれに感づく。
 「あ・・もしかして、このもみじ・・・こにぽんと同じ癒し効果があるんじゃぁ・・・」
彼は、秀吉には届いていない淡く光るもみじをとっさに拾い上げ、
鬼子の傷口に当てた。

 鬼の形相で狼の様な悪しき輩を睨む般若。その輩は、ユックリと般若の周りをグルグル回っている。
般若が言葉を発する。
 「貴様か・・・犬避けの石を置いたのは・・・」
 【グルルルルー】
●挿絵7 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/57/12-7.jpg
輩は、口からヨダレを流しながらそう唸るだけだった。
 「・・こいつじゃ無いな。ただの輩だ」
すると、狼の様な輩の後方から何かがユックリと出てきた。
般若の目は、その何かを睨みつける。
輩の後方から出てきたのは、見た目人間の民の様に見えた。
しかし、両腕が異様に長く、指先には尖った爪を持っている。
背丈は3メートルほどか。そして青黒く艶やかな皮膚をしていた。
顔は・・・縦に長く、横長に切れた大きな目を持っている。
その人間の様な輩が、狼の様な輩の横で立ち止まった。
そして、般若をジロジロと観察しているようだ。
 「・・・非力な鬼娘に着く守護者か・・・」
●挿絵8 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/58/12-8.jpg
人間の様な姿の輩がそう喋った。
般若は目を見開いて驚いている。
 「・・や、やはりそうか。知恵を持ち得た輩が存在しとるとは思っとったが・・・。
  貴様・・・光の世に何しに来た?」
すると、その人型の輩が【ニタッ】っと笑い出した。
そして、長い両腕を左右に広げた。
 「何しに来た?お笑いだな。そんな事は決まっているだろう。
  この世を支配しに来たんだよ。人間の民を食い潰し、我が力にしてな。
  人間の民は美味しいぞ。食えば食うほど新しい知恵が付く。
  そして・・・闇世の大白狐をも食いつぶす」
 「ほほぅ・・・。大白狐様までも・・・か。それは大層な計画じゃな。
  その為に・・・その知恵で、光の世の力石を解読すると言うんじゃな」
輩の目つきが鋭くなる。
 「・・・頭の良い守護者だな・・。それに感ずいているとは。
  なら、お前の力では俺を止める事が出来んと言う事にも感ずいているだろう。
  力の差が大きすぎる。お前のその力では俺に触れる事すら出来んからな」
そう言われても、般若の顔つきは全く変わらない。
 「貴様は・・元々闇世の猿の民だな・・。その猿の民が人間の民を喰らい続け、
  今の姿になってるんだろう。貴様・・・何処を通ってこの光の世へ来た・・」
その輩は・・一度目を閉じ、そして見開いた。
そぉーっと右手を前へ出していく。非力な般若の事を少し警戒している様だ。
138ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 22:54:45.85 ID:2Zd5nxjZ0
 「・・・何処を通って来た・・・か。色々調べているみたいだな。
  俺は、闇世で200年ほど色んな民を喰らい続けてきた。
  最近光の世に来たが、それでも50体くらいは喰ってるなぁ。」
人型の輩は、話をたぶらかしているみたいだ。
それを聞いた般若の目がさらに厳しくなる。
 「・・・何処かの川を・・通って来た・・・のだな!?」
人型の輩は、目で般若を睨み、鼻で般若の何かを読み取ろうとしていた。

 「お前は・・・鬼娘の守護者・・・・・・では無いな・・」

そう言葉をかけられた般若は無言だった。
輩がまた話しだす。
 「お前の力は、この輩と同等くらいか・・・」
これ以上の詮索を拒むかの様に、その輩が指を【チョン】と前へ出す。
すると狼の様な輩が、不意に般若を襲い始めたのだ。
 【ズバーン】
一瞬にして砕け散る輩。般若は動いた気配がなかった。
人型の輩が少し下がりながら、般若を睨み言った。
 「お前・・・何者だ・・。いや・・・元は何の民だ・・」

 ヒワイドリも、遠くにいる音麻呂達も・・身体に非常に強い殺気を感じている。
詠麻呂が自分の身を抱きしめながら言った。
 「い・・痛い・・。身体が痛い」
音麻呂が皆を抱きしめながら言う。
 「あ・・あいつの・・・。人型の輩の殺気が・・俺達の身体を痺れさせているんだ・・。
  は・・般若さんからも殺気は感じるけど・・・大きさが違いすぎる・・・」
ヒワイドリは未だに目を覚まさない鬼子の近くで、同じ殺気を感じていた。
 「は・・・般若・・。あ・・あんたの力でも無理だ・・・。お・・俺達・・もう・・・」

 般若を睨みつける人型の輩。その輩が、そおーっと右手を上げ鬼子達が居る所を指差した。
 「少しは早いみたいだが、俺の動きには付いて来れんだろう。お前が言う様に、俺は
  元々猿の民だ。色んな民の中でも飛びぬけた瞬発力を持っているからな。
  お前の目の前で、あの鬼娘の力・・・喰ってやるわ」
そう言い、人型の輩は鬼子達の方へ一瞬にして飛んで来た。
般若は・・・やはりその動きに付いていけずにいた。
人型の輩の大きな爪が鬼子達を襲う。ヒワイドリは、身構える動作さえ出来なかった。
 【ギュイィーーーーーーーーーーーーーーーーーン】
人型の輩の腕が、後ろへ弾かれネジ曲がる。
般若が腕を弾いたのだ。遠くにいた般若が・・・。
 「ヒワイドリ、2人を担いで直ぐに結界の中へ!」
焦るヒワイドリは、息を止め、鬼子と秀吉を担いで結界の方へと走って行った。
とても醜い形相で、般若を睨む人型の輩。
 「・・お・・・お前・・・」
般若の額に、薄っすらと光る文字が浮き出ている。
人型の輩がそれを見て、自分の顔の前に両手を持ってきた。
何か・・・黒く光る小さな文字が輩の手の中に浮かび上がる。
そして般若を見下ろしながら笑い、言った。
 「お前は・・鬼の民なのか・・・」
黒い文字を浮かべる輩を見た般若は、目を見開く。
 【あぶない】と思ったのだ。
般若は、ヒワイドリの方を見て叫んだ。
 ≪「速く結界の中へ入るんじゃーーーーーー!」≫
そう言い終わると、般若の額の文字が光輝き出した。
 【ブヮアーーーーーーーーーー・・・】

139ほのぼのえっちさん:2011/05/15(日) 23:02:34.85 ID:2Zd5nxjZ0
その光り輝く文字を見た人型の輩は・・・のけ反りながら後ずさりする。
 「・・そ・・その文字は・・・古(いにしえ)の民・・・・・。
  で・・・伝説の・・・・・龍の民か・・・・・・・・」
そう言いながら、輩の手の中の黒光りしている文字が渦を巻きだした。
般若は、大声で叫ぶ!
 ≪「速くしろーーーーヒワイーーーーーーーーーーーーーー!!!」≫
般若は力を解放した。
 【ドォーーーーーーン】
白いお餅を縦に伸ばした様な般若が・・・人型に変っていく・・・。
黒色の袴姿。解放した力の波に激しくたなびく金色の長い髪。
口からは・・・黒い妖気が溢れ出している。
そして、紅色と金色の瞳で輩を凝視していた。
●挿絵9 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/59/12-9.jpg
般若の黒い強大な妖気に、波打ち引き裂かれる輩の皮膚。
その波が、結界を張ってある所まで一瞬に飛んで来た。
結界の中から、ヒワイドリ達に手を差しのべる音麻呂達。
ヒワイドリは、間に合わないと感づいた。そして、鬼子と秀吉を結界の中に力一杯放り込んだ。
音麻呂達は、鬼子と秀吉を抱きかかえながら倒れこむ。少し遅れ、ヒワイドリも結界の中に飛び込んだ。
その瞬間、般若の解放した力が結界を貫く。その時、ヒワイドリの足はまだ結界の外にあった。
人型の輩の皮膚は引き裂かれ、タダレ落ちていたが、構わず般若に襲いかかって来た。
 【ドゥン・・・・・】
一瞬にして塵(ちり)となる輩。
輩が塵となり消えていきながら、ポツリと言葉を発した。
 「・・・な・・何故だ・・・。鬼の民と・・・龍の民は一緒にいる事が出来ないはず・・・。
  ぁあ・・まさか・・・。あいつは・・龍の民の・・しかも唯一の虐げられし者の・・・・・・」
そう言いながら、人型の輩は消えていった・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 空から、赤黒い雨が降り出してきている。
そんな中、般若は・・・中に浮きながら人型の般若の身体が輝いている。
のけ反りながらユックリと下へ落ちていく。一瞬、般若の力が暴走し鬼の民が実体化するが
すぐに消えて無くなってしまった。
●挿絵10 http://dl8.getuploader.com/g/oniko3/60/12-10.jpg
人型の般若から、お餅型の般若に・・・
・・・・・・・・・そして・・・般若面になりながら落ちていく。

 「・・・我墜ちて・・・守護神なり・・・」

 【コトン・・・】

地面に落ちた般若面は全く動かない。
結界の中にいる鬼子達は・・・皆気絶していた・・・。



投下終り。

「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十三章〜【いつもの自分で】に続く。
.
140ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 20:55:00.79 ID:9tshKOuN0
子「早速ですが、今日は何の日でしょう!」
鳴「給料日?」
子「不正解!」
日「乳の日」
子「それは貴方達にしたら毎日でしょうがっ!」
夜「パンツデーッス!」
子「なんだそのバレンタインデーの派生みたいな日は」
ヒ「ふっ……お前らお子様だな。今日は鬼子のバストチェックの日に決まってるだろう」
子「鶏鍋になりたいんですかヒワイドリ?」
ヒ「すいません」
ヤ「お前もまだまだだなぁ。今日はパンツを買いに行く日だろう!そしてお古を私が――」
子「今日は天気がいいので七輪で魚を焼くといい感じになりますね」チャキ...
ヤ「冗談ですって小日本様」
子「もっー!なんで今日という日が分からないんですか!」
鬼「わかった!あられの日だ!」
子「正解!さすがネネさま!」
鳴「あぁ、ひな祭りな」
鬼「あられの日違うのかナイキ?」
鳴「合ってるよー」
鬼「じゃあ、あられ頂戴?」
鳴「ひなあられは無いです。代わりに良いものをヘソクリから買ってきてやろう」
鬼「無いのか!?あられ……」
鳴「そんなに食べたいのか?あれ、そんなに美味しく(ry」
子「つべこべ言わずに買ってきたら良いんですよ。ネネさまが欲しがってるでしょう?」チャキンッ!
鳴「そういう脅しみたいなのは良くないと思うな!」
子「では運命の赤い糸を切断してもよろしいでしょうか」
鳴「ちょっと行ってくる」ドタタッ...


141ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 20:55:33.06 ID:9tshKOuN0
――20分後!
鳴「帰ってきたぜ鬼子!」
子「静かに!ネネさまが寝てるんですよ!」
鳴「(´・ω・`)」
鬼「ん……帰ってきたのかナイキ?」
鳴「え、うん」
子「せっかくの寝顔を寝顔を寝顔を……」
鳴「……ほら、お土産だぞ鬼子」
鬼「本当か!開けていいのか!?」
鳴「イエス」
鬼「?」
鳴「開けてイイですよ」
  ガサガサッ
鬼「おぉ〜。ちらし寿司だちらし寿司!」
日「うわっ……海鮮ちらしじゃないですか!」
夜「高かったんじゃないんスか?」
鳴「高いよ。一つ3000円くらい」
ヒ「ということは」
ヤ「タダでコレが食える!」
子「やれば出来るじゃないですか鳴木さん」
日(まぁ、いつも通り――)
夜(俺達の分は無いんでしょうね)
鳴「本当だぞ。今日だけで凄い金が飛んだ。一万ぐらい。鬼子、これあられな」
鬼「ありがとう鳴木!」モグモグっ
子「さぁ!早く私たちの分を出すのです!」
鳴「ねぇよ」
ヒ「なん……」
ヤ「だ……」
子「と……?」
鳴「居候の身で贅沢な。自分でお金を稼いでから言いなさい」
子「稼いでるじゃないですか!この美貌で!10年前の時間軸ではありえない美貌ですよ!」
鳴「うるせー!もう見飽きたんだよ!というか金になってねぇじゃねぇか!」
ヒ「俺の分はこの写真で……」スッ
鳴「ん?……こ、これは!鬼子のはd……ダメに決まってるだろ」
ヒ「なっ!?酷いぞ!俺の宝物だぞコノヤロー」
子「へぇ、一体どんな写真」
日「うはっ!生乳写真!」
ヒ「ちょっとお腹が痛くなったので散歩でも」
子「ニヤリッ」
ヒ「ヤダーっ!その笑顔ヤダー!」
――ヒワイドリ退場
ヤ「じゃあ、私はこれでお願いをする!」
鳴「パンツはいらねぇよ!」
ヤ「なんだとっ!これを手に入れるのにどんだけ苦労したと!」ガシッ
子「ニヤリッ」
ヤ「ぎゃあああああ!顔にヒワイドリの血痕が!」
――ヤイカガシ退場


142ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 20:55:50.81 ID:9tshKOuN0
子「さて、私の分はありますか?」
鳴「そんな血塗れの顔で言わないでください」
子「あるんですか?お腹ペコペコですよ」
鳴「あるよチキショウ!」
子「話せば分かる人だと信じてましたよ」
鳴「脅しじゃねぇかよ」
子「ネネさまー。一緒に食べましょう!」
鬼「いいよー」
日「で、私達の分は?」
夜「そうっスよ。俺達の分が無いとか無いッスよね?」
鳴「あるよ。あるって」
日「ふぉおおおおお!コレが……年に一度しか食べれないという高級海鮮」
夜「あれ?コレって共食いじゃないっスか?」
鳴「気にすんな」
夜「そうッスね」
――1時間後
鳴「いやぁ、食った食った」
日「さすが高級。おいしかった」
夜「美味だったけどなんだかいたたまれない気持ちになったっス」
子「ヤイカガシもコレぐらい美味しかったら……」
鬼「美味しかった―」
鳴「さて、全員食べたところで。写真撮影と行こうか」
日「メインイベンツ!」
鳴「ひな壇の撮影でございます」
夜「キターッ!」
子「お雛様はネネさまで、お内裏様は?」
ヤ「私に決まってるだろう」
ヒ「いや、俺だろう」
夜「いやいや、俺が」
日「いやいやいや、私が」
子「じゃあ私が」
鳴「めんどくせェなお前ら。そんなにお内裏様やりたきゃ交代で写真取ればいいじゃない」
ヒ「バッカヤロ―!」ゴッ!
鳴「おぅふ!なにすんだ馬鹿鳥!」
ヒ「てめぇは何も分かっちゃいねぇ。この小さい状態の鬼子と写真が取れるのが今だけということを」
鬼「小さくないよ?」
鳴「だから交代で……」
ヒ「だからこそなんだよ!一番初めに並んで写真を取れた奴こそが初めてをもらえるのだ!初体験だ!」
鳴「その考え方は少し怖いぞ」
子「ということはやはり私が行くしか無いようですね」
ヤ「こにぽん!今回ばかりは譲れない!」
子「……」ドスッ!
ヤ「ぐっ……」
子「他愛もない……」


143ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 20:58:33.04 ID:9tshKOuN0
鳴「争うなよ。そんなに初体験が欲しければ、皆でお内裏様になればいいじゃないのか?」
ヒ「なっ!」
日「それは……」
夜「なんということを……」
子「やはり斬るしか……」
鳴「なんでさ!一度に写真が撮れて十分いい案だと」
子「浮気じゃないですか。お雛様が、数多くのお内裏様とならんでたら」
鳴「あ、そういえばそうだな」
子「やはり邪魔者を排除してから」チャキ...
鳴「待て待て待て!話せば分かる子だっただろ!」
子「それは十年前の話です」
鬼「ダメっ!」
子「ネネさま!どうして!?」
鬼「皆で仲良く!」
子「くっ……ネネさまにそう言われては引くしか……」
鳴「助かったぁ。ありがとな鬼子」
鬼「ご飯くれるいい人だからな」
鳴「あれ?俺ってその程度?」
――20分後
鳴「ひな壇、設置完了でございます」
鬼「おぉー」
日「これはいいひな壇」
鳴「はい、鬼子はここに座ってな」
鬼「よいしょ……コレ終わったらあられ食べていいのか?」
鳴「終わったら皆で食べようなー」
鬼「うん!」


144ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 21:00:40.37 ID:9tshKOuN0
鳴「では、お内裏様集まってくれ」
  ドタタッ!
子「それでは、私がネネさまに一番近い位置で」
ヤ「じゃあ、私はパンツが見えそうな位置に」
ヒ「俺は適当に」
日「私も適当に居るかな」
夜「俺はヤイカガシと同じ位置に」
鳴「……なんでその位置全てが俺に体重が掛かる位置なんだよ。重い!退け!」
子「仕方ないでしょ!ここが一番近いんだから!なんだったらその場所を譲ってください!」
日「この位置が一番楽だからね」
夜「同意」
ヤ「同意」
ヒ「同意」
鳴「そんな訳が、って馬鹿!それ以上体重かけるな!倒れる倒れる!」
  パシャッ!
ということで、前代未聞のお内裏様が6人、お雛様が1人というひな壇が出来たのであった。
これから事務所に飾られるであろう馬鹿な写真と共に。

145ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 21:50:56.88 ID:9tshKOuN0
  暑い。もうすぐ春だと言うのは分かっているが、事務所内が暑すぎる。
  原因は分かっている。人数が増えすぎたせいだ。
  狭い廃墟のビルを管理がてら借りているというのに……暑くて溶けちまうよ!
日「溶けないですよ」
鳴「読心!?」
日「心の鬼っていう肩書きを忘れてもらっちゃ困りますよ」
  え?ということは今まで考えていたことをずっと見られてたってこと!?
  恥ずかしい……
ヒ「あ、そうだ。鬼子」
鬼「なんだヒワイドリ」
ヒ「落し物です」
鬼「おぉー、ありがとう?」
ヒ「なぜ疑問形」
鬼「なんとなく」
  出前の蕎麦を食べ終えた鬼子にヒワイドリが何かを渡していた。
  目を凝らしてよく見てみると、もの凄い形相をした般若面。
  え、怖い。大人というか24歳のお兄さんでも怖い。
鳴「ヒワイドリ。それ、何?」
ヒ「え?どれだよ?」
鳴「そのお面」
ヒ「あぁ、般若面ね。鬼子のお面だよ」
鳴「鬼子の?この事務所に来てからは付けてなかったぞ?」
ヒ「山で落としてたんだよ。それを俺のセンサーが発見したってわけさ」
鳴「あぁ、そういう事。変態センサーね」
ヒ「失礼な!愛ゆえにだ」
鳴「そんな一方的な愛は駄目だと思います」
ヒ「現在354万回振られてます」
鳴「ごめんなさい。お気持ちをお察しいたします」
ヒ「ありがとう……今夜、居酒屋で乳の話を聞いてくれるか?」
鳴「聞くわけねぇよ!」
ヒ「可哀想って思ってくれたんじゃないのか!?」
鳴「自業自得だ馬鹿鳥。さっさと鬼子を元に戻す方法を探すぞ」
  足元でブーブー言いながら走り回ってる鳥は置いておいて……早く元に戻す方法を探さなくては。
  三階の資料室に置いてたっけな。あー、探さないとな。


146ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 21:53:51.03 ID:9tshKOuN0
鳴「日輪、夜烏賊。資料取ってきてくれ。三階にある筈だから」
日「曖昧なんですね」
夜「疲れてるんスよ。最近ずっと怒鳴ってるっスから」
鳴「お前らが悪いんだろう」
夜「まぁ、そういう解釈の仕方もあるッスね」
鳴「それしかないだろう。もういい。早く探して」
夜「はいはいっス」
日「わかってますよ」ガチャ...
  資料は日輪達に任しておいてって、俺やることないじゃん。
  こうなったら小さい頃の鬼子を写真でも取って永久保存版に……
鬼「ナイキ―。お祭りだ―」
鳴「へ?」
鬼「お祭りだお祭り」
小「わー、本当ですね―」
  窓の外を見てみると確かに祭りをしていた。妖怪の類のオンパレード。
  一般人には見えていないようだが、俺より鬼子が先に気が付くとは。
  そろそろ年というわけか……
鬼「お祭り行こうナイキ!」
鳴「金が……あ、そういえば妖怪は物々交換だっけ?」
小「違います。moneyです」
鳴「何故英語で言った」
小「なんとなくです。それにほら、年齢と共に賢くなった私を知って欲しくて」
鳴「賢くなってないぞ」
小「斬りますよ」
鳴「さぁー、仕事だ仕事」
鬼「お祭りは!?」
鳴「あぁ、お金が……無いんス」
鬼「……ダメ?」
鳴「いや、ダメというわけでは……はぁ、分かったよ。行っていいから」
鬼「やったー!」
  相当甘いな俺。子育てをしたらかなり我侭な子に育ちそうだ。
鳴「1000円までだからな。わかった?」
鬼「うん。1000円って何?」
鳴「……おーい、日輪。資料探すのは後で良いから、一緒についていてあげなさい。小日本も」
日「了解。で、私へのお小遣いは?」
小「私は最初っからそのつもりです」
鳴「日輪へのお小遣いはありません。小日本は予想してたからどうでもいいです」
小「うわー。10年前の私なら甘かったくせにぃ。ロリコンですね」
鳴「だだ誰がロリコンか!さっさと行けっての!」
小「わかってますよー。ネネさま行こう」
日「じゃあ、行ってきますね」
鬼「ありがとうナイキ―」


147ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 21:55:19.55 ID:9tshKOuN0
  ガチャッ...
鳴「やっと行ったか」
ヤ「私も行きたかったなー」
ヒ「俺も」
鳴「お前らが行くと浪費が激しいからな留守番だ。俺は出掛けてくる」
ヒ「自分だけでお祭りを楽しむ気だな!」
ヤ「私たちも連れてけ!」
鳴「行かねぇよ!通帳の残高チェックだ!俺が帰ってくるまで此処に居ろよ!絶対な!」
  バタンッ!
  扉を閉めても事務所からは文句を言っている声が聞こえてくる。
鳴「さてと……こっちの路地裏だったけな」
  事務所から出て直ぐの路地裏へと入っていく。
  確かこの辺に居たはずなんだが……
鳴「おーい。居るんだろ?いつも事務所を覗いてる人。話しがあるなら聞くから出てきてくれ」
  ……返答はない。そりゃそうか。
  いきなり事務所の中の人間が出てきても、恥ずかしいとかそういう感情で出てこれないよな。
  仕方ない、出直すか。ついでにお祭りで占ってもらおう。
  そう思い、通りの方へ振り返ると声が聞こえてきた。
?「振り向くな」
鳴「へ?」
  最初はなんだと思ったが、そりゃ振り向いたら顔覚えちゃうもんな。
  ストーカーの類だったら顔を覚えられる事ほど嫌なことはないだろうし。
鳴「分かった。振り向かない」
?「何のようだ?」
鳴「いや、いつも事務所を覗いてるだろ?なんかあるのかなぁっと思って」
?「はぁ……気付いてたのか?」
鳴「そりゃ当然。あれだけ目を光らせてればね。俺の推測だと、君達は鬼子の補佐だろ?」
?「なんでそんな事を?」
鳴「ヒワイドリが言ってた」
?「あの鳥野郎……分かったよ。確かに俺は補佐役だ。鬼子のな」
鳴「そりゃどうも初めまして。名前は?」
狛「……狛〈こま〉」
鳴「なにそれ可愛い」
狛「ぶっ飛ばすぞ」
鳴「それは失礼しました。で、なんでいつも覗いてるんだ?」
狛「言ったろ?鬼子の補佐だ。何かある時はすぐに駆けつける。記憶喰をソファに置いたのも俺だ」
鳴「いや、補佐は分かってるけどさ、なんで姿を現さないんだ?そして、その節はどうも」
狛「補佐は所詮、補佐だ。鬼子自信に守られてるって言う変な気持ちを持たしちゃいけないんだ」
鳴「どうしてだ?」


148ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 21:58:23.26 ID:9tshKOuN0
狛「これは、記憶を失う話になるんだが……鬼子が行っていたのは鬼の浄化だ。闇に心を呑まれれば
  人の心から鬼が表面上に現れる。それは人の行動、言動などの全てに影響する。それは知ってるな?」
鳴「あぁ、知っているよ。何年やってると思ってるんだ」
狛「この闇に呑まれた心を救うには心の隙間に巣食っている鬼を元の状態へ戻さなければならない」
鳴「それなら、俺も何回か行って来たぞ。まぁ、対処できる相手は少なかったが」
狛「そういう人達は昔から居たさ。だけど完全に浄化しきれる訳ではない。黒から灰色へと変えるのが精一杯だ。
  完全に浄化できる奴らも居たが……子孫にはあまり伝わらなかったみたいだな」
鳴「安倍晴明の事か?」
狛「それと、芦屋道満。その頃から鬼子は鬼の浄化について学び始めた。成長が止まったのもその頃だ。
  話は変わるが、鬼には二種類居るって言うことは知ってるか?」
鳴「あぁ、聞いたことがある。堕鬼と善鬼だろ?確か、堕鬼が人や動物、植物に対して悪い影響を与える鬼で
  善鬼は普段からそこに居るが悪影響は無く、居たほうが幸福になる場合もある鬼だろ?」
狛「そうだ。補足すると、善鬼が負の感情を受けすぎると堕鬼になる。鬼子が相手にするのは堕鬼だ。それも
  最上級クラスの危険な相手ばかりだ」
鳴「そうか、だから姿を隠してるのか。守られているという意識が心に隙を生み、命を落としかねない状況が
  増えるのを避けるためか」
狛「そういう事だ。分かってくれて何よりだ」
鳴「あれ?ということはだ。狛がここに居るって事は鬼子の補佐はどうなってるんだ?」
狛「それに付いては問題ない。まだ若いがしっかりやれる坊主に任したよ」
鳴「坊主?」
――その頃の鬼子一行
鬼「ねぇねぇ、蕎麦くださいな」
店「50円イタダキヤスヨ」
鬼「はい」
店「マイドアリデヤスヨ」
鬼「日輪のオネーちゃん!蕎麦かった!」
日「ズキュン!……なんだ、このトキメキは!確かにあと十年したら一緒に話し合いたいのは確かであるが、
  こんな胸のトキメキは初めてで(ry」
小「コレが、ネネさまの力ですよ」
日「こ、コレが!」
小「もう、可愛い!一生このままでもいい!」
日「今までは、大きい胸や小さめの胸についてばかり語っていたが、子供の物も……」
?「いや、やめとけ」
小「!!」
?「い、やべっ!逃げろ」
小「日輪さん!」
日「……しかし、現状で小さいものというのは将来的に長い目で見ていくと……」
小「日輪さん!」
日「はひっ!どうしたの!?」
小「あのチッコイ犬耳の子供を捕まえて!」
日「えー、男じゃん」
小「やらないと鶏鍋」
日「よしっ!いっちょ行ってくるね!」ダダダッ...


149ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 22:15:09.52 ID:9tshKOuN0
?「あぁ、もう!なんで追いかけてくるんだよ!」
日「鶏鍋は嫌だからに決まってるでしょう!」
?「はぁ?何いってんだ!人間の癖に!」
日「誰が人間だ小僧コラ!とぉう!」
?「わっ!馬鹿!」
  バターン!
日「ふふふ、鶏の跳躍力を舐めてもらっちゃ困りますな」
?「ってー、離せ馬鹿!胸が当たってんだよ!」
日「ほほーう。その年で、胸に反応するとはどうだい?今夜一緒に乳について話そうじゃないか」
?「誰が話すか!ヒワイドリに心乗っ取られてんのか!?」
日「その、ヒワイドリ本人ですが」
?「えっ?」
小「日輪さん!捕まえましたか!?」ダダダッ...
鬼「悪い奴はそいつかー」
?「いっ」バッ...
日「ご覧のとおり、私の下敷きです」
小「どうもありがとうございます。さて、さっきからネネさまの周りをウロチョロと……顔を出しやがれってんだい!」
日「口調変わってる変わってる」
?「わっ、やめろ!布を引っ張るな!」ビリッ...
小「あれ?」
?「何すんだよ小日本!」
小「それはこっちの台詞です。なにしてるんですか柴」
柴「それは……その」
小「まさかストーカーという訳ではないでしょうね。そんな事にしたら犬鍋に」
柴「バッ、違うよ!それに俺が好きなのは小……ゴニョゴニョ」
小「?」
柴「あー、もう!鬼子の護衛だよ!」
小「護衛?」
柴「そう。記憶を無くしてからもからもずっと護衛してたの!もちろんそれ以前からもだけど」
小「なぜそのような事を」
柴「それは知らない。狛に聞いてくれよ」
小「狛は何処に?」
柴「それは言えな(ry」
小「何処に?」
柴「事務所の所に居る……」
小「ありがとう柴。さて、それじゃあ戻りますか」
鬼「えっ!?もう?」
日「鬼子ちゃん。あと、お金いくら持ってる?」
鬼「これだけ!」
日「20円……もう、お金ないからオシマイだね」
鬼「そうなのか。残念だな。また来れる?」
日「それはお祭りがやってればもちろん来れるよ」
鬼「皆も一緒に?」
日「それは、お金があればかな?貧乏だし」
鬼「そうかー。期待してる」
小「じゃあ、ネネさま帰ろうか」
鬼「うん」
柴「それじゃあ、俺もソロソロ」
  ガシッ!
小「柴は一緒に」
日「来るんだよねー」
柴「い、いやだぁああああ」


150ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 22:17:03.68 ID:9tshKOuN0
――再び事務所前!
狛「……でさ、般ニャーがな」
小「さて、事務所で取り調べ取り調べ」
柴「いやだあああ。昔は優しかったのにぃいい!」
狛「やべっ!鳴木。ちょっとこっち来い!」
鳴「うぉっ!?」
  小日本達が祭りから帰ったのを目にした途端、腰に手を巻き付け事務所の
  真正面のビルの屋上へと飛び上がった。
  強く絞めつけられて……気持ち悪い……
鳴「うぉえ……」
狛「お、悪い。強く抱きすぎたな」
鳴「吐くかと思った。で、急にどうしたんだ?」
狛「いや、小日本が帰ってきたんでな。けど、隠れる必要なかったみたいだ」
鳴「どういう事?」
狛「犬耳の子供見えるだろ?あれが、俺の代わりに鬼子を追わしてたんだが、捕まったみたいだ」
鳴「あぁ、あの日輪にヘッドロックかけられてる子ね」
狛「そう、あれだ。引取りに行くか」
鳴「そうだな。俺もそろそろ戻りたいし。あ、そうだ。鬼子を元に戻す方法が知りたいんだが」
狛「あの三階でパンツ被ってる男が資料を探してるんじゃないのか?」
鳴「聞こえてたのかよ。あれは役にたたん」
狛「犬だからな聞こえる。そうか、でも俺も知らねぇんだよ。般ニャ―なら知ってる思うが」
鳴「あぁ、何百年も生きてる猫だろ。さっき聞いたけど、気まぐれじゃ意味ないしな」
狛「そうだな。多分まだ、家にいるだろうし。仕方ない、俺も資料探すの手伝うよ」
鳴「あぁ、助かる」
狛「それじゃあ、事務所行くか」
鳴「ちょっと待て……まさか飛び降りr(ガシッ」
狛「よっと」
鳴「ぎゃああああああああ」
――事務所!
  ガチャ
鳴「た、ただいま」
日「おかえり―ってどうしたの?」
鬼「顔色が悪いぞー」
鳴「ちょっと、悲惨な目に。もうこりごりだ」
狛「情けないな。アレぐらい耐えろよ」
鳴「耐えれない!死なないと分かってても怖いわ!」
小「……来ましたね狛」
柴「ごめん……捕まった」
狛「知ってる」
柴「怒ってる?」
狛「それはもう凄い」
柴「ごめんなさい!」
狛「日輪さんだっけ?人型を維持してるヒワイドリは」
日「ひゃい!そうです」
狛「そのチッコイのを一日レンタルします。好きなだけ話し相手に」
日「ヒャッハー!三年分蓄積された乳の話を聞かせてやるぜ!」
柴「それだけは勘べ(ry」
狛「ははは、人形は喋っちゃだめだぞ!我、尊ノ命ニヨリ命ズル。拘束第三式、傀儡」
柴「ムグゥ!」
日「これは便利!さっそく聞いてもらうか」
柴「ムウウウウウ!ンン!」ズルズル...

151ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 22:19:20.42 ID:9tshKOuN0
鳴「え?なにそれ怖い」
狛「大丈夫だ。人間には効かないから」
鳴「そりゃ良かった」
狛「ついでに言うと鬼子にも効かない。逆に術をかけたコッチがダメージを負っちまう」
鳴「やったことあるのかよ!」
狛「小さい頃に一回だけ。あまりにもウロウロするもんで」
小「無視ですか。私は無視ですか」
狛「あぁ、忘れてた」
小「このっ!」チャキンッ!
狛「ほれっ!鬼子の秘蔵写真」
小「っ!……卑怯ですよ狛」ゴソゴソッ
狛「ははは、なんとでも言ってくれ。伊達に監視していたわけじゃない」
小「コレ、盗撮って言うんですよ」
狛「資料集めと言ってくれ」
小「まぁ、良いですけど……」
鬼「……ネムイ」グイッ
鳴「なんで俺に言うんだ」
小「やだ!可愛い!」
鳴「小日本。鬼子が眠いらしいぞ」
小「分かってますよ。ネネさまコッチですよ。ここで寝ましょうね」
鬼「ん」
小「くぅー!寝顔もクァワイイ!」
鳴「鼻血垂らしながらコッチ向くんじゃないですよ。怖い」
小「ロリコンの癖にこういう所は理解してくれないんですね」
鳴「ロリコンじゃねぇよ!」
小「ま、良いです。狛、なんで黙って監視なんかしてたんです?」
鳴「流された……」
狛「ん?危険が及ぶからだよ」
小「そうですか。それじゃあ、なんで記憶を失うのを止めれなかったんです?」
狛「俺より強かった。それだけだ」
小「記憶喰が?」
狛「違う。記憶喰は只の道具扱いだったよ。俺が負けたの違う奴だ……同じ相手に二度も負けるとは……」
小「違う奴……一体誰なんです?」
狛「それは、言えない。危険が多すぎる」
小「……じゃあ、今はいいです。記憶喰は探したんですか?ご自慢の鼻と術を使えば直ぐ見つかるでしょう?」
狛「無理だった。一体だけはなんとか見つけて鳴木が、記憶を取り戻してくれたが……残りは分からない」
小「分からない?」
狛「あぁ、なんかこう……探れば探るほど俺に反動が来る。捜索できないように術をかけられてるんだと思う」
小「一体誰がそんな事を」
狛「だから言えない。一つだけ言えるとしたら……婆さんの件にに関わってる奴だ」
小「!……そういう事ですか。分かりましたこれ以上は詮索しません」
狛「分かってくれてありがとう」
鳴「なぁ、婆さんの件ってなんだよ」
狛「まだ、知らなくていい」
鳴「時が来ればって奴か?」
狛「そうだな。時が来ればだ」
鳴「分かった。今はこの疑問は胸に閉まっておくよ」
  バタタッ...ガチャ
夜「資料、見つかったっスよー。ってなんですかこの空気は?」
ヤ「私が一言も発することが出来ないほどに空気が張り詰めていた」
ヒ「俺もだ」
夜「そんなにヤバい状況なんスか!?まさか闇金ッスか!?」
鳴「そんなんじゃねぇよ。で、資料見つけたんだろ?元に戻る方法にはなんて書いてあった?」
夜「えーとッスね。『ヨモギと生卵、サバをミキサーにかけた物と』を飲めば元に戻るらしいっス。一週間後ですけど」
小「なにそれ……想像するだけでも気持ちが悪い」


152ほのぼのえっちさん:2011/05/18(水) 22:21:38.02 ID:9tshKOuN0
鳴「一週間か。少し時間が掛り過ぎるな。成分促進剤を入れたらどうなる?」
夜「なんとも言えないっスが、時間は短縮はできると思うっス。一晩ぐらいまで、ただ……」
鳴「ただ?」
夜「成分促進剤はゲロマズだったはずッス」
鳴「仕方がないな」
小「えっ!?私は嫌ですよ!」
鳴「つべこべ言うなよ。もとに戻るためには飲まなきゃならないだろ」
小「私は別にこのままでイイですよ!」
夜「あと一ついいっスか陽介?」
鳴「なにだ?夜烏賊」
夜「促進剤の在庫がないっス」
鳴「はぁ!?」
夜「仕入れにいかないとッス」
鳴「くそっ!またあいつの所に行かなきゃならねぇのかよ」
夜「仕方ないっスね。無いんですもん。因みに現在時刻が19時なのでもう開店してるっすよ」
鳴「本当に仕方ないな。今から行くか」
夜「そうっスね」
鳴「夜烏賊、日輪……は鬱憤を晴らしてるから、狛!一緒に来てくれ」
夜「あいっス」
狛「ここはどうするんだ?」
鳴「日輪がいるからなんとかなるよ。小日本もいるしな」
狛「やっぱり、小日本を連れて俺が残ったほうが……」
鳴「来てくれ、じゃないと俺が死ぬ」
小「私じゃ頼りないと?」
鳴「そういう事じゃない。ただ……女の子はちょっとやめといたほうがいいかなっと」
  あそこは色々と大変だからな。色々と。
小「そうですか。まぁ、ネネさまと一緒に居れるのでいいですけど」
狛「しょうがないな。一緒に行くよ」
鳴「じゃ、行くか!」
小「いってらー」

無駄に長くなってしまった。申し訳ない。
あと、今回も色々と設定等をお借りしました。(狗がショタだとかゴニョゴニョ……)
153ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 19:40:23.89 ID:gc5GXfVl0
あかりをつけましょ ぼんぼりに。

【日本カレンダー・三月】

今日は嬉しいひなまつり。
別段行事に興味があるわけでもないけれど、お祭り事はなんとなく心が弾む。
女の子が主役お祭り。女の子は皆お姫様。勿論そこにはアタシも含まれる。
そう、今日の主役はアタシなのだ。

「なんだか嬉しそうですね。」

日本さんは茶葉を取り替えながら微笑みかける。
「アタシはお姫様だー!」なんて考えていた事は気恥ずかしくて言えず、
誤魔化すようにエヘヘと笑い返した。

「田中ぁ、今日はゲームとか本は持って来なかったの?」

こにぽんがチョロチョロとアタシの荷物の少なさに首をかしげている。
いつもの田中なら、こにぽんにはこれがオススメだよー!なんて
可愛い絵柄の漫画を持ってきてくれたりするのになぁ、と
残念そうな表情を浮かべている。そんな様子も可愛らしいやら申し訳ないやら。

「今日はひなまつりだよ、こにぽん。」

ポケットからジャラリとそれを取り出すと、
興味深そうにこにぽんの目がキラキラと輝いた。

「たまにはアナログな女の子ゲームも、乙じゃない?」

ビー玉、おてだま、いろはカルタ。
白いお皿に散らばる雛あられは、アタシが持ってきたおはじきに似ている。
試しにぴんと指ではじくと、お菓子らしい軽い感触。
きっとアタシが形作られる前に流行したはずの遊びは
その記憶が無くとも、懐かしく感じるのは何故なのだろう。

「なんだか嬉しそうですね。」

さっきと同じように、もう一度。確かめるように日本さんは私を見た。
彼女には参った。そう言えば日本さんは、アタシを一度も田中とは呼ばなかった。
きっと、最初から気付いていたんだね。

「敵わないなぁ……」
「ふふ、私いつも、あなたのような方々の相手をしていますから。」

「ねぇ、日本さん。ありがとう、楽しかったよ。
 最後に一つ、お願いしてもいいかなぁ。」

翌日、犬神神社の木の下を掘り返すと
小さな雛人形が一体埋められていた。
このあたりに住んでいる誰かのイタズラだったのだろう。
鬼子は折り紙でお内裏様を折り、元の場所に埋めなおした。

そんな、三月の思い出。

154ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 19:41:09.73 ID:gc5GXfVl0
取り敢えず出だしが書けたので、予告編的に投げます。

I-i
 「よーしっ。今日こそはやるぞー。」夕食中だというのに吠えてしまった。
  ・・・
 「勘弁してくれよ、いきなりなんだぁ。」
 「何をするのか知らんが、ほどほどにな。」
 「何でもいいけど、早くご飯食べて。母さんだって暇じゃないんだから。」

 そういうことで、今夜は一大決意してPCに向かっている。
 祐子はここ一月ずっとdsを追っている。伝説の日本人ハッカーだ。某企業の不正会計事件で存在が広く知られるようになった。
(非改行)国内外を問わず大学や研究所のネットワークに侵入、様々な分野の研究資料や論文草稿等を読み漁り、研究についてのコメント・侵入手段・対処法を残していくが、dsから他に情報が流れることは無いという。
 一月前祐子はdsが残していった問題のファイルを入った先で見た。つまり祐子もハックしていたわけだが、苦労して入った先で「セキュリティーに問題があり過ぎます」といった英文を目にしてちょっとヘコんだ。
(非改行)それ以来気になってdsのことを調べたり、立ち回りそうなところをうろついたりしてみたが、4月になって「居場所」と思しきアドレスが分かった。今夜はそこに入ってみるつもりでいる。

  みゃ〜
 アラートが鳴った。一月ほど前からあちこち嗅ぎ回っているのがいるので、無断でいくつかハニーポットを置いたのだが、そのうちの一つにアクセスがあった。
 『来た。』思いはしたが、慌てて机に戻るようなことはしない。ポットの温め中だ。
 『適温。』一旦お湯を捨て、ティーバッグを放り込み、改めてお湯を入れる。アクセスよりお茶の方が大事だ。
  ・・・
 トレイをサイドテーブルに置いて、PCに向かったと思いきや、タイマーをセットしただけで、見てどうもならないのに、ポットを見ている。
  みゃ〜ん
 ティーバッグを小皿にどけて、AAねこ柄湯呑にお茶を入れる。
 『いまいち。』お茶だけは妹にかなわない。タイマーなどに頼っているのがダメなのかもしれない。そうはいっても、ねこには変えられんだろう、ねこには。
 それでやっとポットの管理画面に目を向ける。『いい線行ってるけど、ちょっと遅いかなぁ、でもこんなもんかなぁ。』いつまでも構ってられないから仕事をする。入社2年目だが結構忙しいのだ。
  み〜
 『おわたー。』と思ったら鳴きやがる。入ってきたのだ。いい加減眠いのだが、これは見ないわけにはいかない。
  exit
 『はいぃ〜。』何がなんだか分からない。片手間にアクセス元は掴んであるから叩いてみる。
 『落ちてる・・・。』どういうつもりなのだろうか。何にせよ寝かせてもらえるのはありがたいから、すべてのポットで今回使われた隙をすべて塞いで寝た。他にも隙はあるからまだ入れるはずだ。

  はあ はあ はあ
 『入れた・・・。』入っただけで感極まって、何もできない。出てすぐhaltした。机を離れてベットに倒れこむ。
 『寝れんのかよ?』とはいえ、何もできないなら寝るしかない。

  はあ はあ はあ
 『何処に消えた?』一度は捕捉したのに、結局逃げられてしまった。探し回って、こんなとこで息を上げてしまっている。
 『こんなんじゃダメだ。』姉さんならどうしただろう。心を落ち着けて探知し、見つけ次第何処だろうと構わず踏み込んで斬るに違いない。そもそも一度補足した鬼を逃したりはしない。
 『私はダメだ。』振り上げた薙刀を叩きつけようとして思いとどまる。非生物の修復は、不可能ではないが、今の鬼子には時間がかかる。日が登ってしまうだろう。諦めるしかなかった。

comming later

行が長すぎるといわれたので、「(非改行)」のところは元々改行のなかったところです。
155ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 19:42:15.77 ID:gc5GXfVl0
project light way:2年4月:I-ii(翌未明ー)
 黒い体、赤い瞳、大きく開いた口に、2本の角。
 『本成!!』
 
  はあ はあ はあ
 目を覚まして息を吐き出す。「本成の鬼と対峙した」というだけの夢だが、過去の記憶と胸の圧迫感がひどく印象の悪いものにしている。胸の圧迫感?

 「乳の話をしようじゃないか。」
 鶏的な居候が胸の上から話しかけてきた。種の名前としてはヒワイドリになるが、うちの個体は「鳥嶋」だ。下の名前は、あるのかどうかも知らない。左手でのど輪を決めて起き上がる。

 「く、首が、抜ける。」
 辛うじて出る声で訴えるが、知ったことではない。部屋を出て曲がり縁の戸を開ける。まだ暗い。つっかけを履いて、校庭のようにだだっ広いだけの庭に出る。
 武芸に苦手は無く、投擲も得意だ。膂力を抑える呪符を仕込んだ左のアームバンドを緩めて手首まで落とすと、右手に持ち替えて全力でぶん投げる。

 「にゅ〜〜。」
 悲鳴を上げながら虚空に消えていった。星になったかどうかは分からない。
 部屋に戻って携帯を見ると4時だ。予定の起床時間に1時間早い。
 『どうしたものだろ。』
 昨夜の失態が心に引っかかってひどく億劫だったが、同じ理由で寝付けそうにもない。どうせ朝一はいつも稽古だから、妹が起き出してくるまで一人で稽古に励むことにした。

 トレーナーを寝間着にしているので、着替えずに運動靴で玄関から庭に出る。ちょっと寒いが、どうせ動けば暖まる。髪を結わえて、まず柔軟体操だ。体はひどく柔らかい。終えると少し右手を開いて呼ぶ。

 「鬼斬」

 右手の中に現れた薙刀は楕円の鉄柄に楓紋の金象嵌があしらってある。生成してなくても鬼には違いないから、これを片手でぶん回せる。
 しかし、まずは中段に構えて、切先を左に回す。相手の武器を外へ払う動作だ。続いて右に回して、内に払う。前に踏み込んで突く。家芸で最初に教わる動作だ。何かあったらここに戻れと強く言い聞かされている。
 3度繰り返し4度目で突く手を速めた。二段突き。以前から突けてたが、今のは感触が軽い。

 『いける。』

  外、内、本鬼。
 三段突き切った。会心の笑みを浮かべる。楓紋初代は撃払突を一息で放ったというから、自分などまだまだだが、それでも嬉しい。妹が起きてきたら弓射の稽古を見てやらなければならないが、それまでずっと突いてよう。


今回はここまで。文章がこの調子なので、なかなか先に進まない。


156ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 19:46:42.80 ID:gc5GXfVl0
鬼子「地震、凄かったですねぇ。」
テト「こっちは片付いたし、他に異常は見当たらないし。それと他の面子の動揺も何とか収まった。」
鬼子「一時パニック状態でしたね」
テト「仕方がない。子供が多いから。あちこちで所在確認をしなきゃならんかったのが大変だったわ。」
鬼子「でも、このヘッドホーン、凄いですね。あちこちと連絡がつくなんて。」
テト「Vocaloidと同じものから、廉価版まであるから、性能はまちまちなんだけど。」
鬼子「同じじゃないんですか。」
テト「微妙に異なるらしい。それに通信機能は常時使う訳にはいかないし、電話代わりにされても困る。」
鬼子は転がる箸を見たかのように笑った。

テト「そのVocaloidも全員所在確認が出来たし、後はアイマスか。」
鬼子「でも、知り合いの方がやってるんでしょ。」
テト「律子さんと小鳥さんね。さっき小鳥さんから連絡があって全員の無事が確認された。」
勿論UTAUもVocaloidもアイマスに協力していた。動揺するメンバーがいれば年長者が落ち着かせ、
行方不明者は誰であろうと探すようにもしていた。数百名いるUTAUの所在確認はコトダマの協力まで借りて行われた。
残念だったのは、765プロの社長が病院に入ったことだった。

鬼子「あそこの社長さん、愉快なお方だったんですねぇ。」
テト「ああ、あれか。あたしが"デビュー"した時もヨドバシ辺りまで走り込みをしたらしいからな。」
テトの表情は悪戯っ子のそれだった。あの"デビュー"の時、高木社長は店まで「重音テト」を入手するべく激走したのだった。
鬼子はますます笑みを大きくした。
テト「で、今度はジャンプの練習、っと。」
地震に慌てた社長はそのままビルの窓から飛び降りたらしい。

鬼子はますます笑みを大きくした。

テト「不謹慎だぞ」
鬼子「だって…、だってだって、こ、これが、笑わずに…」

鬼子は笑いだした。流石に耐えられなかったらしい。

鬼子が笑いだしたのを聞きつけてか後輩二人がリビングに来た。
ルコ「鬼子さん、何があったんすか。」
テト「高木社長の件だ」
リツ「ああ、あの慌てふためいてビルから落ちったて言う間抜けな人のことですか。」
テト「それは言い過ぎというものだ。」
リツ「じゃあ、どう言えばいいのよ。」
テト「迂闊で残念。」
ルコ「それ、もっと酷い気が…」
テト「テイは大丈夫か。」
ルコ「問題ありません。縛に囚われています。」
ルコの言うとおりだった。健音テイは自室で信号機に囲まれていた。
テト「しゃーない。放っといたらレンの所に吶喊しかねんからな。」
これも事実だった。地震直後からテイはレンキュんが、レンキュンがーを連発していた。
いい加減止めるのも面倒くさくなったので、信号機で取り囲んでテイの動きを封じたのだった。

157ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 19:48:24.69 ID:gc5GXfVl0
テトはお茶を入れた。全員に配る。

ルコ「でも、物が不足してるってのは痛いですよね。」
テト「仕方がない。物流が正常になればモノ不足は解消する筈だ。」
ルコ「でも先輩、フランスパンが無くって気落ちしてたじゃないですか。」
テト「あ?ああ、あれか。誰ぞじゃあるまいし、騒ぎ立ててどうするよ。」
リツ「でも、先輩、凄ーく落ち込んでた。」
テト「まぁ、確かにな。しかし、あたしから率先してフランスパンガーとは言えんだろうが。」
ルコ・リツ「ですよねー」

テトは鬼子を見た。
テト「鬼子、どうした。」
鬼子「お蕎麦がぁ〜」
どうやら蕎麦が不足しているのを思い出したらしい。
テト「品不足ならそのうち解消するだろ。」
鬼子「でもいつまで続くんですかぁ〜」
テト「バグハウスにも物が届いてるんだから、そのうち届くだろうが。」

ちなみにバグハウスと言うのは無音ゼロが社長をしているスーパーのことである。
店員は皆真っ黒でウザいことに定評があった。看板というか、会社のマークにもこの店員が使われている。
ちなみに秘書はアリスと言い、初音ミクに似ているが、同一人物でないのはツインテールの長さとか体形を見ればわかる。

鬼子「でもぉ〜お蕎麦がないなんて〜」
テト「蕎麦屋があるじゃないか。」
鬼子「あそこ雰囲気嫌いなんです。」
テト「そうか?普通に蕎麦を頼んで、頼んだモノを食って代金を払うだけだろ。」
鬼子「だからぁ〜雰囲気がぁ〜」
テト「あそこはあれがウリだからな。」
ルコ「あれがウリだったんですか。」
テト「うん。」

三人は肩を落とした。

この町にある、そば処「のろいね」は呪音キクが主をしている蕎麦屋のことだった。
蕎麦は旨いのだが、店が辛気臭かった。主が主だから仕方がないが、
人によっては絶対来たくない店の一つに数えられる。

テト「ああ、そういえば最近新しい店員を雇ったんだっけ」
ルコ「なんか嫌な予感しかしない。」
鬼子「まさか」
テト「なんか、皆に相手にしてほしいって言うんであそこを紹介したら、キクと意気投合したらしいぞ。」
三人「絶対行きたくない」

そば処「のろいね」には殺音ワラと病音ヤミという店員がいた。ワラは接客と調理兼任。ヤミは接客専門だった。
しかし、病音ヤミは病人だったため、他の二人の負担が増えることとなった。
ワラとキクは他の店員を探したが、店が店なので誰も近寄らない。
そんなとき、この店に相応しい少女が来た。名前を綿抜鬼という。

158ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 19:52:08.52 ID:gc5GXfVl0
ルコはテレビをつけた。流石にあの店の話題は続けたくなかった。ヤンデレなら既にこの家にも住んでいる。
実に面倒、それがルコの感想だった。それなのに態々、そんなのばかりが揃っている店のことなど考えたくなかった。
だがテレビもルコの望むようなものを映し出していなかった。先輩が見ないほうがいいといった理由が分かる。

ルコ「あの、先輩」
テト「何だ。」
ルコ「テレビでメルトダウンとか言っちゃってますけど。」
テト「起きっこない。心配するな。」
ルコ「でもこんだけ言われると、そうなるのかなって気が」
テト「だからTVは見るなといったんだが、この間も説明したろ?起きない理由。」
ルコ「ええ、まぁ」

鬼子はチャンネルを変えていた。どこも同じようなものだった。結局国営放送にチャンネルを合わせる。

鬼子「ここが一番いいみたいですね。」
テト「人様から金をふんだくってんだ。これ位してくれなきゃ困る。」
鬼子「厳しいですねぇ。」
テト「気にすんな。どうせ何時も人のことを非難しまくってばかりいるんだから。」
鬼子は気が抜けたように笑った。さっきの蕎麦屋の話は気が滅入るし、テレビも気の滅入ることしか言わない。

鬼子「テトさん。いいことがあるんでしょうか。」
テト「ん?そうだねぇ。これからの心掛け次第じゃない?」
鬼子「心がけ、ですか。」
テト「悲観は気分。楽観は意志、そういうじゃない。」
鬼子「そういうものですか」
テト「そういうものよ。」
鬼子「でも何かどうしょうもないような。」
テト「それでも人は生きていかなければならない。喩え、その先碌でもない未来が待ち受けていたとしてもね。」
鬼子「避けられるんでしょうか。」
テト「正直言ってあたしにも分からん。でも、絶望するより、楽観的に見たほうがいいんじゃないかと思っている。
   それに、被災地にいる人たちはもっと大変なのだ。それに比べたらどうということはないでしょう。」
鬼子「ああ、まぁ、確かにそうですね。」
テト「まぁ、そういうこと。んじゃ、世の中を明るくするためにあたしたちに出来ることをしようか。」
鬼子「私達に出来ることって、一体…」
テト「歌うことだ。」
鬼子はきょとんとした。この人、何言ってんのかしら。

テト「あたしたちは何者だ?」
鬼子「えーと、何でしたっけ。」
テトは脱力した。ルコは苦笑いをし、ルコはあっけにとられていた。テイは二階で硬直したままだった。
テト「UTAU、だ。こういう時に辛気臭い顔してどうするよ。」
鬼子「そう言えばそうでしたね。」
テトは再び脱力した。
テト「まぁ、何だ。そういうこと。歌の力で皆を明るく出来たらいいんじゃないの。」
鬼子「そういうことなんでしょうか。」
テト「うん。そう。この状態で、どれだけのプロデューサーがやる気になるか分らないけど、
   それでも人々のために歌を歌うのが仕事でしょう。
   そういう立場にあるあたしたちが暗い顔してたら、皆余計気落ちするわ。」
鬼子「そういうものでしょうか。」
テト「そういうもんだ。」
鬼子は分からない、という表情をしている。テトは、仕方ないか、と思っていた。
この子はまだUTAUに加わってから日が浅い。そういうところが本当の所で理解できなくとも仕方がなくもある。

テト「じゃあ、スタジオに行こうか。」


159ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 20:05:06.32 ID:gc5GXfVl0
1話〜12話までのキャラ紹介です。こんなんでいいのかな?

キャラ紹介一覧(2011 3/26現在)変更の可能性有り

・日本鬼子(ひのもとおにこ)16〜18歳。鬼の民(女)。主人公。「わたし」
 ┃
 ┗━・般若面 年齢不詳。鬼子の守護者。過去の多い男。「ワシ」

・小日本(こにぽん、こひのもと) 6〜8歳(女)。○の民。
 ┃
 ┣━・般ニャー  年齢不詳。元猫の民(女)。こにぽんの守護者「あたし、あたい」
 ┗━・ハチ太郎  年齢不詳。12歳〜14歳?犬の民。男。こにぽんの守護者(見習い)「俺」

<鬼狐神社のメンバー>
・きび爺(狐火の爺) 年齢不詳(男)。闇世出身。狐の民の狐火一族。
 ┃
 ┣━・きび婆(狐火の婆) 年齢不詳(女)。闇世出身。狐の民の狐火一族。きび爺の妻
 ┣━・織田(おだ)   大柄体格50歳くらい。男。光の世の人間の民。古武道
 ┣━・秀吉(ひでよし) モヤシ体格30歳くらい。男。光の世の人間の民。古武道
 ┣━・弥次さん(やじ) 70歳くらい。男。光の世の人間の民。忍者
 ┣━・喜多さん(きた) 70歳くらい。男。光の世の人間の民。忍者
 ┗━・舞子(まいこ)  20歳くらい。女。光の世の人間の民。巫女みこさん(古武道見習い)

・ヒワイドリ    鶏の民?種類は解らない。男。年齢不詳。「おいら」
・ヤイカガシ    魚の民?鰯?種類は解らない。男。年齢不詳。「俺」
・モモサワガエル  蛙の民の一種?種類は解らない。男。年齢不詳。「おいら」
・チチメンチョウ  鳥の民?種類は解らない。男。年齢不詳。「私」
・チチドリ     小鳥(○の民?)種類は解らない。 男。年齢不詳。「ボク」

・田中さん  16〜18歳。女。光の世の人間の民。高校生。控えめな性格。物知り。人見知り

<別天津神(ことあまつがみ)>メンバー。ほとんどの神職経験者(山伏+陰陽師+神主などなど)
 ┃
 ┣━・音麻呂おとまろ (18歳〜20歳)男。光の世の人間の民。ミュージシャン
 ┃  ┃       
 ┣━・歌麻呂うたまろ (17歳〜19歳)男。光の世の人間の民。ミュージシャン
 ┃  ┃        
 ┃  ┗━(音麻呂、歌麻呂で一つのユニットを作り音楽活動している)
 ┃
 ┣━・詠麻呂よみまろ (17歳〜19歳)女。光の世の人間の民。ミュージシャン
 ┃  ┃        
 ┣━・奏麻呂かなまろ (16歳〜18歳)女。光の世の人間の民。ミュージシャン
 ┃  ┃        
 ┃  ┗━(詠麻呂、奏麻呂で一つのユニットを作り音楽活動している)
 ┃
 ┃
 ┗━・○麻呂

・鈴木ちゃん  年齢不詳。男。元鷲の民の長老(鷲長)。闇世の鷲の民
        現在は、光の世で小さなお寺の住職(守り役)をしている

・刑事さん   35歳くらい(男)光の世の人間の民。

〜もう少し詳しいキャラ紹介はこちら〜
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=228527


160ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 20:05:55.87 ID:gc5GXfVl0
ーー前スレ103の、アニメ風投下中における設定ーー
時代設定:昭和〜平成辺り。
・日本鬼子・
日本家分家における一人娘。母とは死別、現在日本家を狙う鬼の一人に憑かれている?
若般さんに対心の鬼の戦闘技術を叩き込まれるも、小日本とともに家出を図る。
心の鬼退治で人々に笑顔が戻る事が嬉しい。だがそこまで明るい性格ではない状態。

・小日本・
霊刀、御結(緒結)に集まり神と成った小さい子供の思念。精神年齢もほぼ同程度。
父母と長く暮らしたかった思いから、縁を結ぶ力を持ち、未練を断ち切る刀から、縁を切る力も持つ。
鬼子とは先代(?正確に先代か不明。日本家では時折角のある『鬼子』が産まれる)の頃には出会っていた。

・柚子さん・
冬至温泉の女将さん。行くあての無くなっていた鬼子を、居候兼仲居さんとして迎え入れる。
いわゆる読者役キャラで、お母さんポジション。物語が進むにつれて影の薄くなる、そういう立ち位置。
既婚・未婚不明だが、チチメンチョウも満足のサイズではあるらしい、性格天然。

・若般又苗(ハンニャー)・
日本家に仕える猫又で、読書が仕事でもあり趣味でもある。図書館別室に在住。
性格キツメで長期の経験から戦闘技術はそこそこあるが、『鬼斬』を扱う鬼子の方が本来は上。
心の鬼を祓う術を常に探求しており、古書をよく読み呪符・霊具で戦う(未だ本編中の描写なし)。

・田中匠・
近隣に住む高校生。同人誌の作成や絵を描くのが好きで、邪魔されたくないという理由にて
一人で暮らしている(家族を考えるのが面倒だったのだろう…などと勘ぐってはいけない)。
本気で描いた絵は、見た者の心を揺さぶり心の鬼を生み出してしまうほど。

・ヒワイドリ、チチメンチョウ、チチドリ、ヤイカガシ・
一応は人の信仰もあったため、他の心の鬼とは違い『神』の眷属となったもの。
基本迷惑ばかりかけるが、時には格好良く活躍したりも…?人のエロ心などに反応して、
勝手に活動を繰り返す。何故か他の心の鬼と違い、一般人にも見えたり触れたりの反則系?


161ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 20:06:28.40 ID:gc5GXfVl0
設定の続き〜作中内での心の鬼関連の設定。

・心の鬼・
強い感情が固定化・他人格と化して人から飛び出したもの。それ固有においても意識を持つ。
その捕らわれた感情・欲望等に合わせた身体や能力を持ち、霊力を持つ人へは直接接触も出来る。
本体が寝ていたり、他の感情が弱まっている時や、誕生してすぐには操られてしまうことも。

・骸付き(作中登場未定)・
心の鬼を抱えたまま亡くなり、人としての意識は消え完全に鬼と化した状態。
本体の腐敗まで動き回るが、その修復や土に帰った後も怨霊として残る者もいる。
肉体を支配しているので本体があり、一般人に直接危害を加えてくる事も多い。

・悪鬼と鬼成・
宿主が鬼の存在を理解し心の鬼へ肉体を貸したり、宿主が霊力持ちだと一般人にも直接危害を加える悪鬼へ。
鬼の存在を知る能力者が儀式によって心の鬼を取り込み、鬼へ堕ちるのが鬼成である。

・神成・
骸付きや怨霊のうち、その行動動機・感情が人々の助けとなるものを神聖な器へ移して祀ること。
これにより器ごと破壊されなければ消えない強力な存在となり、信仰を受けて人々を守る力を持つ。
基本器を離れても動き回れるが、小日本の様にそれを持ち歩く者もいる。触れる者も多い。
強力な怨霊の怒りを静めて、神成の儀式を行う場合も多々ある。畏怖もある種の信仰であるからだ。
ただし、わざと怒りを残し矛先を変える事で呪詛に使われる可能性に注意が必要である。

・手招鬼、道引鬼、囁鬼・
鬼子を主の下へと誘おうとする悪鬼(鬼成?)の三人衆。手招鬼は鬼子の興味を引いて呼ぼうとし、
道引鬼は無理やり鬼子へ取り憑き、強引に鬼界へ連れ込もうとする。囁鬼は人に憑き気配を消し、
鬼子を詐欺師の如く騙して、一緒に鬼界へ連れ込もうとする。今までで一番危険だったのは、
囁鬼が憑いた男と先々代が夫婦となろうとし、日本家へ共に反抗しだした時(その後当代鬼子は入水)。
以降日本家ではますます『鬼子』への風当たり・監禁を強くし、方針の違いで分家を出すまでに至る。

・手招鬼達の親玉(ラスト以外出すか未定)・
一応蟲武者達の組織でイメージ。自分達を襲った鬼の軍勢と戦うために、
津軽十腰のうち鬼を祓う力を持つ『鬼斬』、それを扱える鬼子を欲している。
十腰の内残り九腰は、黒砂刀を蟲武者が持っているが他は未だ判明していない。


162ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 20:11:04.57 ID:gc5GXfVl0
鳴木 陽介(なるき ようすけ)
男。24歳。相談所の経営者。相談所は17歳の時から経営。高校中退での起業には理由があるらしい。
魑魅魍魎の類が見える、触れれる事以外は普通の男性。相談所の中で唯一の人間。
ビルを丸ごと借りているので一階は寝床、二階は事務所、3階は資料室となっている。4階と5階は空室。
家賃は大家さんが知り合いということもあり20万程度で住んでいるが依頼が来ないことのほうが多く
バイトや支払いを見送ってもらったりしてなんとか首をつないで来た。現在の滞納額は50万円。

日輪 氷取(ひわ いどり)
女性?。不明。相談所の一員。心鬼。 見た目は20代後半
陽介のお情けで人間の世界で働くことが出来た心鬼。元ストーカー。
相談所の一員として働いてはいるが、給料や通帳のお金をキャバクラやその類の店に使うので
その度にお叱りを受けている。が、あくまで触るのが好きなのではなく語るのや見るのが好き。触るのは限界が来た時だけ。
元は鶏の様な姿なので、仕事にならない為に長期の人化を可能にする薬を飲んでいる。

夜烏賊 樫(やいか がし)
男性?。不明。相談所の一員。守神。元下着ドロ。 見た目は20代後半
捨てられた柊鰯がそのまま腐るのは嫌だと願ったら何か動けるようになった。何故かくさや好き。
本人曰く、旧家の魔除けとして正月に使われたらしいが陽介が思うに「猫に食べられた残骸」らしい。
動けるようになった代償なのか元からなのか、女性物のパンツに対する愛情は人一倍で自分で買いに出かけたり、
思わず盗んでしまったりと色々と困る奴というか危ない奴。逃げ足は早い。
日輪と同じく、長期の人化を可能にする薬を服用中。

日本 鬼子(ひのもと おにこ)
女性。不明。記憶喪失。鬼 ?見た目は10代後半
記憶喪失の為、山の中で農作物を荒らしていたりしていた所を陽介達に保護される。
薙刀と着物、頭上の角が特徴的な少女。記憶喰に奪われたと見られる記憶の欠片を回収するために相談所の一員として居候。
現在は6つに分かれたと見られる記憶の欠片の内、1つを回収しており薙刀の使い方と鬼に関する過去の記憶が蘇っている。
小日本やヒワイドリ達が合流してからは逆時鬼のせいで小日本との年齢が逆転。子供の姿になってしまった。
この時にヒワイドリから、山の中で落としたと見られる般若面を受け取っており頭に付けている。
記憶を失う原因には過去の出来事が関係しているようだが?

小日本(こにぽん)
女性。不明。自称鬼子の妹。鬼? 見た目は10歳前後。
元気な女の子。元気すぎて鬼子を探しに出たが、迷子になって家に帰れなくなった。
日本刀を背中に携えてはいるが使用したところは見たことがない。というか抜けないらしい。
逆時鬼により鬼子との年齢が逆転した小日本は頻繁に日本刀を抜く動作をするが抜いたところは見たことがない。


163ほのぼのえっちさん:2011/05/19(木) 20:11:25.28 ID:gc5GXfVl0
ヒワイドリ
男性?不明。鬼子のストーカー1。心鬼。20代前後。
鬼子が大好きな変態その1。種族や分類的には日輪と同じで、同様に乳も好き。
ただ、こちらは品が良い乳と書いて品乳が好き。鬼子の乳はキング・オブ・ゴットらしい。意味が分からない。
鬼子の失踪当日から探していたが、ついつい好みの女性を見つけ『乳の話をしないか?』と話しかけまくっていた為
捜索が疎かになっていた。駅前にはヒワイドリを不審者として注意を呼びかけるポスターが張ってある。
日輪、夜烏賊とは違い人化の時間は2時間程度。

ヤイカガシ
女性?不明。鬼子のストーカー2。守神。20代前後。
鬼子が大好きな変態その2。種族や分類的には夜烏賊と同じで、同様にパンツがすき。くさやは特に好きじゃない。
鬼子の失踪当日からヒワイドリと共に捜索していたが、ナイスなパンツを履いていると確信した女性をストーカーしていた為
捜索がおろそかになっていた。女性に発見され『今履いてるパンツをくれ』等の発言をしたらぶん殴られ気絶。
現在、女性宅周辺では不審な女性が女性に対し『パンツをくれ』と言う事案で捜査が進んでいる。
ヒワイドリと同じく人化の時間は2時間程度。

秋田
男性。不明。過去の依頼者。狛犬。20代後半。
どこかの山奥にあった神社の狛犬。土地開発により移転も無しに守るものを失ったが、鳴木の噂を聞き相談した。
現在は電気街でメイド喫茶をしながら生活している。
こちらも日輪、夜烏賊と同様に長期に渡る人化を可能にする薬を飲んでいる。服用前は4時間程度が限度。


男性。不明。鬼子の守り。犬神。10歳前後。
普段は柴犬の姿をしている男の娘。理由は明らかではないが、犬神となり狛と一緒に鬼子を影から支えている。
小日本と鬼子に対しては優しく接するが他は別である。小日本の事が好きらしいのだがイマイチ実感が湧いていない。
大人状態の小日本は苦手。大人になるとアレになるのかと思うとちょっとショックらしい。人化は3日程度なら可能。
犬神になった理由は……割愛。


男性。不明。鬼子の守り。犬神。20代前後。
普段は白い毛並みの狗の姿をしている。柴のお兄さんのような存在。昔から二人で鬼子を影から守ってきた。
鬼子の事は妹の様に可愛がっており、ちょっと過去にイザコザも……
基本的に誰とでも直ぐに打ち解けられるので買い物等を担当していた。
犬神としての年数は柴より100年以上ある。

過去話どうしようか悩み所(´・ω・`)
誤字脱字、設定の謎はどうか許して……ください……


164ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 21:58:24.76 ID:gM/kUqyi0
鬼子『あの…本当にこんな服を着て行くんですか?』
田中『そうよ?今回の私の本のテーマなんだから…申し訳ないけど、一日それでね』
小日本『ねねさま、とっても色っぽいよ〜』
フリフリとしたミニスカート状態の着物を着せられて、どこかそわそわとする鬼子。
途中の電車は、以前見た街の様に同じ様な格好の人達で溢れてきていた。

第十六話:大発生、モモサワガエル

小日本『暑い〜!人多い〜!…気持ち悪い〜!』
会場に着くなり小日本が心底嫌そうに叫ぶ。真夏の同人誌即売会場は、
大勢の人で溢れており、その入り口に向かってギュウギュウと並んでいた。
鬼子『こ…この列に並ぶんですか?相当時間かかりそうですけど?』
田中『大丈夫よ。今日は買う側じゃなくて売る側だから。ただちょっと遅刻気味かな〜』
荷物を引き摺りながら、出品者向けの入り口に向かう田中さんに遅れまいとついて行く。
人ごみや荷物を掻き分けて、自分のスペースに辿り着くと、そこには既に見慣れた猫が…。
田中『げ…若般さん、何でこんな所に居るの?ていうかそれ反則じゃない?』
ハンニャー『…誤魔化さないでね。あなたが描いた絵で何か起きないか心配で来ただけよ』
田中『だ、大丈夫よ。今日は友達に頼まれた奴を変わりに売るだけだから…』
ハンニャー『それなら良いんだけど…古本のコーナー辺りにいるから何かあったら言うのよ?』
手を振って苦笑いしながら見送ると、大きくため息をついてようやく荷物を開けた。
田中『…やっぱり反則よね。列にも並ばず平気で入ってるし。それにしても勘が鋭いなぁ』
鬼子『え?本当は田中さんの作品を売るんですか?』
田中『そうよ、今回は「太股」にこだわって描いたの!誰にも邪魔はさせないわ…フフフ』
小日本『こらぁ!嘘つきはいけないんだぞ〜!閻魔さまにメッってされるぞ〜!』

165ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 21:59:39.32 ID:gM/kUqyi0
小日本が膨れる中、準備が整った辺りで開場の合図があり、人が流れてきた。
目的の場所へ早足の人に押され、ゆっくり見て回る人がギュウギュウと窮屈そうだ。
何人かの人が目を留めてくれているが、あまり手には取ってくれていない。
田中『鬼子ちゃん…出番よ!その魅惑の脚線美でお客さんを呼んで、お願い!』
鬼子『え〜とこうですか?いらっしゃいませ〜。ようこそおいで下さいました〜!』
田中『…その声がけじゃあ、旅館と同じじゃない?』
じゃあどうするのかと問う鬼子へ、色々ポーズをとらせてみる田中さん、
それを真似して隣で体を捻ってみる小日本。次第に本も売れ始め、数をへらしていく。
しかしほぼ売り切れた頃、購入した何人かが店へと戻り突然鬼子の足を撫で回した!

鬼子『きゃあ!!何をするんですか!…ってコレは心の鬼?!』
モモサワガエル『あっしはモモサワガエルと申します。本日はこちらの殿方の…ゲコ?』
自己紹介を終えるより先に、薙刀で萌え散らす鬼子。しかし後から後から湧いてくる。
鬼子『…え〜と、本当に田中さんの本の影響で?今日何冊売りましたっけ?』
田中『そうね…百冊はあったと思うけど、まさか全部こんな状態に?』
あちこちで太股を触られた女性達の悲鳴と、殴られた男の呻き声が聞こえ始めている。
見つけた側から切り祓うが、生み出す元も多いためなかなか数が減ってくれない。
田中『これ…若般さんにもばれるかなぁ。ともかく買ったお客さんを探すしか…』
三人が記憶を頼りに祓っては回収している中、不意に鬼子が振り向いた。
田中『??どうしたの、鬼子ちゃん?』
鬼子『強い…心の鬼の気配がします。こんな生まれたての奴の気配じゃないのが』
その方向で一瞬生まれでたモモサワガエルが、大きな口に飲まれて消える様子が見えた。

十六話完
(この時回収し損ねた本から何度でもモモサワが産まれてくる…って他と差が大きいか)


166ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:03:03.23 ID:gM/kUqyi0
モモサワガエルが大口に飲まれた時、周りの人々の感情すら一気に飲まれる。
不意に物忘れをしたかのように見回す人々の中で、一人だけ腹を抱えて笑っている者がいた。
鬼子『あなた…一体何者なの?まさかその鬼をわざわざ隠そうってつもり?』
食い終ってすぐに消えた鬼の気配に、安堵よりも警戒を強めて構える鬼子。
男『あぁ?n笑っちゃいけないのかいそれとも…こいつが見えてるのかな?』

第十七話:鬼喰らう鬼、悪食鬼 http://loda.jp/hinomotooniko_kokoronooni/?id=51

男の背後に醜い贓物を思わせる心の鬼が浮かびあがった。その口からは酸が滴っている。
悪食鬼『気をつけろ…こやつは私を浄化する力を持っているようじゃ』
鬼子『あのカエルを散らすのも見てたの…?これ以上人の心を惑わす前に…萌え散れ!!』
鋭く突きを出すが、その時既に鬼は男の体内に隠れてしまっていた。
男『おっと、会場は危険物持ち込み禁止だって言われてなかったかな?』
薙刀の柄を掴んだ男は、その太った容姿から想像できない速さで鬼子に膝蹴りを入れた。
鬼子『ゲホッ…なぜその鬼を庇う?そやつは人心を惑わす禍々しきものなるぞ!』
男『へぇ…こいつがねぇ?俺にとってはただの理解者だぜ。何食っても馬鹿にしない、友人だよ』
悪食鬼は姿を現すと、酸を鬼子に吐きかけた。服に穴が開き、更に肌が露出する。
田中『鬼子ちゃん…。!そうだ、私若般さん呼んでくる!ちょっと待ってて!すぐ連れて来るから!』
苦戦する鬼子をみかねて、自分では戦う力にかける田中さんは救援を求めに走る。
男『へぇ…仲間までいるのかい?そいつは厄介だねぇ。来られる前にかたをつけるか』
懐からカッターナイフを取り出すと、ただの演技と思っていた周辺の人も、悲鳴をあげて逃げ出す。
悪食鬼『待てよ…相棒。厄介だが旨そうだぜ…特にそこに隠れているやつなんてな』
視線の先は、鬼子の後ろで多少震えていた小日本だった。
鬼子『何をする気なの?この子には指一本触れさせやしな…』
話している間に、悪食鬼の口からカエルのような長い舌が伸び、叫ぶ小日本を飲み込む。



167ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:04:05.85 ID:gM/kUqyi0
男『武器を抑えられて、何が出来るって言うんだよ?舌なら触れても良いってか?』
ヘラヘラと笑う男に対し、悪食鬼満足そうに膨れた腹をさする。
悪食鬼『ゲヘゲヘゲへ…こいつは上玉だぜ。こいつの持ってた力を使えば…』
体からどす黒く変色した赤い糸を放出すると、その先へ囚われた心を引き寄せてどんどん食べる。
鬼子は先ほどから放心して、うわ言の様にブツブツと呟いている。
その呟きに合わせて、般若の面が徐々に鱗で覆われていく…。
鬼子『…く…小……を!よくも小日…を!よくも小日本を!』
怒りで完全に我を忘れた鬼子の般若面は、鱗にまみれた怒りに震える蛇の面となり、
鬼子は角だけでなく牙まで大きく伸びた姿と相成った。誰しも恐れる鬼の形相が如く…。

男『そんななりして、俺をどうしようってんだ?殺しでもしたらお前も刑務所行きだ』
鬼子が意識を飛ばしてしまった後では、中に潜んでいた鬼が姿を現してしまっていた。
???『あぁ、そんな事しねぇさ、むしろ感謝している位だぜ…これでこいつを連れて行ける』
悪食鬼『まさかお前も「鬼界」に住む鬼か?なら俺も連れて行ってくれよ?』
???『そうしたい所だが、お前みたいに仲間でも喰らう鬼は連れてけないなぁ!』
仲間が出てきたと思った所へ、薙刀を力任せに無理やり振り下ろされる。
咄嗟に男の体へ引っ込もうとするが、その体ごと肩まで刃は届き、散らされていく。
その散っていく体内からはまだ消化されきっていなかった小日本が、気を失いながらも出てきた。
ハンニャー『そこまでよ、道引鬼。この子に人殺しなんてさせやしない!』
男の肩のところで薙刀を抑えていたのは若般だった。怒りに満ちた眼で鬼子を見据える。
道引鬼『これはこれは、日本家のメス猫さん。また邪魔する気ですか?』
ハンニャー『今は封印くらいしか出来なくとも、いつかあんたを鬼子から追い出してやる!』
手にした札を祝詞を唱えながら面へ貼ると、札が焦げながらも面は般若の表情へ戻っていく。
道引鬼『チッ…まぁいい。いくらでもチャンスはある。どうせ人としての心はその内死ぬさ』
気を失った鬼子と小日本を残し道引鬼は姿を消し、若般と田中さんは二人を抱えて
逃げる様にその場を立ち去った。後に残された男はどうにか病院まで自力で帰ったという。


168ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:10:54.86 ID:gM/kUqyi0
???『怖い人…鬼子、一体誰が来ようとしているって?』
そこへ、不意に猫が現れた。その猫を見つけ睨みつける父。
ハンニャー『お久しぶりね…。角のある子供がいるって噂、どうやら予想通りの様ね』
父親『…鬼子はあんな所に閉じ込めさせない。この子のやりたい様にさせてやりたいんだ!』
鬼子『あぁ〜!猫ちゃんが喋ってる!ねぇねえ!触っていい?』
ハンニャー『ごめんね、鬼子。お父さんと話があるの。少し他へ行ってくれるかしら?』

第十八話:鬼子に潜む鬼

母親『それではこちらに本日のご相談診察内容をお書き頂けますか?』
男性『はい。…そういえば、こちらのお嬢様に道を教えて貰ったんですが…』
鬼子『あぁ〜!道で会ったおじちゃん。本当に来てくれたんだ。お体は大丈夫?』
母親『これ!鬼子。あんまり待合室で暴れるんじゃあありません!』
男性『ククク…大丈夫ですよ。しかし天真爛漫過ぎますね。どうしたものか…』
母親『どうなさったんですか?』
鬼子『…おじちゃん、怖いよ。何でそんな顔をしているの?』
男性『大丈夫だよ?…手っ取り早く心を空っぽにするにするには、最愛の者の死か』
言うなり男性の体は腕が膨れ上がり、角が生えてきた。そして一瞬で母親の首を掴む。
母親『いや…やめなさい!…は…なしなさ…』
鬼子『やめてよ…やめてよ…やめろおぉ!』
母親が息絶えるとほぼ同時に、鬼子の体から光のように霊気が溢れて来た。
道引鬼『くく…大した力だ。だが怒りに囚われてはとり憑く隙だらけだ』
男の体から抜け出すと、道引鬼は角も伸び殴りかかる鬼子の体へ、無理やり侵入した。


169ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:12:02.81 ID:gM/kUqyi0
ハンニャー『もし、このまま人里で何の守りも知らず育てば、いつか鬼に襲われるわ』
父親『だから鬼子には座敷牢ですごせと?鬼を祓う術のみ知る事が一人の女の子の生き方として正しいと?』
ハンニャー『…あの子のためでもあるわ。彼女を奪おうと狙う鬼は何度も現れている、それはお知りでしょう?』
父親『そう、その鬼へ襲われた時のために日本家は鬼子を道具の様に扱おうとしてきた!
   鬼の血を薄めるため?そのためには子を持つ幸せも、人を愛する幸せも奪うのが正しいと言うのか!』
ハンニャー『…鬼の血を断つ事は新たな「鬼子」を…不幸になりかねぬ子が産まれないためにも必要な事です』
父親『違うだろう?鬼斬を扱える鬼子を日本家が囲い込むためだけに「鬼子」は不幸になっているのだ。
   もし鬼であろうと誰もに受け入れられれば、鬼子として産まれる事は不幸の原因ではない!』
鬼子を本家へ連れ帰ろうとするハンニャーに、子を離すまいとする父…そこへ悲鳴が聞こえてきた。
父親『鬼子!どうした………お前、どうしてこんな事に…』
道引鬼『あぁ遅かったなぁ。もうお前の妻も子供も居ない。後は鬼子の手でお前も殺せば…』
ハンニャー『させるかぁ!!喰らえ!!』
若般は人型に化けると懐の札を投げつける。鬼子の体に貼りつき、動きが鈍る。
ハンニャー『あの面は、鬼封じの面…なのよね?…呆けていないで答えなさい!』
父親『あぁ…そうだ。家を出る時にもしものためと渡されていた…どうしてどうしてこんな…』
呻き声をあげる道引鬼は鬼子の体から札を毟り取り始めている。
道引鬼『本家のメス猫か!くそ…あと一歩まで来たというのに…』
ハンニャー『黙りなさい!人を脅かす悪鬼め!静まれ!』
鬼子が角隠しに付けていた面…今はお多福から般若の様相になった面に呪符を貼り祝詞をあげる。
次第に鬼引鬼の力で膨れ上がっていた腕も、大きく伸びた角も収まっていく。

…鬼子ちゃん、鬼子ちゃん!ねねさま…ねねさまぁ…起きてよう。
ゆっくりと鬼子が目を覚ますと、二人が顔を覗き込んでいた。
古い夢を見て、眼には涙が溜まっている。また鬼に心を囚われた悔しさと悲しみ…。
母を亡くした日の想いが、このままでは駄目だと鬼子へ勇気を与える。
鬼子『若般さん、私…あいつを追い出したい。祓いたい。どうすれば良いの?』


170ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:13:03.50 ID:gM/kUqyi0
  事務所を出て、車で小一時間。千鬼山という山の麓に目的の店がある。
  千鬼山とは文字通り、千匹の鬼が支配していたと古書に記されていることから名が付いた。
  どうやら、色々と厄介な鬼が多種多様に渡って暮らしていて戦争も耐えなかったとか。
  それを見かねた坊さんが山自体を自らを引き替えに封印したとかどうとか。
  だけど、それから300年近く経った今、山では行方不明者が多数出ていることから立ち入り禁止になっている。
  俺も一度だけ調査という面目で入ったことがあるんだが……どうも気分が悪い場所だった。
  恐らくだが……千鬼山の広さから考えて、千匹の鬼が頭首になっているなど不可能だ。
  坊さんが封印したのは山ではなく、何処かから山に通じる通路なんではないかと……そしてその封印が解け始めた。
  まぁ、そんな事は今の俺には関係がないんだけどな。調査も依頼者が神隠しに遭ったから破棄したし……
  解決はしなければならないんだろうが……下手な干渉の仕方をすればアチラ側の住人を怒らせるからな。
  今はとりあえず”調査中”として、日輪に関連書物を探してもらっている最中だ。
  おっと、どうやら店の前に着いたらしい。
夜「着いたっス。合言葉覚えてるっスか?」
鳴「覚えてる覚えてる」
狛「え?なに?この店ってそんなにヤバい店なの?」
  狛が店の方を指差す。指の先には、今にも潰れそうな荒屋が立っていた。
  そして屋根の上には看板らしきものが乗っており、赤い文字で『秩天堂』と書かれている。
  ……名前的には某ゲーム会社に似てて危ないが、この店は世界的には活躍してないので気にしないでくれ。
鳴「いやいや、やばくないやばくない。普通の薬屋だよ」
狛「どんな?」
鳴「いやぁ……表では口に出して買えない薬も扱ってる」
狛「ヤバそうじゃねぇか!」
鳴「冗談。ただの薬屋だよ。近くの村の人も此処に来るんだから。俺達が買うのは裏物の薬。だから合言葉がある」
狛「そういう事か。素直に言っておいてくれよ。鬼子に変な薬を飲ませ……ってやっぱり裏物じゃないか!」
夜「心配しないで大丈夫っス。裏物は裏物でも、妖怪や神向けの薬って意味ッスから」
狛「なんだ……それなら良かった」
鳴「心配しすぎ。俺がそんなヤバい薬に手を出す奴には見えないだろ?」
狛「いや、お金に困ってとか。家賃払ってないらしいし」
鳴「失礼な。そこまで堕落してない。というかなんでその事を知ってるんだ?」
狛「ごめん」
  車を停めて店の中に入る。玄関の扉は建てつけが悪いのかホラー映画でよくある軋む音がする。
  それがまた怪しさ倍増の要因になっているらしく、狛が隠していた犬耳が頭に生えるほどだ。
  やべぇ……モッフモフしたい。凄い触りたい……っていけねぇいけねぇ。目的は促進剤なんだからな。狛の耳を触るんじゃない俺!

171ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:14:03.03 ID:gM/kUqyi0
狛「すごい、怪しい臭いがする」
  店に入った途端に、狛がなにやら言い出す。
鳴「それはカビの臭いだな」
狛「それに……甘い匂いも……」
鳴「それはプリンの匂いだな。ほら、アイツが特大のオッパイプリンを食べてるだろ?」
?「だれがあいつだ。師匠に向かってそれはないんじゃないか?」
鳴「だれが師匠か!?」
狛「あっれぇ?可笑しいな。目が可笑しくなったのかな?鬼子にちょっかいを出してた奴がここに居る気がするんだが」
チ「久しぶりだなぁ狛。チチメンだ。覚えてるか?」
鳴「え?何?知り合い?」
狛「えっ?まぁ、知り合いというか腐れ縁というか」
チ「つめたいねぇ。死にかけている所を助けてやったってのに」
狛「うるさい。アレは婆さんが助けろって言ったんだろ。婆さんが言わなきゃ何もしなかったくせに」
チ「おまっ……婆さんって、あいつはそんなに年取ってないぞ?40過ぎぐらいで世間知らずだがな」
鳴「また、婆さんとか言う話になるんですね」
夜「そしてオイラ達は存在を忘れられてるというね」
  二人が口論している間、俺達かやの外グループは店の隅に置いてあるパイプ椅子に座って収まるのを待っていた。
  そして数時間後――
チ「こぉんのクソ狗がぁあああ!」
狛「うるせー乳魔人!」
  何時の間にかチチメンはカウンターを飛び出し、狭い店の中で口論の試合が始まっていた。
夜「まだやってるっスよ。もう、飽きたっす。夜明けまでそんなに時間ないっスよ」
鳴「やべぇ……意識飛んでた。あとどれくらい?」
夜「4時間ぐらいっス」
鳴「はぁ……ちょっと面倒だけど、止めてくる」
夜「よろしくっス。オイラはこのカウンターの後ろにいるッスから」
  夜烏賊、お前はまた逃げるのな。
  ちょっと顔が良いからって良い気になってるんじゃねぇぞコノヤロウ!
  とか口に出していってみたいのだが、今はコッチを止めるのが先か。
鳴「なぁ……狛、チチメン」
狛「大体、お前は昔っから鬼子のその……気にしていることをからかったりだな」
チ「はいー、今恥ずかしがった!その時点で負けだ狛!乳っていうのはな形も大事だが大きさが一番に決まってるだ!
それを口に出せない時点でお前の負けぇ!」
鳴「ちょっと……聞いてくださいよ、お二人方」
狛「はぁ!?ふざけんなよ!鬼子のはあれで良いんだよ!」
チ「あっれ?守ってるって風呂場も守ってるんですか!?もしかして覗きですかこの変態が!」
狛「ばっ!覗いてねぇよ!というかお前みたいな変態の塊みたいな奴にい――」
鳴「だぁっらしゃああああ!!少しはコッチの話も聞かねぇか!」
  店内が静まり返る。あれ?何この空気?


172ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:15:04.95 ID:gM/kUqyi0
狛「……ごめん」
チ「いや、マジでごめん」
鳴「まぁ……いいんだけどさ。って今日は買い物に来たんだよチチメン!」
チ「あぁ、買い物な買い物。ほれ、合言葉」
鳴「えっ……やっぱいるの?」
チ「当たり前だ阿呆。なりすましだったらどうすんだ。姿写なんて奴も出回ってるんだぞ」
鳴「しゃあねぇな……ち、乳は大きくてフッカフカが一番!乳があれば愛もある!乳があれば品もある!
  多ければ多いほど特をするそれが巨乳だあああああ!!」
狛「うわぁ……」
鳴「うわぁってなんだよ!コッチだって恥ずかしいんだぞ!?」
チ「はい、本人。まぁ、分かってたけどね。で、何をお求めで?」
鳴「わかっ……はぁ、促進剤の在庫が切れたので6ケースほどを頼む」
チ「あぁ、はいはい促進剤ね促進剤。おい、夜烏賊と狛。地下にあるから取ってこい」
夜「えー、まじッスか?ジメジメしててあそこ嫌いなんスよ」
チ「世界のパンツ特集完全版(未発売)」
夜「さーて、行くっスよ狛さん」
狛「えっ?アレで釣られんの?」
鳴「じゃ、俺も付いて」
チ「まぁ、待てよ。お前には用事がある」
鳴「ですよねぇ……」
――その頃の事務所
ヤ「イエス!ナイスパンチラ!ナイスパンチラ!」
ヒ「カモーン!チチチラカモーン!」
  事務所に置いてあったデジカメで鬼子の寝姿を撮りまくっていた。
小「カモーン……ヘルタイム」
ヤ「Woo...ノーヘルタイム……」
ヒ「ソーリー」
小「ノー」
ヤ・ヒ「ノオォオオオオオ」
――戻りまして秩天堂内部
鳴「で、呼び止めた理由って?」
チ「分かってんだろ阿呆が。検査だよ」
鳴「検査ねぇ……いらないと思うけど」
チ「いるに決まってるだろ馬鹿。ズレを確かめるんだよ。ほら、顎乗せろ」
鳴「……めんどくさいな」
  目の前には眼科で視力などを図るときに使う器具が置いてある。
  顎を乗せて、使うタイプだ。といっても、本当に顎を乗せて頭を固定するだけの物だが。
  ついでに言うとこれは、現代医学で使うものではなく個人的に作ったカラクリらしい……
  カラクリって何時の時代から生きてんだよチチメン。


173ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:16:18.34 ID:gM/kUqyi0
チ「では、検査を始めようか」
鳴「手短に……」
  チチメンがメガネをかける。これは特殊なメガネで、レンズの前に置いてある4枚のフィルターを
  レンズの前に倒して使用する。これも自作らしい。というか何が見えるんだよそれで。
チ「ふむ……いいぞ、退いても」
  しばらくするとチチメンがメガネをカウンターに置き、モノクルをかける。
  ちょっと顔が怖い(´・ω・`)
チ「大分ズレが出来てる。薬はまだ飲んでるのか?」
鳴「もちろんさ!」
チ「何錠だ?」
鳴「えーと、8錠ぐらい?」
チ「飲み過ぎだ阿呆!一日2錠までだぞ見鬼薬は!」
鳴「え、いやー。そうでもしないと見えにくいから……」
  説明しよう!見鬼薬とは、20歳を過ぎても魑魅魍魎が見えるようにと開発された薬である。
  薬を飲むことによって普段、見えないものが見えるようになる便利なお薬である!
チ「見えなくなったらそれで終わりだ。そうも長引かせるものじゃない」
鳴「いやいや、目的すら達成してないのに飲むのを辞めるとか無理だ」
チ「変わりに達成しといてやるから気にするな」
鳴「嫌だ。俺が達成しなきゃ意味が無い」
チ「あのな……副作用分かってんのか?」
鳴「忘れた。というかどうでもいいだろ」
チ「あのな、飲み続ければ必ず副作用はでる」
鳴「そうかい。じゃ、そこまで行けば俺は引退かな」
チ「そういう問題じゃないんだよ……いいのか?目が無くなり、記憶もなくなるんだぞ?それに、この薬の
  使用年齢の限度は22歳だ。お前はもう二年も限度を超えてる。ここらが潮時だろ?」
鳴「潮時じゃねぇよ。まだ、何にもしてないんだ。何もな……」
チ「7年も前の話じゃないか……そろそろ忘れろ」
鳴「っ……まだ、諦められない」
チ「もう充分だ。後は俺が受け継ぐ。必ず報告もする。だから、あまり自分を追い詰めるな」
鳴「あいつは……」
夜「見つけたっすよー!ってなんスか?この空気……重いっす」
  夜烏賊達が地下室から戻ってきたみたいだ。
  なんてタイミングの悪い……
チ「いやぁー久しぶりに会ったら、趣味が変わってたらしく巨乳から品乳好きになっててさ。喧嘩になっちまった」
鳴「え?」
チ(バレたら不味いんだろ?)
鳴「い、いやぁ!そうなんだよな!やっぱり乳は形が大事だって喧嘩になっちまって。心配させて悪い」
夜「怪しいっス。ま、余計な詮索はしないッスけど」
狛「……」
鳴「さ、帰ろう。鬼子達が待ってる」
チ「よし、じゃあ俺も行こう」
夜「えっ!?来るんスか?」
チ「もちろんだとも!久しぶりに鬼子に会わないとな!体の成長を確かめるために!!」
狛「あんまり余計な事するなよ」
チ「大丈夫大丈夫。小さい胸には興味がない」
鳴「どうでもいいけど、早く帰ろう。時間がねぇ」
チ「っと、そうだ。促進剤ってなんでいるんだ?」


174ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:18:22.34 ID:gM/kUqyi0
鳴「狛と喧嘩してる時に言ってただろ?鬼子が逆時鬼のせいで小日本との時間が逆になったんだ。それを元に戻    
  す為にだな」
チ「言ってたか?まぁ、その手の薬ならあるぞ。ほら、コイツだ」
  トンッとカウンターの上に小瓶を置く。中には灰色のドロドロした液体が入ってる……
  コレはどう見てもヤバい薬だろ……
チ「これが、逆時期の効果を僅か一時間で元に戻せる薬だ。すんげぇ不味いけどな」
鳴「それは知ってる。まぁ、薬があるなら役立つ。さっさと帰って元に戻そう」
夜「イエッサーッス」
  そう言って店主のチチメンを含む4人で帰路についた。
  4人乗りの乗用車なんだが……促進剤のせいで4人も乗れないのでチチメンには人化は止めてもらった。
  狛の方に止めてもらおうかと思ったが、結構な歳の犬神なので体がデカイとのことで止めた。
  レンタカーなのに潰されたら割に合わない。
――事務所!
鳴「たっだいまー!ってなんだ!?部屋が羽だらけに!?」
小「あ、どうでした?」
鳴「いやぁ、薬は手に入ったから直ぐに戻すよ」
小「ッチ……」
鳴「あれ?今舌打ちしたよね?」
小「してませんよー」
鳴「イイけどさ……日輪達は?」
小「日輪さんならあそこで柴に洗脳を……あ、今日は鶏鍋と魚焼きがいいですか?」
  ふと、日輪が居る部屋の隅を見てみると柴にずっと乳の話をしているようだ。
  可哀想に……動けないせいか、涙を流してる……眼の焦点もやべぇ……
鳴「え?いや、食事は要らないけどってヒワイドリ、ヤイカガシ!?」
ヒ「た、助けて……」
ヤ「ワリとまじでぇん!?」
小「あー、駄目じゃないですか。食品は喋らないのが普通なんですよ?」
  足で押さえつけられる二匹。人化も解けている状態で羽が無くなった鶏と塩漬けにされてる魚をみると
  可哀想とも思えてきた。泣いてるし……まぁ、それ相応のことはしたんだろうけどな。
夜「陽介ぇ……手伝ってっスよ。ってなんスか?この部屋の散らかりようは」
鳴「アレ」
夜「だいたい分かるので詳細は聞かないっス」
狛「こに!鬼子は大丈夫か!?」
小「大丈夫ですよ。私がしっかり守りましたから」
  何時のまにか紐で二匹の足を括って、釣り上げて狛に見せる。
  あの笑顔がもっと違う方向に向けば良かったのだけれど……
ヤ「なんだろうか……」
ヒ「なんか……快感になってきた」
  どうやら二匹は特殊な方向へ目覚め始めたようで……
狛「お、おぉう……それは良かった……」
柴「んんー!んぅんー!」
狛「あっ、忘れてた……待ってろ、今解いてやるからな」
日「えっー、もう解くの?あと7時間は話したい気分」
狛「止めてやってくれ、コイツはもう限界だから」パキンッ
柴「うわぁあああああ!お前らなんか大嫌いだ――――!!」


175ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 22:20:25.95 ID:gM/kUqyi0
鳴「狛と喧嘩してる時に言ってただろ?鬼子が逆時鬼のせいで小日本との時間が逆になったんだ。それを元に戻    
  す為にだな」
チ「言ってたか?まぁ、その手の薬ならあるぞ。ほら、コイツだ」
  トンッとカウンターの上に小瓶を置く。中には灰色のドロドロした液体が入ってる……
  コレはどう見てもヤバい薬だろ……
チ「これが、逆時期の効果を僅か一時間で元に戻せる薬だ。すんげぇ不味いけどな」
鳴「それは知ってる。まぁ、薬があるなら役立つ。さっさと帰って元に戻そう」
夜「イエッサーッス」
  そう言って店主のチチメンを含む4人で帰路についた。
  4人乗りの乗用車なんだが……促進剤のせいで4人も乗れないのでチチメンには人化は止めてもらった。
  狛の方に止めてもらおうかと思ったが、結構な歳の犬神なので体がデカイとのことで止めた。
  レンタカーなのに潰されたら割に合わない。
――事務所!
鳴「たっだいまー!ってなんだ!?部屋が羽だらけに!?」
小「あ、どうでした?」
鳴「いやぁ、薬は手に入ったから直ぐに戻すよ」
小「ッチ……」
鳴「あれ?今舌打ちしたよね?」
小「してませんよー」
鳴「イイけどさ……日輪達は?」
小「日輪さんならあそこで柴に洗脳を……あ、今日は鶏鍋と魚焼きがいいですか?」
  ふと、日輪が居る部屋の隅を見てみると柴にずっと乳の話をしているようだ。
  可哀想に……動けないせいか、涙を流してる……眼の焦点もやべぇ……
鳴「え?いや、食事は要らないけどってヒワイドリ、ヤイカガシ!?」
ヒ「た、助けて……」
ヤ「ワリとまじでぇん!?」
小「あー、駄目じゃないですか。食品は喋らないのが普通なんですよ?」
  足で押さえつけられる二匹。人化も解けている状態で羽が無くなった鶏と塩漬けにされてる魚をみると
  可哀想とも思えてきた。泣いてるし……まぁ、それ相応のことはしたんだろうけどな。
夜「陽介ぇ……手伝ってっスよ。ってなんスか?この部屋の散らかりようは」
鳴「アレ」
夜「だいたい分かるので詳細は聞かないっス」
狛「こに!鬼子は大丈夫か!?」
小「大丈夫ですよ。私がしっかり守りましたから」
  何時のまにか紐で二匹の足を括って、釣り上げて狛に見せる。
  あの笑顔がもっと違う方向に向けば良かったのだけれど……
ヤ「なんだろうか……」
ヒ「なんか……快感になってきた」
  どうやら二匹は特殊な方向へ目覚め始めたようで……
狛「お、おぉう……それは良かった……」
柴「んんー!んぅんー!」
狛「あっ、忘れてた……待ってろ、今解いてやるからな」
日「えっー、もう解くの?あと7時間は話したい気分」
狛「止めてやってくれ、コイツはもう限界だから」パキンッ
柴「うわぁあああああ!お前らなんか大嫌いだ――――!!」


176ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 23:01:04.92 ID:gM/kUqyi0
  術を解かれた途端、泣きながら柴が外へ飛び出ていく。
  一体何を聞かされたんだろうか……まぁ、乳の話だろうが。
  乳の話でここまでトラウマを植え付けれるなんて日輪……恐ろしい子!!
チ「おっー、ここがお前の事務所……って誰だ!あの巨乳ちゃんは!?」
鳴「カクカクシカジカ」
チ「ほー、小日本か」
小「ご無沙汰してますチチメン」
チ「どれ」ボインッ
鳴「なっ」
小「ひっ」
  なんてことを……これはヤバイ……
  あの可愛らしい小日本ではなく恐ろしい子!だってのに……
小「チチメン」
チ「ん?」
小「ゴートゥーヘルです」
チ「oh...」
  目を閉じてても簡単に想像できる惨劇の風景。
  どうしたらこの惨劇を回避できたでしょうか……いえ、回避は出来なかったでしょう。
  だから、この話を聞いた皆さんは真似しないでね!!
日「そうだ、ようすけぇー」
鳴「なに?」
日「薬。買ってきたんでしょ?飲まさなきゃ」
鳴「あぁ、そうだそうだ。えーと、たしかこの袋に……あったあった。ほれ。」
  ポンッと投げて、日輪に薬の入った瓶を投げ渡す。
日「うわっ!なにこれ?気持ちわるい色してんなー」
鳴「仕方が無いだろう。不味いらしいから何とかして鬼子に飲ませてやってくれ」
日「りょうかーい」
  さて……次は小日本に飲まさなければならない訳だが。
  チチメン……なんと哀れな姿に。地肌が寒そうだぜ。
鳴「小日本。薬の時間ですよ」
小「うっ……そ、それは遠慮しようかなぁ……」
鳴「駄目です。飲みなさい」
小「えっー、いいじゃないですか。私が大人でも問題はないでしょ?」
鳴「いや、あるっちゃある」
小「どんな?」
鳴「怖い。この一言に尽きる。だから飲むんだ」
小「どうしても?」
鳴「いや、大人しくしてくれるなら別に良いんだけどね」
小「じゃ、大人しくする!私の時間軸じゃ鳴木さん居ないし!」
鳴「なんだ、俺は死んでるのかよ」
小「えへへー」
鳴「誤魔化したな。というか死んでないほうが可笑しいから別にいいか」
小「ま、未来なんて変わりますからどうとでもなりますよ」
鳴「歳には勝てないだろ」
小「そうですねー。で、飲まなきゃ駄目なんですか?」
鳴「くっ……別に構わん。ただ、後で絶対飲めよ。怖いから」
小「分かってますよ。飲みますって……後で」


177ほのぼのえっちさん:2011/05/20(金) 23:04:53.56 ID:gM/kUqyi0
  なんと甘い。甘すぎるぜ俺。
  別に影響はないから良いんだけどさ。
鬼「苦いのいーーやーーーー!!」
日「ぐぇええ!」
鳴「えっ!?何よ?」
  日輪と鬼子が居るところを見る。壁に頭を打ったのだろうか?日輪の頭の上にはヒヨコが飛んでいる……ように    
見える。
  一方の鬼子はというと、なんだか角が伸びている。というか目の周りには歌舞伎でよく見る隈取の化粧が。
  目も赤くなってるし……ナニコレェ、なにこれぇ!!
小「ネネさまの中成きたぁあああ!」
鳴「うわぁ!急に大きな声をって中成ってなに!」
小「中成とはネネさまの――」
  部屋を走りながら破壊していく鬼子を尻目に説明が始まる。
  それから十分……
小「で、あるからして――」
鳴「なげぇ!すっごい長い!簡単にしてくれ」
小「ここからが重要なんですよ!?」
鳴「いや、今度聞くから。説明を簡単にしてくれ。でないと部屋が無くなっちゃう」
小「仕方が無いですね。中成というのはネネさまが怒ったときになる形態の事です。強いのでお気をつけて」
鳴「えっ!?それだけ?怒っただけ?」
小「そうですよー」
鳴「なんだ、それは良かった。変な病気にでもかかったのかと思ったよ」
小「そうですねー。で、止めないんですか?」
鳴「そうだった!鬼子!やめてくれぇええ」
  
  それから鬼子の暴走が収まるまでに1時間の時間を使い、薬を飲ませるのに30分もかかった。
  最終的に薬を飲ませるのに、あとで特上の蕎麦を食べさせてあげるということで成功したんだが……
  薬を飲み終わった後に柴が帰ってきて、手には記憶の欠片を持っていた。
  どうやら、神様らしく記憶の欠片の中身を覗いて鬼子の記憶と判断したらしいのだが、さぁ大変だ。
  また不味い薬を飲ませなくてはならなくなり小一時間。
  今度は鬼子をこの町で一番の大イベントである夏祭りに連れて行くということでなんとか薬を飲ませた。
  その後のことは言うまい。前例がある。
  はぁ……これ、今日のこと覚えてるのかな?覚えてたら……すごい金が飛ぶ。諭吉が鳥になって飛んでいく。
  考えたくもねぇ。
  さて、鬼子の家に行く準備をするかな。

どうやら、次回はついに鬼子の家に行けそうです。やべぇ……鬼子全然出てきてねぇ……
これは駄目なパターンだ。鬼子出てきてねぇ……


178ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 00:56:36.23 ID:YAPtudyd0
ハンニャー『…鬼子、もし本当に覚悟が出来ているなら、一つ方法があるわ』
鬼子『本当ですか!…でも、どうして今までその方法をやらなかったんですか?』
ハンニャー『もし…もし失敗したらあなたは死ぬ。それでも挑戦する覚悟はある?』

第十九話:魔祓いの秘術

鬼子『覚悟は、出来ています。これ以上誰かを傷付けない様に出来る限り早く…』
ため息を吐くと、ハンニャーは一つの古書を懐から取り出した。
ハンニャー『わかったわ。人に鬼が潜り込んでいる状態を「魔」と呼ぶの。
    これを人が故意に行っていれば悪鬼や鬼成となるのは教えたわよね?』
古書の一つ一つの絵を指差し、確認をしていく。どうやら鬼退治の指南書の様なものらしい。
ハンニャー『これを祓う方法は大きくは三つ。一つは先日の様に体ごと鬼祓いの武器で貫く事。
     でも鬼子が自身の力を自身に向けた所で効果は無いから、この方法は無理なの。
     もう一つは呪符で体に止まれなくして剥がす方法。けれどもこれも霊力などを持った人には、
     例えば鬼成となった人や、鬼子のように霊力を持った人が取り付かれた時は効かない。
     本人の霊力を利用して、鬼が自分を体へ縛り付けているから、出てこないわ』
鬼子『じゃあ…私が頼れるのは残り一つの方法だけ、って事ですか?』
ハンニャー『そうよ、その方法はより強力な霊具・神器とさえ呼ばれる物を使って、
     儀式により鬼を本人の別の体へと写し、その体ごと退治する方法』
小日本『ねねさまもあたしも、体は二つも無いよ〜?』
ハンニャー『体といっても、実際はへその緒等のその人であってその人でない物でいいわ』
鬼子『それで…どうして死ぬ可能性まであるんですか?』
ハンニャー『この方法の場合、完全に支配できる…それも霊力さえ秘めた体を得た鬼が、
     元の宿主である鬼子を襲う事になるわ。もしその時奴の方が力が上だったら…』
田中『だ、大丈夫よね?鬼子ちゃん強いし、この「鬼斬」もあるんだし…ね?』
      


179ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 00:58:27.92 ID:YAPtudyd0
長い沈黙が訪れるのは、先日見た道引鬼の強さをある程度体感しているからだった。
ほぼ効力が薄れていたとはいえ、鬼封じの面を付けたままであの強さなら…。
ハンニャー『もう一つ問題があってね、その儀式に必要な鏡はわかってるけどまだ持ってないの』
鬼子『まだ、という事はどこにあるかも解っているんですか?
???『話は聞かせてもらったぜ。そいつなら俺たちが取りに行ってやるよ!』
振り向くと、四つの影がそこには立っていた。…頼りになるか解らない奴らの影が。

ハンニャー『あんた達は…この変態ども!』
ヤイカ『その言い方は酷いでゲス。せっかくいつもお世話になっている御礼をと…』
チチメン『まったくじゃな。お前は良い乳を持っておるのに性格が勿体無い』
チチドリ『鬼子さん達には恩があるチチ!ここで返さないならロリコンが廃るチチ!』
ヒワイ『まぁ、そういう事だ。場所を教えて貰おうか?』
一人一人ポーズを決める変体供。しかしあまり決まらない姿なのは変わらない。
鬼子『みんな…ありがとう』
ヒワイ『なぁに。ここいらで活躍しておかねば何も返せないのでな…気にするな』

まだ信用しきっていない若般であったが、小日本の『ヤイカちゃんなら大丈夫』の声を聞き、
不安ながらもヒワイドリ達へと地図を差し出す。古書の付録の様な物らしい。
ハンニャー『じゃあ、ここへ向かって貰えるかしら?奥に鏡が祀られているはずだから』
チチメン『「桃の風洞」か…なかなかに遠いな』
ハンニャー『儀式を出来る場所はその近くだから、そこへ届けてもらえば大丈夫よ』
地図に描かれた一つの島へ、赤ペンで印を付ける。だが名前を見たヤイカガシが驚く。
ヤイカ『!!鬼ヶ島でゲスか!何故そんな物騒な島に…』
ハンニャー『その場所が儀式に適しているのよ。…もしもの場合もあるしね』
ヒワイ『もしもの場合?それで、いつまでに持っていけば良いんだ?』
ハンニャー『次の満月の時よ』
チチドリ『あと一週間ってところチチね。解ったチチ』
田中『じゃあ私たちはその間に鬼子ちゃんのへその緒を取りに…って一緒に行っても大丈夫?』
鬼子『大丈夫です。私なんかのために…皆さん、本当に有難うございます』
半泣きになっている鬼子の頭を、若般と田中さんが優しく撫でる。
ハンニャー『では、急ぎましょう』


180ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:16:59.03 ID:YAPtudyd0
<>のところは元々非改行のところです。

project light way
2年4月:I-iii(朝ー)
  ふぁ〜
 案の定興奮してろくに眠れなかったので、バス停でついあくびをしてしまった。少し恥ずかしかったが、他のバス待ちの人々は気にも留めない。当然だが、それはそれで釈然としない。
 バスが来た。例によって、車窓を通して大和勇子が立っている姿が見える。バスの始点にある寺の娘だと噂に聞いている。

 「おはようございます。」
 「おはようございます。」

 学校・学年・クラスが一緒、祐子の苗字は山野だから席は廊下側端列で前後。それでも、割とやかましい学校なので挨拶こそするが、まともに話したことはない。
<>二人とも弁当持ちだが、学校のPCではどうしようもないから、祐子は無線が使えるところで食べるし、勇子も教室で食べてはいないようだ。他の休憩も勇子の方が教室にいない。
<>大体二人とも「話しかけるなオーラ」を出している。そんなだから、挨拶を済ますと祐子は離れた前の席に座った。終点の駅までだから眠りたい。寝る気まんまんでメガネを外して制服の胸ポケットにさした。

 大和家が始点付近で、山野家は下ってきて住宅地の真ん中少し上。バスはさらに坂を降りて通勤・通学客を拾っていく。宅地が終わり新市街に間もなくという辺りまで来るともうバスはずいぶん混み合っている。
<>自転車で駅方向へ向かう姿は増えてきたが、駅まではまだちょっとあるからまだ幾人かバスに乗ってくる。
 『!』
 乗り込んできた客達からかすかだが鬼気が感じられる。集中して探ってみる。
 『昨日のオニ!!』
 血が逆流した。思わず右手が動き口が少し開く。昨夜のことを思えばこの場で切り伏せたかったが、それではタダの人殺しだ。
 初めは入口付近に立っていたが、今は押されて、眠っている祐子の隣にまで来ている。入り口の方を向いても混んでいるから見えるとは限らないし、気づかれるのは避けたい。激情と視認を諦め、落ち着いて鬼の気を調べる。
 じっくり調べて気がついたが妙だ。確かに鬼だが、今まで祓ってきた鬼とは随分違う。
 『新種?』
 今まで存在しなかったものに対する考えとして自然だが、納得はいかない。
 『不自然』
 いい感じだ。ではどういう不自然さか。こういう思案は苦手だが、今は他にするべきことがない。
 『特徴が無い!?』
 浮かんだ言葉は普通だが、それが表す考えは異常だった。具体性や個別性を欠いた一般的・抽象的な鬼、鬼の概念みたいなのが憑いている。どんな鬼でも個別の具体的な怨念・怨恨に憑くはずだから異常だ。とはいえ受けた印象にはその考えが最もしっくりくる。
 『捕えよう。』
 感じたことの説明はうまくいっても、結局それが何を意味しているのかは分からない。手に負えぬ問題だから年長者に相談したいが、引き連れて行った方が話は早い。
<>面に出さないが、父がこうした話を避けたいのは知っている。相談するなら姉だが、家を出て他所に住んでいる。あまり使わない捕縛術を姉のところまで保たせられるだろうか。
 ここまで考えたところでバスは駅に着いた。乗り替えだ。


181ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:18:07.78 ID:YAPtudyd0
(つづき)

 「山野さん、着きましたよ。」
 山野祐子が随分深く眠っているのには気づいていた。素性が素性だからなるべく人と接触しないようにはしているが、さすがに見過ごせない。着いたら起こそうと思っていたが、話しかけたくらいでは起きない。
<>好都合だ。悪いが利用させてもらおう。既に「特徴が無い」という特徴を十分に把握していて、もはや誤認する恐れは無かったが、念のために視認しておく。
 「山野さん、起きてください。」
 言いながらミラーを八方眼で捉える。20台後半くらいで、中肉中背。いい男でもなければ特に不細工ということもなく、髪も中途半端な長さで、どこにでもいそうな男だ。「特徴が無い」と言えるかもしれない。
<>しかしどんな平凡な男にも、「右頬、鼻孔の横に黒子」とか「左のこめかみ辺りに吹き出物」とかいった些細な特徴はある。スーツ姿でないから店員・工員などの制服仕事、多分工場勤めだろうか。
 「山野さん。」
 用は済んだから、肩を軽く揺すった。乗りかかった船だから、これで起きないようなら次は点穴突いてでも起きてもらう。


182ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:19:13.95 ID:YAPtudyd0
ごめん、まちがった。つわけで、更に続き。

 「んぁ。」
 左肩を誰かが揺すっている。香か何か微かに香っていて、バスは止まっている。見覚えのあるぼやけた色の配置がぼやけた形にまではなるが、メガネを外しているから鮮明にはならない。多分大和勇子がこっちを見ている。

 「なに?」
 「着きましたよ。」
 「ん?ああぁ。・・・ありがとう。」

 意外さもあって、事態の把握にちょっと時間がかかった。大丈夫と見た勇子は先に出て行った。男が別のバスの待ち行列に並んでいるのを確認して改札口へ向かう。
<>起き抜けですぐに力が入らなかった祐子は結局最後にバスを降りた。結構離れてしまった勇子の後ろ姿を見ながら思う。
 『案外優しい子なのかなぁ?』
 自分なら放っておいたかもしれない。他にも心当たりはある。祐子は自称150だが、勇子の方は170ほどあって、比率では少し細身な方だが、やはりそれなりの幅はある。
<>板書や資料映画像などは机のモニターに出るとはいえ、それでも何かとジャマになるはずだ。しかし今年はむしろその手の不自由は減っている。
<>古典の台詞を真似ると「見、見える。見えるぞー」となるが、それはともかく不思議に思って観察したら勇子は少し廊下に寄って席に座っている。癖か配慮か分からなかったが、今日の様子だと配慮なのかもしれない。


183ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:21:35.84 ID:YAPtudyd0
ヒワイ『ここか…随分と山奥まできてしまったな』
崖にぽっかりと開いた洞窟の前に並ぶ四匹。
ヤイカ『立ち止まってても仕様が無いでゲス。早く入るゲス』
チチドリ『かび臭そうな場所でチチね…』
チチメン『明かりも持ってきておるし、まぁ大丈夫だろう』

第二十話:桃の洞穴

中に入ると、広い部屋に沢山の横穴。道がいくつもに分かれている。
ヒワイ『な、なんじゃこりゃあ!』
ヤイカ『広そうでゲス…とりあえず一つ一つ調べていくしかないでゲス』
チチメン『まぁ待て。ここに何か書いておるわい』
入り口から正面の位置にあった石碑へ、提灯の明かりをかざすチチメンチョウ。
しかし二匹は忠告を待たずに真っ直ぐの道へと入っていってしまった。
『サルハケンデツラヌカレシヒノモトナリ。ヒノデノケンノガワノモノヨ、
アラソイヲヤメテケンヲオキシミチヘススメ。サルトナスアヤマチハバツヘノミチナリ」
碑文を読み上げると、その声を掻き消すかのように二匹の悲鳴が上がった。
戻ってくる二匹は足をさすり、お尻をさすりながらピョンピョンと跳ねている。
ヒワイ『し、下に尖った岩が沢山…』
ヤイカ『あ、危うく串刺しになる所でげしたよ!』
チチメン『正面が危険ということは…。!入り口から左へ直角の道じゃ。行くぞ』
未だに痛みで悶える二匹を引きずって、四匹はその先へと進んで行く。

しばらく歩くと錆付いた扉のある開けた部屋へと出た。扉以外に道は無さそうだ。
チチメン『今度は…トリハサカツボノカタチ。ニゲトブトリハソノフチニカギヲオトス』
ヒワイ『酒壷の形?壷なんて何処にも見当たらないが…?』
ぐるりと部屋を見渡すが、扉以外にこれといった怪しいものも無い。
扉には確かに鍵がかかっており、押しても引いても動く気配さえしない。


184ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:23:04.79 ID:YAPtudyd0
チチドリ『壷のフチって上の部分チチよね?…提灯をもっと上に持ち上げて欲しいチチ!』
チチドリが天井限界まで飛ぶと、天井と壁との間にまた別の隙間があった。
その隙間をヤイカガシに肩車されたチチメンチョウの提灯が照らす。
チチドリ『あったチチ!今落とすチチ!』
見つけた鍵を蹴り落とすと、ヒワイドリがキャッチし、扉を開ける。
だが、鍵を開けたヒワイドリが一瞬で黒い影に突き飛ばされる。
戌『タトエアルジガクルエドモ、アダナスヲホロボスガチュウギノイヌナリ。
  ホウモツヲヌスマントスルモノハ、イキテハトオサン!』
チチメン『こやつは…骸付きか!厄介なのが残っておったもんじゃわい』
ヒワイ『チチドリ!そこから降りてくるなよ…こいつは危険そうだ』
戌から距離をとって応戦の体勢へ入るヒワイドリ。だが体格差もあり苦戦は免れそうに無い。
皆が緊張する中、一匹ヤイカガシのみがニヤリと笑う。
ヤイカ『戌、でゲスか。クックック…これほど好都合な相手もいないでゲス!そりゃあ!!』
気合を入れると、ヤイカガシの体から妙な色をしたモヤが立ち上る…とんでもない悪臭のモヤが。
煙を吸い込んだ全員がのた打ち回るが、味方への甚大な被害は目に入ってないらしい。
ヤイカ『さぁヒワイドリさん!今のうちに行くでゲス!』
扉の先へと駆け込むヒワイドリは、一目散で奥へと走っていく。半分は臭いから逃れるため、
半分は宝を手に入れるためだ。その先の小さな台座に、未だ輝く銅鏡が鎮座していた。
ヒワイ『こいつか…』
チチメン『おい!ヒワイ、そっちへ行ったぞ!気をつけろ!』
鼻を潰された戌は、闇雲に走り壁へもぶつかりながら突進してくる。
ひらりと避けたヒワイドリは仲間の下へと戻ると扉の鍵を硬く閉ざした。
ヤイカ『その鏡でゲスね!…?これにも何か文字が彫ってあるでゲス』
『タカラニメガクラミ、ヒノモトヲツラヌキサルトウソブキテウメシトキニカガミヲミル。
ワレラノタイジセシイカナオニヨリ、マガマガシキハウチナルオニナリ。
クヤメドモシセシヒノモトモウモドラヌ、ニゲシトリモモウモドラヌ。
シンンジツウツシシカガミコソマコトノタカラナリ。オロカナアヤマチクリカエシテハナラヌ』

ヒワイ『…行くぞ。早めにあいつらに届けてやろう。こいつで大丈夫なはずだ』
四匹は洞穴を出て、鬼ヶ島へと向かった。

…桃太郎の後日談をあまり見ないので、半分仲間割れ扱いでネタ利用しました。
ヒノモト=その時代の鬼子というイメージです。やはり暗い話ばかり思いついてしまう…。


185ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:26:11.89 ID:YAPtudyd0
    車で揺さぶられること5時間半。徒歩3時間。
    空にはすっかり日が昇り、薄気味悪い森の中は太陽の光のおかげか、幻想的な姿になっていた。
鳴木 「なげぇ……何時になったら着くんだ」
日輪 「暑いよぉ……ムラムラするぅ」
夜烏 「それを言うなら蒸し蒸しするッス」
日輪 「そうとも言う」
鳴木 「なぁ、何時になったら着くんだ狛」
狛   「え?……あと10分位」
鳴木 「それ2時間前に聞いた」
狛  「大丈夫だって……と、話してる内に着いたな」
鳴木 「?」
    狛が道の途中で立ち止まる。目線の先にはケモノ道……
    いやいや、比較的整備されているコッチの道のほうが楽な気が……
鳴木 「え?ここ?コッチの整備されてる道じゃないの?」
狛  「おいおい。なんで数百年も人に知られずに過ごしてきたと思ってるんだ?」
鳴木 「まぁ、そうだけどさ」
柴  「やっぱアホだな。見た目通りだ」
鳴木 「うるせぇ。日輪をけしかけるぞ」
柴  「へへーん。そうも同じ手にヤラれるほど狗神は甘く……」
日輪 「隙を見つけドッ―ン!」
柴  「う、うわぁあああ」
日輪 「ふふふ、そんなにお姉さんとお話がしたいのかぁ。仕方ないなー」
柴  「や、やめろ馬鹿!抱き着くな!鳴木、止めさせろよ!」
鳴木 「……楽しそうだからいいじゃない。頑張れよ少年……さて、あっちは放っておいて、
    狛。コッチのケモノ道の先にはなにかあると思えないんだけど仕掛けか何かでもあるのか?」
柴  「やーめーろーよー」
日輪 「ははは、可愛いやつめ」
鳴木 「ちょっとうるさい。で、どうなの狛?」
狛  「まぁ、見てなって」
    狩衣の懐から札を取り出す。なんていうかスゲェ汚い。所々が赤黒く染みになってたり。
    血文字か?いやいや、血だなんてそんな事あるわけないよな。はははは……
狛  「血を捧げし者。この地に眠りし扉を開け。契約の札を提示する」
    札をケモノ道の空間に貼り付けるよう動作をする。すると、札は空中に止まり札を中心に周辺の景色が歪む。
    しばらく、札に吸い込まれるように周辺の景色が歪むのを見ていると一瞬で景色は変化した。
    いや、変化したというより取り込まれたと言ったほうがいいだろうか。先ほどとはまるで空気が違う。
    いくら山だとしても多少なりとも文明というか空気が淀んでいるものだが、此処は違う。何も感じない。
    透き通っている。息を吸い空気を肺に取り込むと、体の悪気を全て吸いだされるような感覚に陥る。
    簡単に言葉では表せないが……とても心地が良い。


186ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:27:16.97 ID:YAPtudyd0
狛  「それでは、ようこそ。ここが裏の世界。隔離された日本鬼子の世界へ」
日輪 「ひゃっほぉおおおい! 突撃!!隣の箪笥!」
柴  「うわわ、抱き上げるな!」
小日 「ハンニャーが居るのに……止めなければ!」
ヒワイ「あっ、待てよ!」
ヤイカ「箪笥のパンツは渡さない!」
夜烏 「はしゃぎ過ぎっスよぉ……ってパンツは渡さないッス!」
日本 「あっ、待ってくださいよー」
    領域に入った途端に、視界の先に見える家に向かって皆が走りだす。
    隣の箪笥ってなんだ?というかパンツに執着しすぎだろ守神の二人は。
鳴木 「あんまり走るなって……ん?日本鬼子の世界?鬼子の為の世界?どういう事だ?」
狛  「あー、そういやまだ説明してなかったな。ここはな、歴代の鬼子が隔離される場所なんだ」
鳴木 「歴代の……鬼子?待てよ、鬼子って何人もいるのか?」
狛  「それは――」
チチメ「そこからは初代から仕えていた私が説明しよう」
狛  「勝手に会話に……」
チチメ「落ち着けよ狛。私のほうが先代に長く仕えてたんだ。問題はあるまい」
狛  「ぐっ……」
チチメ「では、説明をしようか。はじめに陽介、昔から鬼っていうのはどういう扱いを受けてきたと思う?」
鳴木 「えっ?そりゃあ悪いモノ。人間に取っては敵として認識されてることの方が多いと思うけど?」
チチメ「そうだよな。じゃあ、その鬼が見え会話が出来る唯一の人間を普通の人間が見たらどうなる?
    もちろん鬼の姿は普通の人間には見えていない」
鳴木 「おかしな奴とされるか、そういうモノが信じられてる場所なら危険人物として……あっ」
チチメ「おっ、分かったようだな」
鳴木 「大体は」
チチメ「大体で構わないさ。つまり、此処は鬼と会話でき、それらの類を使役できると思われた人間が
    初めに隔離された場所なんだ。もちろん、鬼を使役なんて出来るはずなんてないんだが彼女は
    隔離される事を受け入れた。条件を提示してね」
鳴木 「条件?」


187ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:29:21.71 ID:YAPtudyd0
チチメ「一つは、人が足を踏み入れることが出来ない土地であること。もう一つは、鬼達の安全の保証と出入りの自由」
鳴木 「保証?待て待て待て。鬼を見えない相手に保証なんて居るのか?ましてや、鬼は殺すことはできないぞ?」
チチメ「時代が時代だ。そういう類のモノを使役して、呪いや道具に使ってる奴なんていくらでもいた。その為さ。
    それに、鬼は殺すことは出来る。生まれた年も分からぬ名もなき刀匠が打った6本の刀。一つは小日本が
    持っている縁を斬ったり繋げたり出来る恋神の刀。もう一つは鬼子が持っている鬼斬りの薙刀。
    そして最後に、あの家に保管してある鬼殺しの刀だ。残りは行方が分からない」
鳴木 「なんだそのビックリドッキリな刀剣類は。というか初代は何処行ったんだよ」
チチメ「ついでに銘を言うとだな。小日本の刀は緒結で、鬼子のが鬼斬、そして最後のが鬼虚」
鳴木 「聞いてねぇ……」
チチメ「ん、あぁ。初代ね初代。彼女は死んだよ。というか殺されたって言うのが妥当かな」
鳴木 「殺されたって誰に?」
チチメ「人間……と我ら鬼」
鳴木 「隔離してたのにか?」
    ちょっと訳がわからない。隔離したんだったら殺さなくたって、ずっと隔離しておけば良い話だ。
    例え、鬼の出入りが自由だとしてもその人自身は外に出れないから意味が無いのでは?
チチメ「これがな、色々と厄介なんだよ。あっ、ついでに言うと隔離された初代ってのが皆が言う婆さんな。覚えとけ」
鳴木 「いや、大体予想は付いてたから言わなくても良かったんだが」
チチメ「あっそ。じゃあ、話を続けるけど……」
狛  「……長くなりそうだな。じゃあ、俺は先に家に行ってる。ハンニャーにも説明しないとならないしな。はぁ……」
チチメ「あぁ、頼む。で、話は戻るが、ここを隔離したときの条件に入ってた鬼の出入り自由っていうのが問題だったんだ。
    もちろん、彼女自身は悪いことを考えてた訳でもなんでもない。ただ、喋り相手が欲しかっただけだ。
    でもまぁ、色々とタイミングが良く起こるんだなこれが。彼女を隔離してから6年後、疫病が蔓延したんだ」
鳴木 「んぁ?疫病が蔓延した?それと殺されるのに何の関係があるんだよ」
チチメ「当時はそういうのが流行ってたって言ったろ?一つの嘘が知れ渡れば、今みたいに知識がある奴だけではないんだ。
    その声が大きくなると統治している奴は保身の為か、民衆の言うことを聞く。知れ渡った嘘は……彼女が
    病を広めたってことだ」
鳴木 「なんだそれ?勝手じゃないか」
チチメ「まぁ、そうなんだがな。だが、全員が全員そうじゃない。ある二人の男がそれを否定した。といっても、彼女を
    この場所に隔離し、術を施した男達なんだがな。だが、彼らの申し出は受け入れられなかった。それどころか
    申し出た事により更に彼女の処刑を求める声が多くなった。片割れの男が彼女と密会していたことがバレたからだ」


188ほのぼのえっちさん:2011/05/21(土) 01:31:43.54 ID:YAPtudyd0
鳴木 「ん?隔離した男達には見えないのか?なんか変な術が使えるんだろ?」
チチメ「見えるんだがな、彼らはそれを代々、仕事にしてい人達だ。なのに只の民家の娘が見えるようになった。
    だから、危険視した上の奴らは彼女を隔離したってことさ。必要以上に民衆の不安を煽る奴は要らないからな。
    ……まぁ、ということで。なんやかんやあって結局は男達の奮闘もむなしく彼女は処刑されたってことでこの話は終わりということで」
鳴木 「あれ?今、色々とハショったよね?というか凄い大事な部分もハショッてるよね!?」
チチメ「正直、喋るのがめんどくせぇ。というか立ってるのしんどい。特大の乳プリンを持って来い。そうしたら話をしてやる」
鳴木 「そんなの知らな――」
?? 「こんな所でなぁにしてるのさ」
鳴木 「あでっ!?」
    背中に何かが突き刺さると思ったら今度は何かが、背中をよじ登って肩から顔を覗かせる。
    猫だ。白い毛のちょっと貫禄のある猫。しかも喋ってる。
チチメ「げぇっ!ハンニャ―!」
ハンニ「なにが、げぇっ!だよ。ろくに連絡もしないでこっちに来るなんてさ。いい度胸じゃないの」
チチメ「はっ、なにが連絡だ。そっちが勝手にだな……」
鳴木 「いや、もう喧嘩とかいいから。あと肩の猫。首が痛い」
ハンニ「ちょっと位、我慢しな。男だろアンタは」
鳴木 「いでぇ!?」
    ほっぺたを引っ掻かれる。あぁ、爪がいてぇ……
ハンニ「それにしてもこんな所で話してないで家に来なよ。アンタが鬼子を助けてくれたんだろ?一杯しながらさ」
鳴木 「えっ?いや、助けたというか何というか……」
ハンニ「どうでもいいさね。取りあえず家に向かいな。昔話もそこでしてやるからさ。もちろん、一杯付き合ってくれたらだけどね」
鳴木 「まぁ、それはけど……」
チチメ「やめとけ陽介。そいつは酒癖ぐぁ!」
    チチメンの顔面に向かってハンニャ―と呼ばれる猫が跳びかかってダブル猫パンチを食らわせる。
    K.O!って奴だな。顔に飛びかかられただけで気絶しちまったよ。まぁ、鳥だからな。仕方ないか。
ハンニ「ほら、坊主。さっさと歩きな。せっかくの熱燗が温くなっちまうよ」
鳴木 「こんな時間から熱燗かよっ!」
ハンニ「人の勝手さね」
    昔話はしてもらえることになったが……昼間っから酒に付き合わされるのかよ。不健康だ。
    いや、不健康生活を送ってきた俺が言うのもなんだが……なんだかなぁ……


というわけで、次からは過去の話に突入です。色々と、謎を解決して行ったり行かなかったり……
ということを鬼子視点で。ていうか前回に引き続き、鬼子の出番がねぇ……
まぁ、次回からしばらくは鬼子視点で行きたいと思っておりますゆえ、何卒許して下さいまし。
あっ、名前の表示の仕方を変えていただきました。少しは見やすくなったでしょうか?相変わらず台詞ばっかですが。


189ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:09:47.72 ID:6qE+YsvC0
休載週なので、project-light-way_conf.txtを作って遊ぶ。
よっぽど、.confにしてやろうかと思ったが、何かしらクラッシュされてもかなわないので止めた。
「作中で追々」というスタイルなので迷ったが、少し公開してみる。

氏名:大和勇子
種族:鬼
年齢:16→18(11月・・・何日生まれだっけ。"→"は作中の変動予定)
身長:169→173
体重:鬼だから結構重い。
BWH:公式ではCだが、なりがでかいので貧乳ぎみに見えるかも。
身分:高校生女子。「優良生徒」。当代日本鬼子(一応「大都督\日本全州\諸鬼事」という官印?がある)。大和本家当主(こっちは「都督\坂東八州\諸鬼事」)。主婦。
経歴:中等部から高等部2年B組→3ーB。高等部進学と同時期に、先代の強引な推しで日本鬼子襲名。
本成封紋:楓一葉かなと思うが、まあ、かわいいのを募集中。
占名裏字:兇
武器:主に薙刀を使う。由来から「ぎなた」と呼んでたが、鬼子襲名にともない現在の呼び名は「鬼斬」。鉄柄に楓紋の金象嵌。他に大小と弓を持つが、実戦で使うことは少ない。
戦闘スタイル:家の傾向で、攻撃術はあまり使わず、また間合いを近めにとり、刺突を多用。
見た目:清楚系美少女。人形時は髪を白リボンで1本にまとめている。少しだけ結わえてから全体をまとめるので、生成で髪が弾けたあともリボンが後ろ頭に残る。
要約:物静か武辺娘+ときどきいろいろ
通常タグ:
見た目・身体;清楚、地味、微笑、黒髪、長髪、リボン、貧乳、さらし、高身長、細マッチョ、腹筋、剛力、剛腕、怪力、健康、
和風、振袖、木履、楓、薙刀、鉄柄、金象嵌、火眼金睛、呪符、ねこ、制服、アームバンド、トレーナー、Tシャツ、運動靴
挙動・態度;武辺、物静か、落ち着き、冷静、沈着、静謐、控え目、激情、果断、無言実行、無頓着、強引、強情、暴虎馮河、無鉄砲、いきなり、無造作
嗜好;食欲旺盛、大食い、和食、精進料理、米、おにぎり、高圧縮おにぎり、甘味、お茶、動物、かわいい物、旧市街、文系
習慣・習性;昼寝、主婦、おかん、早寝早起き、反省、努力、精進、修練、稽古、生真面目、丁寧、深慮、反復、
旧家、寺院、礼儀、礼節、家族思い、義理堅い、正義感、責任感、重圧、不器用、健全
本人メッセージ:「えっ、はあ・・・・・・よろしくお願いいたします。」

タグは、思いついた言葉を並べただけだから、わりと適当。

190ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:11:22.86 ID:6qE+YsvC0
田中『鬼子ちゃんのお父さんって、どんな人なの?』
ハンニャー『とても優しい人よ。ちょっと優しすぎる位…』
車窓から山間の村を見つめる鬼子。その表情はどこか陰りを見せている。
鬼子『あの…私、本当に帰ってきて良かったんでしょうか?』
ハンニャー『良いに決まっているでしょう。さ…降りましょう』

第二十一話:日本家の守る物

坂道を登っていくと、小学校や病院が見えてきた。
田中『鬼子ちゃんもこの学校に通っていたの?』
鬼子『はい、ちょっとの間でしたけれど…』
田中『じゃあ家もこの近くに?』
ハンニャー『その先にある病院よ。…もう、随分古びれちゃってるけど』
学校を覗き込む鬼子の顔が、とても寂しげでそれ以上聞くのをやめてしまった。
いっつも絵ばかり描いて、クラスでも浮いてしまう。でも、自分には角なんて無い。
もし鬼子ちゃんが学校に通っていたら、普通に過ごせたか?予想は簡単に出来た事だった。

鬼子『着きましたね…父は元気にしているでしょうか?』
恐る恐るインターホンに指を伸ばす鬼子を遮り、若般が躊躇い無く押す。
ハンニャー『迷っていても仕様がないでしょう?大丈夫、大丈夫よ』
ポーン、と無機質な音が鳴り響くと、どこか疲れた風な男の声が聞こえてきた。
父『はい…どちらさまでしょうか?もしご診察でしたら、表の診療所入り口から…』
鬼子『私です!お父さん、鬼子です!』
マイク越しに聞いた数年ぶりの娘の声に、父は物音を立てながら玄関へ駆け寄る。
開いた扉の先には、大きく美しく成長した娘が待っていた。
父『おお…良く無事帰ってきたな…綺麗になって…見違えたよ。こちらのお嬢さんは?』
田中『田中匠と申します。初めまして…鬼子ちゃんとは最近友達になったばかりで…』
父『そうですか、鬼子に友達が…有難うございます。!!若般、お前も一緒だったか!』
ハンニャー『申し訳ございません、旦那様!!私が間違っておりました!!』
深々と頭を下げ、そのまま土下座しそうな若般を止め、父は中へ招き入れた。


191ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:17:43.26 ID:6qE+YsvC0
父『あれから、本家の人間が何度も来たよ。「鬼子と鬼斬はどこだ!」とな』
ハンニャー『申し訳ございません、足が着くと思い今まで連絡をしておりませんでした。
      現在まで旧書庫のある街で隠れ過ごしています。鬼子も仕事等も見つけ…』
ポツポツと、道引鬼を封じてからの事を若般が報告し始めた。本家へ戻ってからの事を…。

???『なんと…では時既に遅く、鬼に取り憑かれてしまったというのか!』
ハンニャー『はい、申し訳ございません。ですが表に出ない様、面と呪符にて封印は致しております』
??『ですが、それらは一時的な物。いつか感情が抑制できなくなる時、解かれてしまうでしょう』
????『そうなっては以前の二の舞じゃ。またこの家も人の世も、鬼に襲われる事になりかねんじゃろう』
ハンニャー『私が責任を持って鬼祓いの指導と封印を行います。どうかご容赦を…』
???『鬼が既におるとならば、精神鍛錬の指導役も付けられんぞ?猫風情が全て出来るのか?』
??『ならばいっそ、仲間の血で染まる前に、楽にしてやるのも優しさとは思わんか?』

数日に渡る議論の中、異例の若さで鬼に憑かれた鬼子の処遇は悪い方にしか傾かない。
…雨が降り出したその日、若般は「鬼斬」を持ち、鬼子を背に屋敷を飛び出した。
犬?『おい…何処へ行くんだ?私達はあの家に仕えるのが使命だろう?』
ハンニャー『お願い、見逃して。あの人達は保身のためにこの子を始末するつもりだわ』
ライトの明かりが、すぐ近くを照らす。犬も含めた追っ手が迫ってきているのだろう。
犬?『…雨が激しくなってきたな。これじゃあ自慢の鼻も効かないかもな』
ハンニャー『あなたは…一緒に来ないの?数世代前に鬼子が私達を拾ってくれたのに…』
犬?『鬼子を、守るため必要な物はあの家に揃っている。家を守るのも、鬼子を守る事に繋がるよ』
ハンニャー『不思議ね…猫は家に付き、犬は人に付くって言うんだけど…じゃあ、さよなら』

父『私の、鬼子を人として大切にして欲しい想いを汲んでくれたんですね。ありがとう』
鬼子『父さん、若般さん、私のせいで色々とご迷惑をかけてしまってごめんなさい』
父『気にすることは無いよ。こうして無事でいてくれて何よりだ。
  田中さん、これからも鬼子と仲良くしてやって下さい』
田中『はい!あの…結構鬼子ちゃんを振り回してばかりですけど、これからも宜しくお願いします』
ハンニャー『旦那様、魔祓いの儀式に鬼子のへその緒が必要なのですが頂けますでしょうか?』
父『あぁ、すぐに用意しよう。鬼子、どんなに辛くともこうして支えてくれる人がいる。
  その事を忘れるんじゃないぞ。もちろん私もその一人だし、これからも増えるだろうよ』
鬼子『お父さん…有難うございます。私、頑張ります!』
二人は固く抱き合い、出発を惜しんだ。


192ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:21:04.75 ID:6qE+YsvC0
ハンニャー『じゃあ…行きましょうか』
鬼子『はい、早く鬼を退治して皆様へご迷惑をかけない様に致します』
父『鬼子、またいつでも帰ってきなさい。お前の家はここにあるのだから』
深々とお辞儀をする鬼子に戸惑いながら、父は皆を見送った。

第二十二話:さよならじゃなくて…。

ハンニャー『田中さん、あなたはここで帰りなさい』
田中『え?…なんで?私も鬼ヶ島に行ってみたいんだけど?』
ハンニャー『前に説明した時、あなたもいたでしょう?危険なのよ、帰りなさい』
鬼子『私からもお願い致します。みなさんをお守り出来るか自信がなくて…』
小日本『へへへ…田中はお留守番だね〜』
田中『しょうがないか…せめて見送りはさせてね』
電車に揺られながら、ジッと不安げに景色を見つめる鬼子。
ハンニャー『そんなに心配そうな顔をしないの。大丈夫よ、成功するわ』
鬼子『もし、私が上手く退治できなければ…どうなるんですか?』
ハンニャー『…万が一、散らす事が出来なかった時のために、鬼門もある鬼ヶ島でやるのよ』
田中『「鬼門」って何なんですか?丑寅の方角?』
ハンニャー『鬼門は人の世と鬼の世を繋ぐ入り口よ。もし祓えなかったとしても、
      その奥へと押しやればそれだけで十分。鬼子の体からは追い出せるから…』
鬼子『じゃあ、道引鬼もそこを通って人の世へ?』
ハンニャー『恐らく…ね。人の世で産まれる鬼は数多あれど、ここが行き易い場所と限らない。
      鬼の世へ移る者も、何らかの目的で人の世に出る鬼もいるわ』
小日本『あぁ!!大きい川だぁ!』
はしゃぐ小日本の視線の先には、海が見えてきていた。


193ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:26:18.41 ID:6qE+YsvC0
田中『うわ…船が来るまで結構時間あるよ…』
小日本『よし!田中、川で遊ぶぞ〜!ついて来〜い!』
田中『そりゃあ海だよ〜。まぁ良いか』
ハンニャー『そういえばあの変態ども上手くやっているかしら?』
鬼子『私のせいでみんなにご苦労ばかりかけて…本当に申し訳ないです』
ハンニャー『本家での事は申し訳なかったけれど、私は一緒に過ごせて楽しかったわよ?
     今までにも何人もの鬼子と過ごしたけれど、あなたはまるで自分の子を育ててるみたいで…』
鬼子『私で「鬼子」として産まれる者は最後になるでしょうか?
ハンニャー『わからないわ。本当に血が薄まり果てる事で終わるのかも含めてね…』
田中『おーい!鬼子ちゃんもこっちにきなよ!』
小日本『ねねさま〜。やどかり捕まえた〜!可愛いよ〜』
ハンニャー『あなたは色々迷惑かけたと気にしてるけど、少なくとも小日本は違いそうよ?』
鬼子『はい、あの子のためにも頑張ります』
海に出て共に遊んでいると、かなりの速度で船が戻ってきた。波飛沫が鬼子達にもかかる。
船長『途中で変な集団に会ってね…気味が悪いから慌てて逃げてきたんだ、ごめんよお客さんかい?』
鬼子『はい、お願いします。それじゃあ田中さん…さようなら。良ければ旅館の荷物を片付けておいて』
田中『バカ!さよならじゃないでしょ!また会うのよ?自分でやんなさい!じゃあ…またね!』
船は三人を乗せて出向した。大きく手を振る田中さんに応える鬼子。船は途中小船の横を通る。

チチドリ『あ!またさっきの船チチ!ヤイカガシ、全速で波を避けるチチ!』
ヤイカ『むちゃでゲスよ!三人も乗せた船を引っ張る苦労をわかって欲しいでゲス!』
チチメン『やはりちゃんと船へ忍び込んだ方が良かったかのう…』
ヒワイ『やや!あそこに乗っているのは鬼子ではないか!ヤイカ、急げ!』
ヤイカ『ひ、酷いでゲス〜!誰か代わって欲しいでゲス〜!』


194ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:31:20.03 ID:6qE+YsvC0
ハンニャー『着いたわね…ここにあるはずなんだけど…』
鬼子『あの…チラホラと心の鬼の気配がしますが大丈夫なんですか?』
ハンニャー『相手にしないほうが良いわよ?ここには憑かれた人が何人も流れ着き暮らしているから…』
鬼子『心の鬼を退治される事を望んでいない、という事ですか?』
ハンニャー『変わり者と蔑まれ、それでも暮らせる場所が見つかった人は今更一般人に戻りたくない、
     だから、良かれと思って祓うと逆恨みされて追い回されるわよ』
ヒワイ『ちょっと待てや〜!俺達を忘れていやしないか!」

第二十三話:月下の祈り

小日本『あぁ〜!ヤイカちゃん達だぁ!お疲れ様〜』
ヤイカ『ひ、酷い目にあったでゲス。もう休みたいでゲス』
チチドリ『小日本ちゃん、その服の中で休ませて欲しいチチ…』
ハンニャー『変態は休み休み言ってね…それで、例の物は無事手に入ったの?』
チチメン『ほれ、こいつじゃろう?違ってたらさすがに知らないがな』
手渡された鏡を念入りに確かめる若般。ちらりと鬼子にも向け、何が映るか覗き込む。
ハンニャー『確かにこれね。ありがとう、助かったわ』
ヒワイ『さて、ではお礼にその乳を揉ませて貰おうか…』
近づいてきたヒワイドリの顔は爪で縦に引き裂かれた。


195ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:35:27.73 ID:6qE+YsvC0
チチメン『な、何てことをするんじゃ!せっかく手伝ってやったというのに…』
ハンニャー『その手伝って貰った理由は、これから大事な儀式をするためなのよ。
      あんまり気を散らさないで貰えるかしら?』
ヒワイドリの悲鳴や騒ぎを聞きつけ、周囲に島民が集まってくる。
島民『お前さん達、この島に何をしに来たんだ?』
ハンニャー『…いえ、ちょっとした観光ですわ』
ヒワイ『何を言っておるんだ?私達は鬼を退治するために準備してきたのではなかったか?』
その声にどよめき、目の光を強くする島民達。
ハンニャー『このバカ…空気ってもんを読みなさいよ…』
島民『この島の名前を知らない訳ではあるめぇ?他所モンが荒らそうってんなら…』
ジリジリと間合いを詰め、銛を構えて威嚇してくる島民…その前に鬼子が立ちはだかった。

鬼子『皆様、申し訳ございません。実は私もこの様な者でございます』
はらりと角隠しの帽子を落とし、その正体を現すと島民達は平伏した。
島民『おぉ…本物の鬼様じゃ!生きて姿を拝めるとは…有難や、有難や』
鬼子『どうか私の修行のため、一時この地をお貸し頂けませぬでしょうか?』
島民『えぇですとも、えぇですとも。何処でもお使い下さいませ』
ハンニャー『あの…「月見のウロ」はこの島のどこにあるのでしょうか?』
島民『それなら岬の方にあります。どれ…案内致しましょう』
鬼子に近づいた若般が囁く。『上手くやったわね…これで何とかなるわ』

案内された場所は、切り株の様な形の山に開いた洞窟だった。
島民『ここは月夜に人が消えたり、物の怪が現れるという場所、
   要らぬ心配と思いますが、ゆめゆめお気をつけ下さいませ』
案内してきた島民が帰るのを見計らって、若般が準備を始める。


196ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:41:24.20 ID:6qE+YsvC0
ハンニャー『月明かりが入る頃には鬼門も開くはずだから、それまでに準備を終えましょう』
奥には大きな池があり、天井は崩れ外から光が入り込んでいる。
ハンニャー『へその緒はこの池と鏡の間に置いて!』
転がっていた鏡台を手に持ち、テキパキと指示を出していく若般。
鬼子『あの…私はどこに立てば良いですか?』
ハンニャー『鬼子は鏡とへその緒の間に立って頂戴…小日本、何をやっているの?』
小日本『私もねねさまと一緒が良い!これならねねさまも怖くないでしょ?』
ハンニャー『気持ちは有難いけれど、どいておいて貰えるかしら?あと、鬼子は鏡を見ないでね!』
鬼子『え?何故ですか?』
チラリと覗いてしまった先には、自分だけでなく憎き道引鬼も映っていた。
ハッとしてすぐにへその緒へ向き合う鬼子。だが先ほど見た中で何か違和感を感じながら…。

ハンニャー『あとは月が出るのを待つだけよ…』
明かりを消し、闇が包む中、徐々に壁を月光が照らし始める。
その光が池にまで達した時に、鬼子の体とへその緒も淡く光を帯び始めた。
鬼子『え…嘘?』
目の前で光を浴びたへその緒が、醜く変容していく。だが…途中でそれは二つに割れた。
一つは道引鬼に、もう一つは…先ほど鏡の奥にチラリと見えた別の影に。
道引鬼『愚かなり!日本家の雌猫!愚かなり!当代鬼子!中に潜むもう一匹の鬼に気づかず、
    我々に力を与えてしまうとは!全く、嬉しい誤算をしてくれるわ!!』


197ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:46:15.15 ID:6qE+YsvC0
初期プロット(+敵組織)の最終話、ようやくここまで来ました…。
もう一匹の鬼をどんなのにするか迷って、結局有名作品のこいつを参考にしました。
ドビー:http://www.youtube.com/watch?v=PGP3upvjiGk

鬼子の中より現れた鬼は…二匹。一匹は道引鬼、もう一匹は西洋民話に出てくる醜い小鬼の様だ。
道引鬼『愚かなり!日本家の雌猫!愚かなり!当代鬼子!中に潜むもう一匹の鬼に気づかず、
    我々に力を与えてしまうとは!全く、嬉しい誤算をしてくれるわ!!』
ハンニャー『鬼子!気圧されては駄目よ!今の内にあいつを祓って!』
鬼子『は、はい!』
鬼斬を構え、いざ飛び掛ろうとした鬼子だが、ガクンと膝を着いてしまう。
まだ何も触られていないのに、頭から血が流れる。何をされたかも解らない。

第二十四話:弱さと向き合う先に

???『私さえいなければ…私のせいで…消えてなくなればいい…』
もう一匹の鬼はブツブツと暗い事を言いながら、壁に頭を打ち付けていた。
道引鬼『くくく…こやつは「自責鬼」。どうやらお前より産まれたゆえ、まだ繋がっている様だな』
大きく腕を伸ばし、更に痛めつけようとするが、寸前でハンニャーが確保する。

ハンニャー『鬼子!あなたは道引鬼に集中して!こいつは私達が引き受けるから!』
ヒワイ『何をやっとるんだ…鬼子、お前はこんな事ばかり考えておったというのか?』
小日本『ねねさまはこんなに弱くないもん!いつも私達を助けてくれるんだもん!』
ヤイカ『あっしみたいなヘンテコ、受け入れてくれるのは鬼子さん達位でゲスよ』
自責鬼が何度も頭を打ち付けるのを、皆で羽交い絞めにして止める。
チチドリ『今の内に早く!こいつを祓うチチ!』
チチメン『…下らぬ真似を!結局、こやつもお前が作り出した鬼じゃろう、のう道引鬼よ!』
道引鬼『あぁ?馬鹿な事を言う奴もおったもんだわい。こやつは人の世が産み出したもんだろうが!
    人の世で異形の者は受け入れられぬ…蔑まれ、追いやられ、迫害されるが定め!
    大人しく我ら鬼の世界へと送り出せば良いものを…苦しめたのは人間達だろうが!』



198ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 19:51:28.30 ID:6qE+YsvC0
田中『バカにしないでよ!!そりゃあ他人と違ってたら避ける人は多いよ?
  でも、だからこそ理解し合える人が嬉しいんじゃん…迷惑のかけあいでも嬉しいんじゃん…』
そこに居ないはずの友の大声で、顔を上げる鬼子。ふら付く足にも力が入る。
鬼子『ここに来ちゃ駄目!もうこれ以上私のせいで誰か傷ついたら…私…』
田中『鬼子ちゃんもバカよ!友達の応援に来て何がいけないっていうの?
  誰が傷ついたら鬼子ちゃんのせいにするの?みんな助けたいのは同じなのが解らないの!?』
一斉に全員が頷き、負けるな、大丈夫、信じてる、鬼子へ励ましの言葉をかける。
力を取り戻した鬼子は、道引鬼ではなくまず自責鬼の元へと足を進めた。
鬼子『ごめんね…みんな。ありがとう、みんな。私が最初に決着をつけるのは自分の心だよね』
祓い終えると鬼子は、紅葉を散らし角が伸び、中成となって道引鬼へと対峙する。

道引鬼『ちぃ…だが学習はしていない様子だな。浄化まではされてない鬼の散り際は餌にしかならん!』
大きく息を吸い込み、自責鬼の残骸を取り込んで道引鬼はますます大きくなる。
鬼子『だからなんだというのか!お前も今すぐ散るが良い!』
力強く鬼斬を振り下ろし、切り裂くが簡単には散り消えない。
長く生きた鬼の成す技なのか、鬼子の霊力を持った体を得たからなのかは解らない。

道引鬼『こんな程度の実力で私を散らすだと?弱小鬼と一緒にするなよ!』
膨れた腕で鬼子を掴むと、そのまま壁へと叩きつけた。衝撃で力が抜ける鬼子。
だがすぐに体勢を立て直して鬼斬りを握り直す鬼子。しかしもう一度道引鬼が全身を掴む。
道引鬼『さぁ、鬼の世へ向かおうか。あの先は貴様にとって楽園だぞ…』
片腕で渦を巻き始めた池を、無理やり押し広げると、そこに闇の穴が大きく開いていた。
ハンニャーやヒワイドリが呪符などで攻撃するが、ほとんど意に介さない。
鬼子『負けない…私は人の世で生きていくわ!お前の好きな様になどさせるものか!』
手の中で鬼斬を引き降ろし、指を切り刻むと滑り落ち、もう一度距離を取る。
もう一度掴もうとする道引鬼の前に、小日本が割り込んでいた。


199ほのぼのえっちさん:2011/05/23(月) 20:12:17.44 ID:6qE+YsvC0
小日本『これ以上…ねねさまを傷付けたら許さないんだから!』
今までには抜けていなかった緒結を、カタカタと震えながらも構える小日本。
その刀で鬼子と道引鬼の間へ振り下ろすと、空間に亀裂が走った。
道引鬼『???何をやっている?刀は届いてもおらぬわ…!ハハハハハッ!』

しかし…もう一度鬼子をつかみかけた手は「バチッ」と散った火花で弾かれる。
ハンニャー『…縁切りの力!今よ、鬼子!そいつを鬼門へ押し返して!』
道引鬼『縁切り刀だと?結界を張るほどとは…クソッ…』
鬼子『いざ、散り消えよ!禍々しき悪鬼よ!』
ヒワイ達が足を掬い上げてバランスを崩し、若般が呪符で動きを鈍らせる。
鬼斬の一閃が道引鬼を突き飛ばすと、鬼門の奥へ道引鬼が呑まれていく。
道引鬼『まさか、ここまで来てやられるとは…だが鬼子よ、母の仇を討ちたいと思わんか?』
怒りに満ちた目で道引鬼を睨み、後を追いかけた鬼子を止めたのは若般だった。
ハンニャー『挑発に乗っては駄目よ、鬼子。あいつの狙いは最初から向こうへ引きずり込む事なんだから』
月明かりが薄れていくと、ゆっくりと鬼門は閉じ、多少広がったが元の池へと戻っていく。

田中『ごめんね、鬼子ちゃん。勝手についてきて。もう、大丈夫なんだよね?』
鬼子『はい!有難うございます。もう二度と自身の心にも負けません!』
ハンニャー『さぁ、今日は宴会よ!あんた達にもちゃんと胸を触らせてあげても良いわよ?』
ヒワイ『ええい品の無い女め!恥らう所を触ってこその乳だというのに…全く…』
チチメン『わしはあの女将の豊満な乳がええのう。大丈夫じゃろうか…』
チチドリ『あの…小日本ちゃん、申し訳ないけど、その胸を私にも触らせて欲しいチチ!』
小日本『私みたいな小さい子の胸を触って嬉しいの?チチドリちゃんって変なの〜』
ヤイカ『何でも良いから流石に休みたいでゲス。煮えない程度にゆっくり温泉に入りたいでゲス…』

一同はようやくの笑顔に包まれながら、鬼ヶ島から日常への帰路に着いた。


200ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 18:18:32.21 ID:5x5pctH/0
――ほんの昔のお話(視点変更。NEXT...鬼子)
鬼子 「はぁ……はぁ……」
    月明かりが照らす山の中を私は必死で走っている。唯一、皆がくれたお面を大事に抱えながら。
    後ろからは大勢の人が松明を持って追いかけてきている。私を捕まえるために。
    どうして、私は言いつけを守らなかったのだろう。婆様だってちゃんと言っていたはずだ。
    彼らは守る対象ではあっても、友人になれる対象ではない。彼らは私たちを憎んでいると。
村人A「見つけたぞぉ!」
村人B「追い込めぇ!捕まえれば手柄だぞ!」
村人C「手柄はオラのもんだ!」
    見つかってしまった。もっと早く走って……逃げなくちゃ!
鬼子 「あっ……あぅ!?」
    走りだした途端、木の根に足を取られ盛大にコケてしまう。 
    どうやら、今ので脚を痛めたみたいだ。立ち上がろうとすると右膝に強烈な痛みが走る。
村人B「コッチだ!こっちで声がしたんだ!」
鬼子 「あっ……」
    見つかったと思った瞬間、グイっと腕を引っ張られ獣道に無理矢理連れ込まれる。
?? 「たくっ……これだから世間知らずのお姫様は嫌なんだ」
鬼子 「こ、狛!」
狛   「頼むから面倒事は増やさないでくれ。さぁ、帰るぞ」
鬼子 「やだっ!帰らない!」
狛   「っ……無理矢理にでも連れて帰る」
鬼子 「やだ!」
狛   「鬼子……悪いな」
鬼子 「わわっ!?」
    ぐいっと抱えられ、肩に乗せられる。まるで大工さんが材木を運ぶ時みたいに。
鬼子 「離してよ!」
狛   「残念、さすがに婆さんの命令には逆らえないからな。無理やり帰るぞ」
鬼子 「むぅ……」
    結局、私はそのまま狛に抱えられながら家まで無理矢理に連れて帰られた。
初代 「どうして勝手に出たんですか!ちゃんと言っておいたでしょ!?」
鬼子 「ごめんなさい……」
初代 「それにですね、村人にまで追い掛けられるなんて……」
狛   「まぁまぁ、無事に帰ってきたんだしその辺で許してあげましょうよ」
初代 「はぁ……そうですね。鬼子、怪我は?」
鬼子 「え、えと……脚をちょっと」
初代 「えっ!?どこ?見せなさい!」
鬼子 「あっ、はい」
    着物をまくり上げ、痛めたと思われる右膝を見せる。
初代 「青痰が出来てるじゃない!ほんっとにもう!心配かけさせて!」
    グイっと引っ張られ、抱きしめられる。

201ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 18:32:14.36 ID:5x5pctH/0
鬼子 「婆様、脚が痛い」
初代 「あ、ごめんね。直ぐに薬を持ってくるから」
鬼子 「うん」
    婆様が立ち上がり、パタパタと部屋の奥に入っていく。
    私はそんな光景を見て、少し嬉しかったりする。何時もはヒワイドリたちの世話のせいで構ってくれない
    婆様だけど、今は独占できているからだ。言い付けを破ったのも、恥ずかしいが只の嫉妬からだ。
柴   「んぅ……うるさいよー」
    柴が部屋の奥から瞼を擦りながら出てくる。この子は最近、狗神になったばかりの見習いだ。
    力もなければ狛の様に色んな術を使えるわけでもない。今は本当に只の子供だ。
狛   「はぁ、起きちまったか。ほら、こっち来い」
柴   「ん……」
狛   「こらっ!袖を掴むな」
    狛が柴を布団へと連れて行く。まるでお父さんだ。いや、見た目的にはお兄さんというのが正しいだろう。
初代 「はい、お薬持って来たからね。足だして」
鬼子 「ん」
初代 「沁みるけど我慢しなさいね」
    少し緑がかった薬を痣の上に薄く塗られる。これは良く効く薬なのだが……代わりにしばらくビリビリと沁みる。
鬼子 「っ!」
初代 「あははー、やっぱり沁みたか。はい、我慢我慢」
    肩を叩かれながら、胸中に抱え込まれるように引き寄せられる。
    私は思わず手を背中に回して……ギュッと婆様の服を握りしめた。痛みを我慢しているのか、それとも
    この時間が惜しいのか。私自身もハッキリと考えが纏まらないまま、体が動いていた。
初代 「あら、そんなに抱き締められたら苦しいよ鬼子」
鬼子 「ごめんなさい。でも、もう少しだけ……」
初代 「……はいはい」
    それから、1時間ほど婆様に抱きついていたが婆様は何も言わずただずっと待っていてくれた。
    やさしく背中を撫でながらずっと……
    
いやぁ、こんな感じでしばらく続けさせていただきたいと思います過去編を。
多分……過去編で殆どの謎を解決できたらと思っておりまする故、どうかお付き合いいただけたらと思います。
目に入ったら「あぁ、まだ書いてんのか」程度に生暖かい目で見守っていただけたら幸いです。
タイトル付けるの忘れてた……あと、初代の表記は婆様にするか迷った結果、初代にしますた。
202ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 19:06:06.08 ID:5x5pctH/0
山田という男がいる。
不良というわけでは無いのだが、鋭い目つきと寡黙な態度が
近寄りがたい空気を発している、というのが
クラスメイトの共通した彼への感想だ。
そのクールな雰囲気を「格好いい」と感じる女子も
少なからずいるらしい…と、以前田中の学校の話題になった時に教えてもらった。


彼はまっすぐに田中を見つめている。


春は恋の季節だ…なんて。
ありきたりなフレーズが鬼子の頭をよぎった。





【日本カレンダー・四月】



校内で鬼のようなものを見たと、田中から相談された鬼子は
彼女から体操服を借り、学内への潜入を成功させた。
夕刻二人で見回っていると、確かにそこには鬼がいたが
靄のようにボンヤリとした姿で弱弱しく、
それでも威嚇するようにこちらに牙をむいた。


「どう?日本さん。やっぱり鬼…だよね?」
「ええ、まだ生まれたばかりで実体もありませんが
 この様子だと、2、3日も放置すれば脅威になりますね。」


周囲に誰もいない事を確認してから薙刀を取り出すと
ぱぱんと小蝿を払うように鬼を消し去った。


「実体も無いのに、あれだけ牙をむくなんて…
 この鬼を生み出した宿主は、よほど何かをため込んでいるようですね。
 もしかしたら、また新たな鬼を生み出すかもしれません。」


鬼子の予想は正しかった。
翌日にはまた同じ鬼が校内をうろつく姿を田中が目撃したのである。
その翌日も、翌々日も。
しかし不思議なのは、校内に「鬼が出たぞ幽霊が出たぞ」といった噂は
一切流れてはいなかった事である。
目撃者が「目の錯覚に違いない」と気のせいにしたのでなければ
鬼を見たのは田中一人であった事になる。それも毎日。


結論は一つ。鬼は田中に執着している。


203ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 20:06:13.16 ID:5x5pctH/0
田中の提案でおとり作戦を実行し、
鬼をわざと逃がし
逃げる先までこっそりと追いかけた。
その先にはきっと宿主がいるはずである。



そして出会ったのが、山田であった。



あれは、人目を気にする、人の評価を気にする心が鬼になったモノであった。
それが田中に執着するのは何故なのか…。
鬼子は山田と退治してピンと来た。
山田は落ち着かない様子で田中を見つめていたからだ。


「あ…た、田中。なんだよ、こんな時間まで学校でオタク活動でもしてたのか?」
「あれ?山田君…、いや、そういうわけじゃ…。」

(ねぇ日本さん、山田君が鬼の正体なの?)
(本人に自覚はなさそうですが…ああ、なるほど。)


そうか、鬼が田中さんに執着した理由。
それは山田君が田中さんに執着しているからだ。
じゃあ、その執着心はどこから来るの?

鬼子の頭には恋愛学園ドラマのようなシナリオが浮かぶ。

恋だ。彼は田中に恋をしている。
そしてこの落ち着かない様子、間違いない。
彼は今、一世一代の告白をしようとしているのだ!


204ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 20:09:24.89 ID:5x5pctH/0
「田中とは、あんまり話をした事がなかったけど…」
「たまに話しても、またオタ活動か?ってくらいだしねぇ。」


私、ここにいていいんですか!?
いや、きっと彼には田中さんしか目に入っていない!
私の事なんか忘れてしまってるんですね!キャー!青春です!


鬼子は顔を赤らめて展開を見守った。


「俺、周りから怖いだのクールだの言われて、
 そんな俺がこんなシュミしてんのかよ、こんなオタクなって、
 そう言われるのが怖くて言いだせなかった。」
「意外だね、山田君って人の評価気にするタイプだったんだ。
 何言われてもどこ吹く風ってイメージがあったよ。」
「きいてくれ、田中、俺は…!あの、えっと…俺を!」




ああ、言っちゃう!!むしろ行っちゃうんですね!!?




「俺をお前のサークルに入れてくれ!!!」



と、いうわけで。
隠れオタクである事が発覚した山田君は
田中のサークルに入る事となった。
悩みが解消された彼が鬼を発生させる事は無くなり、
校内はいたって平和になったのだが、
何故か鬼子が残念そうな顔をするので
田中は首を傾げるばかりであった。


そんな、四月の思い出。


205ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 20:15:30.98 ID:5x5pctH/0
5年4月:I-iv(夕方ー)
 実験室で集中家事管理システムからの飯炊きの検証実験に先輩と二人で付き合い、「本日の飯も美味かったです」の報告を係長にしたら、課長が3人を呼んでるという。

 「大和さんの『重工』への出向の話が決まった。5月からだ。正式な辞令は明日かな。」
  ザワ
 意外な話に室内が少しざわめく。とくに聞こえるように話したわけではないが、隠す必要もない。
 「はぁ。」
 入社2年目だからよく分からないが、それでも変だと思う。一応「プログラマ」の専門職だが、何かしらの専門家がいるということなら、もっと経験を積んだ人に来る話だろう。
<>自分はred gateでお馴染みの学校を出て入社、研修やら社内一回りやらを経たのち半年ほど主においしくご飯を炊くためのプログラムやドライヴァを先輩と書いてただけだ。家電開発部の小娘に大型船舶や戦車の会社が何の用だろうか。
 「何ですか、そりゃ?」
 「急な話ですね。」代わりに聞いてくれた。
 「うん、有無を言わせずだね。まあ、詳しい話は明日するさ。空いてるかい?」今日は木曜だからということだが、3人とも大丈夫だ。つか、普通空ける。
 「そういうことだから、大和さんは途中の仕事はなるべく終わらせ、終わらない場合は確実な引き継ぎをお願いします。炊飯器の方は決着間近でしょ?」
 「はい。」
 「うん。私からは以上です。他の話で何かありますか?」


206ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 20:17:13.73 ID:5x5pctH/0
 夕食時は過ぎたころ、勇子たちが通学に使っている駅のホーム下の通路では、暗色パンツスーツを着た27・8歳くらいで割と美人の女性が人を待っている様子だ。
<>改札口から二人連れの男性が出てくると、手を挙げて合図した。合流した3人は彼女の誘導で里山へのバス通りを北へ登っていく。

 「逃げた実験体が潜んでそうやというのはほんまにこの辺りか?」
 通勤鞄を手に提げたドブネズミ姿のアラフォー男性の問いは関西弁だ。
 「ええ。噂の最新の到達点がこの辺で、昨日今日の痕跡もこの丘に少し残ってるんで、ほぼ間違いないですわ。」
 関西弁は女性も同様。
 「まずいな。」
 「何がですん。」
 結局全員関西弁だが、訊いたのは20台前半な感じのガムをクチャクチャやってる若者で、紺の野球帽に暗緑色のミリ風上着とジーパンという服装だ。Angel Bomberという戦略爆撃隊が実在するかは分からない。
 「この丘の上の寺院が大和の御本家。この辺はお膝元や。」
 「当代日本鬼子のですか、シュージュンさん。」
 「そう。あと、聡君、俺はヒデカズや。」
 敬称略も気に入らない。
 「ああ、なるほど。それなら全部分かる。」
 「なんや?」
 「いや、上の方の住宅地に割と筋いい探知系の結界が張ってあるんですけど、」
 「前はそんなもんは無かったが、尚更まずいな、それは。実験体は討たれたかもしれん。」
 「いや、多分大丈夫かな。ここらの龍脈はかなり細いんですけど、おそらく本家の防御結界が相当手が込んでて、かなりリソースつこうてるんやないかな。
<>結果下流で細なってて、恒常的に探知結界張るんはきつい。実際、探知結界は多分今日張ったもんで、むしろ取り逃したから臨時に張ったんやないかと思います。」
 知っていることと照らし合わせても辻褄は合う。推測はおそらく正しいだろう。
 「以前と比べて龍脈が随分細っているのは俺も感じてたとこやが・・・
<>三女の恵さんがまだ幼いから、今の御本家で戦えるんは御当代と賢行さんのお二方だけで、他に諏訪の犬精が修行でおるて聞いてるが、まだ幼犬で戦力やない。
<>まあ、お二方で充分難攻不落やが、先代が表稼業の都合で別居なさった際、代わりに防御を強化したゆうとこか。実験体の方はどうか分からんが、今夜は手分けして捜索、見つからんようなら、俺が明日、挨拶がてら探りを入れてみるわ。」
 説明しつつ話をまとめる。
 「うぃーっす。」
 ひどい返事だ。
 「・・・」
 女性の方は返事が無い。
 「どないした、信江君」
 「その防御結界、破ってみてもいいですかね。」
 「あ?」何を言い出すんやこの女。
 「先代が編んだ結界なら破ってみたいんですが。」
 「先代が編んだとはかぎらへんな。そもそも大和とことを構えるのが目的やない。」
 『やってみれば誰が編んだかぐらい分かるけど・・・』
 「・・・そうですよね、今のんは無しで。」
 『何か、変なんばっかりあてがわれたな。』先行き不安だ。


207ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 20:18:39.22 ID:5x5pctH/0
 夕食時は過ぎたころ、勇子たちが通学に使っている駅のホーム下の通路では、暗色パンツスーツを着た27・8歳くらいで割と美人の女性が人を待っている様子だ。
<>改札口から二人連れの男性が出てくると、手を挙げて合図した。合流した3人は彼女の誘導で里山へのバス通りを北へ登っていく。

 「逃げた実験体が潜んでそうやというのはほんまにこの辺りか?」
 通勤鞄を手に提げたドブネズミ姿のアラフォー男性の問いは関西弁だ。
 「ええ。噂の最新の到達点がこの辺で、昨日今日の痕跡もこの丘に少し残ってるんで、ほぼ間違いないですわ。」
 関西弁は女性も同様。
 「まずいな。」
 「何がですん。」
 結局全員関西弁だが、訊いたのは20台前半な感じのガムをクチャクチャやってる若者で、紺の野球帽に暗緑色のミリ風上着とジーパンという服装だ。Angel Bomberという戦略爆撃隊が実在するかは分からない。
 「この丘の上の寺院が大和の御本家。この辺はお膝元や。」
 「当代日本鬼子のですか、シュージュンさん。」
 「そう。あと、聡君、俺はヒデカズや。」
 敬称略も気に入らない。
 「ああ、なるほど。それなら全部分かる。」
 「なんや?」
 「いや、上の方の住宅地に割と筋いい探知系の結界が張ってあるんですけど、」
 「前はそんなもんは無かったが、尚更まずいな、それは。実験体は討たれたかもしれん。」
 「いや、多分大丈夫かな。ここらの龍脈はかなり細いんですけど、おそらく本家の防御結界が相当手が込んでて、かなりリソースつこうてるんやないかな。
<>結果下流で細なってて、恒常的に探知結界張るんはきつい。実際、探知結界は多分今日張ったもんで、むしろ取り逃したから臨時に張ったんやないかと思います。」
 知っていることと照らし合わせても辻褄は合う。推測はおそらく正しいだろう。
 「以前と比べて龍脈が随分細っているのは俺も感じてたとこやが・・・
<>三女の恵さんがまだ幼いから、今の御本家で戦えるんは御当代と賢行さんのお二方だけで、他に諏訪の犬精が修行でおるて聞いてるが、まだ幼犬で戦力やない。
<>まあ、お二方で充分難攻不落やが、先代が表稼業の都合で別居なさった際、代わりに防御を強化したゆうとこか。実験体の方はどうか分からんが、今夜は手分けして捜索、見つからんようなら、俺が明日、挨拶がてら探りを入れてみるわ。」
 説明しつつ話をまとめる。
 「うぃーっす。」
 ひどい返事だ。
 「・・・」
 女性の方は返事が無い。
 「どないした、信江君」
 「その防御結界、破ってみてもいいですかね。」
 「あ?」何を言い出すんやこの女。
 「先代が編んだ結界なら破ってみたいんですが。」
 「先代が編んだとはかぎらへんな。そもそも大和とことを構えるのが目的やない。」
 『やってみれば誰が編んだかぐらい分かるけど・・・』
 「・・・そうですよね、今のんは無しで。」
 『何か、変なんばっかりあてがわれたな。』先行き不安だ。


208ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 21:57:32.88 ID:5x5pctH/0
project light way
5年4月:I-v(夜)
 結局、大和勇子とは朝、バスで話したきりだ。お互い「話しかけるなオーラ」だから、まあ、問題は無い。勇子は右に寄って座り、休憩になるといなくなった。祐子は無線にタダ乗りできるところで昼食をとった。帰りのバスも一緒だったが、
 「大和さん、ご機嫌よう。」
 「山野さん、ご機嫌よう。」
 これだけで、いつものことだ。
 恩は恩で、機会があればいつか返すとして、今は大和勇子のことなどどうでもいい。dsだ。昨日は入っただけで興奮してしまって、ログも消さずに出てきてしまった。今夜は入るだけでなく、ちゃんと中も見ていく、ログも消す。

 昨日ぶっこ抜いたパスが今日は通らない。侵入に気づいたdsがパスを変更したのだろうか。だとすると危険度はより上がっているが、昨夜は結局何もせずに出てきてしまっただけに、「多少の危険は冒しても」と思う。
<>昨日と同じ手で再度パスワードファイルを抜こうとしてみたが、案の定上手くいかない。少し焦ってきた。効率の悪い総当たりスクリプトをとりあえず回して、キーボードから手を離す。
  ぱちん
 『落ち着け、あたし。』大した勢いではないが、両手で頬を叩く。昨日も最初につまづいた辺りからグダって、無駄に手間取ってしまった。dsのホストだと言ってもコンピューターには変わりない。別の穴・他の手口を有力そうなものから当たっていくまでだ。

209ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 21:59:03.52 ID:5x5pctH/0
 変だと思うだけでなく、気もすすまない。正直家電の仕事は気に入っている。今着ているトレーナーの表が“I ? HAKUMAI”で、裏が「飯食うか?」のAAだから、炊飯器に振られたのは結構うれしかった。しかし、鬼といえど、社命には従わなくてはならない。
 『OLは辛いねぇ。』専門職のプログラマがOLに当たるかどうかは分からない

  みゃ〜
 アラートねこに鳴かれる。今日の持ち帰りの仕事はもう済んだ。西洋の鬼に知り合いはいないが、ハイデルベルクの史学者に彼らに関係ありそうな研究をしている人がいる。
<>「向こうはまだ昼だから早寝早起きして夜に覗いてみようかなぁ」の辺りで、意識が横道にそれてたら、ポットにアクセスだ。

 「マントイフェル博士が呼んでるのに〜。」
 机をパタパタ叩きながら言ってみたが、それでどうにかなるわけでなく、そもそもそのような事実は一切無い。放っておいても勝手にハマるだろうと見立ててはいるが、何が起こるか分からないから博士の方は諦めて観察することにした。となれば、まずはお茶だ。

  みゃ〜ん
 例によってタイマーに頼って入れたので、相変わらず当人にとってはいまいちなお茶だ。アクセスログの方を見ると、昨日より手際は良くなっている感じだが、狙い目の絞りが甘いと思う。
 しばらくお茶を飲んでいると、残しておいた別の穴からまたしてもパスワードファイルが抜かれていった。本来転送されないファイルだが、攻撃で異常動作中だから転送されてしまう、というふうに設定してある。
<>昨日の様子からして、暗号化パスワードの逆引き辞書は持っているようだ。ほどなく入って来るだろう。

210ほのぼのえっちさん:2011/05/27(金) 22:00:44.06 ID:5x5pctH/0
  はぁー
 入ったところで、まずは深呼吸する。辺りを見回してみると、このディレクトリには何も無い。このままではどうしようもないから、管理者権限を取る。管理者になって眺めたシステムは意外と簡単で平凡な感じだが、「最小構成」+αだから考えてみれば当然のことだ。
<>管理者用のホームディレクトリを訪れると、“tools.tar.gz”というアーカイヴがポツンと置いてある。

 『うは、宝箱ぉ?』
 中を覗くと、“.sh”やらの役に立ちそうなファイルで溢れ返っている。詳しく調べてみたかったが、あまり時間をかけていられない。アーカイヴごと転送してしまうと、ルートキットを置き、他の後処理をしてからdeathstarを出た。
  うふっ
 「Congratulations! Present for you.」
  chu?
 ストーカーがアーカイヴの転送したのを見て、まずは他のハニーポットの撤収を始めながら口にした。「“/root/tools.tar.gz”の転送」がストーカー対策の「あがり」で、想定どおりに上手くいったようだ。
 とりあえずアーカイヴの中身は非現役のスクリプトなどだが、ワームが仕込んである。展開・抽出or時限で作動、ひたすら上の台詞を表示して増殖しCPUを占拠するが、既存のファイルを破壊することはないし、システムからネットワークに出ることもない。
<>ストーカーが誤って、踏み台にしたホストにアーカイヴを残してしまっていれば、そこにも迷惑がかかることになるが、それはこれからチェックするし、間に合わなくても、元々そこの管理が甘いのが悪い。

 『生者によっても生かされているのは確かだが、それがすべてではない。結局は死者から生まれた鬼だ。生者の秩序・都合に最後まで殉ずる義理はない。なるべく迷惑を掛けないようにはするが、必要なことは何であろうがさせていただく。』

 そういう考えでいる。
 夜中に忙しいことだし、相変わらず出向話が心に引っかかってはいるが、少し気分は良くなった。テーブル下の「うますぎ棒EX・DXヴァラエティーSPパック」から1本抜いて食べる。
 『うまうま。』

211ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 00:31:24.55 ID:nR/grnOo0
 ───めた」
 少女がそう確信した、次の瞬間。
 突然、にょっきりと生えたそれが、巨大化しながら迫ってくる。
「え?」
 彼女がそれに気付いたときには、それは既に目前に迫っていた。
 一瞬、思考が止まる。
 それは自らの前で、あんぐりと口を開けて。
 僅かな思考停止から復帰したとき、既に逃げる術は無く。
 あんぐりと開けられた口の中は、闇の色。
 それを見る少女の表情に、心に浮かぶもの。
 絶望、恐怖、絶望、恐怖、恐怖、恐怖────
 だが、それに対して声を上げる暇すらなく。
 彼女の意識は、闇の中に飲み込まれた。

212ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 00:34:23.78 ID:nR/grnOo0
 がばっ、と先に身を起こしてから、
「っひっ、ぃっ……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 と、肺の空気を搾り出しつくさん限りの勢いで声を上げた。
「なに、お姉ちゃ……むぐ」
「な、なな、なんだ、どうした何があった!?」
 少女の大声に、より幼い声が反応したが、それは倒れてきたそれの布に遮られた。
 少女よりは一〇は年上そうな青年が、フレームにカーテンの張られたついたてを倒して、少女よりも数段取り乱してバタバタとあたりを見回す。
「えっ、あ、あの……」
 ベッドの上の少女が戸惑っていると、倒れてきたついたてががたりとどかされ、その下から、ベッドの上の少女よりいくらか年下の少女が、怒り心頭といった様子で顔を出し、そして、暴れている青年を睨みつける。
「こんの……」
 ついたての下敷きになっていた少女は、そこから、上から下へと斜めに突き刺さるドロップキックを放つ。
「ド変態がぁ!!」
「ぐえっ!」
 それは青年の延髄あたりに突き刺さる。
 青年はその場に突っ伏すようにして床──に敷かれていた敷布団に向かって叩きつけられた。強烈なドロップキックで脳震盪を起こしたのか、青年はその場で昏倒してしまう。
「ったくバカキュウ」
 幼い方の少女が、カーテンのついたてを起こしながら、ぶつくさと愚痴るように言う。
 次に、やはり床に敷かれた敷布団と掛け布団を直しながら、ひょい、とその枕元に置かれた、ストレートタイプの携帯電話を取り上げると、通話切断ボタンを押し、ディスプレィのバックライトを点灯させた。
「だっ! まだ3時前だし! ったく、近所迷惑もいい加減にしてよね! このゴクツブシ」
 ついたての向こう側から返事は無かった。
「で、マミ。ここまでいきなり大声出して飛び起きて、どうしたの?」
「えっ?」
 幼い方の少女は、ベッドの上の少女に向かって問いかける。
「あ、うん……少し、恐い夢を見ちゃったみたい」
「どんな夢……?」
 決まり悪そうに言う少女に対して、幼い方の少女がさらに問いかける。


213ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 00:36:22.76 ID:nR/grnOo0
「えっと……?……うーん、あ、あれ? なんだかよく覚えてない、わ」
「ええーっ、そうなのぉ?」
 ベッドの方の少女が更に申し訳なさそうに苦笑してそう言うと、幼い方の少女は口をとがらせ気味にそう言った、
「ちぇっ、夜中に騒ぐから、何かと思って心配したのに」
「ごめんなさい」
 幼い方の少女が愚痴るように言う。
 すると、ベッドの上の少女は苦笑したまま、再度謝罪の言葉を告げた。
「まだ早いし、もう少し寝ておこっと」
 幼い方の少女は、そう言って布団の中にもぐりこんだ。
「マミも、もう少し寝ておいたほうがいいと思うよ」
「え、あ、うん。そうするわね」
 ベッドの少女も、そう言って掛け布団を被りなおした。
 ──なんだったんだろう、よく覚えてないのに、すごく……恐い、夢を見た、気が、する……
 少女の意識は、ゆっくりと眠りに落ちていった。


214ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 00:54:46.48 ID:nR/grnOo0
 巴家はワンルームに3人暮らし。
 数年前、少女達の両親は自動車事故で亡くなった。正確には一家全員が巻き込まれたが、後部座席にいた3人の子供は一命を取りとめた。
 近しい親戚は無く、引き取り手もいなかった。幸い、両親がそこそこの資産を溜め込んでいたので、とりあえず3人が学校に通いながら、慎ましやかに生活していく程度にはしばらく困らない額の金銭はあった。
「ふぁぁぁぁ……寝不足」
 床に敷かれた敷布団の上に立ち、大あくびをかきながらそう言うのは、長男、巴九兵衛。
 歳は21、身長はやや低め。髪をスポーツ刈りにした顔立ちは、整ってはいるがあえて美形と言うほどでもなく、それに目つきも悪い。既に学生の身分ではないが、さりとて定職にもついてない。ニート街道まっしぐら。
「何が。すぐおねんねしちゃったくせに」
 やはり敷布団を片付けながら嫌味っぽく言うのは、末子で次女の巴実真(みま)。小学5年生。
 やや癖のある強い髪を肩のあたりまで伸ばしたその姿は、素にしていればおっとりして見えるような顔つき。
「おねんねって、気絶したのを放置されてただけだろうが。風邪でも引いたらどうしてくれるんだ」
 九兵衛が睨むようにして言い返すが、
「キュウが風邪引くわけないでしょ」
 と、実真はさらりと嫌味で言い返した。
215ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 00:56:38.79 ID:nR/grnOo0
「お前な」
 九兵衛がさらに凄みかけたとき、
「はいはい2人とも、朝ご飯の準備が出来るから、喧嘩してないで部屋を片付けて?」
 キッチンセットの方から、もう1人の少女がやってきて、ぽんぽんと手を叩きながらそう言った。
「ね?」
 ────長女、巴マミ。
 見滝原中学校に通う2年生。
 妹である実真と同様の穏やかな容貌を持つが、その見た目通りに穏やかな物腰と、面倒見のよさそうな、ある種の母性を感じさせる雰囲気をまとっている。
髪の毛の長さは実真より少し長い程度。ただ中学生としては割合長身で、プロポーションも女性らしい体つきになっている。
「あ、ああ……」
「わかりましたー」
 九兵衛が毒気を抜かれたように間抜けな声を出し、実真がおどけたような声で返事をする。
 ワンルームの片隅に畳んだ布団を寄せて、代わりに足が折りたたみ式のローテーブルが置かれる。
 そこに、マミ手作りの朝食が並べられていった。
「いただきます」
 3人は手を合わせた姿勢でそう言ってから、朝食に手をつけ始める。

216ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 00:57:44.95 ID:nR/grnOo0
「それじゃあ、行って来ますね」
 制服姿のマミは、ランドセルを背負った実真とともに、マンションの玄関で靴を履いてから、一旦室内側を振り返り、微笑みながらそう言った。
 マミは髪の毛をうしろ、やや下の方から縦ロールをかけている。
 実真の方は、癖を完全に隠さずにサイドアップにしている。
「ん、行ってこい」
 九兵衛はジャージに半纏という、自宅警備員まっしぐらな姿で2人の向かいに立っている。マミの言葉に、穏やかに笑ってそう応えた。
「今日こそちゃんと、職見つけて来いよー」
「うるせー、言われなくても解かってら」
 実真の発した憎まれ口に、九兵衛も顔を睨むようにしかめて言い返す
「こらこら2人とも」
 マミが、流石に少し呆れたというような口調で、2人をなだめる。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 マミが玄関の鉄製のドアを開け、振り返るような姿勢で再度言う。そして実真とともに玄関を出て、パタン、と静かに扉が閉められた。
「さて、と」
 九兵衛は途端にヤル気なさそうな様子になって、だらだらと室内に戻る。
「アリバイ作りに一応ハロワでも行っとくかな……割の良いパートぐらい見つけても良いかも知んないし……」
 そう言いつつも、やってることといえば、マミのベッドの下からノートパソコンを引っ張り出し、それをローテーブルに広げて起動する事だった。
 ♪〜♪♪〜
「ん、電話?」
 マウスをその手に握って臨戦態勢に入ったかと思ったとき、携帯電話の着信音が九兵衛の意識を遮った。
 転がっていた赤い携帯電話を手に取り、フリップを開ける。
「!?」
 その着信相手の情報を見るや、九兵衛の表情が急に強張った。
 通話ボタンを押し、ゆっくりとした動作で耳元に受話器を当てる。
「…………もしもし」
 九兵衛は重い口調で、送話器に向かって声を出した。


217ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 01:00:25.53 ID:nR/grnOo0
「でしょー、アイツほんっと話し長いよね、それに宿題も多いしさぁ」
「でも、筋の通らない人じゃないし、あまり悪く言うのはどうかなって思うんだけど……」
 見滝原中学。
 廊下を歩きながら、教師について悪態をつく同級生を、マミはやんわりと諌めた。
 まもなく進級を迎えたこの時期になっても、生徒達の様子に特段の変わりはなかった。
 もっともマミ達は年度を越えればそうも言ってられなくなるだろうが。
「へいへい、さすが優等生は違いますね、と……」
 同級生は肩を竦めながら、からかうように苦笑して言う。
 その廊下の反対側から、1人の女生徒が歩いてきた。
 学校ならばよくある光景。──そう、そのまますれ違ってしまっていれば。
「巴マミ先輩ですね?」
 その少女は、一旦すれ違ったマミに向かって、振り返らずに声だけで問いかけた。
「え?」
 喧騒の中、決して大きくはない声で告げられたその言葉は、しかしマミにはやたらはっきりと聞こえた。
 マミが驚いて振り返ると、相手もこちらに向かい合っていた。
 艶のあるストレートの黒髪を腰の辺りまで伸ばした少女。
 美少女といって過言ではないのだが、何処か影がある。表情は僅かに怒気を孕んでいるようにも見える。
「妹さんは……元気ですか?」
「えっ?」
 制服は着ているから、同じ学校の生徒なのだろう。
 だが、見滝原中学は決して小さい学校ではない。面識のない生徒は、いくらでも居るのが普通だ。
「えっと……実真の知り合いなのかしら?」
 マミは、突然のことに加えて、相手の雰囲気に呑まれて、言葉を失い、ようやく搾り出すようにしてそう聞き返した。
「はい、……そのようなものです」
「実真は元気にしているけれど……あの、貴女の名前は?」
 マミは逡巡しながら、目の前の少女にそう問いかける。


218ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 01:01:56.61 ID:nR/grnOo0
「今は、まだ……」
 少女は無表情にそれだけ言うと、踵を返して、もともと向かっていた方に歩き去ってしまった。
「なにあの子」
 マミと一緒に歩いていた同級生が、不快そうな視線で、歩きさっていく少女の後姿を見る。
「1年生みたいだったけど……なに? マミの知り合いなの?」
「私は初めてだけど……実真の……妹の知り合いみたい」
 マミは、同級生の険悪そうな様子を和らげようと、柔和な苦笑交じりに、穏やかにそう言った。
「ふーん……それにしたって、あんな態度はないと思うけど」
「多分、なにかあったのよ」
 さらに険しい表情をする同級生に、マミはたしなめるようにそう言った。
「はいはい、マミは本当に優しいんだから」
 同級生の少女は、もう一度肩を竦めるポーズをとった。

219ほのぼのえっちさん:2011/05/28(土) 01:05:03.87 ID:nR/grnOo0

 放課後。
「妹さんによろしく……ね」
 呟きながら、マミは1人で帰り道を行く。
「おかしいのよね……」
 ──どこかで会った気がする。
 マミは出会った長髪の1年生の姿を思い浮かべながら、引っかかるその違和感に思考をめぐらせていた。
「見つけたー!」
「そう、見つけた……って、え?」
 不意にかけられた声に、マミは一旦無意識に反芻してしまってから、ふと顔を上げる。
 すると────その視線の真正面に、女性の姿が捉えられた。
 その女性の姿は異様だった。
 衣装が突飛だというのもある。露出度が高く、そう、ファンタジーで言うところの女悪魔やサキュバスが着ているような衣装に見える。
 それだけではない。
 女性は小さかった。小柄、身長が低いという意味ではない。文字通り、人形のような小ささだった。
 あまつさえ、宙にふわふわと浮いていた。
「え、え、あ、あなた……あなた…………?」
 その姿を見て、マミはしかし、そのこと事態には驚かなかった。
 ただ、その姿を指差して、口をパクパクとさせながら凝視する。
「やっと見つけたよ。マミ」
「あなたは……」
 記憶が蘇る。
「かなえた願いの契約、果たしてもらうよ」
 小さな女性は、そう言ってくすりと笑う。
「魔法少女の契約を」


220ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:43:41.56 ID:RzaWWrer0
登場人物

如月雫   ……本編の主人公。お嬢様なのに普通の人、と本人は思い込んでいる。オタク趣味。女子高生。負傷により左腕が機械義手になった。
           AMS−HD9870EXP『シューティングスター・エクスペリエンス』(機体色は赤)の搭乗者。
           中盤以降、かなり攻撃的な性格になっており、敵と見なせば容赦なく殺しに掛かる。精神感応力が異常に高い。
如月源八  ……雫の祖父。大金持ちで科学者。シューティングスターの開発・改造に着手する総司令。現在、敵拠点にて軟禁されている。
弥生美香子……雫の友達。おっとり系。雫のことが好き。巫女さん。AMS−RH2870『アルティザン』(機体色は山吹色)の搭乗者だった。
           戦闘で受けた怪我で再起不能状態だったが如月邸の襲撃と時を同じくして何者かに拉致された。消息は未だ不明。
           密かに精神干渉能力を持っている。
卯月冬矢  ……喫茶店『KAMUI』のウェイター。23歳独身。自作AMS『神威MkV』(機体色は鉛色)の搭乗者。沈着冷静。
           最初は難病を煩う妹(香苗)の治療費を稼ぐため裏家業に足を突っ込んでいたが、雫に雇われてからは重要な彼女の右腕となる。
御神楽節子……源八の助手。クールビューティー。なんとかいう武術の達人。ツッコミは鋭い。
黒田さん  ……如月家の執事。あらゆる乗り物を運転できる。神出鬼没。忍者の一族として訓練を受けており、暗殺技術は突き抜けて高い。
室畑     ……政府の特務機関Asの局長。冷酷非情。でもマリィ大好きなオッサン。魔装『鬼鴉』の所有者。
柊川七海  ……Asの隊長。元変身ヒロイン。元気だけどおっかない女性。19歳。たいていは海外出張(主に米軍基地)している。
           AMS−GTX00/SLI『アレンデール』(機体色は白)の搭乗者。白い悪魔の異名を持つ。
高岡水瀬  ……七海の親友。性格は温厚で生真面目。素性は明かされない。
マリィ    ……Asの現場主任。見てくれ15歳の美少女。AMS−X05『ファントムナイト』(機体色は黒)の搭乗者。七海を尊敬している。
           M.A.R.Yシステムのコアとして製造された人造人間であり、システム発動中は超次元的な戦闘能力を発揮する。
稲垣孫六  ……Asの隊員。副主任としてマリィの傍に付いている。二十代後半。AMSはJ602『ミヅチ』(機体色は群青色)。
高橋     ……田嶋署の刑事。役職は警部補。定年前の初老だががっちりした体格。下水道内で獣魔に襲われ死亡。
前原     ……同署の刑事。高橋の部下。三十代前半の風貌。体格はもやし。機械系に強い。
クレール=J=サツキ
        ……元『地獄の壁』の隊長。16歳で階級は准尉。ブロンドのウェーブ髪の少女。A−GMA3『グラディウス』(機体色は黄色)の搭乗者。
           捕獲後、強化人間化。ヘルハウンド部隊の指揮官として如月邸を襲撃するものの、戦闘により死亡する。
マリア    ……15歳。生き別れの姉を捜している。現在は傭兵部隊『アローヘッド』に所属している。
           性格は大人しく、いつも何かに怯えている。でも長距離からの狙撃では神がかり的な命中精度を誇る。
水無月千歳……マリアの同僚で大親友。17歳。クールになりきれない性格。戦場では刀一本を手に突撃する戦闘狂。
           一途で思い込みの激しい激情家。かつての同僚である卯月冬矢を今でも慕っている。
キース=ハワード
        ……同じく傭兵。25歳。老け顔の男。千歳に惚れている。隊内ではサブリーダー的なポジション。

221ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:44:59.74 ID:RzaWWrer0
登場人物

如月雫   ……本編の主人公。お嬢様なのに普通の人、と本人は思い込んでいる。オタク趣味。女子高生。負傷により左腕が機械義手になった。
           AMS−HD9870EXP『シューティングスター・エクスペリエンス』(機体色は赤)の搭乗者。
           中盤以降、かなり攻撃的な性格になっており、敵と見なせば容赦なく殺しに掛かる。精神感応力が異常に高い。
如月源八  ……雫の祖父。大金持ちで科学者。シューティングスターの開発・改造に着手する総司令。現在、敵拠点にて軟禁されている。
弥生美香子……雫の友達。おっとり系。雫のことが好き。巫女さん。AMS−RH2870『アルティザン』(機体色は山吹色)の搭乗者だった。
           戦闘で受けた怪我で再起不能状態だったが如月邸の襲撃と時を同じくして何者かに拉致された。消息は未だ不明。
           密かに精神干渉能力を持っている。
卯月冬矢  ……喫茶店『KAMUI』のウェイター。23歳独身。自作AMS『神威MkV』(機体色は鉛色)の搭乗者。沈着冷静。
           最初は難病を煩う妹(香苗)の治療費を稼ぐため裏家業に足を突っ込んでいたが、雫に雇われてからは重要な彼女の右腕となる。
御神楽節子……源八の助手。クールビューティー。なんとかいう武術の達人。ツッコミは鋭い。
黒田さん  ……如月家の執事。あらゆる乗り物を運転できる。神出鬼没。忍者の一族として訓練を受けており、暗殺技術は突き抜けて高い。
室畑     ……政府の特務機関Asの局長。冷酷非情。でもマリィ大好きなオッサン。魔装『鬼鴉』の所有者。
柊川七海  ……Asの隊長。元変身ヒロイン。元気だけどおっかない女性。19歳。たいていは海外出張(主に米軍基地)している。
           AMS−GTX00/SLI『アレンデール』(機体色は白)の搭乗者。白い悪魔の異名を持つ。
高岡水瀬  ……七海の親友。性格は温厚で生真面目。素性は明かされない。
マリィ    ……Asの現場主任。見てくれ15歳の美少女。AMS−X05『ファントムナイト』(機体色は黒)の搭乗者。七海を尊敬している。
           M.A.R.Yシステムのコアとして製造された人造人間であり、システム発動中は超次元的な戦闘能力を発揮する。
稲垣孫六  ……Asの隊員。副主任としてマリィの傍に付いている。二十代後半。AMSはJ602『ミヅチ』(機体色は群青色)。
高橋     ……田嶋署の刑事。役職は警部補。定年前の初老だががっちりした体格。下水道内で獣魔に襲われ死亡。
前原     ……同署の刑事。高橋の部下。三十代前半の風貌。体格はもやし。機械系に強い。
クレール=J=サツキ
        ……元『地獄の壁』の隊長。16歳で階級は准尉。ブロンドのウェーブ髪の少女。A−GMA3『グラディウス』(機体色は黄色)の搭乗者。
           捕獲後、強化人間化。ヘルハウンド部隊の指揮官として如月邸を襲撃するものの、戦闘により死亡する。
マリア    ……15歳。生き別れの姉を捜している。現在は傭兵部隊『アローヘッド』に所属している。
           性格は大人しく、いつも何かに怯えている。でも長距離からの狙撃では神がかり的な命中精度を誇る。
水無月千歳……マリアの同僚で大親友。17歳。クールになりきれない性格。戦場では刀一本を手に突撃する戦闘狂。
           一途で思い込みの激しい激情家。かつての同僚である卯月冬矢を今でも慕っている。
キース=ハワード
        ……同じく傭兵。25歳。老け顔の男。千歳に惚れている。隊内ではサブリーダー的なポジション。

222ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:46:08.46 ID:RzaWWrer0
第17話 「逆襲の朝、悪夢の幕開け」

夜襲に一番向いている時間帯はいつだろう。
陽の出ているときは問題外。夕飯時もいただけないし、だからといって深夜十二時前後も人間の意識は明瞭だ。
ならば何時くらいが好ましいのか。
答えは午前2時から4時まで。いわゆる丑三つ時。
この時間帯は大抵の人間が深い眠りに入っていて、覚醒するまでに時間が掛かる。
しかも一日の中でもっとも外気温が下がっているため、身体能力だって低くなっている。
あらかじめその時間に備えでもしない限りは、状況の変化に対応できないのだ。
そういった理由があって、迫撃砲の轟音が最初に鳴り響いたのは午前2時を過ぎた頃合いだった。

『アローヘッド1より各員へ通達。賽は投げられた。繰り返す、賽は投げられた!』

無線機の向こう側から水無月千歳の声と、これに被せて爆発音が聞こえた。

「お嬢様。降下ポイントに到達しました」
「うん、ありがとう」

その上空800メートル地点には軍事色の輸送ヘリが一台。
操縦桿は万能運転手でもある執事が握っている。
如月雫は次にいつ着られるかも分からない明るいブラウン調のブレザー制服を着込んでいて、しかし腰には控えめに見たって不似合いな鋼色のベルトを巻いている。いや袖から出ている手が同系色だから、ある意味では似合っているのかも知れない。
ヘリの後部ハッチにはパラシュートを据え付けた神威MkVがすでに飛び降りる体勢に入っている。
神威は高々度からの落下には耐えられない仕様上、機械ベルトで空中変身なんて洒落たマネはできないのです。

「冬矢君、フォローはお願いね」
『了解した』

インカムで仲間に告げた後、側面ハッチをスライドさせる。
風がゴウと音を立てて少女の髪をなびかせる。
胸中にあるのは友人を救い出そうとする決意と、あとついでに爺様を奪還したいとかいう願い。
執事をはじめとする他の面々は爺様が最優先なのだろうけれど、代理で後始末を負わされた孫娘としてはむしろ運良く生還することがあったなら一発ぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいだった。

「一緒に頑張ろうね、シューティングスター」

腰に巻いた機械ベルトを指先で撫でて、それから飛び出した雫。
吹き荒ぶ風に身を任せつつ、ベルトの作動スイッチを押す。

「――変身!!」

鉛色の皮膜が少女をプレスする形で出現し、有無を言わせずサンドイッチする。
自由落下で膜を突き破ったその四肢はすでに鋼鉄の塊であり、そこからさらに紅蓮の炎に包まれる。
ドンと大地に降り立った輪郭は見るも鮮やかな紅色に染まっていた。

【網膜照合クリア。声紋認識クリア。脳波パターン正常。
  ――ジェネレータ駆動値を6に設定。バッテリー残量、97%
  ――システム・オールグリーン。AMS−HD9870EXP『シューティングスター・エクスペリエンス』、起動します】

システムの起動音を聞きながら周囲を見渡す。
それまで見回りをしていたであろう歩哨が数名、何かを叫びながら駆け寄ってくるのが見える。
7メートルほどの高さの鉄塔の上で敵兵が機銃を構えていたが、初弾を吐き出すより先に上空から狙撃されて地面に墜落した。

「さすがね、神威くん」
『褒めるのは生きて帰ってからにしてくれ』
「じゃあ、みんなが無事に帰れたらお祝いにケーキパーティーしましょう」
『どういう理屈だ。というか俺が焼くのか?』
「もちろん!」
『……構わないが、だったら一人で突っ走って怪我なんかするなよ』
「は〜い☆」
223ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:47:37.86 ID:RzaWWrer0
軽口を叩いた後は行き先を真っ直ぐに見据えてバックパックのブースターに火を灯す雫ちゃん。
頼れる味方機はまだパラシュートにぶら下がっていて、着地にはあと数十秒を要するだろう。
神威の射程圏は命中精度込みで70メートルといったところだから、彼が着地するまでにそれ以上距離を開けなければフォローはしてもらえるはず。
基地は森林で囲まれており、ドカンドカンと爆発が起きたって民家に影響は無さそうだ。

「よし。行こう!」

今夜は月が出ていて、そこへAMSに装備されている赤外線暗視カメラを足し合わせれば暗闇など問題のないレベルだ。
後方にある正門付近に目をやると、仲間の傭兵部隊が続々と侵入しているのが見える。
彼らはリーダーである水無月と、キースと、狙撃担当のマリアちゃん以外は防弾チョッキに軍服姿だった。
というか彼らが当初から活動していた中東ではAMSはたとえ旧式の粗悪品であったとしても高級で、そういった事情から扱える人間が少ない。
しかも屋敷に予備の機体が三つしか無くて、だから結果としてこちら側の戦力はAMSが5機と歩兵が6人といった体たらく。
それでも敵を混乱させる事に成功しているのは、彼ら歴戦の傭兵達がドンピシャのタイミングで迫撃砲の弾を着弾させてくれたからだろう。
今作戦での歩兵部隊の役割は初弾により敵部隊を混乱させる事と、そして何より退路の確保にある。
だから人々は本格的な突入をせず、正門付近で弾幕を張りつつAMS部隊が戻ってくるまで粘る。
最新の情報ではこの基地で運用されているAMSは50を下らないし、それらは全て夜間戦闘に特化させたタイプらしいから、全機が出張ってくるとこちらは瞬く間に全滅してしまうだろう。
そうなる前に作戦を完了させなければいけない。
前方を顧みれば建物の窓の隙間から覗いている敵影はまだ少ないし、隣接する倉庫からAMSが飛び出してくる気配もない。
慌てふためき手近にあった小銃を引っ掴んでやって来た敵兵ならば10人だろうが20人だろうが雫ちゃんの敵ではなかった。

「ていっ!」

小銃から吐き出される弾丸を難なくかわして敵陣まで迫ったAMSが、恐怖に目を見開く数名を撲殺する。
トンファーを持つ手に肉と骨とを砕く感触が伝わるけれど、そんな事にいちいち動揺するほどか弱い雫ちゃんではなくて、
障害物をあらかた薙ぎ倒した後はこの頃になってようやく着地した神威君が追いついてくるのを待つ。
神威のさらに後ろには水無月さんが駆るメタリックブルーの機体と黄土色の機体、それから小さな狙撃手が着込むモノトーン・カラーの輪郭がある。
それらは美香子ちゃんの機体『アルティザン』の改良型として量産された機体で、射撃は元より格闘も遠距離狙撃もそつなくこなす万能型だった。

『おい冬矢、お前の雇い主はいつもあんな突っ込んだ戦い方するのか?』
『ああ、だから援護する方も大忙しだ』
『嫁さんにしたくないタイプだな。危なっかしくて見てられねえ』

あとで聞いた話ではチームリーダーが単機で敵集団の中へ突っ込んでいくなんてのは有り得ない話らしい。
そりゃあまあ、指示を出す人間が鉄砲玉みたいなマネしちゃダメなんだろうけれど、これまでのやり方をいちいち変えるのは性に合わないし小細工も苦手なので正々堂々と真正面から殴りかかる雫ちゃんです。

「そこ、くだらないこと言ってないで早く来なさい!」

でもそれを言ったら傭兵達のリーダーだって一番乗りで日本刀振り回す凶暴女じゃない。
男共の談笑に目くじら立てる少女は怒鳴ってやろうかしらとも思ったけれど、前方にAMSの輪郭を見つけて即座に頭を切り換える。
そりゃあ、どんなお粗末な軍事施設であっても敵襲への備えはあるわよね。特に色々と恨みを買っている攻撃基地ともなれば防衛用のAMSだって配備されていて当然。
まあ、雫ちゃんとしては自機の限界を試してみたくてウズウズしているわけだし、後退だとか撤退だとか、そんな単語は思い浮かびもしないのだけれど。
出現したAMSは4体ほど。どれも全身ステルス色で手に歩兵より一回り大きな口径の小銃を装備している。
乾いた唇を舐めてニヤリと凶暴な笑みを浮かべる雫は、機体の駆動力を手動で最大値まで引っ張り上げて、腰を落として突っ込む体勢を整えた。
224ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:49:01.17 ID:RzaWWrer0
『切り込むなら私も手伝うぞ』
「おっけ〜、じゃあ、十秒で片付けるわよ!」

不意に目端に併走する影を見つけて言葉を交わす雫ちゃん。
半歩ほど遅れる格好で追従するのは出撃前に一悶着あった水無月千歳さん。
抜いているのは光学式の刃を持つ刀で、機体とセットで彼女に与えられた代物だ。
紅色とメタリックブルー、二人の少女は凄い早さで敵影に突っ込むと、それぞれ二つずつ、すれ違いざまに撃破する。
まさしく秒殺だった。
後方からの支援射撃を加えればツートップに死角は無い。

「けど驚いたわね。てっきり後ろから斬り掛かってくるものかと思ったのだけれど」
『仕事と私情を分けられないプロフェッショナルはいない。貰った給料ぶんの仕事はするさ』
「そう。じゃあ、期待しておくわ」

軽口を叩きながら施設の玄関口まで辿り着いた二人はそれぞれ周囲を警戒しつつ仲間の到着を待つ。
ややあって追いついた男共を伴い前進、地下へ続く通路を探す。
すぐに見つけたのは機材搬入用エレベータで、迷うことなく全員で乗り込む。
ゴクンッと振動があって、下へと動き始める鉄箱。
爺様がこの施設に捕らわれているという情報はあっても具体的にどの部屋に軟禁されているのか分からない。
それに美香子ちゃんも見つけなければいけない。
そういった理由から地下では二手に分かれる算段だった。

「じゃ、みんな。手はずは分かってるわね?」

とはいえ、たとえ爺様を発見したとしても無線傍受の可能性を恐れて連絡は行わない。
どちらが見つけようと、どちらも見つけられまいと制限時間いっぱいで捜索を切り上げて撤退する。
そうしないと迎撃に出てきた増援に全滅させられるから。
生き残っていれば再度の奪還作戦が立てられる可能性だって出てくるかもしれないワケだし、だからこそ死んではいけない。
全滅は彼女らにとっての完全な敗北を意味するのだ。

「よし、いくわよ!」

開いた扉の向こう側へと決死の覚悟で踏み入る雫ちゃん。
廊下の先に簡易的なバリケードを構築して小銃をぶっ放す輩が幾らかいたけれど、神威が肩に担いでいる携帯ミサイルをぶっ放せばただそれだけで静かになった。
ここに至るまでに時間のロスがほとんどないから目一杯に動けるだろう。
爆炎と黒い煙の渦巻く中を突っ切って、最初のT字路に差し掛かった人々は互いに頷き合ってそれぞれ別の方へと身体を向ける。
狙撃担当のマリアちゃんはここに居座って退路を確保する係。
なので雫と冬矢くん。千歳さんとキースさん。このペアが実働の救出班になる。

「冬矢君、私たちは美香子ちゃんも探さなきゃいけないから、相当にハードよ?」
『承知している』
「よし!」

レーダーを見れば神威が憎らしいまでに正確に距離を開けて追いかけているのが分かる。
幾つかの部屋を見つけて中を確認したけれど爺様の姿も友人の姿も見当たらなくて、かなり焦ってきた頃合いになってから二人は廊下の奥、突き当たりの部屋に足を踏み入れた。

『……どうやら俺達はハズレのようだな』

冬矢君が舌打ち混じりに囁いたけれど、雫ちゃんの耳には入らない。

その部屋はとても気味の悪い空間だった。
やけに天井の高い空間には所狭しと円柱型の巨大水槽が並んでいて、中は緑色の液体で満たされている。
液体の中に浮かんでいたのは、どう考えても人間のものとしか思えない大きさの脳みそ。
脊髄とか神経細胞とか、そういうのをくっつけたまんま人間の脳みそが、全ての水槽の中にあった。


225ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:51:11.17 ID:RzaWWrer0
「っていうかさ、この施設って、ただの攻撃基地じゃなかったの?」
『吐くのは後にしてくれよ』
「大丈夫。吐き気より怒りの方がキテるから」
『いや、気持ちは分かるが、なるべく冷静に頼む』
「うん。できるだけ我慢する」

B級SF映画のワンシーンを彷彿とさせる光景の中を進む二人。
少女の脳裏にとても嫌な考えが浮かんだけれど、すぐさま却下した。
なるべく何も考えないように水槽の部屋を進んでいくと一番奥にさらに鉄製の扉があって、
それはIDカードと指紋・声紋・網膜パターン照合式とかいう近未来的な代物だったけれど、冬矢君が自機から伸ばしたボードを差し込むと途端にブルーランプが灯った。

「え、何やったの?」
『ハッキングした。世の中にはこういう便利な道具が出回っているんだ』

彼の言い分にもツッコミたい所はあるのだけど、どうしたって腹の底まで迫り上がってくる怒りと悲しみとで言葉に出来ない雫ちゃん。
最深の部屋は先ほどとは違って何も無い広々としたフロアになっていた。
壁は何の装飾もないコンクリートで天井には梁のつもりなのか赤っぽいH鋼が走っている。
等間隔にぶら下がっている裸電球が床のコンクリートに光を照り返していて、やって来た侵入者2人の影と、それとは別の影を足下に描き出していた。

『――襲撃部隊の基地に夜襲とは恐れ入るぜ』

野太い男の声が少女の耳に入ってくる。
それは赤銅色のAMSだった。
見るからに重厚そうな装甲。如何にも馬力のありそうな四肢。手には回転式のガトリング砲が握られている。
一見して近接戦闘に長けた機体のように思われる。
肩にはドクロを象った部隊章がペイントされており、目元から覗く真っ青な光が不気味さを醸し出していた。

「……あんたは?」

インカムから声を聞いたと言う事は、すでに無線の周波数を合わせられているということ。
ならば今さら慌てふためく事もない。
雫が尋ねると男の声が落ち着いた音色で返してきた。

『ヘルハウンドの隊長さ。といっても、俺自身は【オルトロス】の隊員なんだがな』

『つまりヘルハウンドは洗脳した兵士による部隊で、それを統括しているのがお前達と言う事か』

『そういうこった』

割り込んできた冬矢君の声はここに至っても冷静だった。
雫ちゃんとしては「とにかくコイツがボス敵なのね」くらいにしか思わなかったけれど、彼の中では色々と真実が見えているらしい。
先ほどの光景から胃に穴が開きそうなくらいムカついている雫ちゃんは、さっさと終わらせようとトンファーを構え直す。
そんな紅機体に、赤銅色はガトリングではなく何も持っていない方の手をかざした。

『ところで、貴様らは魔法というモノを信じるか?』

男が言うと、かざされた掌に光が収束する。
敵機はその光を惜しげもなく放った。
ドカンと爆音を轟かせて、後方の壁がひしゃげた。
でも黒ずんではいなくて、だから銃の類ではないのだろうと察する。
まあ、要するに前回屋敷を強襲した女と同様の手法だということだ。

「……それがどうかしたの?」
『驚かないんだな』
「脳みそぶちまけて死んでしまえば同じ肉の塊でしょ?」
『ああ、そうだ。そうだとも』

肩のドクロを震わせて哄笑する男。
気が違ったのか、そもそも最初からおかしいのかは知らないけれど、ピタリと笑うのを止めた敵機の中の人は、次に手にしたガトリングを少女へと向けた。
226ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:52:40.83 ID:RzaWWrer0
『脳みそに特殊なチップを埋め込めば魔法使いだか超能力者だかにはなる。
  でも、それだけなんだよ。実験と戦闘を繰り返して、寝れば悪夢にうなされて。もう5年も続いてる。やってらんねえんだよぉ!!』

怒りに吠えたてる。
そうか。前回のあの女も、この男も、人工的な魔法使いなのね。
ファンタジーではなくてサイエンスフィクションなら遣りようがある。
脳とか心臓とか、致命傷を与えればカタがつく。
雫ちゃんは考えて手合いの攻撃が始まるタイミングを見極める。
飛び道具を持たない少女の必勝パターンは、やはり銃弾をかいくぐって相手の懐に飛び込んでの攻撃。
神威君はその援護に気を回すはずだから、彼から先制攻撃というのは有り得ないだろう。
行く先の軌道を何パターンか考えつつ、雫はさらに腰を落とした。

『貴様らはハラワタぶちまけて死ね! 今すぐに!!』

そして鈍い射撃音が堂内いっぱいに響き渡る。
少女の目は銃口から吐き出される光を捉えていた。
相手の殺意の矛先が、なぜだか白い筋になって見えて、その軸線から逃れるように動けば弾丸は自然と逸れていった。

『当たらねぇ?!』

驚く声が聞こえた。
銃声が、あと五秒で鳴り止む事が分かった。
そして、感じ取ったのと同じ未来が訪れる。
ああそうか。
スローモーションになった景色の中で、敵機めがけて突っ込んでいく中で、不意に悟った。
病院前での事故を予見できたのも、屋敷のゲートをくぐる時に覚えた不吉な感じも。
あれは別に魔法とか特別なものではなくて。
単に『死の臭い』を読み取っていただけなんだ。
だから今、どこに居てどちらに向かえば自分が安全なのか、手に取るように分かってしまう。
今この時。この部屋で最も安全なのは間違いなく敵の懐で、攻撃を繰り出す事こそが自身の生き残る唯一の手段。
だから雫は真っ直ぐに、脇目もふらずに突進すると躊躇うことなく構えていた拳をトンファーごと突き出した。

ベキョベキョ!!

鉄が悲鳴を上げる。
堅い手応えが腕から伝達されてくる。
けれど、まだ浅い。もう一歩踏み込まなければ装甲を抜けない。
「ちっ」
吐き出された舌打ちは誰の物だったのだろう。
突然感じた嫌な気配。見れば束になった銃口がこちらに向けられている。
雫は本能的に仰け反り、その反動で突き立てた得物を引き抜くのと同時に銃口をも蹴り上げる。
ガガガガガッ。
天井を向いた金属筒ががなり立てる音を聞いた。

『だったら、これはどうだぁ!!』

赤銅機械から発せられた雄叫び。
最大レベルの嫌な予感が訪れた。
鋼の輪郭に青白い光が灯ったかと思えば、爆発的な圧力が放出されたのだ。
全身がバラバラになりそうな衝撃を受けながら、シューティングスターが吹っ飛ばされる。

「きゃああぁぁぁ!!」
『雫!』

地面に激突した少女は幾ばくかの間呼吸困難に陥っている。
身体が動かない。どうにか目だけで敵の姿を捉える。
ゴウンッ、ゴウンッ。
援護射撃のつもりなのか、鉛色の神威君がライフルをぶっ放している。
しかし弾き出された弾丸は敵機の十数センチ手前で停止して、それぞれにひしゃげて床に落ちていた。
227ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:54:21.77 ID:RzaWWrer0
『くっ……これも魔法の力か!!』

冬矢の呻き声だ。
敵が赤銅色の面具の裏側でニタリと笑んだ、ような気がした。

『オルトロスの隊員が、雑兵に劣ると思うなよ!!』

それから敵は何も無い掌を天井にかざす。
するとその手の上に無数の黒い筋が収束して、やがてそれは真っ黒で巨大な球になった。

『死ね!! 虫けらども!!』

叫んだ勢いで放たれた黒球。
雫の視界いっぱいに迫る暗黒。
ゾクリと背筋が粟立って、その理由を突き止める暇さえなく少女は暗闇に飲み込まれていった。

+++

真っ黒な世界に佇んでいた。
夢や幻の類なのか、それとも今まさに死の淵を渡らんとする最期の光景なのか、雫には判断がつかない。
ただ、床も壁も天井も全てが真っ黒な中で、微かな浮遊感を覚えながら少女はそこにいる。

【――雫ちゃん】

誰かに呼ばれた様な気がした。
とてもとても懐かしい声。
けれど、どれだけ目を見開いても声の主を見つけ出す事ができない。

ミカ……。

呟いてみたけれど、自分の声が音になっているか自信がない。
と、何かが頬に触れた。
誰かの細くて暖かい手。
するとそれまで真っ暗だった世界に色が現れる。
僅かに光を灯す、友人の輪郭。
長くて艶やかな黒髪が暗黒の中でさえハッキリと見て取れた。
友人は神社の神主さんが着ているような服を着込んでいて、なぜだかその顔には困ったような悲しんでいるような表情が浮かんでいた。

あんた、こんなところに居たの。ホラ、帰るよ。

言ってみたけれど、我ながらとても間抜けな台詞だと思った。
美香子は眼を細めて微笑むと少女の頬に添えた手をそっと離して、こう言った。

【奇跡は、ここにあるんだよ】

キュウゥゥゥゥ――。
どこかで微かな駆動音が鳴り始める。

【MKCデバイスよりドライバの転送を受け付けました。システムの書き換えを実行します……、完了。
  脳波リンクを開始します。ジェネレータ駆動値を120に設定。魔力ブースト率を1000倍に固定。
  システム、EXPモードに移行します】

聞き慣れたはずの合成音が聞き慣れない言葉を連発する。
このシューティングスターという機体の中には一体何が積み込まれているというのか、パイロットには想像できなかった。


228ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:56:17.87 ID:RzaWWrer0
【あたし達は、ずっと一緒だよ】

反響する声が胸に深く染み込んでいく。
そして視界は再び暗闇へ。
ドクン。
鼓動が一際高く脈打つ。
目を閉じて、開く。
底のない暗闇?
違う。これは単に殺意の具現化をぶつけられた結果。
理解する。
敵から魔法による攻撃を受けているだけ。
防御する手段は?
魔法とは性質を変容させた魔力でしかない。
それなら反する性質の魔力をぶつければ、それは消滅する。
魔力とは自然界に満ちているエネルギーと自分の体内エネルギーとを混合した物。
法則を理解すれば、精神のチャンネルを合わせれば誰でも扱える物。
ならば、私にもできる。
魔法による攻撃は魔法によって弾き返す事が出来る。
だから、私にはできる。

「分かったよ、ミカ。……ありがとう」

呟いて未だ暗闇で見えない手を前にかざす。
恐れも怒りも、如何なる感情も感じなかった。
ただ確信があった。全てが自分の思い通りになるという確信。

「道を開けなさい!!」

腹の底から声を絞り出す。
その言葉に呼応するように、暗闇に盾に一本白い筋が入ったかと思えば、どんどん押し開かれてゆくじゃあないか。

『俺の魔法が破られただと?!』

形作られた道の向こう側に赤銅色のAMSが居た。
相手は焦った声でガトリング砲を持ち直すとこちらに向けて発砲してくる。
しかし吐き出された弾丸の嵐は、紅色の装甲の10センチ手前でひしゃげて停止していた。

『馬鹿な!!』
「こういう事ができるって教えてくれたの、アンタだよ」

そして腰を落とす。
全身の装甲が赤く、もっと紅く、炎のような煌めきを放つ。

【――対象座標を固定します】

合成音が言い終えるのと同時に敵機の四肢に光の輪っかが出現してその動きを封じる。
敵は藻掻こうとするが拘束が解かれる事は無かった。

『バインドだと?!』

【――《聖域》を展開しました。魔力濃度圧縮率、臨界値を越えました。攻撃を開始して下さい】

よく聞くとアナウンスする合成音は友人の声にとてもよく似ていた。

そっか、ずっと一緒に戦ってきたんだね――。

姿のない友人をとても身近に感じる。
優しい手が背中を押してくれたような気がした。
少女はふと微笑んで、身を委ねるように前へと躍り出る。
229ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 17:58:41.55 ID:RzaWWrer0
「――ゴルディアン・キック!」

真っ赤な光に包み込まれる。
機体そのものが真っ赤な光になる。
身動き撮れない標的が凄い早さで迫ってくる。
勢いを付けて、跳び蹴りの体勢に入った流星。
真っ赤な塊は床と平行にカッ飛んで、ほどなくして敵機を射貫いた。

『貴様……、そうか、あの方と同じ力を……!』

ヘルハウンドの隊長を名乗った男はそれだけを最期に吐き出すと木っ端微塵に爆発した。
敵機を射貫いた後、その背後に着地していた紅機体は肩越しに敵の塵になってゆく様を顧みる。

「少年誌にありがちな台詞を死に際に言わないで。お願いだから」

膝を付く格好だったので立ち上がろうとするけれど、どうしたことか尻餅をついてしまう雫。
モニタを見れば電力残量が底を尽きかけている。
いや、それ以前に足腰に力が入らなくて、駆け寄ってきた神威君に抱えて貰わなければ立ち上がる事さえ出来なかった。

『おい、大丈夫か雫!?』
「うん、なんとか」
『詳しい事は後で聞く。制限時間を切ったから脱出するぞ』
「うん、分かった」

仲間の腕を借りつつ来た道を返す二人。
途中で数名の敵兵に出くわしたが神威に残されていた弾薬でどうにか撃退して進む。
二手に分かれたT字路に差し掛かったとき、雫達は別れた人々と再会した。

「元気な様子じゃの、雫よ」
「クソジジイ……あとでぶん殴る」

そこには捕らわれていた源八爺さんが居た。
どうやら水無月チームは無事に仕事をこなしたらしい。

順調に地上階へと上った面々は大急ぎで建物から離脱する。
目端では格納庫から続々とAMS部隊が出陣するのが見えたけれど、彼らとやり合うつもりなんてさらさらない。
目的は達成されているのだから、あとは一目散に逃げ帰るだけなのだ。

「こっちだ、早くしろ!!」

門の所で粘っていた仲間達が怒鳴っている。
その後方には輸送ヘリが風切り音を轟かせている。
爺様は水無月さんが背に負ぶっていて、しんがりの冬矢君とキースさんが火力で追撃を押さえていた。

+++

こうして、どうにかこうにか奪還作戦を成功させた人々は、輸送ヘリに乗り込んで脱出。
全員無事に半壊した屋敷まで帰還できたのは出来過ぎとしか言い様がない。

しかし如月邸の地下施設に舞い戻った総司令は、全員の労をねぎらうより先に、施設に勤めているスタッフも含めて全員に招集を掛けると会議室に集めた。
230ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:44:33.09 ID:RzaWWrer0
「ワシらはここで決断をしなければならない」

源八総司令は開口一番にそう告げた。

会議室の壇上に巨大なスクリーンを広げて映写機で幾つかの写真を映し出す老人。
時間はすでに明け方になっていた。
しかし詰めかけた人々は不眠不休の作業で疲れ切っていて、どれもこれも目の下にクマを作っている。

源八爺さんの説明は、獣魔と呼ばれる地球外生命体の存在を明かすところから始まった。
全身を堅い甲羅で覆われた、昆虫の形を摸した生き物。
力が強く装甲の厚いクモ型。ステルス性に長けたゴキブリ型。飛行能力を持つハチ型。とにかく大群で押し寄せてくる軍隊アリ型。
他にも亜種なのかオオエンマハンミョウ型やリオック型。サソリ型にムカデ型と多種多様な獣魔が存在するが、全てに共通するのは人間を捕食するどう猛な肉食獣だということだ。
狐につままれた顔のスタッフ一同は、しかし何枚かの写真を見せられるうちに真剣な面持ちへと変わってゆく。
提供された資料ではアメリカ領内に出現したネストを壊滅させるために米軍は大規模な空爆を実施したらしい。
その後、半瓦解した巣に侵入を試みた軍の一個師団が半日を待たずに全滅、再度の三個師団同時投入によりどうにか殲滅する事に成功したという事実を告げたときには総員が真っ青な顔をしていた。
そしてつい先日、監視衛星から送られてきた写真により、日本領の島の一つ、佐渡島に獣魔の巣が形成されている事が判明した。
島内の街はすでに肉食昆虫共の狩猟場と化しており、生存者は皆無。
島への交通はすでに封鎖されていて、海上保安庁の船がガッチリ固めているらしい。

「これが我が国の現状じゃ。米国以外の国は黙りを決め込んでおるが、遠からずどこも同じになるじゃろう。
  なにせ相手は今の時点で推定500兆匹、あと十年もすれば地上を埋め尽くすじゃろうからな」

このバカバカしい数字を述べるときだけ老人は憎々しげに口端を歪めた。

「さて、ここでワシらに突き付けられた選択肢がある。
  政府は近々、佐渡島ネストの大規模な殲滅作戦を行うらしい。
  自衛隊も総動員させる予定じゃ。Asも出張ってくるし、総力戦になるじゃろう。
  そんな戦争へワシらは招待されておる。弾薬も装備も人間も、全てが足りない中での招待じゃ。
  しかしこの戦で敗れれば遠からず人類は滅亡するじゃろう。そういう戦じゃ。
  時間が惜しいので各自早急に決断して欲しい。ワシはこの作戦に乗るつもりじゃが、皆はどうする。
  妻子の事もあるじゃろう。命が惜しい者もあるじゃろう。
  ワシはそういった者を非難しない。一度きりの人生じゃ。誰にも己の意志に従う権利があるとワシは思う。
  故に、一時間だけ待つ。命を捨てる覚悟をするか、この地を去るか。各々、時間はないが慎重に選んで欲しい」

会議は老人の演説で締めくくられた。
思い思いの面持ちで会議室を去ってゆく背中達。
主要な人々だけが取り残される頃になって、孫娘は老人の胸ぐらを掴んで詰め寄った。

「どういうことよ、このクソジジイ!!」
「うお、なんじゃ雫。ついに家庭内暴力か?!」
「落ち着け雫」
「むうぅ!」

冬矢君に制止されて掴んでいた手を離す少女は、しかし鼻息も荒く総司令を睨み付ける。
爺様の説明では、軟禁されたあの朝、彼は普段から懇意にしていた政治家の家に出向いていたらしい。
そのツテを辿らなければ政治の世界に首を突っ込めないからだ。
しかし目的地に到着する間際になって、黒ずくめの集団に拉致されてしまった。
まあ、要するに先手を打たれたということです。
約束を取り付けていた政治家が裏切ったのか、それともすでに動きを察知されていたのかは分からない。
どちらにせよ黒ずくめ達は政府の手の者で、拉致した老人を現首相の前へと引きずり出したのだ。
そこで行われた話し合い。
それは要約すると、政府に協力して兵隊を出すか、もしくは関係者全員を強制収容所送りにするかの二者択一を迫る内容だった。
老人は考える時間を求めたが、その煮え切らない態度に腹を立てた首相が彼を攻撃部隊の駐留所に送り、ついでに屋敷への攻撃命令を出したと。
そんな経緯だった。


231ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:45:43.72 ID:RzaWWrer0
「そのおかげで家は半壊、私は合同葬儀を執り行わなきゃいけなくなったワケね」
「いや、それは本気でスマンと思っておる」

深い深い娘さんの溜息。

「だけど意外よね。自分の家を攻撃されて死人まで出たって言うのに、爺ちゃん、話に乗るんでしょ?」

ここまでやられたら、私だったら意地でも蹴るのだけれど。
特に自分の欲望や嫉妬心には正直な老人なだけに、その決断には信じられないものがある。
ひょっとしてすでに洗脳されているんじゃあなかろうか。
雫ちゃんの疑いを晴らすように老人は飄々と答えた。

「じゃが大切な孫娘を戦地に送るのじゃから、タダでは受けんよ」

どうやらこのジジイ。作戦成功と同時に軍事基地を一つ貰い受ける所存らしい。
独自にAMS開発と量産・運営を執り行う、政治から切り離された軍事組織の設立を軟禁されている中で提示していたのだ。
そして脱出する間際に通信室から『この襲撃は家を狙った事に対するケジメじゃ』と発信しておいた。
こうしておけば今回の奪還作戦が正当化できるし、報復攻撃を心配する必要も無い。

「っていうか、それって私たちが行かなくても普通に帰って来れたってことじゃあ……」
「バカモノ。こちらの実力を見せておかんと今後の遣り取りでナメられるじゃろうが!」

転んでもただでは起きないこの老人。
こちとら水槽漬けの脳みそまで見せられたっていうのに……。
ちょっぴり殺意の芽生える雫ちゃんです。

「それはそうと、美香子のこと、ちゃんと捜索かけておいてよね!」
「うむ、心得た」

だけど肝心の友人の事に関しては、老人は知らないと答えるだけだった。
少なくとも源八爺さんが連れてこられてから今に至るまで、基地に誰かが運び込まれた気配は感じなかったとの事で。
なので今度は政府の目も借りて友人の捜索をお願いしようと画策する雫ちゃんです。

だけど、実を言えば。
友人はもうこの世に居ないのではないかと考えている。
戦いの中で感じた彼女の気配が、それと触れ合った自分の本能的な部分が、密やかに友人の死を直感していたから。
だからあまり期待はしない。
今はただ前だけを向いて進もう。
もしも友人の無事な姿を見る事が出来たのなら、直感とかは気のせいだったで片付けて素直に喜ぼう。
そう、無言のまま決意する。

一時間の後、再び会議室へと集まった人々。
その数は若い工員が幾名か抜けただけで、以前とほとんど代わり映えがなかった。
これが喜ぶべき事なのか、自殺志願者の多さに辟易すべきなのかは分からないけれど。
どちらにせよ爺様のカリスマ性は未だに健在なんだなぁと再認識せざるを得ない雫だった。

232ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:48:40.45 ID:RzaWWrer0
第18話 「白い悪魔、黒い天使」

その日、As本部の格納庫に二人の女が訪れていた。
一人はAsの部隊章と猫を象ったワッペンをそれぞれに貼り付けたジャケットを着込み、通り掛かるスタッフの方々からいちいち会釈される女性、柊川七海隊長であり。
もう一人は長い黒髪を首元で結わえた女性。
二人は年齢が同じでそれぞれに美人だったけれど、身に付けているのがジーンズやらジャケットやらで、しかも化粧と呼ぶほど大層なメイクも施していないから色気もへったくれもない。

「急に押しかけちゃってごめんね七海」
「タイミングが良かったね。先週だったら出張してたから入れ違いになってたわ」
「出張って?」
「米軍基地。細かい事は言えないけれど、新兵の教育とかしてたの」
「そっか、大変だね。そう言えばリュンクスの人達は?」
「みんなも似たようなものよ。年に数回、本部から招集が掛かったときなんかに会うのだけれど、相変わらず忙しいみたい」
「そっか……、山岸君は?」
「徹は元気だよ。でもって来年くらいに結婚するの」
「そう。式には呼んでね」
「もちろんだよ☆ そういう水瀬ちゃんは? ええと、異世界にあるっていう学校に通ってたんでしょ?」
「うん、卒業してからしばらくの間、色々と動き回っていたの」
「じゃあ今は正式になんとか騎士団の一員なんだ。凄いね」
「女神近衛騎士団。通称でナイツね。けど正式にはなってないの。試験で落ちちゃって」
「あらま。ええと、その、気を落とさないでね」
「落ち込んではいないわよ。もう過ぎた事だし」

二人して笑いながら鉄の臭いが漂う中を進む。
二人は幼い頃からの親友だった。
高校を卒業してからそれぞれに別の道を歩む事になったけれど、こうして再会できた事は素直に嬉しい。
七海の親友は高岡水瀬という名前で、実は戦う変身ヒロインとして一緒に戦った事もある娘さんだった。
とはいえ一時は対立していたし、七海から右手を奪った張本人でもあったりするのだけれど。
それでも今は全ての問題が解決されているし、お互いを親友として認め合っている。

「ずっとこっちに居るの?」
「う〜ん。色々とやらなきゃいけない事はあるけど当分の間は暇だし、しばらくはお世話になるんじゃないかしら」
「そうなんだ。じゃあさ、この後お買い物に行かない? 夏に着る服が欲しいの」
「ええ、いいわよ」
「じゃ、決まりね」

どういう経緯なのかは分からないが水瀬さんはAs局長である室畑氏に連絡を取り、しばらくのあいだ客人として居候させるよう約束を取り付けた。
でもって、客人といえど元、というか現役の変身ヒロインなのだから居る間だけでも働いて貰おうという事になって。
それで彼女専用のAMSを新たに新調する事にしたのです。だから二人して格納庫くんだりまでやって来たと、そういう次第なのです。
いや、まあ。色々と思う所はある。
一台で高級車が何台も買えてしまうようなバカ高い機体を、どうして正規雇用されていない人間のためにあつらえるのか、とか。
これを決定した局長とはどういった関係にあるのか、とか。
そもそも変身ヒロインに機械甲冑であるAMSなど着せる意味があるのか、とか。
だけどわざわざ尋ねようとする勇敢な猛者はいなくて。
七海としても親友に会えたというだけで満足していて詮索するつもりも無いようだしで、真相が暴かれる事は無さそうだ。

そうこうする間に、二人はデッキの前までやって来た。
デッキには見た事のないAMSが据え付けられている。
装甲の淵は金色で、基調になっている漆黒色と所々に走る赤い筋とが絶妙な色加減を形作っている。
見てくれははミリィのファントムをさらにゴテゴテさせた感じだ。
その足下に踞っていた若い工員が二人の気配に気付いて慌てて立ち上がった。

「どうも、お疲れ様っス」
「おつかれさま〜」
「その機体が?」
「……ああ、搭乗される方っスね。この機体がGTX02『プレストニア』。開発局から送られてきた新鋭機っス」

作業していたのは二十代前半の青年で、油まみれの作業服ポケットから紙切れを取り出して何かメモを取っている。

「試験運用は明後日からッス。仕様書には目ぇ通しておいてくださいね。……それにしても凄い機体っス。一体誰がこんなの考えたんでしょうねえ」
233ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:50:44.55 ID:RzaWWrer0
一体誰がと聞かれれば二人が思い浮かべるのは一人きりなのだけれど、それはさておき。
青年工員は今度は七海さんの方に顔を向けるとポケットから布の包みを取り出した。
差し出されたそれを受け取って開いてみると、そこには銀色に艶光る石がある。
GTX00/SLI『アレンデール』の心臓部とも言える石、ラピッドストーンと呼ばれる物質だった。

「七海さんの機体は一週間ほどメンテで動かせないから、石だけ抜いておいたっス」
「え、そんなにかかるの?」
「オイル交換だけじゃあなくて部品もいくつか取り替えなきゃいけないんで」
「もっと早くできないの?」
「そう思うならもっと丁寧に扱って欲しいッス。データを見せて貰いましたけど、七海さんは操作が荒っぽすぎるッス。AMSは繊細なんスよ」
「あうぅ」

苦笑を漏らす水瀬さん。ガックリ項垂れる七海さん。
若い工員は次の仕事があるからと溜息混じりに去っていく。
そそくさ用事を終わらせた二人は、その足で本部から抜け出した。
就業時間まではまだ幾ばくかあったけれど、七海は隊長として街を見回ってくると言えば誰も反論なんてできないし、水瀬に至っては正規の職員ではないからどこに外出しようと本人の自由。隊長さんの付き添いであれば尚のこと文句を言ってくる人間もない。

商店街を練り歩き、ショッピングモールであれやこれやと買い込んで、ケーキが美味しいと評判の喫茶店『KAMUI』でお茶などしていれば、気が付けば午後5時を過ぎていた。

「水着も買ったし、服も買い込んだし、ストレスも発散できたしで言う事無いね☆」
「七海、この季節に水着って、ちょっと早すぎない……?」
「ん、次の出張先は南の島だから、そこで着るの」
「海で泳いだりして腕、錆びたりしない?」
「大丈夫、水瀬ちゃんが居ない間に何度かバージョンアップしていてね。今のは錆びないしパワーも耐久力も抜群だから、今なら戦車と戦っても負ける気がしないよ!」
「いやいや、戦車と勝負することと水着は関係無いから」
「そうじゃなくて、南の島っていうのが武装ゲリラの動きの激しい場所でね。ひょっとしたら本当に素手で戦車に挑まなきゃいけなくなるかもなの」
「……あんたってば、人生サバイバルを地でいってるわね」
「そう? 褒められると照れるな」
「いや、褒めてないから」

喫茶店を出た後は寮でパスタを作ろうということになって、夕暮れ時のアスファルトに互いの影を落とす。
キャッキャウフフと両手一杯に紙袋を提げて家路を急ぐ。
七海は学生時代に戻ったようにはしゃいでいたし、その親友も苦笑は多かったけれど楽しそうだった。
やがて閑静な住宅地を突っ切り、細い裏通りに差し掛かった二人は、そこで日常と非日常の境目に出くわした。

「柊川、七海さんですね?」

黒ずくめの男が5人、二人の行き先を阻む格好で立ち塞がった。
肩越しに見遣ると挟み撃ちする格好でさらに4人。
そのうちの何人かは懐に手を忍ばせていて、拳銃などを隠し持っているのだろうと容易に推察できる。
七海さんは「今日の運勢、悪くは無かったんだけどな」なんて他人事のようにうそぶくと溜息混じりに両手の荷物を落とした。

「あたしが何者か分かって近づいたって事は、もちろん殺される覚悟もできているのでしょ?」

一歩小柄な輪郭が前に出る。
空気が一変し、男達の間に緊張が走る。
しかし彼らは胸元の得物を引き抜くでもなく、一番手前にいた人間が僅かに進み出ると口を開いた。

「我々は政府直属の特殊部隊『オルトロス』から派遣されてきました。貴女を本部まで案内する任務です。
  周辺地域への被害を鑑みて手荒な事はなるべく避けたい。黙って付いてきていただけませんか?」
「オルトロス……暗殺専門の外道集団が周りの迷惑を考えるなんて意外ね」
「外道とは心外です。我々も好きこのんでそういった任務に従事しているわけではないのですよ」


234ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:52:22.48 ID:RzaWWrer0
黒ずくめの声は若い。察するに30代前後といったところだろう。
見回してみれば確かに周りは民家で、こんな所で派手な立ち回りをすれば一軒か悪くすれば数件が色々と被害を被る事になる。
素手で戦うぶんには問題無くとも、この人数を相手取るなら攻撃魔法の使用も避けられないだろうし。
七海さんは考えて、だったら相手の拠点で暴れた方が手っ取り早い上に後腐れ無くて良いんじゃあないか、なんて結論に至って地面に落とした紙袋を持ち直す。
隣の親友に目配せすると、彼女は慎重に成り行きを見守っている様子だった。

「あたしは行かない方が良いの?」
「どっちでも良いけど、あたし個人としては一緒に来て欲しいな。そのぶん早く終わるし」
「そんなに頼りにされても困るんだけどなあ……」

ヒソヒソと遣り取りする娘さん方。
水瀬さんが苦笑混じりに返すと相方はニッコリと笑顔で頷いて見せる。
つまり、交戦状態に陥った際には彼女にも手伝えと、そう言っているのです。

「分かったわ。でも、せめて荷物は家まで届けて欲しいな」
「ご安心下さい。こちらで届けておきますので……おい」
「はっ」

男は気が長くないのだろう。女性達のひそひそ話に割って入った後は背を向けて付いてくるよう催促するのだ。
ここで待ったを掛けたのはなぜか水瀬だった。

「ちょっと待って。その前に胸のポケットに何を仕込んでいるか見せて貰えないかしら?」

呼び止められて振り返った男は、少しばかり苛ついたのか荒っぽい仕草で懐に手を入れるとそこに収められていた物品を取り出した。
他の人間達も同様に隠し持つそれを提示する。
彼らの手にあったのは拳銃ではなかった。刃物でもなかった。一様に黒く艶光る塊だった。
異世界でも、こちらでも、ラピッドストーンと呼ばれる代物だった。

「これで満足ですか?」
「……ええ、結構よ」

ラピッドは、本当はAMSに搭載するための部品ではない。
ラピッドは、本来は所有者の魔力を増大させ、魔法を行使するシステムを構築するための演算装置であり。
ようするに戦う変身ヒロイン達が振るう超常の力を、それ以外の人々でも発揮できるようにと開発された工業品だった。
そして、そういった代物を所持していると言う事は、つまりは彼らは全員とも拳銃ではなく魔法で攻撃を仕掛けるつもりだったと、そういうことなのだ。
少しばかり鋭くなった目で黒ずくめ達の後を追う水瀬さん。

「……面白い事になりそうじゃない」

誰にも聞き取れない声量で呟く。
別の観点から見ると、彼らが所属する組織では魔法という物の運用体制が確立されているということになる。もちろん製造も含めての話だ。
七海の所属するAsにしても、このオルトロスとかいう戦闘機関にしたって、現政府内で立ち上げられた組織には違いが無くて。
だからといって表だって魔法の情報を公に開示する事はしてなくて。
それはつまり、政府は魔法を運用する事で影から世界に影響を与えようとしているということ。
いや正しくは、あの科学者が在籍するSXSという組織が、なのだろう。
この先、獣魔の存在により窮地に立たされる事になるであろう人類にとっては、それはもしかしたら良い事なのかも知れない。
けれど、少なくとも愛とか正義とか、そういうものの守護者として君臨する女神近衛騎士団とは全面的な対立を生み出すことになる。
なぜなら騎士団はラピッドを犯罪の発生源、即ち『悪』と見なしているのだから。
悪の産物を扱う人間は悪。悪に組みする者も悪。悪は人間ではなく徹底的に屠るべき敵。敵は全て殺せ。
それが古から今に至るまでの女神に忠誠を誓う彼女らの一貫した考え。
結果として神の代弁者を気取る殺戮者達は、そう遠くない未来でこちら側の世界に宣戦布告することになるのだ。
水瀬はすぐ前を歩く背中達に無機質な視線を投げかける。


235ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:54:31.21 ID:RzaWWrer0
高岡水瀬、かつてミスティアークの名で愛と平和のために戦った女は、とうの昔に絶望していた。
己の信仰のためなら簡単に他者を踏み潰してしまう女神騎士の人々にも。
信者の暴走を止める素振りもせずに力を供給し続ける女神にも。
もちろん己の欲望のためなら躊躇いもせずに悪事を働く人間達は今でも憎らしい。
けれど、それを暴力で押し潰して無かった事にするのは違うと思うのだ。
ましてや神だの仏だのが手を下すなど筋違いにもほどがある。
だから水瀬は、まず女神とその眷属を滅ぼそうと思った。女神という存在を消してしまえば、その恩恵を享受する側もまた消滅する。
人を壊すのは人。ならば人を裁くのも人でなければならない。
それが過去に失われた命と引き替えに得た、たった一つの願いだった。

+++

黒ずくめ達は全部で10人居て、小道から出たすぐ先で停車していた白いワゴン車二台で移動を開始する。
移動していた時間は一時間弱といったところだろうか。
市街地から少し距離を置いた、山道に差し掛かる直前で自動車はエンジンを停止させた。
娘さん二人が拉致されてやって来たのは山の裾野にポッカリと口を開ける防空壕よろしくの入り口で、煌々とコンクリート敷きの床を照らし出す裸電球が奥まで続いている。

「随分と素敵な住処じゃないのさ」

思わず軽口を叩いてしまう七海さん。
黒ずくめ達は依然として緊張の気配を漂わせていて、先ほど言葉を交わした男がここでも先導して二人を案内する。
入り口から十メートルくらいまでは剥き出しのコンクリートだったけれど、そのさらに奥は金属製の通路になっていた。
長い廊下を進むと十字路が幾つかあって、曲がり角など全て無視して直進した団体様はそこに最新式のエレベータを発見する。
AMS一個小隊を運搬することを目的に設計されたエレベータであれば生身の人間12人くらい難なく積載できる。
分厚い鉄製扉から乗り込んだ一行は微かな振動と共に下へと降りてゆく。

「到着です」

やがて開いた自動昇降機の扉。
黒ずくめ男の声が静かに宣言する。
エレベータの向こう側は大きな部屋になっていた。
何も無い、がらんどうの部屋。
部屋の奥には格納庫のハッチを思わせる昇降式の鋼鉄扉があって、その向こう側から低い唸り声にも似た振動が伝わってくる。
中央付近まで押しやられた二人は、黒ずくめから少し待つように言われた。

「……これだけ要塞化されたんじゃ、生半可な攻撃は通用しないわね」
「水瀬ちゃん、気乗りしない様子だったのに今はやる気満々だね」
「そりゃあ、ラピッドを見せられた以上は、ナイツの端くれとしてはやる気にもなるでしょうよ」
「あ、そっか。ナイツって確か、ラピッド狩りもやってるんだっけ」
「そういうこと。といっても正規じゃないから本当はどちらでも構わないのよね。まあ、成り行き次第ってところかしら」

周囲の人々が二人から距離を開けて取り囲んでいる。
娘さん達は小声でお喋りしつつ、新たな登場人物を待っている。

「相手は全員ラピッドで武装した魔法使い。数は、建物の規模から考えて精鋭が200ってところかな。一般兵も含めて1000人くらいを見積もっておいた方が良さそうね」
「それって一個大隊並みじゃない。いくらなんでも多すぎない?」
「でもAsだってスタッフ全員の数を合わせればそれくらい居るでしょ? 同時期に組織された戦闘部隊なのだから均等に割り振られていたっておかしくはないわ」
「だけど、もしそうだったとして一人で500、やれそう?」
「う〜ん。ラピッドを運用する施設なだけに魔力防御も施しているだろうから壁抜きは難しいでしょうね。となると長期戦覚悟で虱潰ししていくしかなくなるけれど、それもたいがいしんどいのよねぇ」
「やろうと思えば出来るみたいな言い方だね」
「アンタはどうなのさ?」
「相手にもよるけどきっと大丈夫」
「そう。だったら問題は無いわね。仕掛けるタイミングには注意なさいよ」
「は〜い」


236ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:55:51.32 ID:RzaWWrer0
高岡水瀬、かつてミスティアークの名で愛と平和のために戦った女は、とうの昔に絶望していた。
己の信仰のためなら簡単に他者を踏み潰してしまう女神騎士の人々にも。
信者の暴走を止める素振りもせずに力を供給し続ける女神にも。
もちろん己の欲望のためなら躊躇いもせずに悪事を働く人間達は今でも憎らしい。
けれど、それを暴力で押し潰して無かった事にするのは違うと思うのだ。
ましてや神だの仏だのが手を下すなど筋違いにもほどがある。
だから水瀬は、まず女神とその眷属を滅ぼそうと思った。女神という存在を消してしまえば、その恩恵を享受する側もまた消滅する。
人を壊すのは人。ならば人を裁くのも人でなければならない。
それが過去に失われた命と引き替えに得た、たった一つの願いだった。

+++

黒ずくめ達は全部で10人居て、小道から出たすぐ先で停車していた白いワゴン車二台で移動を開始する。
移動していた時間は一時間弱といったところだろうか。
市街地から少し距離を置いた、山道に差し掛かる直前で自動車はエンジンを停止させた。
娘さん二人が拉致されてやって来たのは山の裾野にポッカリと口を開ける防空壕よろしくの入り口で、煌々とコンクリート敷きの床を照らし出す裸電球が奥まで続いている。

「随分と素敵な住処じゃないのさ」

思わず軽口を叩いてしまう七海さん。
黒ずくめ達は依然として緊張の気配を漂わせていて、先ほど言葉を交わした男がここでも先導して二人を案内する。
入り口から十メートルくらいまでは剥き出しのコンクリートだったけれど、そのさらに奥は金属製の通路になっていた。
長い廊下を進むと十字路が幾つかあって、曲がり角など全て無視して直進した団体様はそこに最新式のエレベータを発見する。
AMS一個小隊を運搬することを目的に設計されたエレベータであれば生身の人間12人くらい難なく積載できる。
分厚い鉄製扉から乗り込んだ一行は微かな振動と共に下へと降りてゆく。

「到着です」

やがて開いた自動昇降機の扉。
黒ずくめ男の声が静かに宣言する。
エレベータの向こう側は大きな部屋になっていた。
何も無い、がらんどうの部屋。
部屋の奥には格納庫のハッチを思わせる昇降式の鋼鉄扉があって、その向こう側から低い唸り声にも似た振動が伝わってくる。
中央付近まで押しやられた二人は、黒ずくめから少し待つように言われた。

「……これだけ要塞化されたんじゃ、生半可な攻撃は通用しないわね」
「水瀬ちゃん、気乗りしない様子だったのに今はやる気満々だね」
「そりゃあ、ラピッドを見せられた以上は、ナイツの端くれとしてはやる気にもなるでしょうよ」
「あ、そっか。ナイツって確か、ラピッド狩りもやってるんだっけ」
「そういうこと。といっても正規じゃないから本当はどちらでも構わないのよね。まあ、成り行き次第ってところかしら」

周囲の人々が二人から距離を開けて取り囲んでいる。
娘さん達は小声でお喋りしつつ、新たな登場人物を待っている。

「相手は全員ラピッドで武装した魔法使い。数は、建物の規模から考えて精鋭が200ってところかな。一般兵も含めて1000人くらいを見積もっておいた方が良さそうね」
「それって一個大隊並みじゃない。いくらなんでも多すぎない?」
「でもAsだってスタッフ全員の数を合わせればそれくらい居るでしょ? 同時期に組織された戦闘部隊なのだから均等に割り振られていたっておかしくはないわ」
「だけど、もしそうだったとして一人で500、やれそう?」
「う〜ん。ラピッドを運用する施設なだけに魔力防御も施しているだろうから壁抜きは難しいでしょうね。となると長期戦覚悟で虱潰ししていくしかなくなるけれど、それもたいがいしんどいのよねぇ」
「やろうと思えば出来るみたいな言い方だね」
「アンタはどうなのさ?」
「相手にもよるけどきっと大丈夫」
「そう。だったら問題は無いわね。仕掛けるタイミングには注意なさいよ」
「は〜い」

237ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 18:58:25.81 ID:RzaWWrer0
余裕綽々の二人だった。時折笑みを零す女性達の姿は、大勢に囲まれている状況の中では奇異な代物でしかない。
しかし、それすら自然と感じさせるほどに、二人は幾多の戦場に身を投じ、骸の山を乗り越えてきているのだ。
そして、そんな異様な空気を察知しているのか黒ずくめ達は遠巻きに固唾を飲む姿勢を崩さない。
しばし待たされて正面奥のゲートが重厚感に満ち溢れたがなり声と共に開かれた。

「ごきげんよう」

やって来たのは年の頃20代前半の、小柄な女性だった。
肩に掛かる長さのおかっぱ髪。服装はカーキ色のジャケット、その下に太ももが見える丈の黒いワンピース。足に革のロングブーツを履いている。
女は口元に笑みを浮かべ、しかしとても暗い目で七海さんを見据えている。

「あなたがAsの白い悪魔、柊川七海さんね?」
「ええ、そういう貴女は?」
「初めまして、私、蒼井聖と申します」

蒼井と名乗った女は含み笑いして見せた。
その独特な、蛇が獲物を狙うかのような雰囲気に七海の背筋が逆立つ。
どうにも生理的に受け付けないタイプの人種なのだろう。

「それでこんな山奥まで連れてきて、一体どんな用件かしら?」

七海が冷静な音色で尋ねると、女は首元を飾る黒いブローチを指で弄びながら答えた。

「私たちは近々、大規模な強襲作戦を行うつもりなの。それであなたにも協力してほしいのだけれど、どうかしら?」

七海さんは相手の言葉を吟味して、やや間を開けて答えた。

「そういう話なら政府側に話を通すのが筋ではなくて? 同じ政府直属と言っても組織としては別枠なのだし」
「そうもいかないの。だって、私たちが攻撃するのは国会議事堂なのだから」
「ああ、つまり、クーデターを起こそうっていう事ね?」

この時点で七海さんの表情は辟易していた。
かつて、クローン技術で戦士を大量生産して全世界に向けて宣戦布告した人々が居たし、そんな彼らの野望を打ち砕いたのは他ならぬ七海だったから。
彼女はポケットから銀色の石を取り出して、指で弄びつつ言葉を紡ぐ。

「参考までに聞いて置くけれど、断ったらどうなるのかしら?」
「もちろん今ここで死んで貰うわ。貴女の大切な恋人にも相応の代償を払って貰うし」
「彼もここに?」
「ええ、どうせ死ぬなら同じ墓穴に入った方が本望でしょ?」
「ご愁傷様」
「どういう意味かしら?」

怪訝な顔の女。反して七海さんはとても愉快そうに笑う。

「水瀬ちゃん。これで私たちの負担は3ぶんの1になったね」
「そうね。帰ってパスタを作る時間までできたわ」
「何を言っているのかしら、あなた達は」

すぐに分かるわ、それまでアナタが生きていられたらの話だけれど……。
それだけを言って、手の中のラピッドストーンを突き出して見せる。

「アレンデール、セットアップ」
【SET UP】

その傍で溜息混じりに菱形の青い石を取り出し、両手で包み込むと祈る仕草で呟く水瀬さん。

「エンジェライズ・リフレクション」

すると彼女たちの輪郭から白と黒、二つの色合いを含む光が放たれ、それぞれに衣服を分解・再構築する。
次の瞬間に同じ場所に立っていたのは、それまでとは違う存在だった。
238ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 19:07:47.28 ID:RzaWWrer0
「たまにはAMS無しの戦いってのも悪くないわね」

一人は白の闘士。
丈の短い白マント、結わえるのは真っ赤なリボン。
銀色の髪。金属製の靴は白く。長いのと短いの、二種類を組み合わせた複合スカート。
右腕に装着されているのは黄金色の竜頭手っ甲で、竜の顔には白い縁取りがあった。

「それじゃあ、ちゃっちゃと片付けますか」

また、もう一人は黒の騎士。
細い体を包み込む漆黒のマントと同色衣。長い髪はツインテールに結い上げられ、金色に染まっている。
胸元には紺碧色の宝石が装飾金具にはめ込まれる格好で静かに光を放ち。
手には狂おしく身をよじるように捻れた黄金の弓が握られている。

二人は居並んで周囲の黒ずくめ達を見る。
男達は懐からラピッドを取り出して各々に攻撃態勢を整えている。
また、開きっぱなしのゲートからステルス塗装されたAMSが30体、大型火器で武装した歩兵が100人ほど、駆け足でやって来ると女二人を取り囲んだ。

「まだ返事をして貰っていないのだけれど、変身したと言う事は話を断ったと考えて良いのかしら?」
「ええ、大勢で押し包んで力づくで言う事聞かせようっていうその根性が気に入らないわ。話の内容が何であったとしても答えは同じよ」
「せっかく死ななくて済むチャンスをあげたというのに、本当にお馬鹿な子」
「残念だけれど、あんたは根本的なところで思い違いをしているわね」
「どういうことかしら?」
「こういうことよ!」

叫ぶのと同時に白い輪郭が掻き消える。
七海は地面スレスレの跳躍で手近な集団に向けて突っ込むと、そこにいた人間達の首関節をことごとく捻り折る。
ものの十数秒で20以上の骸が、突っ立っている七海の足下に転がった。

「周りが全員敵だと敵味方を区別する手間が省けて楽だわ」
「くっ……!」

女が顔を歪めて舌打ちする。
だが別の方から上がった言葉で我に返った。

「こういう建物の中での銃の使用は自分の首を絞めるだけだって、どうして気付かないのかしら?」

意識が白ヒロインに向いていて、もう一人には全く注意を払っていなかった。
その隙に水瀬は弓に付いていた金具をせっせと外し、必殺技を放つ体勢を整えていたのだ。
金具の取り払われた黄金弓は左右に割れてXの形へと変形する。
そこに光の糸が出現して、指を掛けて引けば巨大な光の矢が出現した。

【FULL CHARGE】
『駆けろ! スプラッシュ・トレイサー!!』

放たれた矢はそこからさらに変形して光の隼へと姿を変えた。
翼を広げた塊は敵集団に直撃する手前で急に旋回して、隊列を真横から急襲する格好で薙ぎ払う。
この攻撃でフロアにいた兵の7割が、AMSやラピッド石の有無に関係無く胴体を引き裂かれて絶命した。
隼は最後に蒼井聖に迫ったが、激突する寸前で彼女が腕を振り抜くと爆発、光は飛散する。

「……やってくれるじゃない」

憎々しげに絞り出された言葉が僅かに反響する。
けれど、その声に反応できる人間は居なかった。
他の誰も彼もが、常識を覆す光景に息を飲むしか知らなかった。
それ以外の人間、つまりは攻撃を行った当人達はそれがごく当然の結果だと言わんばかりの顔で、まだ居残っている敵を見渡す。

「七海、早く片付けたいから二段階目に移ろうと思うのだけれど、アンタはどうする?」
「うん、いいね、そうしよう!」
239ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 19:09:42.70 ID:RzaWWrer0
弓をコンクリート床に突き立てた水瀬。
彼女はマントの内側から茶色い帯――空手や柔道の胴着に使われているような帯を取り出すと腰を捻る勢いだけで身に付ける。

「リフレクション・ツヴァイ!」
【UP DATE】

やたらと巻き舌な合成音を響かせつつ、いわゆる二段階変身というものが始まった。
背中と肩口をすっぽり覆っていた黒マントが、まるで花開くように二つ対の翼になった。
肩に少しばかり大きめの装甲が出現し、腕には漆黒色のガントレットが生えだしてくる。
またツインテールに結っていた紐が、ブラウン色のリボンに換装された。
そして手には上端と下端にブレードの付いた、接近戦でも凶悪な殺傷能力を発揮しそうな黄金の弓。
神々しさを放ちつつ、黒双翼の天使がそこに居た。

一方の七海は竜頭型手っ甲の上蓋をスライドさせると、そこへ一見して単三乾電池を思わせる物質を挿入。
「カシャコンッ」なんて音と共に蓋を閉めると竜の目に光が灯る。

「もういっこ、変身!」
【COMPLETE】

黄金色の手っ甲が啼いた。
白マントが失われて、引き替えに卵形の塊が背に二つ現れた。
塊は機械的な駆動音を唸らせつつ変形、それぞれ真っ白な光の翼を吐き出す。
マントの無くなった肩口には小さなショルダーパッド。
これが彼女の二段階変身。白い悪魔と恐れられる七海さんの本気の姿。

水瀬さんと七海さん。歴戦の変身ヒロイン二人は一瞬だけ目と目を合わせると、綺麗にハモるタイミングで口を開いた。

「「オーバークロック!!」」
【【Over Clocking!】】

同じタイミングで言ったものだから追随する合成音まで見事にマッチして、それがちょっと面白かったけれど。
ともかく白と黒、二つの輪郭が瞬間的に残像となってフロアいっぱいを駆け巡る。
二人が立ち止まった次の瞬間に、部屋で銃を構えていたはずの兵隊達がバタバタと倒れ込み、残されたのは女だけ。
蒼井聖は二人を睨み付けると「化け物め……」なんて呟くばかり。
死屍累々の中で、しかし女は気を取り直したように含み笑いするとそれぞれに距離を置く二人に言葉を投げかける。

「おかげで貴重な戦力が随分と減らされてしまったわ。一体どうしてくれるのかしら?」
「アンタが居なくなれば全て解決すると思うのだけど」
「ふふっ。そう、私と戦おうと言うのね。面白いわ、素敵なアイデアよ。けれど、上手くいくかしら?」

いちいち鼻につく仕草で胸元の黒い宝石を握り締めた女は、思い切りよく引きちぎってかざして見せた。
女の輪郭からどす黒い光が揺らめき立つ。
「サタナイズ・リフレクション……!」

その刹那、床と天井が真逆になった。
部屋の四方を囲む壁が剥がれ落ちて、その先に気色悪い紫色の空間が広がる。
それまで立っていた輪郭が闇に溶けて、次に巨大な爪が向こう側から闇を引き裂く。
出現した蒼井聖は真っ黒な衣装とオレンジ色の光を放つ金属爪に身を包んでいた。その目が赤く、怒りと憎しみの光を放っていた。
七海は、水瀬も、それを恐ろしい代物だと思った。


240ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 19:12:26.25 ID:RzaWWrer0
「最初はね、私だって女神に祈りを捧げていたの。けれどアイツは女神なんかじゃあなかったの。
  祈りも願いも、何一つ叶えもしないクセに殺せ殺せと囁きかける。だからね、私は祈りも願いも捨てたの」

「そう、堕天使ってワケね」

水瀬が無表情に弓を引き、光の矢をつがえる。
七海の光の翼が一際大きくはためく。

「悪魔に魂を売ったって? それがどうかしたの?」

光の翼が真っ直ぐに伸びて、その身体を前へと押し上げる。
光の矢が無数に増殖して塊へと形を変えてゆく。
そして二人は攻撃態勢に入った。

『撃ち抜け! シューティング・スター・スプラッシュ!!』

『真・アルティメット・ブレイカー!!』

無数の矢がレーザービームのように黒い輪郭へと放たれた。
光の拳が、身体ごと敵めがけて突っ込んだ。
――しかし。

ゴファッ!!

彼女らの中で爆炎が弾けた。
放たれた矢も拳も、手応えも感じさせないままに闇の中へと吸い込まれて、今度は同じだけの衝撃が跳ね返ってくるのだ。
七海が遥か頭上まで吹っ飛ばされて盛大に墜落した。水瀬が体中から血を吹いて床に崩れ落ちた。

「くぅ……、痛いじゃないの」
「本気でマズいかも」

呻きながら、それでもどうにか身を起こす二人。
そんな白黒天使に、堕天使は薄気味悪い笑みを投げかける。

「痛いでしょ? もっと痛くしてあげる。だから、素敵な声で鳴いてちょうだい!」

愉しげに述べてから、お返しだと言わんばかりに爪の付いた腕を振るう。
すると気色悪い背景の向こうから無数のどす黒い塊が飛んできて二人に襲い掛かる。
容赦なく降り注ぐ塊を体一杯に浴びて、悲鳴すら上げられない。
二人はそれぞれに床に這いつくばって、起き上がろうと藻掻いて、黒い塊に打ち付けられてまた倒れるという動作を繰り返す。
やがて疲れたのか、相手は一旦攻撃のを止めて一息吐いた。

「あらあら、地べたを這いつくばって、まるで憐れなウジ虫ね」

いちいち癇に障るぬめり気のある声が、白い悪魔の闘争心に火を付ける。
黒い天使に至っては、頭の血管が「プチン」と音を立てている。
二人はボロボロになりながら、自身から流れ出た血溜まりの中でさえ、どうにか手を付き立ち上がる。
仲間の顔を見て互いにニッと笑んでみせる。

「あたし、全力全開でアイツをぶちのめそうって決めたのだけれど、水瀬ちゃんはどうする?」
「同感ね。こういうのは普通に殺したくらいじゃ死なないだろうし、存在そのものを消し去ってやるわ」


241ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 19:16:30.36 ID:RzaWWrer0
弓を投げ捨てた黒。
今にも崩れ落ちそうな身体を力ずくで踏ん張って、手を真上にかざした白。
二つの輪郭がそれぞれに金と銀、二種類の光を帯び始めた。

【INFINITY FORM】

黒い衣装が金色へと染まってゆく。
黄金の翼が三対、その背に広がっていた。
肩にあった装甲が割れてスカートよろしく腰に巻き付く。
ツインテールの髪が解けてストレートになった。
それが水瀬の最終形態。神すら殺す破壊者の姿だった。

また一方で、かざした手はどこからか降ってきた巨大な剣を掴んでいた。
剣は見た目ほど重くないのか、持ち主は二度三度と振ってみせる。
すると大型器物の輪郭が緑色の筋を描き出し、やがては同調して銀色に染まってゆく。

【A.M.FIELD ― START UP】
【S.L.I.Count 10 second. Ready――】

巨大な剣を肩に担いで、膝が床に付きそうなまでに腰を落とす銀色の闘士。
合成音の【Go!】という声と同時に彼女は飛び出した。

「これがあたしの、全力全開、だぁっ!!」

みるみる迫る敵影に、渾身のハイキック&ローキック、流れる動作で回し蹴り。さらに上体を捻って浴びせ蹴りへと移行する。
超超高速、いやそれすら生ぬるい神速のコンビネーションだった。
しかし相手は倒れない。腕に装着した金属爪で攻撃をいなし、かわし、防いだかと思えば反撃に突いてくる。斬りつけてくる。
だが七海にとってそれらの攻撃はその全てが囮であり、本命は次の一手にあった。

「いっくぞぉぉぉ!!」

攻撃をかいくぐって懐に入る。
手を伸ばせば届く場所。これが七海さんの射程圏。
左手に持つ巨大な鉄塊は盾でしかなかった。逆手に持っていたのは右手の攻撃を見せないよう壁とするため。
右手の中には火花を散らす天使の輪っか、二つ。
改良を重ね、幾多の戦いの中で編み出した最強の必殺技。

「アルティメット・ブレイカーァァァァ!!」

真と付かないのは、こちらの方が歴史が長いから。
あの頃はまだ輪っか一つしか作れなかったけれど、今は違う。
それに至るまでのコンビネーションも、技そのものだって、無数の修羅場とたゆまぬ修練によって磨きをかけた。
今や、誰にも負ける気がしない。
それがたとえ、神だの仏だのが相手だったとしても。

ドカンッ!!

突き出された掌。
相手に密着した状態から放たれるのは修羅の技。
それぞれ逆向きに高速回転する二つの天使の輪っかが、同時に爆発し、恐るべき破壊力を敵の土手っ腹へと伝達する。

「あがっ……!!!」

女の胴体に風穴が開いて、ねじ切られるように上半身と下半身が別々の方向へと飛んでゆく。
解放された破壊力は敵の体を粉砕するだけでは飽きたらず、飛び散った肉片さえもさらに細かく砕いていく。
七海は背後に仲間の気配を感じて思い切りよく飛び退いた。


242ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 19:19:27.43 ID:RzaWWrer0
「水瀬ちゃん!!」

十分に距離を開けて仰ぎ見た先には、三対の黄金の翼を広げた天使がすでに攻撃準備を整えていた。
彼女は翼の力なのか宙に浮いていて、じっと攻撃目標を見据えている。
神々しいまでの光をその全身から放ちつつ、彼女は静かに息を吸う。

【Hyper Clocking】

合成音が宣言した刹那、宙を舞っていた敵の胴体が静止する。
何百枚もの魔方陣が、天使とその標的の間に割り込む格好で差し込まれた。

【OVER CHARGE】
「貴女に永久の安らぎを。ディナイアル・インフィニティ ――いきます!!」

回転する方陣を突き破って躍り出た天使は、途中から跳び蹴りの姿勢になった。
背にあった翼が爆発して、急加速。距離の半ばからは凄まじい速度と勢いで突っ込んでいた。

バクンッ。

空中に縫い付けられていた女の上下半身、それぞれに激突して遥か後方に着地したシルエット。
余韻に浸りつつ顧みれば、肉片と化した敵の体が今度はさらに塵へと還ってゆくのが見える。
無限の回数を否定された存在は、いかに強大であったとしても、もはや終焉の刻を迎えるしか手立てが無いのだ。
こうして二人の戦いは終わりを告げた。

+++

この後の事を言えば、拉致監禁されていた七海さんの婚約者が自力で牢から脱出、押し寄せる兵団を根こそぎ薙ぎ倒して二人の元へと駆け付け三人揃って要塞から脱出したわけですが。
ボロボロになっちゃった二人を前に彼は終始呆れ顔だったり。
山道をテクテク歩いて麓の町まで返って、携帯電話で本部に連絡して、迎えがやって来る頃にはすでに翌日の明け方になっていて、思ったより時間が過ぎていた事を知った二人が夕食を食べ損ねたと手近にあった看板やらガードレールに八つ当たり。
器物損壊の罪で御用になって、その流れであとで局長からこっぴどく叱られてしまったり、膨大な始末書を書かなきゃいけなくなったりと、そりゃあもう踏んだり蹴ったりの翌日を過ごす事になる。
しかもこの後、体のあちらこちらを骨折している事が発覚して緊急入院、近々行われるという大規模な作戦に参加できそうもなくて。
結果、病室のベッドの上で二人揃って陰鬱な面持ちを晒す事になるのです。

「七海さんも、自分一人だけの体じゃあないんですから、あんまり無茶しないで下さいね」

お見舞いにやってきたマリィちゃんから呆れ顔で告げられても、「誤解を招く言い方はやめて」と泣きそうな声で返すしか能がありません。
同じように体のあちこちにギブスをはめ込まれている水瀬さんとしては、ここでも苦笑するばかりです。

それはそうと、降伏してAs側からの介入を許した要塞の人々は、オルトロス内にあった研究資料も含めてAsに接収される事になった。
それは政府の判断であり、佐渡島決戦を目前に戦力を一本化しようとする目論見もあったのだろう。
要塞内の別のフロアには液体に漬け込まれた誰かの脳みそが無数にあったが、それも押収されて場所を移している。
その中に最重要機密文書なんて判子の押された書類もあったのだけれど、局の人間は大した吟味もしないまま指示通り開発局に送ってしまった。
『MKCデバイスの研究開発と運用に関する概要』。そのように題された書類。
書類には一枚の写真が添付されており、そこに弥生美香子の姿が写し出されていたのだが、そのことに気付いた人間は居なかった。

243ほのぼのえっちさん:2011/05/31(火) 19:20:45.21 ID:RzaWWrer0
「水瀬ちゃん!!」

十分に距離を開けて仰ぎ見た先には、三対の黄金の翼を広げた天使がすでに攻撃準備を整えていた。
彼女は翼の力なのか宙に浮いていて、じっと攻撃目標を見据えている。
神々しいまでの光をその全身から放ちつつ、彼女は静かに息を吸う。

【Hyper Clocking】

合成音が宣言した刹那、宙を舞っていた敵の胴体が静止する。
何百枚もの魔方陣が、天使とその標的の間に割り込む格好で差し込まれた。

【OVER CHARGE】
「貴女に永久の安らぎを。ディナイアル・インフィニティ ――いきます!!」

回転する方陣を突き破って躍り出た天使は、途中から跳び蹴りの姿勢になった。
背にあった翼が爆発して、急加速。距離の半ばからは凄まじい速度と勢いで突っ込んでいた。

バクンッ。

空中に縫い付けられていた女の上下半身、それぞれに激突して遥か後方に着地したシルエット。
余韻に浸りつつ顧みれば、肉片と化した敵の体が今度はさらに塵へと還ってゆくのが見える。
無限の回数を否定された存在は、いかに強大であったとしても、もはや終焉の刻を迎えるしか手立てが無いのだ。
こうして二人の戦いは終わりを告げた。

+++

この後の事を言えば、拉致監禁されていた七海さんの婚約者が自力で牢から脱出、押し寄せる兵団を根こそぎ薙ぎ倒して二人の元へと駆け付け三人揃って要塞から脱出したわけですが。
ボロボロになっちゃった二人を前に彼は終始呆れ顔だったり。
山道をテクテク歩いて麓の町まで返って、携帯電話で本部に連絡して、迎えがやって来る頃にはすでに翌日の明け方になっていて、思ったより時間が過ぎていた事を知った二人が夕食を食べ損ねたと手近にあった看板やらガードレールに八つ当たり。
器物損壊の罪で御用になって、その流れであとで局長からこっぴどく叱られてしまったり、膨大な始末書を書かなきゃいけなくなったりと、そりゃあもう踏んだり蹴ったりの翌日を過ごす事になる。
しかもこの後、体のあちらこちらを骨折している事が発覚して緊急入院、近々行われるという大規模な作戦に参加できそうもなくて。
結果、病室のベッドの上で二人揃って陰鬱な面持ちを晒す事になるのです。

「七海さんも、自分一人だけの体じゃあないんですから、あんまり無茶しないで下さいね」

お見舞いにやってきたマリィちゃんから呆れ顔で告げられても、「誤解を招く言い方はやめて」と泣きそうな声で返すしか能がありません。
同じように体のあちこちにギブスをはめ込まれている水瀬さんとしては、ここでも苦笑するばかりです。

それはそうと、降伏してAs側からの介入を許した要塞の人々は、オルトロス内にあった研究資料も含めてAsに接収される事になった。
それは政府の判断であり、佐渡島決戦を目前に戦力を一本化しようとする目論見もあったのだろう。
要塞内の別のフロアには液体に漬け込まれた誰かの脳みそが無数にあったが、それも押収されて場所を移している。
その中に最重要機密文書なんて判子の押された書類もあったのだけれど、局の人間は大した吟味もしないまま指示通り開発局に送ってしまった。
『MKCデバイスの研究開発と運用に関する概要』。そのように題された書類。
書類には一枚の写真が添付されており、そこに弥生美香子の姿が写し出されていたのだが、そのことに気付いた人間は居なかった。

244ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 10:26:14.70 ID:HKH21Dlt0
ナギサワ・マイコは、大人しくて地味。教室では目立たないタイプの女の子だ。

肩くらいまでの黒髪を、いつもだいたいポニーテール(短すぎて“尻尾”になってない)か、
片方にまとめて耳の下あたりで結んで垂らしているのだったが、今日は違った。

いわゆる『お下げ』……というのかよくわからないけれど、左右両方に髪をまとめていたのだ。


学校を出てすぐに、バスを待っている彼女の姿が目に入った。
彼女も僕に気がつくと、ひらひらと手を振った。


「今、帰り?」
若干緊張しながら、話しかける。

「うん。今日はバスなんだ。朝、雨ひどかったから。なのに、こんなに晴れるなんて!」

ナギサワは、屈託なく笑って空を見上げる。
朝の大雨をあざ笑うかのように、すっきりとした晴天が広がっていた。

――その髪型、珍しいね。

たったそれだけのことを、僕は言えなかった。
気恥かしさが先に立って、無難な話題を選択してしまう。

「明日から、また天気悪くなるみたいだね」

「うん、しばらくバスで来ることになるかなぁ。でも、バスだと本が読めるから好きだよ」

本が読める、という言葉に、僕の耳は反応した。
僕がネコ耳か犬耳を持つ獣人のたぐいだったなら、きっとマンガみたく『ピン!』と耳を立てたことだろう。

――どんな本を読むのかな。

けれど、当然と言うべきか、僕はその質問をすることなく、
「じゃ」
と言って自転車のペダルを踏み込んだのだった。


さっきの短いやりとりを頭の中で反芻しつつ、自転車を漕ぐ。

ナギサワは、読書家なのだろうか。
教室では、そんな気配は見せない。
休み時間には、仲の良い女子のグループでおしゃべりをしている姿しか思い浮かばない。

ナギサワの読む本。
あの、お下げを耳の上にあげたような髪型。
ひとりっきりで弾くコントラバス。


245ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 10:28:41.58 ID:HKH21Dlt0
教室で地味な彼女について、僕が知っていることといえば、名前と顔と、座席の位置くらいだった。
その彼女が、意外な一面を持っていたことに、僕は何とも言い難い、不思議な感覚を覚えていた。

――勘違いするなよ。

自転車を漕ぎながら、僕は頭を振る。

乱暴にちぎったみたいな雲の塊が、抜けるような青空に浮かんでいた。


〆 〆 〆


夕食を済ませ、自分の部屋に戻る。
中学2年になった時、ようやく手に入れた、この部屋。

勉強机も、その時一緒についてきた。
残念ながら本来の用途に活用される機会は少なく、もっぱら開いたノートにイラストとも呼べない落書きが描かれたり、
ゲームの攻略本とマッピング用方眼紙が広げられていたり、『設定資料』などと称して意味不明な地名や人名が
書き連ねられたりしているのがせいぜいだ。

その愛すべき机の前で、タロットカードを切る。
そして、念じながら一枚抜く。

――三者面談のことを母さんに言うけど、どんな反応をするか。

抜いたカードを裏向きに伏せる。

カードから解釈を読み取るには、訓練が必要だという。
僕はその訓練として、『ワンオラクル・スプレッド(カードの並べ方のことだ)』を使って、
些細なことや個人的なことを占っていた。

カードは【節制】の正位置。
たおやかな女性が、杯から水を移す様子が描かれている。

『節制』……普段は使わない言葉だ。
『節約』と、何が違うんだろう。『節約』なら、母さんの得意とするところだけど。

辞書を引いてみる。
――節度を守る・度を越さない・控えめである

……うーん。
よく、分からない。
これを、どう解釈しろと?


246ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 10:31:31.70 ID:HKH21Dlt0
節制……節制……このカードの女性は、天使みたいだな。背中に翼がある。
天使……天使の仕事は、杯から水を移すことか?

この天使は、他のよりも年上のお姉さん、って感じがするな。なんとなくだけど。

お姉さんは、よく物事を知っていて、水も零さず移せる、と。
おかしいな、お姉さんといえば「色っぽい」か「ドジ」、ってのがデフォルトなはずなんだが。
……って、いやいやいや、そんなラノベ的解釈で良いワケ無いだろ!

でも、良く知った人は、何でも卒なく物事をこなす。

『良く知った者』……『卒なくこなす』……

うん、この絵柄にはそういう言葉がぴったりだな。
さて、それをどう解釈するんだ?

節制……英語で、temperance。
てんぺらんす。テンパランス、かな?
ぺらんす。パランス。……バランス。
均衡……精確……絶妙な……デリケートな……精密……精鋭……頭脳明晰……

――ダメだ、結びつかないぞ。母さんの機嫌を占うのに、頭脳もなにもあったもんじゃないよ。

「あ゛ーーー! タロットって、難しいぃーーなぁーー!!」

背もたれに思いっきり凭れて、伸びをしつつ僕は叫んだ。


案の定、その後すぐに妹が、煩いだのなんだのと怒鳴りこんできたのだったが、知ったことか。


247ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 10:33:22.45 ID:HKH21Dlt0
4時限目の授業が終わり、理科室から戻る途中、ナギサワと一緒になった。
偶然にも僕も彼女も当番に当たって、授業の後もガスバーナーやらビーカーやらを片付けていたのだ。

ナギサワは……今日は束ねた髪を纏めて左肩に垂らしている。

今まで気づかなかったのだけど、彼女は毎日髪型を微妙に変えている。
ポニーテールにしても、高い位置で噴水みたく (この喩え、伝わるかどうかとても自信がない) 散らしている時もあるし、
やや低い位置で房を垂らしている時もある。

「サイトウくん、この前進路指導室に行ってたね」

特別教室棟の廊下を並んで歩いている時、ナギサワが言った。

――見られてた?
僕は平静を装いつつ、少しばかり動揺していた。

「呼び出し食らった?」
いたずらっぽく笑って、僕を見る。

「はは……まぁ、そんなとこ」
曖昧に笑って、やり過ごす。

何だか、そこに出入りしていることを知られたくないような気がした。
知られたところで、どうにもなりそうにないけれど。


「進路、決めた?」
ナギサワは、さらに追い打ちをかけてくる。今の僕が、もっとも聞かれたくない類の質問だ。

階段を降りる。
一日中日陰なせいで、ここだけ冷房が効いたようにひんやりと心地いい。
あと何日かで、夏休みだ。
夏休みが終わったら……本格的に、進路決定をしなくちゃならない。

正直言って、考えたくない。

「……悩んでる。どうしたらいいんだろ。この前のテストもイマイチだったしさ」
冗談っぽく笑って返す。

「わたしもだよ。なんていうかさ、『もうちょっと考える時間ください』って言いたくなっちゃう」

渡り廊下に差し掛かる。
凶暴さを増す太陽光が、容赦なく気温を上げている。

うわ、暑っ! などと口にしながら、僕たちは歩いている。



248ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 10:35:00.17 ID:HKH21Dlt0
その廊下を歩いているとき、不意にナギサワは、言った。

「『〇〇に成りたい』とか、『△△を目指す』とかって言える人は、ホントに凄いな、って思う」

遠慮がちに、けれど確固たる信念を持った口調だった。

僕は黙っていた。
真意を測りかねた。

代わりに彼女の横顔を見る。
笑ってはいなくて、けれど深刻というわけでもない。

呟くように、「だってさ、」と続ける。

「成りたい希望を言ったとして、それが『お前じゃ無理だ』とか、『素質がない』なんて言われたら、どうするの? 
わたしは……怖いよ、そんなの。可能性が、たった一言で潰されちゃう気がする」

その気持ちは、分からなくはない。
僕は具体的な将来像を描けないでいるけれど、もしかするとそれは『否定されるのが怖い』から、なのかも知れない。

希望する将来像を具体的に言ったとする。
それを否定されてしまうと……、なんというか、逃げ場を失ったような気分になる。

その可能性――たとえどんなに僅かな可能性だったとしても――を、いともあっさりと、潰されたような気分になる。
大袈裟に言うなら、他人のたった一言で自分の人生が決定されてしまうような気がするのだ。

そんなの、まっぴらごめんだ。


教室のある棟に戻ってくると、人が増えてざわめきも増した。
すぐにナギサワの友達が彼女を見つけ駆け寄ってくる。
じゃ、と手を上げ、僕は購買部へ向かう。
ナギサワは、きっと仲良しグループの女の子たちとお弁当を囲むだろう。


スタートが出遅れた。ハムカツサンドは、まだ残っているだろうか?
僕は、購買へ向かう足を早めた。


〆 〆 〆


249ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 10:37:16.22 ID:HKH21Dlt0
真夏かと思うような強烈な暑さだったのが、夕方には雲が空の7割を覆っていた。
見るからに重そうな灰色が、前方に低く垂れこめている。

「これは降るな。さっさと帰ろう」
いつものとおり、友人を促して自転車置き場へ向かう。

タカハシは自転車を出そうとせず、ボーッと突っ立っている。

「なにしてんだ?」
と聞くと、ニヤリと笑い、
「原チャで来たからさ。あっちに隠してある」
親指で校門を指す。


原付での通学は、当然禁止されている。
けれど免許を取った連中は、原付で学校の近くまで来て、公園やなんかに隠して停めている。

タカハシも、原付免許を持っている。
16歳になるとすぐに取ったそうだ。

タカハシはのんきに、ハーフキャップ・メットを頭の上に乗せてスーパー・カブに跨った。
先生やなんかに見つからないか、僕の方がビクビクしてしまう。


自転車の僕に合わせて、のったり走るタカハシ。
眼の障害のことを考えると、自殺行為――というのは大げさにしても――に近いと思う。
それでもヤツは気にせずに、原付を乗り回している。


〆 〆 〆


進路指導室に通っている僕は、どうしても考えざるを得ない。

例えば、仮に数学が得意だから数学科に進んだとして、就職はどうなる?
『数学科なんて、出たところで塾講師がせいぜいだよ』
数学が得意なクラスメイトが言っていたセリフが思い出される。

史学科や国文科、数学科のなかでも純粋数学の分野、芸術の分野……。
確かに、それらに興味はあるけれど。
頑張って勉強して、大学を出たところで……、何に成る? 
それを活かした就職口なんて、あるのだろうか?

研究職として、大学の一室に篭もるのだろうか。
……それが社会に貢献しているとは、あまり思えない。


250ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 10:39:12.79 ID:HKH21Dlt0

世の中で、もっとも無駄に飯を食っている職業は、哲学者と言われている……というのを、倫理の授業で聞いたことがある。
物事を考えている“だけ”の「仕事」は、結局のところ人様の役に立ってはいないのだ。
『下手な考え 休むに似たり』――つまり、どれだけ高尚であっても役に立たなきゃNEETと同じ。

では、大学時代に蓄えたその知識をひとまず置いておいて、他のテキトーな文系学生と同じく、
企業の営業として働くことになるのだろうか。
営業は、僕には無理だろうと思う。
なにより、身につけた知識を活かせていない。

やりたいことを勉強していたら、いつの間にかそれを活かせる職業が見つかって、その職に就く。
自分の興味あることを勉強し、それで得た知識やスキルを活かして仕事をし、生計を立てていく。
それで適材適所、丸く収まる……。

就職情報誌や進路指導室は、そういう情報は与えてくれない。
『この学部に行ったらこの職業!』というような、選択の余地を与えない記事ばかり。

世の中に、就ける『ジョブ』は限られているように思える。
そのジョブに就くために、有利な学部を選択する必要がある。

でも、どのジョブにも魅力を感じない人がいたら……
どうしたらいいんだ?


テレビを見ていると、実に多くの肩書き、つまり職業についている人たちがいる。
〇〇研究家だとか、△△プランナー、××アドバイザー。

彼らは、自分の得意を職業にしている感がある。
まさしく『ジョブ』だ。

……けど、それで食っていけてるのだろうか?

この、『食えるかどうか』というのが、実に厄介だ。
結局のところ、それを考えて進路を決めなきゃならない。

『大学に入れば、好きなことだけ勉強できる』なんて、嘘っぱちだ。

好きなことを勉強したって、就職できなきゃ意味が無い。
それも、『食っていける』職業に、だ。


「まーたブツブツ言ってるし。キモいんだけど」

さっきから微かに感じていた冷たい目線の正体は、にっくき我が妹だったりする。

「だから、勝手に入ってくるんじゃねぇって言ってんだろ」
「和英辞典どこ?」

聞いちゃいない。
コイツは、世界が自分のためにあると、本気で思ってるに違いない。


251ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:08:10.76 ID:HKH21Dlt0
 大きな窓から差し込む蜜柑色の光が蛍光灯の明かりと混じり合い、窓際の机を照らしている。
 机を囲む椅子は四つあり、そのうち一席だけが埋まっていた。
 そこに座り、大人しそうな雰囲気の女生徒――河内静奈が机の上の本へと目を落としていた。
 静奈は、友人である上原梢の部活終了を待っていた。
 特に部活や委員会にも所属していない静奈が待ち時間を潰すために選んだ場所は、図書室だった。

 学食に行けば想い人に会えたかもしれない。
 しかし、彼が放課後の学食を好んでいることを知らない静奈は、かすかに漂う紙の匂いに心地よさを覚えながらページを手繰る。
 夕暮れの図書室で読んでいるのは、変わった装丁の恋愛小説だ。
 まるで日記帳のような本に、手書きめいた書体で物語は綴られていた。
 タイトルもろくに見ず、なんとなく手に取った本だったが、静奈はその物語に惹かれていた。
 悲恋ではなく、甘い恋が成就する物語を、静奈は追っていく。

 それは、非常に共感できる本だった。
 登場人物を自分と想い人に重ね合わせて胸を高鳴らせる。 
 大好きな彼と恋人になりたい。
 本に出てくる恋人のように愛し合い、一緒の時間を過ごし、共に色々なところへ行きたい。

 季節はもう、夏だ。
 一緒に花火をしたい。夏祭りに行きたい。
 泳ぐのは得意ではないが、彼と一緒に海やプールにだって行きたい。
 浴衣や水着を着たところを見られたらと、想像する。
 それだけで恥ずかしく頬が熱くなるが、見てほしいという願望も強い。
 褒めてもらえるだろうか。
 似合っていると、可愛いと、そう言ってもらえたらと、妄想めいた想像をする。
 知識でしか知り得ないデートの光景が、脳内に展開する。
 妄想はページを繰る手を止め、鼓動を速まらせ、口元をだらしなく緩ませる。

「ねぇ、あなた。私と、お話をしましょう?」

 目の前で静かな声が聞こえたのは、静奈の脳内で、牧村拓人と唇が触れあいそうになったときだった。
 
「え、ええぇッ!! わ、わたし、ですか――ッ!?」

 驚愕し大声を出した後で、静奈はここが図書室であることを思い出し慌てて口を抑える。
 一気に顔が真っ赤に染まり、べたついた汗が額と背中と掌に滲み上がる。
 変な顔をしていたのではないかと不安になりながら、静奈は正面に視線を向ける。
 そこにいたのは、ぬいぐるみを抱えた、短い黒髪が愛らしい女の子だった。
 彼女がいつの間に現れたのか、静奈は全く気が付かなかった。
 それほどまでに妄想へどっぷりと浸っていたのかと思うと、死にたくなる。
 大慌てでおどおどと首を振る静奈に、女の子は微笑んで見せる。
 目を細め、唇の両端を吊り上げたその顔は可愛らしい。
 それなのに。
 細められた瞼から除く瞳は、まるで、光すら呑み込んでしまう夜のように真っ黒だった。
 彼女は笑んだまま、口を開く。
 小さな唇の奥から除く舌は、鮮やかなほどに赤く見えた。
 
「ええ、あなたよ。そうね、あなたには――恋のお話がいいかしら」


252ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:11:17.83 ID:HKH21Dlt0
眼鏡がよく似合う、大人しい恋する女の子のお話をするわね。
 女の子が恋していたのは、同じクラスの男の子。
 彼は爽やかで格好いい、バスケ部のエースだったの。

 そんな男の子だもの、当たり前のように女の子の人気を集めたわ。
 ライバルも多くて、彼と恋人になれるなんてとても思っていなかった。
 彼と特別仲がよかったわけじゃない女の子は、いつも彼を眺めるだけだった。
 他の女の子と、楽しそうに話す彼を、いつも眺めていた。
 恋心と嫉妬をこね合わせた視線を、いつも彼に送っていた。

 女の子は、とても人見知りが激しかったの。
 だから彼に声もかけられなかったし、友達も少なかった。
 でも、親友と呼べる子が一人いたわ。
 女の子は親友に、自分の感情を吐露することが多かった。
 それは相談だったり、愚痴だったり。
 親友はいつだって、女の子の感情を受け止めた。
 たまに、困ったような顔や苦笑いを浮かべることはあったけれど。
 反論することもなく、批判することもなく、ただただ女の子の全てを肯定し受け入れたの。  

 それが女の子には心地よかった。安心できた。信頼できた。
 女の子は親友が大好きで、心から感謝していた。
 だからあるお休みの日に、お礼をしたくて、親友を遊びに誘ったわ。
 親友が見たいと言っていた映画を見て、親友のお気に入りのお店で美味しいケーキを食べて、いつもありがとうと言おうと思った。
 けれどその誘いは、残念なことに断られてしまったの。

 どうしても外せない用事があるから、と。

 女の子はがっかりしてしまったけど、都合が悪いなら仕方ないと思い、次のお休みに約束をしたの。
 そして、お休みの日はやってきたわ。
 親友にお礼をするはずだったその日に、女の子は一人で時間を過ごしていた。
 女の子は、日記を付けていたの。
 その日記が残り少ないことに気がついた女の子は、日記帳を買いに町へ出たわ。
 駅前に着いたとき、女の子は見つけるの。

 背が高い、大好きな男の子の姿と。 
 
 その隣に寄り添う、気合の入ったお化粧をして、可愛い服でおめかしをした親友を。
 
 楽しそうで幸せそうで仲睦まじそうな、誰もがカップルだと信じて疑わないような雰囲気で、二人は。
 女の子に気付くことなく、遠ざかって行ったの。
 
 それから、女の子はどうやって家に帰ったのか覚えていなかった。
 たった一人、女の子は、自分の部屋で茫然としていた。
 想っていたのは、男の子のことではなく親友のこと。
 持て余す感情のままに、とりとめもまとまりもなく、ただただ、想ったのよ。


253ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:14:27.91 ID:HKH21Dlt0
眼鏡がよく似合う、大人しい恋する女の子のお話をするわね。
 女の子が恋していたのは、同じクラスの男の子。
 彼は爽やかで格好いい、バスケ部のエースだったの。

 そんな男の子だもの、当たり前のように女の子の人気を集めたわ。
 ライバルも多くて、彼と恋人になれるなんてとても思っていなかった。
 彼と特別仲がよかったわけじゃない女の子は、いつも彼を眺めるだけだった。
 他の女の子と、楽しそうに話す彼を、いつも眺めていた。
 恋心と嫉妬をこね合わせた視線を、いつも彼に送っていた。

 女の子は、とても人見知りが激しかったの。
 だから彼に声もかけられなかったし、友達も少なかった。
 でも、親友と呼べる子が一人いたわ。
 女の子は親友に、自分の感情を吐露することが多かった。
 それは相談だったり、愚痴だったり。
 親友はいつだって、女の子の感情を受け止めた。
 たまに、困ったような顔や苦笑いを浮かべることはあったけれど。
 反論することもなく、批判することもなく、ただただ女の子の全てを肯定し受け入れたの。  

 それが女の子には心地よかった。安心できた。信頼できた。
 女の子は親友が大好きで、心から感謝していた。
 だからあるお休みの日に、お礼をしたくて、親友を遊びに誘ったわ。
 親友が見たいと言っていた映画を見て、親友のお気に入りのお店で美味しいケーキを食べて、いつもありがとうと言おうと思った。
 けれどその誘いは、残念なことに断られてしまったの。

 どうしても外せない用事があるから、と。

 女の子はがっかりしてしまったけど、都合が悪いなら仕方ないと思い、次のお休みに約束をしたの。
 そして、お休みの日はやってきたわ。
 親友にお礼をするはずだったその日に、女の子は一人で時間を過ごしていた。
 女の子は、日記を付けていたの。
 その日記が残り少ないことに気がついた女の子は、日記帳を買いに町へ出たわ。
 駅前に着いたとき、女の子は見つけるの。

 背が高い、大好きな男の子の姿と。 
 
 その隣に寄り添う、気合の入ったお化粧をして、可愛い服でおめかしをした親友を。
 
 楽しそうで幸せそうで仲睦まじそうな、誰もがカップルだと信じて疑わないような雰囲気で、二人は。
 女の子に気付くことなく、遠ざかって行ったの。
 
 それから、女の子はどうやって家に帰ったのか覚えていなかった。
 たった一人、女の子は、自分の部屋で茫然としていた。
 想っていたのは、男の子のことではなく親友のこと。
 持て余す感情のままに、とりとめもまとまりもなく、ただただ、想ったのよ。


254ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:17:02.22 ID:HKH21Dlt0
誘いを断ったのはデートのため。
 デートの相手は私の大好きな人。
 知ってたはずなのに。
 分かってたくせに。
 信頼していたのに。
 何を言っても受け入れてくれてたのに。
 それなのに。
 こんな形で。
 親友は。
 大好きなのに。
 応援してくれてると。
 想ってたのに。
 嘘だったの?
 騙してたの?
 ひどい。
 ヒドイ。
 酷い。
 どうして?
 どうして?
 どうして?
 どうして奪ったの?
 どうして踏みにじったの?
 どうして? どうして? どうして?
 どうして裏切ったの?
 私の全部を受け止めてくれるフリをして、本当は。
 嘲笑ってたの?
 
 たった一人の親友に対する信頼と情愛は、同じだけの憎悪と嫌悪に反転したわ。
 それでも女の子は、その感情を外に爆発させられなかった。
 だって、女の子は。
 男の子が大好きだったんだもの。
 もしも親友にこの感情をぶつけてしまったら、男の子に嫌われてしまうと。
 そう、恐れたから。
 男の子に嫌われたくないと、願ってしまったから。

 だから。
 女の子は外に感情をぶつけられず、持て余す感情を昇華できず抱え込んだまま。
 手首を、切ったんですって。

 残り少ない日記に血で文字を書いて。
 女の子は、息を引き取ったそうよ。
 
 ――くすくすくす。
 
 嫌われることを恐れる必要なんてないのにね。
 結局、恋は叶わないのだから。
 
 それにしても。
 同じクラスの男の子を大好きな女の子がいて。
 女の子には、相談を持ちかける親友がいるなんて。
 なんだか、似てるわね?
 これってきっと、よくある話かもしれないって、そう思わない?
 
 ――くすくすくす。
 ――くすくすくすくす。
 ――くすくすくすくすくすくす。


255ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:20:16.73 ID:HKH21Dlt0
 空調の音が、図書室に低く響いている。他の物音は、耳に届かない。
 この場所は本来静かであるべきであり、物音がしないのは当然だ。
 だが、不必要なまでに静かなような気がして、静奈は身震いをしてしまう。
「ああ、そうそう。一つ、言い忘れてたわ」
 ぬいぐるみを抱えたまま、少女が静けさを破る。
 その声はしかし、気味の悪さを助長するかのように流れていく。
「女の子が書いていた日記なんだけどね? 普通の日記じゃないの」
 少女はそっと、静奈の手元に目を向ける。
 そこにあるのは、一冊の本。
 タイトルも分からない、手書きめいた書体で記された、まるで、日記帳めいた装丁の――。
 静奈の産毛が、総毛立つ。
 思わず両手で身を抱いた静奈の目が、少女を捉えた、その瞬間。
「……っ!」
 息が詰まり、泣き出しそうになった。
 少女は、笑っていた。
 上目遣いで静奈を睨めつけ、裂けそうなほどに両側の口角を上げて。
 にぃっ……と。
 笑っていた。
 
「妄想日記なんですって。大好きな男の子との甘い甘い甘い、妄想を綴った、まるで小説みたいな、日記。
 女の子と一緒に焼かれたその日記がここにあるということは、きっと、女の子も近くにいるわ。
 ひょっとしたら、自分と同じような女の子を、同じような目に合わせようとしているのかもしれないわね?」
 
 くすくすと、不安を煽り立てるような笑い声がする。
 それから逃れるように、静奈は少女の顔から手元へ目を落とす。
 そこには、本がある。
 僅か数ページとなるまで読み進めた、本がある。
 そして、静奈は気付く。
 ずっと気付かなかったのに、不意に気付いてしまう。
 今開かれているページ裏が、次のページに貼り付いて、奇妙に分厚いことに。
 貼り付いていて開けないが、しかし。
 手書きめいた文字の背景となるように。
 
 ――赤黒い文字が、シミのように、浮き上がっていた。
 
「きゃ――ッ!」

 堪えられず悲鳴を上げ、本を振り払う。
 鳥肌は止まらず背筋は震え、目には涙が浮かんでいた。
 世界が涙で滲み、嫌な悪寒が体を包み込む。
 逃げるように目を閉ざした静奈の耳に、届いたのは。 
 
「何、今の声……? って、静奈ちゃん!?」
 
 聞き覚えのある、声だった。
 恐る恐る、目を開ける。
 涙で滲んだ視界に、ウェーブのかかった豊かな金髪の女生徒が映った。
「アリス……さん……っ」
 共に演劇を行った先輩――真田アリスの姿に、静奈は安堵を覚える。
 瞬間、張りつめた恐怖が解けて思い切り後押しされたかのように、涙が押し寄せてきた。
「アリスさん、アリスさん――ッ!」
「わわ、ちょっと、どうしたの!?」
 狼狽するアリスに構わず、抱きついた。
 焼きつけられた恐怖を洗い流そうとするように泣く静奈は、気付かない。
 
 ぬいぐるみを抱えたあの少女とあの日記帳が、夕闇に溶けるように消えてしまったことを。


256ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:40:47.05 ID:HKH21Dlt0
 諸事情により最後にやるはずだったのをブチ込むとかなんとか作者が言ってるわ。夏が嫌いになりそうだとも言ってたけど……。まぁ勝手に嫌いになればいいわよね。

 本来ならいろんな人が出てくるはずだったけど、今回は出てこない。
 このお話は直接私が語ってあげる。
 この話はね、昔の仁科のお話なの。一体誰が出てくるのか。このお話の真意は一体何か……。
 フフ……。それは少しずつ明らかにしていけばいい。別に夏以外にやっちゃいけないわけじゃないし。それに、夏は来年もやってくるんだから。

 じゃあ、さっそく始めましょう。とっても悲しい、とっても悲しい、怨みのお話……


 仁科の怪談 第X回
 【新浦文子(噂)】


 昔、仁科学園にはどこにでも居る普通の高校生である新浦文子という女の子がいました。
 とっても控えめで大人しい女の子でした。
 熊の縫いぐるみが大好きな、本当に普通の女の子でした。

 ある日、彼女は通学途中に猫が車に轢かれそうになる所に遭遇しました。

 彼女は危ないと思いました。なんとかしなきゃと思いました。
 彼女は車が猫を避けて行けばいいのにと祈りました。とっても強く祈りました。
 猫を轢きそうになった車は、間一髪で猫を避けて電信柱にぶつかりました。運転していた人は死んでしまいました。

 彼女は普通の女の子でした。
 成績もちょうど真ん中くらい。見た目だって普通だと言える程度です。
 ただし、とっても控えめな女の子だったので、友達を作るのは少し苦手でした。彼女はそれだけが悩みだったのです。

 ある時、体育の授業中の事です。
 同じクラスの陸上部の女の子がいました。彼女はとっても優秀な選手で、大会ではすごく期待されていた人なのです。
 彼女は、ちょっと意地悪な人でした。
 運動が苦手だった文子は彼女と居るのが少し嫌いでした。なぜならば、彼女が意地悪な事を言うからです。

 五十メートル走のタイムを計る時です。文子はその陸上部の女の子を見ていました。
 彼女が嫌いだった文子は少しだけ、転んでしまえと思いました。


257ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:42:06.97 ID:HKH21Dlt0
 彼女は走りました。
 とても脚が速い女の子でした。彼女は半分ほど進んだ所で、突然転んでしまいました。
 足首をくじいて、骨折してしまったようでした。そして彼女は、陸上部を辞める事になりました。


 文子はある日、恋をしました。
 同じクラスの男子生徒の事を好きになりました。彼の事を考えると、つい頭がぼーっとなってしまいます。
 授業中でもついついぼーっとしたりしてしまいます。

 窓ガラスががたがたと揺れました。
 壁に貼られた生徒達の書がばさばさと落ちました。
 黒板の前のチョークが白い粉を出しながら割れました。

 文子はずっとぼーっとしていました。ずっと彼の事だけを考えていたのです。
 彼はその日、体調を崩して早退しました。それでも文子は彼の事を考えてしたのです。
 クラスのみんなが文子を見ていました。

 先生に呼ばれて職員室に行きました。校長先生や教頭先生もいました。
 みんな、なんとかならないかと言っていました。どうにかならないかととっても悩んでいたのです。
 しかし。文子には何事か解りませんでした。
 先生たちは、この娘は大事な娘だからと言いました。

 次の日、お昼休みに文子は大好きだった彼から放課後に会いたいと言われました。
 文子は喜びました。とても喜んだのです。大好きな彼に誘われるなんて、まるで夢のようなお話だったのです。文子はわくわくしながら、放課後を待ちました。

 そして、放課後です。
 文子は喜んで言われた場所に行きました。学園の隅にある、まるでジャングルのような所です。
 彼はいました。ですが、あの大好きだった笑顔じゃありませんでした。
 他の人も居ました。たくさんたくさんいました。よくみると、文子のクラスの人達が全員揃っていました。

 文子は言われました。化け物とか、悪魔とか。
 大好きだった彼は文子の想いに気付いていました。文子がかんがえた事は、文子が意識した人に全て伝わっていたのです。
 陸上部の彼女も居ました。彼女は転んだ理由が文子だと言っていました。

 文子は否定しました。だって文子は、とても普通の女の子なのです。


258ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:44:35.58 ID:HKH21Dlt0
 彼女は走りました。
 とても脚が速い女の子でした。彼女は半分ほど進んだ所で、突然転んでしまいました。
 足首をくじいて、骨折してしまったようでした。そして彼女は、陸上部を辞める事になりました。


 文子はある日、恋をしました。
 同じクラスの男子生徒の事を好きになりました。彼の事を考えると、つい頭がぼーっとなってしまいます。
 授業中でもついついぼーっとしたりしてしまいます。

 窓ガラスががたがたと揺れました。
 壁に貼られた生徒達の書がばさばさと落ちました。
 黒板の前のチョークが白い粉を出しながら割れました。

 文子はずっとぼーっとしていました。ずっと彼の事だけを考えていたのです。
 彼はその日、体調を崩して早退しました。それでも文子は彼の事を考えてしたのです。
 クラスのみんなが文子を見ていました。

 先生に呼ばれて職員室に行きました。校長先生や教頭先生もいました。
 みんな、なんとかならないかと言っていました。どうにかならないかととっても悩んでいたのです。
 しかし。文子には何事か解りませんでした。
 先生たちは、この娘は大事な娘だからと言いました。

 次の日、お昼休みに文子は大好きだった彼から放課後に会いたいと言われました。
 文子は喜びました。とても喜んだのです。大好きな彼に誘われるなんて、まるで夢のようなお話だったのです。文子はわくわくしながら、放課後を待ちました。

 そして、放課後です。
 文子は喜んで言われた場所に行きました。学園の隅にある、まるでジャングルのような所です。
 彼はいました。ですが、あの大好きだった笑顔じゃありませんでした。
 他の人も居ました。たくさんたくさんいました。よくみると、文子のクラスの人達が全員揃っていました。

 文子は言われました。化け物とか、悪魔とか。
 大好きだった彼は文子の想いに気付いていました。文子がかんがえた事は、文子が意識した人に全て伝わっていたのです。
 陸上部の彼女も居ました。彼女は転んだ理由が文子だと言っていました。

 文子は否定しました。だって文子は、とても普通の女の子なのです。


259ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:48:39.67 ID:HKH21Dlt0
 ですが、聞き入れられませんでした。
 そして、始まりました。とっても苦しい、とっても凄惨な。それは彼らにとっても、命懸けの事でした。自分達を守る為でした。

 文子は寄ってたかって叩かれました。お腹が凄く痛くなりました。すごく喉が渇きました。内蔵が破裂したのです。
頭は皮がべろんと剥がれるほど叩かれました。頭の形が変わっていました。頭蓋骨が割れて、脳みそが少し出ていました。
 腕は間接が増えたかのようになっていました。指はまるで投げ出された手袋のようになっていました。

 それでも、文子は生きていました。
 彼女は思ったのです。生きたい。死にたくない……! と……。
 だから文子は死にませんでした。でも、そのせいで普通では考えられない苦痛を味わう事になったのです。

 皆は言いました。やっぱり化け物だ。人間じゃ無いと。
 大好きだった彼がポリタンクを持ってきました。灯油が入っていました。
 それを、文子にかけました。
 文子は察知しました。これから生きたまま焼かれるのだと。そして、文子は焼かれました。

 それでもなお。文子は死にません。生きたかったからです。ずっとずっと、真っ黒焦げになるまで。
 文子の身体は、焼かれた人が取るポーズをとって動かなくなりました。

 文子は考えました。もう身体は使えないと。
 文子は考えました。なぜ私がこんなに苦しむのかと。
 文子は考えました。みんな大嫌いだと。

 皆は真っ黒焦げの文子を見ました。
 死んだと思ったのです。ところが、皆は驚きました。

 真っ黒焦げの文子の顔は、笑っていたのです。
 とってもおぞましい笑みを浮かべたまま、真っ黒な顔で固まっていました。
 皆は穴を掘ってそれを埋めました。場所は今は誰も知りません。誰も答えられないのです。

 何故ならば、その次の日には、クラス全員の子が行方不明になってしまったからです。
 当然、その前に何があったのか、知る人は誰も居ませんでした。


※ ※ ※


 ……以上よ。

 これはあくまで噂話よ。本当にこんな酷い事があったのかなんて信じられる?


260ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 11:51:46.93 ID:HKH21Dlt0
 それに、おかしな所もたくさんあるしね。

 たとえば、文子ちゃんは普通の女の子だった。でも、ところどころ普通じゃない場面もあったわね。どう考えても、彼女はおかしな力を持っていた……。
 でも多分、彼女は気付いていなかった。
 フフ……。もし自覚していたら、もっと悪い事に使ってたはずよ。だってそれが人間だもの。

 それに、あれだけ凄惨なリンチを受けて死なない人間がいると思う?
 あまりに残虐過ぎるわ。きっと尾鰭が付いて来た結果ね。……もっとも、現実というのはたいがいにしてもっと凄惨な物だけど……。
 フフ……。でもこれは噂話。実際にあったかなんて、誰も知らないんだから。

 え?
 私の名前?

 どうだっていいじゃない。私の事なんか。

 それより、もっと気になる所が無い?
 たとえば、行方不明になったクラスの子供達。一体どこにいっちゃったのかしらね。

 そしてなにより、このお話には重大な事が抜けているのよ。
 ひそかに受け継がれてきたお話だけど、一度たりともそこが話された事はない。

 文子ちゃんはクラス全員から徹底したリンチを受けて、焼き殺された。
 そう。焼き殺されたのよ。
 でも、一度もはっきり言われた事がない。

 何度聞いても、何回読んでも、どれだけ噂が広がろうとも……。
 文子が死んだとははっきりと言われていないの。

 ……よく読んで?
 彼女は本当に死んだのかしら……?

 あら?
 そろそろ時間みたい。お友達が迎えに来たから。

 フフ……。
 私はこのお友達が大好きなの。私のお手伝いをしてくれるから。
 え?
 どこにも居ない?
 見えないの? 私たちの周りにたくさん居るじゃない。みんな私たちを見てる。
 そうね……。三十人くらいかしら。ちょうど一クラス分の人数ね。

 え?
 私の名前?

 どうだっていいじゃない。私の事なんか……。

 でも、みんなは私の事をふーちゃんって呼んでくれてるの。


261ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 12:54:29.02 ID:HKH21Dlt0
「学校に来るなんてずいぶん久しぶりなんじゃない?」
「はい。すっかりオッサンです」
「あら、私から見ればまだ子供だけどね」
「大人の女性は好きですよ?」
「そーいう所が無ければ可愛いげあるんだけどねぇ?」

 職員室。白壁やもりのデスクの前でやもりと話し込む男が居た。
 身長は裕に二メートルはあろうかというその男は、どうやらやもりとは知った仲のようだ。

「……さて、とりあえず手続きは済ませたけど、復学は明日から?」
「はい」
「どうしてまた復学しようなんて思ったの? あなたならそのまま別の所に進学出来たはずよ。そうじゃなくてもやって行けたかもしれないのに」
「どうせ大学に行くなら仁科にしたいと思ってます。知った所ですから。でもそれなら仁科の高等部の卒業資格が要りますから」
「あらそう。でも夏休み前なんておかしな時期を選ぶわね」
「思い立ったが何とやらですよ先生」
「ま、そういう事にしときましょ。
 ああ、そうそう。あなたが居ない二年間で面白い事になってるわよ?」
「面白い事?」
「ええ。詳しい事はあなたのクラスの迫って子に聞いてみなさい」
「はぁ……」



第五話:【最後の戦士】



 ペタペタという音。リノリウムの床をゴム底で叩く音だ。
 踵を吐き潰した上履特有の物である。

「そろそろトリートメントをしなければ……。ああ、丁度よくプリン頭になってきたし、近々染めに行くか」

 相変わらず下品に廊下を歩く懐。手には大量の缶ジュースとお菓子。
 演劇に携わった裏方さんへのお見舞い品だった。どういう訳か懐が配っている。
 最初に美術部に行ったら何故か台が居なかった。代わりに複数の属性を持つという可愛らしい部長に見舞いの品を預け、何故かととろやマサのおやじにまで配る。
 懐の計り知らぬ所で騒動があったと聞いていたが、それの見舞いでもあるのだろう。次からは俺を呼べときつくととろに言ったが「場を掻き乱す恐れあり」と却下された。
 そんな奴じゃねぇという反論も通じず、少し思う所もあったので素直に身を引いた。


262ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 12:56:42.25 ID:HKH21Dlt0
 巡りに巡り、最後にたどり着いたのはコスプレ部。
 何故最後にしたのかは理由がある。演劇も片付いたし、そろそろコッチの衣装もやってくんない? と一言言う為。
 さらには京が隠し持っているおやつを食う為。

 時刻は既に夕方五時を回っていた。殆どの生徒は帰っている。
 しかしながら、コスプレ部の部室からはやはり人の気配が漏れていた。作業に没頭していると予想される。
 懐は手に持った荷物を抱え直し、いつものように無遠慮かつノックも無しにドアを開けた。

「おーい。やってるかみや――」
「!!?」

 眼前に広がっている光景。
 それは嬉々として嫌がる男子生徒の服を脱がそうとする京。

「……。お邪魔しましたぁ〜」

 懐はそれ以上の言葉を持たない。速やかにドアを閉めて踵を反す。刹那、京が部室から飛び出す。

「ちょちょちょちょちょっと待った! 待て!」
「いやいやいや、いいよいいよ? 俺の事は気にしないで。ちゃんと黙っとくから。さすがの俺もそこは空気読むよ?」
「アンタ勘違いしてる! 絶対すんごい勘違いしてる!」
「だから気にするなってば。そりゃ邪魔されたくねーよな。お邪魔でしょうから私はこれで」
「だから違うってば!」
「何を恥ずかしがる。愛する男女が睦み合うのは自然の摂理であろう。思う存分愛を分かち合いなさい」
「だから違うっつってんの! 解って言ってんだろテメー!」
「確かに俺は『やってるか?』と声をかけた。しかしまさかヤってるとは――」
「それ以上言うなバカー!!」

 顔を真っ赤にした京の鉄拳が炸裂した。あらゆる意味で危険を感じた故の制裁である。
 トドメに髪の毛をぐいぐい引っ張り部室へと連行していく。

「痛い痛い痛い痛い痛い! 髪は止めて! ホント止めて!
 大事にしてんの気ぃ使ってんの。解るでしょ!?」
「自業自得よ! さっさと来い!」

 情けなくもずるずると引きずられ部室へと連れ込まれる。
 半泣きで髪を心配する壊が見たのは、同じく半泣きの男子生徒。見事なまでの中性を貫く顔立ちは男子の制服を着ていなけばそれとは解らない可能性すらあると懐は見た。


263ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 12:59:07.62 ID:HKH21Dlt0
 しかもどこかで見た顔だとも思う。
 脳細胞の軸索に電気刺激を走らせて導き出した答は、その男子生徒は牧村拓人であるという事。
 そういえば演劇にも出ていた。ナイスな役所で。

 床に寝そべり髪を引っ張られた状態で、お互い会釈した。
 拓人の方も何と無く懐を見た事がある様子だった。これだけ目立つ頭と言動をしていればそうだろう。

「……。ああ。なるほど。例の着せ替え人形君ね」
「そんな人聞きの悪い事言わないで!」
「ところで京さん?」
「な……何よ?」
「俺は今床に仰向けになっている」
「そ……それがどうかしたの……?」
「つまりだ。この位置関係に於いて、俺の視界に捕える物は上下が逆転した世界のみならず、とてもいいものが見えるのだ」
「何言ってんのよ」
「結論から言おう。パンツ丸見えなのだ」
「……。くたばれ!」
「がふッッ!!」

 寝そべる懐に京の強烈なスタンピングキックが見舞われた。
 持っていたジュースがころころ床を転がり、悶絶している懐の脇腹にあたった。すっかり機嫌を損ねた京に連れ込まれたばかりの部室を追い出される。ついでに半泣きの拓人も救出。
 見舞い品は結局渡せず終いだった。

「……ぐふッ。くっそいい蹴りしてやがる。あれほどのスタンピングはよほどプロレスに精通していないと出来ないはずだが……」
「京先輩、マスクすら作ってますし研究熱心ですから……。きっと人気悪役レスラーの動きを研究したんだと……」
「恐るべきコスプレ魂だ」
「……。噂には聞いてましたけど……。いつもこんな感じなんですか?」
「いつもというと」
「先輩と京先輩」
「知りたいかね?」
「え? ええ……ちょっと」
「いいだろう。ついでにパンツの色も教えてやろう」
「ええぇ!?」
「知りたいだろう?」
「え? ええ……いや、その……。はい」
「素直でよろしい」

 二人は取り合えず一緒に帰って行った。




※ ※ ※




 次の日。
 今日もいつものような日常が始まった。
 拓人は小鳥遊と朝の挨拶を交わし、京は寝不足の目を擦って席に座り、懐は遅刻ギリギリ滑り込みを目論み激チャリをかます。


264ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 13:01:06.83 ID:HKH21Dlt0
 ただしそれは一年二年の話である。
 三年のとある教室では大騒ぎになっていたのだ。なぜならば、その日から新しくクラスに編入する男子生徒があまりにも特異な存在だったから。
 担任教師が事情を説明し、遂にその騒動の元が口を開こうとする。その時、クラスは更にざわめく。主に女子生徒が。

「コラコラ。静にしろ。自己紹介させない気か?」

 担任教師が言う。が、ただのオッサンの声など馬耳東風とばかりに虚しく空気を揺らすだけ。
 皆の視線は既に編入してくる男子生徒に一点集中。主に女子生徒が。

 その男は大男ひしめく仁科に於いてもトップクラスの長身。
 細身でありながらガッシリした印象もあり、さらに彫りの深い慈愛に満ちた目。馬の鬣の様にサラリとしたうっすら茶色のセミロングヘア。ワイルドでありながら品性すら漂わせる渋く整えられた顎髭
 それは破壊力抜群のフェロモン満点の低い声で、自己紹介した。

「今日からお世話になる、空知亮太です。皆さん、よろしく」

 同時に黄色い声が一斉に湧き出る。男子生徒はそれを見て諦めの表情をする者が大半。敵わない。相手が悪すぎる。そんな感じだった。

「さっきも言ったが、二年間休学して今日から復学だ。みんなとは二つ以上も歳が違うが、仲良くな」

 担任教師の空気を揺らすだけの声がもう一度響く。
 その横にいた完璧超人の如きイケメン野郎は自分の席を指定され、バッグ片手にその席へ。
 一歩あるく事に雄の空気を漂わせる。しかしながら粗暴な感じは一切無かった。大人である。完璧に。
 誰かが言った。

「なんて奴が現れたんだ……」

 亮太は指定された席に座り、バッグから教科書等を取り出す。殆どは自習してしまったが、改めて勉強するのも悪くないと思っていた。
 横の席になった女子生徒がよろしくと言った。亮太はそれに必殺のスマイルで応える。一人落ちた。
 亮太は教室を見回し、やもりに言われていた事を思い出す。

『あなたの居ない二年間で、面白い事になってるわよ』

「面白い事……か。何だろう?」
 亮太はもう一つの事も思い出す。そして、それを横の席の女子生徒に聞いてみる。


265ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 13:03:56.35 ID:HKH21Dlt0
 ただしそれは一年二年の話である。
 三年のとある教室では大騒ぎになっていたのだ。なぜならば、その日から新しくクラスに編入する男子生徒があまりにも特異な存在だったから。
 担任教師が事情を説明し、遂にその騒動の元が口を開こうとする。その時、クラスは更にざわめく。主に女子生徒が。

「コラコラ。静にしろ。自己紹介させない気か?」

 担任教師が言う。が、ただのオッサンの声など馬耳東風とばかりに虚しく空気を揺らすだけ。
 皆の視線は既に編入してくる男子生徒に一点集中。主に女子生徒が。

 その男は大男ひしめく仁科に於いてもトップクラスの長身。
 細身でありながらガッシリした印象もあり、さらに彫りの深い慈愛に満ちた目。馬の鬣の様にサラリとしたうっすら茶色のセミロングヘア。ワイルドでありながら品性すら漂わせる渋く整えられた顎髭
 それは破壊力抜群のフェロモン満点の低い声で、自己紹介した。

「今日からお世話になる、空知亮太です。皆さん、よろしく」

 同時に黄色い声が一斉に湧き出る。男子生徒はそれを見て諦めの表情をする者が大半。敵わない。相手が悪すぎる。そんな感じだった。

「さっきも言ったが、二年間休学して今日から復学だ。みんなとは二つ以上も歳が違うが、仲良くな」

 担任教師の空気を揺らすだけの声がもう一度響く。
 その横にいた完璧超人の如きイケメン野郎は自分の席を指定され、バッグ片手にその席へ。
 一歩あるく事に雄の空気を漂わせる。しかしながら粗暴な感じは一切無かった。大人である。完璧に。
 誰かが言った。

「なんて奴が現れたんだ……」

 亮太は指定された席に座り、バッグから教科書等を取り出す。殆どは自習してしまったが、改めて勉強するのも悪くないと思っていた。
 横の席になった女子生徒がよろしくと言った。亮太はそれに必殺のスマイルで応える。一人落ちた。
 亮太は教室を見回し、やもりに言われていた事を思い出す。

『あなたの居ない二年間で、面白い事になってるわよ』

「面白い事……か。何だろう?」
 亮太はもう一つの事も思い出す。そして、それを横の席の女子生徒に聞いてみる。


266ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 13:11:51.58 ID:HKH21Dlt0
「このクラスに迫って人が居るらしいんだけど、それって誰かな?」
「あ、それなら前の方に座ってる眼鏡をかけたあの人……」
「あの人だね?」

 亮太は隣の席の女子生徒の視線の先を指差す。少し接近し、まるで自分が物を尋ねられたような雰囲気すら漂わす。ナチュラルにそれをやり遂げる男だった。本人にその意識が無いのが憎らしい。

「……あの人がやもり先生が言ってた人か」
「なんで迫さんにご興味があるのですか?」
「ん〜。ちょっとやもり先生に吹き込まれてね。あ、そうそう。黒鉄懐っていう金髪の子が居るとも聞いたんだけど?」
「え? ああ、はい。二年生だけど……。でもあんなの亮太さんがお近づきになる必要は……」
「まぁまぁ。いろいろと面白いとは聞いてるからね。あの迫って人は詳しいらしいね」
「そうみたいですけど……。なんで詳しいんだろう?」
「じゃあ直接聞いてみるよ。後で君にも教えてあげるよ」
「は、はい。楽しみにしてますぅ」

 しばらくの後、懐と亮太は出会う。そしてその時、奴らの運命は大きくうねりを持って動き出すのだ。



※ ※ ※



「セーフか!?」
「アウトだ!」

 遅刻した懐は担任に一喝される。ホームルームの真っ最中に登場してセーフもクソも無いのだが、取り合えず言ってみるのが懐。
 当たり前とばかりに自分の席に着いて一瞬で最初から居ましたよオーラを出す辺りはさすが遅刻常習犯である。

「さーて、寝るか」
「聞こえてるぞバカ者!」
「ちッ……」

 これもいつもの事。実際はあんまり居眠りをしない方だったが、やりかねないとは常々思われている。
 それでも何と無くオッケーな感じを醸し出すのも恐るべき特殊技能だった。今日ばかりはそれを利用しようとしていたが、朝っぱらから失敗してしまった。

 懐は珍しくぼーっとしていた。
 最近の事を思うとやる気が出なくなっていたのだ。バンド解散からしばらく経って、メンバー一人は戻ったものの他のポストは開いたまま。
 トオルと懐に付いて行ける技量を持った人材などやはりそうそう居るものでは無かったのだ。


267ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 13:14:20.58 ID:HKH21Dlt0
 さらには演劇を終えた迫達演劇部の動向も気になっていた。
 あれほどしつこい勧誘をしていた連中が簡単に諦めるとは思えなかった。葱とあかねはまだ凌げるが、問題はキレ者の迫先輩。
 いざとなったら強行策すら行いそうな雰囲気はある意味恐ろしい。

「どーすりゃいいモンかねぇ〜」

 机に顎を乗せたまま呟いた。
 もうすぐその悩みが両方とも解決する事になるとは、この時懐はまだ知らなかった。



※ ※ ※



「なるほど、そういう事か」
「まぁそんな所だね。是が非でも欲しい人材なんだよ」

 昼休み。早速迫と亮太は話し合っていた。
 そして、やもりが言っていた『面白い事』の正体も知る。

「でも……。その懐って子はそっちに興味はないんだろう?」
「まあね……。洗脳すら試みたけど、意思が強すぎるのか失敗したよ」
「ははは。よっぽど凄いんだね」
「そんな所だよ。正直羨ましい程だ」

 迫が懐にこだわり続けた理由。それを聞いた亮太は少し興奮した。
 もし噂通りなら、もしこの迫という男の言った事が真実ならば、それは亮太にとっては非常に楽しい事になるかもしれないのだ。

「どこに行けば会えるかな?」
「どこにでも居るさ。そのうちイヤでも目に付くようになる」
「少し話をしてみたいね。その、懐って子と」
「こっちもだよ。……正直、俺も勧誘は諦めてる。その前に部員の葱とあかねに証明しなとな。アイツがどんな能力を持っているか。
 じゃないと催眠術を修めてまで追わせたアイツらが納得しないだろうし」
「俺も興味があるね。是非一緒に見たい」
「そりゃ構わんが。……でもかなりハデな方法で接近しないとムリだ。俺達じゃ取り付く島もない」

 迫はうーんと悩みはじめる。
 あれだけ神出鬼没の懐なのだが、ここ最近はとんと見ていないのだ。
 最後に見たのは学内発表の演芸を客席で見ている姿だけ。明らかに避けられてる。というより会いたくないと公言されているくらいなのだ。

「よし、こうなりゃ最後の手段だ。コレだけはやりたくなかったが……」


268ほのぼのえっちさん:2011/06/04(土) 13:16:16.55 ID:HKH21Dlt0
ライオン五話7


「どうするんだい?」
「……仁科最強の連中さ」

 迫は携帯を取り出す。アドレス帳からある人物を選ぶ。
 そこでまた一旦悩む。もしこの男達を動員すれば最後、本格的に嫌われかねない恐れがあるのだ。それほどの最終手段だった。

「……どうしたんだ?」
「いや……。なんでもない。よし、そっちはそっちで自由にやってくれ。こっちの準備が出来たら呼ぶ。
 その時にどれほどの物か、確かめるといい」
「そうしよう」
「ところで……」
「何だい?」
「なぜアイツに興味が?」
「……俺もギタリストだ。それなりの活動もしてたんけど、色々あってさ」
「色々?」
「そう。色々とね」
「……何か訳アリっぽいが、聞かないほうがいいか?」
「出来ればね。長くなるし、俺自身、決着が付いていない。まぁ、いつか話すよ」
「そうか……」

 迫は再び携帯へと目を落とし、一呼吸置いて通話ボタンを押した。
 もう戻れない。どうせ現状嫌われてるのだ。これ以上恐れて何になろう。そう自らを言い聞かせた。
 そして電話が繋がる。

「もしもし? 俺だ。……ああ。やる事にした。
 安心しろ。部長には黙っててやる。報酬は……。くっ、足元見やがって
 ああ、分かった分かった。お前等が大変なのはよく知ってる。じゃあ日にちが決まったらまた連絡する。その時段取りしよう。
 ……そうだ。勢い余って殺したりするなよ。じゃあ切るぞ。またな、アゲル――」


続く――

269ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:16:42.19 ID:6kpnE2Dl0
第六話:【暗躍しちゃいます】



「と、いう訳だ」
「無い無い。よりによってアイツの場合は絶対無い」
「そうッスよ。むしろコッチ側の人間じゃないスか」

 学園内某所。
 秘密の場所で悪しき相談をする者が約三名。

 彼らこそこの仁科学園にてカップルの心胆を寒からしめる恐怖の噂、この時代に反発するかのようなリーゼントにモヒカン、そして坊主頭の三人組。
 あのカップル撲滅運動の三人だ。

「アイツがそうだとは考えられないだろ。むしろ最近はととろと一緒に行動している事がある。そっちのほうが問題だ」

 モヒカンが語る。坊主頭もそれに続く。

「そうッスよ。あれほどのプロレス野郎が護衛に就いたらいざって時の実力行使もやりづらいッス。見事に抑止力になってるッス」

 それを聞いていたリーゼントは軽く首を振りため息をこぼす。そして自らの考えを述べる。

「……確かにアイツにそんな噂は今まで無かった。だが今回は割と身近で見ていた俺が確認したのだ。観察眼だけはあるつもりだ。
 アイツ自身がバカ過ぎて自分で気付いていないのが何とも滑稽だが、その気になる前にツブさなければ」
「そもそもそこがおかしい。カップルなら問題ないが、今は一人なんだ。そもそもターゲットとなりえない」
「それにほっとけば忘れるんじゃないッスか? あの人なら」
「解っていないな。アイツが本気になったら、おそらく止められんぞ。何事も一直線な奴なんだ。それ以外の事は逆な奴なんだが……。
 そうなれば完全にととろ側に寝返る可能性はある」

 リーゼントの大男は危機感を煽る。が、それは見透かされている。
 モヒカンはそれを言う。

「素直じゃない奴だ」
「なんだと?」
「素直に友達を狙うような事態が恐ろしいと言えばいいだろう?
 そのくせ、アイツには自分の事を気づいて欲しい。友達だからな」
「……。フン」
「とにかく今は俺達が手を下すべき時じゃない。まずは奴が何も気付かない事を祈る。次にもし気付いて行動に起こしたら失敗するよう期待する。
 もしダメなら……やるしかない」

270ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:18:12.80 ID:6kpnE2Dl0
 リーゼントの大男は明らかに不満気な表情を浮かべた。
 珍しく自分でもどう行動すべきか解らずにいたのだ。そして、モヒカン男はそれをよく理解していた。

「結論は以上だ。俺達が自分達のルールを曲げる訳にはいかない。そこは理解しているだろう?」
「……ああ」
「ならいいんだ。もっとも……」
「なんだ?」
「撲滅運動としてでは無く個人で勝手に何かやるなら俺達には何の関係もない事だ」
「……」
「どうせ一人で行くべきかどうかの相談したかっただけだろう? 俺達の知らない所で何をしようが、関係ないさ」
「すまんな」
「別にいいさ。ああ、要注意リストには載せておくから安心しろ。」

 三人は立ち上がる。相談は終わりだ。
 そして最後に、本日の議題についての感想を述べはじめた。

「しかし信じられないッス!」
「全くだ」
「そんな人には見えないんスけどねぇ」
「油断大敵だな。俺はまだ懐疑的だが……」
「ホントッスね。自分で気付いてないって所があの人らしいッスけど……」

 相談事態はつまらない物だったが、議題そのものはかなり驚きだったようだ。
 二人は口を揃え全く同じ事を言った。

「まさかあの懐が女に惚れるとは!」




※ ※ ※




「ぶぁ〜っくしょ!!」
「うわぁあ! き……きたな……」
「スマン。風邪でも引いたか……?」

 人が噂をすれば何とやら。
 この天の素晴らしいシステムを余すところなく利用している懐は鼻水と唾液を派手に撒き散らす。
 懐にとっては定期的に出る謎のくしゃみだった。

「さて……。そっちはなんか進展あった?」
「う……。何も……。やっぱり……その……。うまくメタルの偏見解く所で躓いて……」
「そっちもか……。どうせ『ヘビメタ? あのギャーとか言う奴?』とか言われたんだろ?
 そんな奴こっちから願い下げだ」
「あの……そっちは……?」
「こっちも同じだ。メタルやる奴はポツポツ居るけど……。どいつもこいつも下手くそばっか。
 いくら速くても音が汚けりゃ意味が無いっつーの」

 メンバー捜しはやはり難航していた。
 横たわるメタルへの偏見。それを乗り越えたとてまともなプレイが出来無ければメンバーに加えようもない。


271ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:20:03.70 ID:6kpnE2Dl0
 そもそも現代ではハードロックシーン自体が大人しい。
 そのうえ懐達が求める『鋼鉄の音』を体現するほどの連中となると希少動物のような物だった。
 当然、流行りものに弱い高校生となれば希少価値はさらに上昇する。

「どうしよっかなぁ……」
「う……。あの……。もう一度昔の仲間に当たってみます……。
 クラシック上がりなら……その……腕前は問題ないかと……」
「そうか……。じゃあ頼む。俺は……。あああぁ〜〜」

 懐には既に心当たりが無かった。
 上手い連中も知っているがそういう奴はたいがいにして別のバンドに居たりする。しかも他ジャンルだ。
 引き抜きはトラブルの元となるので避けたかった。

「帰る!」
「……えっ?」
「考えてもしょーがねー! こういう時は帰って寝るに限る! さようなら」「え……? ちょ……。……行っちゃった」

 懐はすたすたと帰路へ。残ったトオルも仕方なく帰宅。二人が居たベンチは一瞬で静まり返る。通る生徒もまばらだった。

「……」
「……見た?」
「ああ。あれが懐君ね」
「君なんていらないよー。バカでいいよバカで……」
「そういう訳にはいかないよ……」

 ひそひそ声。遥か彼方よりその声を発した者は、駐輪場から自転車を持ち出す懐とてくてく歩くトオルを凝視している。

「……あの歩いてるのがトオル君だよ。なんでもオリジナル曲を創っちゃうんだって!」
「それは凄いね。にしてもこのオペラグラスも凄いね……」
「そりゃそうですよ。もはや魔器と呼べる性能でしょ、亮太さん」
「ああ。たまげたよ」

 ととろと亮太はじとーっと懐を観察していた。
 直接会おうと思って懐を捜していた亮太は、最近はととろと一緒によからぬ遊びに興じているという情報を元に捜索を開始した。
 ととろの目立つ風貌は特徴さえ押さえればすぐ分かる。常に移動している懐より簡単に発見してしまったのだ。懐に会いたいから取り次いでくれないかとの要望に、ととろは意外な提案をする。

「なら観察してみない?」

 そして、さながらスパイの如き覗き行為をする羽目になっていた。

「見た目はホントに目立つね。いや、目立とうとしてるのかな?」
「バカだからねー」
「しかしメンバー捜しをしているってのも本当のようだね」
「うまく行ってないって常に愚痴ってるよ。聞く方の身にもなれと小一時間問い詰めたいよ」
「はは。まぁそれだけ本気なんだろうね」

272ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:22:04.18 ID:6kpnE2Dl0
 亮太はパチンとオペラグラスを閉じる。距離が離れ過ぎた為に観察が不可能になったからだ。

「十分見せてもらったよ。確かに面白い子だ」
「もういいの?」
「ああ。後は直接会ってみるさ」
「じゃあ呼び出そうか?」
「いや、いいよ。自分で会いにいくよ。変な事に巻き込んで悪かったね」
「誘ったの私なんだけど」
「そうだっけ?」

 オペラグラスを返却し、亮太も帰路につく。
 見たい物は十分見れた。次は人となりを理解し、実力を確かめるだけ。
 その結果次第では亮太自身の問題に決着が付くかもれないのだ。
 ただ、自分の夢を信じれるかどうかという問題が――



※ ※ ※



 同時刻。
 学食は放課後をゆっくり過ごす生徒達が何人か。それぞれが自分の時間を好きなように過ごしていた。
 窓の外では太陽がまだ地面を照らしている。窓ガラスを貫いて少しセミの声も聞こえてきた。
 きっと外はうだるような暑さだろう。
 学食ではエアコンがよく効いていた。この中では降り注ぐ太陽光線も纏わり付く夏の湿気も関係無い。
 おかげで真夏でありながら優雅にホットのカフェオレを楽しめた。

 牧村拓人はいつものようにお気に入りの場所でのんびり放課後を過ごしていた。先日はちょっとした騒動があったが、本来ならばのんびりゆっくり過ごしたいのが本心だ。
 たとえちょっと楽しい事があったとてこの思いは変わらない。
 が、残念ながら既に騒動に知らずの内に巻き込まれてる。先日の放課後からずっとだ。

「……。居た」
「びくっ!」
「驚き過ぎじゃない拓ちゃん?」
「みみみみみ京先輩!?」
「どーしたの? そんなバケモノでも見たみたいに?」
「い……いいえなんでも……」

 正直たまにバケモノに見えているのは内緒だった。

「それがさぁ、こないだはあんな事になっちゃったから見せず終いだったんだけどぉ? 拓ちゃん用の新コス?」
「ぼ……僕用ですか」

 僕は逃れられないのか!? そんな事を考えた。
 前は上手く混乱に乗じて脱出したものの、今日も都合よくそうなるとは考えられない。


273ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:24:19.78 ID:6kpnE2Dl0
 先日はまさかの乱入者が場をひっちゃかめっちゃかにしていった。
 そのおかげと言っては何だが難を逃れたのだ。
 ああ、今日もまた再び現れないものか。そんな事を思い、あの時の珍事を振り返る。
 そうだ、部室に連れ込まれ、危うく服を脱がされそうになった時、あの人が現れた。そして髪を引っ張られ蹴りを見舞われ追い出され、そしてその後……。

「……はッ!」

 拓人はある事を思い出した。ある意味、かなりの機密事項だ。
 思わず京を見る。どうかしたのかと言いたげな京をよそに、思わず要らぬ事を考える。懐の毒が回っていた結果だ。

 京には最初、拓人に何が起きているのか解らなかった。
 ただ、最初に驚いた顔をし、次に嫌そうな顔をし、トドメに妙な表情となったのを確かに見た。
 妙な表情である。
 そして京は瞬時に悟る。

「……まさか……!! 何を言われた!?」
「ななな……何の事ですか!?」
「懐は……あのバカは何を言った!? 何を聞いた!?」
「何も聞いてませんッ!! パンツが何色かなんてしりませ……しまった!!」
「やっぱりかぁ!!」

 思わず口を滑らせた拓人によってあの後どんなやり取りが行われたのかを連想してしまう。
 京は拓人をチラっと見る。妙な表情は消え、いつもの可愛い顔へと戻っていた。だが、さっきの表情は忘れない。
 ああ、拓ちゃん、やはりアナタも男の子だったのね。

 今度はいても立っても居られず、どうしていいか解らない。
 また拓人をチラ見する。なぜか顔が真っ赤になる。

「……ゴメン、また今度!」

 そう言って走り出した。何故か死ぬほど恥ずかしかったのだ。
 次に湧いた感情は怒り。無論、懐に対して。奴の無駄に鋭い表現力で一体どんな伝え方をされたのか。そればかり気になる。
 とはいえ、髪を引きずって床へ倒したのは自分である。自責の念もあったのだ。正直やりすぎたと思っていた程だった。
 その結果、恥ずかしい情報が流出してしまった。

「ああもうッッ!」

 京はこの時、やり場の無い怒りという言葉の意味をしみじみ理解した。


274ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:26:02.74 ID:6kpnE2Dl0
 京は突っ走る。
 今日はどこ行く訳でも無い。今は部室に篭っても仕事が手に付かないかもと思っていた。それほど動揺していた。
 たどり着いた場所は学内のうらぶれたベンチが置かれた場所。学食から出て少し走った所。学園の隅だった。

「……あのバカ! なんで懐と関わると珍事件ばかり起こるのよ!?」

 少々派手に独り言を言ってみる。周りには誰も居ない。聞かれるはずは無かった。が、世の中、油断大敵とはよく言った物。

「何を言っているんだお前は?」
「!!?」

 誰かが言った。
 それは出来れば係わり合いになりたくない声。いわゆる不良が発した声だった。
 背後に居たのは真っ赤なリーゼントを頂く、制服では無いはずのドカンを履いた大男。八十年代を地で行く強者である。大型台はその厳つい顔の眉間にシワを寄せつつ少し驚いた表情でそこに立っていた。

「ここで何している?」
「え? え? いや、その……」

 言葉に詰まる。
 台も要らぬ事は言えないと思っていた。その場所は三馬鹿の秘密の会議場の一つだったのだ。

「懐がどうとか言っていたが……?」
「え? 聞いてた……んですか?」
「あれだけデカイ声で言えばイヤでも聞こえるだろう」

 台はベンチに座った。ワイシャツの胸ポケットからタバコを取り出し、慣れた様子で吹かし始めた。銘柄はセブンスターだった。

「学校……ですよ?」
「だからなんだ。どうせ誰も来ない」
「そういう問題じゃ……」
「分かってる。分かって吸っている」

 タバコを指で弾いて灰を落とす。
 持っていた缶コーヒーを一口啜り、タバコの風味と混ぜた。おかげでコーヒー本来の香りは失せたが、代わりになんとも言えない特有の味になった。

「……懐の前では一服も出来やしない。よっぽどタバコが嫌いなのか本気で怒りやがる」
「懐の事知ってるんですか?」
「色々とな。いくらか世話になった事もある」
「そうなんですか」
「お前と同じで、アイツの事で問題も抱えてる」
「問題?」

 ここでも何かやらかしているのかと京は思ったろう。
 台は天を見上げてため息混じりに紫煙を吐き出した。よほど苦悩しているらしい。


275ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:27:55.38 ID:6kpnE2Dl0
「まったく……。どう育てばあんな性格になるんだか。本当に面倒な奴だ」
「同感です」
「周りが見えないだけならまだしも、自分の事すら見えていない。そのくせ、自分が信じる物には異常なほどの執着を見せる」
「その通りです」
「お互い苦労しているな」
「そのようですね」

 台とまともに話したのは今回が始めてだった。意外と話せそうな人だな。そんな印象を京は受けた。
 身に着ける八十年代ヤンキーファッションも見過ごせなかった。

「何があったんですか?」
「それは……ちょっと言えないな。個人的な事だと言っておこう」
「そうですか」
「そっちは?」
「それは……。……。い、言えませんッ! すごく個人的な事ですッ!」
「? まぁいいさ。これでおあいこだ」

 なぜか恥ずかしそうにしながら少し怒っている京を見て、あのバカは何をしたのかと台は考えた。懐の行動範囲は広い。情報源としては優秀だが、懐そのものの情報は少なかった。捕らえ切れていないのだ。

 台は京をそれと悟られぬよう観察する。
 ここで会ったのは偶然だが、近々姿を現す予定だった。一度じっくり観察せねばと思っていたのだ。
 要注意リストに載ったのは今日だったが、台個人としてはかなり前から警戒していた。
 あの日、イベントホールで話し合っている二人を偶然目撃して以来――

「……なるほどね」

 台は言った。京には聞かれて居ない。
 タバコを踏み締める。缶コーヒーの残りを飲み干す。そして、立ち上がる。
「俺は行くぞ。あまりここには長居しないほうがいい」
「え? あ、はい。そうします」
「では、あのバカによろしく言っておいてくれ」
「それは拒否しますッ!」

 きっぱり拒否られたが、台には何と無く解る。鍛え抜かれた目はごまかせない。
 この先どうなるかはまだわからない。よくある事態だ。どう転ぶかは、もう少し様子をみなければなるまい。
 だが、しかとその目で確認した。

「……なるほどね。懐――」

 台は独り言を呟いた。この先どうなるか、それはすべて懐次第――


続く――

276ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:34:04.04 ID:6kpnE2Dl0


第七話:【眠れる獅子】


 今日も朝から気温が高い。湿度が高い為か不快指数も高かった。
 纏わり付く外気はやる気と体力を奪って行く。降り注ぐ太陽光線は地面で照り返され、上と下から身体を熱し水分を奪って行く。
 真夏である。とにかく暑い日が続いていた。

 エアコンが効いた室内でもいつもより暑かった。エコだか何だか知らないが少し設定温度が高めにされていた。
 それだけなら問題無かったが、行う授業次第では大問題である。

「……。先生。暑いです」
「ガマンなさい。私だって暑いんだから……」

 そんな会話がなされた。
 その場所ではそこかしこに熱源が配置され、人口密集の効果と合間って室温をさらに上げていた。

「……みんな、火の扱いは慎重にね。包丁も気をつけて使ってよ」
「その言葉は先生にお返しします……」

 そんな会話がなされた。
 調理実習を行う家庭科室では、生徒達が自分達の昼食を授業で作らされていた。課題は御飯モノ。要するに炒飯やらピラフやらの類である。それさえ押さえれば後は自由という内容だった。
 その授業を担当する教師の性格が反映されていた。
 それぞれが勝手気ままに作業し、中には料理と呼べない何かすら作っている有様である。
 その授業を担当する白壁やもりはその手つきで生徒達をハラハラさせつつ、さすが家庭科担当と言えるジャンバラヤを作ってみせた。

 そして、生徒達の出来栄えを観察する。一応教師である。しっかり査定し単位付けをしなければならないのだ。
 訳の解らぬ黒焦げの物体を創作した生徒の横では見事に黄金に輝く炒飯が居た。可哀相だから黒焦げの君には後でジャンバラヤをあげよう。やもりはそう思った。

 さらに室内を見渡す。
 そして、やたらと気合いを込めてフライパンを振る生徒を発見。食い意地が形を持って現れたと思われる。
 その生徒は持参したと思われるミックスベジタブルとケチャップで作ったソースを必死に掻き回している。恐らくチキンライスを作る気だろう。
 これまた持参したと思われる鶏モモ肉百グラム九十八円のパックが破かれ、中身は一口大にカットされ、既に一度火を通され次の投入を待っていた。


277ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:36:04.74 ID:6kpnE2Dl0
「ずいぶん大量に作るのね……」
「だって食べ盛りだもん」

 そんな会話がなされた。
 懐はやたらと気合いを入れ、真顔でフライパンと格闘していた。やもりが見守る中、いい具合に煮詰まったソースに鶏肉と御飯をブチ込みへらで混ぜて行く。その量は懐が大食漢だと如実に物語っていた。

「無駄に器用ね……」
「欲望に忠実なもんで」
「他の授業もそのくらい真面目に受ければいいのに」
「俺はいつだって大マジメだよ」

 ソースが絡まったチキンライスを皿に盛り形を整える。どうやらこれで終わりでは無いらしい。
 次にボウルに卵を次々と割って行く。それを軽く掻き交ぜ、先ほどのフライパンにバターとサラダ油を少し足す。

「バンドのほうは順調?」
「ぜんぜん」
「あなた頑張ってたのにねぇ」
「見たこと無いでしょ」
「練習してる所はあるけど?」
「見せた覚えは……」

 バターが溶ける。同時に溶き卵が注ぎ込まれる。
 懐はそれを親の敵のように掻き交ぜ、半熟のオムレツを作る。どうやらオムライスを作る気らしい。
 手際は単位を取るには十分だとやもりに査定される。

「あなた音楽室使う前は外で発声練習してたでしょ?」
「その時見たのかよ」
「たまに見かけたわ。他にも見た人居るかもね」

 完成したオムレツがチキンライスの上へ。
 そしてゆっくり包丁が入れられ、半熟卵が左右へ華開く。

「おお……。美しい……」
「……ホント無駄に器用ね。もっと他に活かせないかしら……」
「暗に馬鹿にしてないかそれ?」
「そうかしら? あ、そうそう、三年生の編入生の事、知ってる?」
「俺の情報網を舐めるなよ。噂だけなら一気に入ってきた。……恐るべき野郎だと聞いている」
「なんだ。まだ会ってないんだ」

 懐はケチャップをたっぷりとオムライスにかけ、満足そうにスプーンを入れた。その完成度はやたらと高い。まさに食い意地が服着て歩いている男だ。
 ものすごく幸せそうにそれを貪る懐。後片付けなどすべて後回しだ。

「噂だけ聞いたの?」
「そうだけど?」
「じゃ、あの子がどんな子かも噂で聞いた?」
「何の事?」

278ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 00:38:13.19 ID:6kpnE2Dl0
「なんだ知らないの? アナタの情報網もたいした事無いわね」
「なんだよ。自分だけ訳知り顔しやがって」
「だって訳知りなんだもの」

 やもりはそう言って懐の元を離れる。生徒は多い。一人にだけ構ってはいられないのだ。とりあえず単位は十分だった。
 懐もなんだか訳が解らなかったが、とりあえず目の前のオムライスの方が重要だった。
 がつがつオムライスを貪る懐。
 あの亮太の正体を知ったら、懐はどういう反応を見せるのだろうか。やもりの興味はそこにあった。そして、その結果生み出されるそれの威力はどんな物か。他人事ではあるが、非常に興味があったのだ。

 偶然目撃して以来、懐の能力が一体どういう物かやもりは少し知っている。そしてその後、どういう経路を辿って来たかも実は知っている。
 彼に何が足りないかよく知っているのだ。そして、その足りない物を亮太が持っている事も知っている。

「あ、そうだ。黒焦げ君にジャンバラヤあげなきゃ……」

 やもりはそう言った。



※ ※ ※



「えええええぇぇぇえええ!!!」
「諦めるんですか……?」
「そうだ。色々と面目ないが……」

 迫は葱とあかねに深々謝罪する。勧誘作戦の突然の中止は結構な衝撃だった。
 一大イベントも終わり、さぁこれからが本番だと思っていた矢先の出来事だった。

「せっかく催眠術を身につけてまで頑張ったのに!」
「身についてないだろう。失敗してるんだから……」
「あそこまで執着してたのに、なんでいきなり諦めるんですか?」
「まぁ、いろいろとな。西郷の件の時に思ったんだ。やりたい事をやらせたほうがいいってな。むりやり引き込んで何になろう。
 そう思ったら、ほっといてやろうと思っただけだ」
「やりたい事って……。そもそも懐さん何出来るんですか?」
「そうですよ。結局私達は何も聞いてないですし……」
「ああ。近々見せてやる。今は捕獲作戦をある連中と練っている所だ」
「捕獲って動物じゃあるまいし……」
「俺達じゃ逃げられるだろ?」
「そうですけど……」


279ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:14:18.72 ID:6kpnE2Dl0
「捕まえてどうするんですか?」
「楽しみにしてればいい。勉強になるぞ」
「なんか胡散臭いなぁ〜」
「そう言うなって」

 ブー垂れる葱を宥める迫。彼もまた、偶然に懐の能力を目の当たりにした一人である。



※ ※ ※




 夜。通学路近辺。
 近所のコンビニがぼんやり光っていた。夜は静かな町である。
 日が落ちて時間がたった為か気温はいくらか下がっていた。だが、アスファルトに篭った熱はいまだ解放しきれず。それのおかげで熱帯夜となりそうな雰囲気だった。
 懐はコンビニで冷たい缶コーヒーを買った。
 少しでも熱を冷ます為にと思ったが、今日ばかりはコーラのほうがよかったと少し思う。暑かった。

 学校から自宅までは割と距離がある。すぐに帰るタイプでも無いので、放課後は外でたっぷり時間を潰してから帰宅するのが常だった。その度にいつも同じコンビニに寄るのがお決まりの行動パターンである。

「暑い……。なんでこんなに暑いのよ」

 駐車場に座り込んでずるずる缶を啜る。さっさと帰れば自室でエアコンが待っているが、出歩くのが習慣になっているせいかそこまで頭が回らない。
 あまりに暑いので髪をお団子に纏めてシャープペンシルを突き刺しておいた。
 喉がさらされいくらかマシにはなったが、それでも暑い事には変わらない。
 これまたコンビニで買ったフライドチキンをかじる。
 これもお決まりのパターンだ。やたらと脂ぎったフライドチキンはかじる度に肉汁を滴らせる。おかげで手が脂だらけ。

「だがそれがいい」

 そう言ったかは定かではない。
 そして、そのお決まりの行動パターンはすぐに見破られるというのが世の常である。
 その時刻、そこで懐を待っている男が一人居たのだ。
 コンビニから少し離れた所で監視していた男は、懐が買い物をして出て来る姿を確認してその姿を現す。それは懐もよく知る人物だった。

「やはりここに来たか」
「あへ……?」
「……なんだその間抜け面は……」
「お前何してんの?」
「色々とな」


280ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:16:03.15 ID:6kpnE2Dl0
 大型台が暗闇からその姿を現す。まさかここで出会うとは懐も思っていなかった。学校内ならともかく、そのコンビニ近辺は完全に懐のプライベートな行動範囲内だったのだ。

「好き勝手動きやがって。探すのも一苦労だ」
「世の中には携帯電話という便利な物があってだな……」
「突然現れる事に意味があるんだ」

 少し歩こう。台はそう言った。
 断る理由も無いので、自転車を引いて取り合えずそれに従いついていく。手に持った袋ががさっと音を立てた。
 台は買い込んだ缶コーヒーを一つねだる。濃く入れたエスプレッソをやたらと甘くした物だった。

「……お前、こんなのよく飲めるな」
「甘党なんですのよ」
「気持ち悪い言い方をするな」
「何言ってんだ今更」

 コンビニから離れ、街灯だけがぼんやり地面を照らしている道端を歩いていた。
 坂の上だった。
 道路の脇からは創発市が見渡せる。明るければ仁科の巨大な校舎が見えるかも知れない。
 そこはなんて事ない、何も無い丘の上へと続く道だった。

 台はタバコを取り出す。使い込んだジッポーがカチンと小気味よい音を立て、フリントが火花を散らすと炎が風に揺られながら現れる。
 当然、横に居たタバコ嫌いの懐は口を挟む。

「おいおいおいおい! 俺の前でタバコ吸うんじゃねー! ノドに悪いだろ!
 ああ、副流煙が俺の細胞を殺して行く! 脳細胞が減って行く!」
「そんな大袈裟な……。脳細胞に関しては元々スカスカだろうが」
「とにかく消せ! この未成年が!」
「はいはい。分かった分かった」

 台は火を付けたばかりのタバコを投げ捨てた。暗闇の中で地面に当たったそれは花火のように光を発して砕けて行く。
 懐はそれを踏んずけて消火する。
 台は大きくため息をついた。これから行う事が、果たして正しいのか。それが自分でもよく解っていなかったから。
 二人は、丘の上までやって来た。

「ああ腹へった」
「……さっき食ったろ」
「あれじゃおやつにもならん」
「お前の胃袋はどうなってんだ? ……ああ、脂ぎった手で触るな!」


281ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:17:51.30 ID:6kpnE2Dl0
 丘の上は何も無かった。
 本当に何も無い、ただの草が生い茂った地面だけがそこに在った。見上げれば、星々が輝いていた。それを邪魔する物は何も無かった。
 セミの声がずっと遠くから聞こえてきた。木すら生えていない、静かな場所だった。

「暑いねぇ」
「全くだ」
「で、なんでここ来た訳?」
「まぁ……色々とな」
「なんだよ〜。どうせよからぬ相談だろうが。言っとくが最新のカップル情報は無いぞ」
「こっちにはある」
「へぇ」

 懐は二本目の缶コーヒーを開ける。

「腹壊すぞ」
「そんな貧弱な内蔵じゃない」
「そうだったな。風邪引いても気付かないようなバカだったのを忘れていた」
「喧嘩売ってんのかよ。ひでぇ事いいやがって」

 そう言いつつ、さらに買い込んだアンパンをかじる。空腹は止められない。
 そして、口を動かしながら考えるのは一つである。というより、他人と話していてもそれしか考えていない。
 おかげで他人からは考え無しで行動するバカだと思われているが、実際はそうではない事を台は知っている。

 なんて哀れな男だ。そして、アイツも哀れだ。台はそう思った。
 本来ならば信条を捩曲げるかも知れない行動を、今自分はしようとしている。そう思ったら、自分の事すら哀れに思えた。

「おい」
「な〜に?」
「お前、今何考えてる?」
「俺が?」
「そうだ」
「……。う〜ん。答えられない」
「答えられない?」
「うん。だってさ、考え事が多すぎる」
「バカがいっちょ前にほざきやがる」
「お前もたいがいだけどな」
「自覚はしているさ」

 哀れなり、黒鉄懐。お前は自分の気持ちすらかなぐり捨てて居るのか。
 それほどまでに、お前が信じる音楽は偉大だと言うのか。
 ならば、目を開かせてやる必要がある。バカなりの方法で。

「やれやれ。面倒な男だ」
「さっきからひどい事ばっかり言って、ボク傷つくよ? いいの?」
「気持ち悪い言い方をするな」

 台は再びタバコをくわえる。今度は肺の奥まで煙を吸い込み、丘の上の空気へと吐き出して行く。


282ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:20:05.54 ID:6kpnE2Dl0
「おい、タバコは……」
「堅い事言ってんじゃねぇ」

 懐の言葉は遮られた。それは先ほどとは少し雰囲気が違う言い方であった。続けざまに、同じ口調で台は言った。

「おい。お前は他人の事を考えた事はあるか?」
「なんだいきなり?」
「答えろバカが」
「なんだよ……。お節介ならたまに焼くけど……」
「そういう意味じゃねぇ」
「何なんだお前さっきから?」
「お前は本当に面倒な奴だ。散々他人を掻き乱して、そのうえ自分の事すらどこ吹く風といった様子だ。
 はっきり言えば、救いようのないバカだ」
「何なんだよ。喧嘩でも売ってんのか?」
「鈍い野郎だな本当に。今更気付いたか」
「……はぁ? なんだって?」
「目ぇ開かせてやるよ」
「おい」
「なんだ?」
「俺の前でタバコ吸うんじゃねぇよ」
「聞こえんな」

 台は持っていたタバコを懐に投げ付ける。胸に当たり、落下しながら火種が宙を舞って行く。
 当然ながら、懐もキナ臭い雰囲気になる。

「露骨なマネしやがって。そこまで気は長くねぇぞ」
「相変わらず口だけは達者だな。たまには行動で示してみろよバカ野郎が」
「てめぇ」

 持っていた缶を投げ捨てる。あんパンすら地面へ落とした。
 髪を留めていたシャープペンシルを引っこ抜く。重力に従ってばさっと金色の長い髪が下ろされた。前髪の奥に隠された目は、滅多に見せない雰囲気を持っていた。懐は、珍しく激怒していた。

「殺す」
「お前にゃ無理だ」

 バカには言葉よりもこっちの方が早い。そう思っていた。だから、台は行動に移したのだ。向こうは純粋な怒りをぶつけてくるだろう。だが、それは仕方の無い事である。
 全ては、コイツの凝り固まった頭をほぐしてやる為。そして台にはこんな方法しか思い付かなかった。

 そして彼らは、丘の上で戦うのだ。


続く――

283ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:24:26.67 ID:6kpnE2Dl0


「先輩! お昼にします? お風呂にします? それとも、わっ、わ・た、わ、たわし……?」
「恥ずかしがってどもっているフリで自分が混乱してどうする」

 さて。
 仁科学園は昼休みだが、俺の心はどうにも安らぎそうにない。
 チャイムから十数秒、いつもの後輩が影より密やかに俺の背後に出現していたからだ。……この世に暗殺者業
界なんてものがあるとして、もし後継者不足に悩んでいるんだったら、この女あたりを強くお薦めしたい。
 それでもそんな女の不意打ちのハグだかキスだかを躱せるあたり、俺も何だか何なんだろ……。
 教室から石もて逐われる前に中庭に自主避難した俺は、ベンチの端に腰掛けて午後の鋭気を養う。もうすぐ夏
休みという時期で、暑気がひどかった。まだしも涼しげな木陰に移動しようかとも思ったが、季節的にカレハガ
やマイマイガの毛虫がいないとも限らない。ドクガの幼虫には毛を飛ばす種類もおり、えんがちょである。

「先輩、私思うんですけど」

 後輩の思いつきはだいたい唐突だ。俺とは反対側のベンチの端で女の子サイズの弁当を啄ばみながら、退屈凌
ぎになるかならないか微妙な下らない話題を提供してくる。
 俺は行き掛けにパン屋で買っておいたリンゴのデニッシュをがぶりとやりながら、半ばうんざりとした視線で
続きを促してみた。

「もし先輩が留年したら、私と同級生になるじゃないですか」
「……」

 いきなりあんまりな仮定をしてくれましたよこの子は……。

「そしたら、先輩を“先輩”とお呼びし続けるのは、留年を冷やかしているようで、かえって失礼になるのでは
ないでしょうか。『おう、先輩。ジュース買ってこいよ』みたいな」
「そういういらんネタを入れるから、話題が支離滅裂になるんだと何度言えば」

 意味不明な局面だが、彼女なりに場の空気を読もうとしているとはいえるだろうかこれは。
 しかしその例文はどう考えてもおかしい。……とツッコんで欲しいのが見え見えなのでそこは華麗にスルーし
ておく。スルー。スルーだいじ。

「でも、だからって、“先崎くん”というのも何かチガウ……。妥当なところでは、やはりさん付けなんかいい
と思います。例えば」

 アホの後輩はそこで咳払いをひとつ。

「『ひゃは、俊輔さんを知らねぇとか、お前この街のモンじゃねぇな?』『あーあ俊輔さんを怒らせちまった。
死んだなあいつ』『さすが俊輔さんマジパネェ』」
「どこの噛ませですか俺は」

 街のならず者の威を借りて大いばりする頭悪めの舎弟みたいな荒んだ声色で、いかがわしい台詞を三連発。
 俺には分かる。後輩はたぶん、最後のを何となく言いたかっただけで女を捨てた。


284ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:25:32.72 ID:6kpnE2Dl0

「――さらにここで――」
「まだ続くのか……」
「――先輩がもう一年留年したとしたら――?」

 あれで終わりかと思ったが、後輩の舌と煩悩はまだまだ滑らか、動きすぎってほどによく動く。
 そこで得意げな顔をする意味はまったく分からんが。ダッシュ(“――”←コレ)まで使いやがって。賭けて
もいい、その勿体ぶった口調は、中身に対して過剰包装だ。

「もはやこの閑花ちゃんが先輩さまです。立場逆転です。頭いいです」

 うっとりと妄想に耽溺するだらしない表情は、とても頭がいいようには見えない。

「後学のために聞くが、もしそういうシチュエーションが実現したとして、その逆転した立場でどんな悪さをす
るつもりだ?」
「まずは襲います」
「襲っ!?」
「……間違えました。パワハラ、セクハラ、ヴァルハラ思うがままです!」
「お前は先輩さまを何だと思ってるんだ」

 ……ヴァルハラ……?

「まあ、とにかく、そういう下剋上なカンケイも倒錯的で燃えそうだよねってことです」
「はは。何の話か分からんな」
「分かってるくせに、もー。このムットゥリスケベさんめっ」
「とろみ付けんな」

 俺ムッツリスケベじゃないし。たぶん。

「そうそう、留年で思い出しましたが、あのオサレソフトクリームみたいな頭をしたドちんぴらも留年していた
んでしたね。恋人の神柚鈴絵先輩の心中はいかばかりか」

 すごい失礼な比喩だが、まあ普通に考えてリーゼントのことかなァと察しはついた。

「というか、え。あの二人って付き合ってるのか?」
「そりゃあもう、見ているこっちが恥ずかしくなるほどにラブラブですよ! 付け入る隙がないほどにね!」
「付け入りたいのお前は」

 何でか後輩がキレた。
 「先輩はドントアンダスタン乙女ゴコロです」だの、「不良とスポーツマンとバンドメンはキライだって私言
ったじゃないですか覚えてくれてなかったんですか」だの、「ソフトクリームよりだんぜん、あいすくりんが好
きですもんッ」だの、掴み掛らんばかりの勢いでぎゃーぎゃー喚く。そんなの俺が知るか。


285ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:26:32.28 ID:6kpnE2Dl0

「……まあ、あれです。とにかく。この後輩の見立てでは、あの二人、相性抜群のスーパーカポー(スーパーな
カップル)だと思いますね」
「かもな」

 神柚鈴絵先輩とあの大型台という男との間に、何がしか強い絆があることは、遠目に何度か二人の姿を目撃し
て知っていた。俺たちの関係ほどウェットには見えないが、どこか近しいものを感じたものだ。
 俺の知る限り二人が揃う光景はそれほど頻繁に見られるものではないが、それが恐らくあの男なりの配慮なの
だろう。
 野次馬根性的な意味で、彼らのこれまでに興味が湧かないといえば嘘になった。積極的に詮索するつもりはな
いが、噂話に耳をそばだてるくらいはすると思う。

「というかあの二人は既に、『鈴ちゃんっ』『台ちゃぁんん』って呼び合う仲ですし」
「うんそれは嘘だろ」
「ばれましたか。ほんとはこんな感じ。『おう部長』『おう台先輩、絵の具チューブ買ってこいよ』」
「部長はそんなこといわない」

 ごめん。俺、これはスルーできなかった……。

「しかし先輩。人間、裏では何をやっているんだか。あー恐ろしい……」
「俺はお前が怖いよ」

 何をされたわけでもないのに、台詞にここまで悪意を篭められるのがすごい。そしてそんな美術部部長もちょ
っと見てみたいと思ってしまった自分が信じられない。
 呆然とする俺を冷やかすように、どこか間抜けに予鈴が鳴った。
 湿気にへたったリンゴのデニッシュは、半分くらいがまだ俺の手の中にあった。



286ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:30:22.36 ID:6kpnE2Dl0


第八話:【これも青春って事で】


 台と懐は睨み合っていた。だが、お互いの目線は合っていない。それぞれがお互いの肩や腰の動きを注視していた。
 片や現役のヤンキー、相対するのはプロレス愛好家。お互い戦い方はある程度心得ている。もっとも、お互い素人の域は脱していないのだが。

 僅か数秒、動きの無い攻防の後。先制攻撃を仕掛けたのは台だった。
 一歩だけ前に進み、長い脚を使っての前蹴り。台のリーチはやたらと長い。一歩進んだだけで爪先が懐の鳩尾まで届いた。
 だが、一歩進むというモーション故か、予測されていた。
 懐はそれをあえて受ける。受けて、その脚を両手でホールドした。
 懐はそのまま前に倒れる。倒れつつ、身体を脚にまとわり付けるように回転させて行く。そして、地面に寝転ぶ。台を道連れに。
 台の膝と股関節はその派手な間接投げによって捩り上げられダメージを受ける。地面にたたき付けられた衝撃は容赦なくスタミナを奪う。一瞬だけ意識が飛ぶ。
 そして、懐はすぐさま寝転ぶ台のマウントポジションを取る。

「今のがドラゴンスクリューだ。覚えとけクソ野郎」
「興味がねーな」
「なら忘れられなくしてやるよ」

 馬乗りになった懐の上からの鉄拳攻撃。プロレスなら反則だが、今は関係無い。ほぼ勝敗は決したかのような態勢だったが、拳を振り下ろした懐は同時に顎に衝撃を受ける。自身にも手応えはあったが、弱い。決定打にはならない。
 台はマウントを取られた状態で、拳で反撃してきた。長いリーチはその不利な状況でも懐の頭部まで悠々届く。打ち抜く事が出来るのだ。
 打ち抜く事が可能という事は、ダメージを与えるパンチを放てるという事。
 懐は身体を起こされる。自身の拳に体重を乗せられなかった。打撃では不利だった。ならばと、今度は肘を相手の喉に突き立てる。そのままスライドさせ、ギロチンチョークで止めを指そうと考えた。
 組技系が考えそうな事だった。だから、読まれた。
 今まさに肘が喉へと侵入しようとした時、逆に腕を掴まれる。懐の身体は台の肘打ちがその頭部に届く位置に固定される。


287ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:32:40.59 ID:6kpnE2Dl0
 そして、台の堅い肘が懐の側頭部を打ち抜く。
 急所に一撃を食った懐はマウントポジションで一瞬意識を飛ばす。全身の力が緩んだ。その隙に、台はブリッジと同時に身体を捻り、マウントポジションから脱出した。

「詰めが甘いな」
「野郎……!」

 台は立ったままそう言った。
 だが、立ち上がって気付いた事。それは、最初に受けたドラゴンスクリューの甚大なるダメージ。右脚の股関節と膝は既にまともに動かなかった。立っているのもやっとだったのだ。

「どうした? さっさとかかってこいよ」

 それはつまり、自らが動けないという事。
 懐の方も顔面に打撃を受け、強烈な肘打ちまで食らった。ダメージは大きかった。懐は何とか立ち上がる。その動きは緩慢だった。隙だらけだった。
 そして自分ならその隙に止めを刺したはずだと考える。
 しかし、台はそうしなかった。

「……余裕のつもりかよウスラデカが」

 嘗められている。懐はそう思った。
 実際は真逆であり、台は組技での反撃を恐れていた。だから無理な接近をしなかった。
 台の方も、あれだけ綺麗に側頭部を打ち抜いたはずなのに立ち上がる懐に多少驚いていた。

「……タフな野郎だな」

 そう思っていた。だが、今の状況でお互いの気持ちなど確かめようもない。
 フラフラと接近する懐。右足を引きずりつつ迎え撃とうとする台。

 懐は体力を振り絞り飛び掛かる。右手を大きく掲げ、振り下ろす。アックスボンバーだ。打撃としては見た目偏重と思われがちだが、相手を寝かせる物としては優秀な技。
 腕力に優れる懐にとっても、これは得意な攻撃だった。ところが。

「まる見えだぜバカが……!」

 台は左足に体重を乗せる。そして、飛び掛かる懐に長いリーチを生かした打ち下ろしを繰り出す。飛んでいた懐には避ける術は無かった。
 結果、カウンターでの打撃が懐の眉間を打ち抜いた。

 鮮血が台にかかる。自身の拳と、懐の眉間から飛び散る物だ。
 懐の制服も自らの血で派手に汚れた。金色の髪は朱色が混じった。


288ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 01:34:23.81 ID:6kpnE2Dl0
 台の拳頭の皮はずる向けになっていた。指が腫れている。折れたようだ。
 所詮は素人の拳である。長年修業を積んだ空手家ですら素手の拳の顔面攻撃で拳が破壊される事がある。
 手の甲が痛かった。台の拳は壊されたようだった。回復にはどれだけかかるやら。逆に言えば、それほどの攻撃を懐は受けたのだ。
 前へ倒れて行く懐。そのまま、台の胸へと頭を預けた。ずるずると滑り落ちるように、重心が落ちて行く。明かなノックアウトに思えた。

「ようやくくたばったか」

 台は言った。だが、すぐにそうでは無いと思い知らされる。懐は右手で台の服をわし掴みにしていたのだ。それによって、地面に倒れるのを回避していた。
 その状況は、組まれて密着した状態だった。

「……てめぇ」
「捕まえたぞクソ野郎」
「ゾンビかお前は……」
「プロレスを嘗めるなよ」

 台は振りほどこうとする。が、離れない。純粋な腕力なら懐に分があった。そのまま、左の回し打ちを台の脇腹へと見舞う。

「……ッッ!」
「ハラワタえぐり出してやる」

 懐はそう言ってさらに打撃を繰り出す。台も黙ってはいない。長いリーチは今は邪魔になる。右拳も破壊された。だが、肘ならこの距離で活きる攻撃だった。
 後頭部に肘を見舞う。が、離れない。何としてもその状態を維持するつもりだ。もしまた距離を取られたら、今の懐に勝ち目はなかった。
 だから密着した状態でのスタミナの削り合いに持ち込んだ。そして懐には、一発逆転の手段が一つ残されていた。



※ ※ ※



 カランと氷が鳴いた。グラスがかいた汗がテーブルの上を濡らし、コースターに水分がたっぷり染み込んで行く。

「うおおおおお!!」

 京は叫んだ。茶々森堂の中にそれが響き渡る。たまたま居た他の仁科の生徒が何事かと京を見た。

「遅れを取り戻さなくては……ッ!」

 京はスケッチブックに向かっていた。先日の騒動の影響で作業予定がすっかり遅れてしまっていたのだ。この時間ではさすがに学校の部室は使えなかった。仕方なく茶々森堂に移動し、新コスのデザインに精を出す。
 頼んだレモンティーは解けた氷ですっかり薄くなってしまった。


289ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 02:01:24.51 ID:6kpnE2Dl0
 ここならば邪魔は入らないだろう。あのバカもどっか行ったし。
 そう思っていた。実際に作業には集中できた。レモンティーと一緒に頼んだモンブランだけはきっちり完食していたが。
 ところがである。懐の影響は一体何なのか。もはや呪いに近い何かが働いた。今日も京の作業は邪魔される。突然現れた男によって。

「こんばんわ」
「……?」
「秋月京ちゃん……だよね?」
「そうですけど……?」
「はじめまして」

 最初、京はナンパか何かかと思った。
 だが、向こうは自分の名前を知っていた。それに、そんな雰囲気も無かった。その目は穏やかながら、明らかに明確な目的と熱を秘めている。奴と同じ目だ。懐と同じ目をしていた。
 男は自らを空知亮太と名乗り、突然話しかけた非礼を詫び、自身の目的を話した。その態度は完璧に大人。顔立ちもやたらとイケメン。おもわずコスプレさせたいと京は思った。
 ところが、その目的を聞いた京は一気に不機嫌になってしまった。

「……きぃいいいい!!」
「どうしたんだ……?」
「あのバカの居場所なんて知りませんッ!」
「えらく怒ってるようだけど……」
「関係ないです! とにかく知りません」
「そうか……。残念だな。よく一緒に居るって聞いたから……」
「居たくて居る訳じゃ無いです! むりやり衣装作れって催促されて……!」
「衣装……?」

 亮太が頼んだコーヒーとチョコレートケーキが二つ届いた。
 ケーキ二つの理由は不機嫌な京に甘い物を食わせて落ち着かせる為。女性が甘い物好きな理由はイライラ解消物質であるセロトニンの分泌が男性より少ない為。甘い物はそれの分泌を促すのだ。
 さらに亮太も甘党だった。
 京は鞄から懐が書いたイラストを数点取り出した。作ってくれと依頼された衣装のローブだ。

「へぇ。パワーメタルっぽい衣装だね」
「パワーメタル?」
「まぁ……ヘヴイメタルにもいろいろ種類があるんだよ。……話すと物凄い長くなるから省くけど」
「そうですか」
「作ったの?」
「まさか!」
「それは残念だな」

 ケーキを貪る京。亮太と懐は今日も会えず終いだった。今どこで何をしているか、おそらく彼らの想像すらしていない事態だとは、当然知る由もなかった。


290ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 02:03:13.97 ID:6kpnE2Dl0


※ ※ ※



「いい加減にくたばれ」
「おまえがな」

 台と懐の削り合いはいまだ続く。時間にして一分にも満たない攻防であったが、実際にそれを行う両者には途方もなく長く感じる。
 お互いボロボロだった。繰り出す攻撃に本来の威力は無い。それが、ダラダラと攻防を長引かせる原因ともなっていた。

「おい」
「なんだ」
「テメェが無意味に喧嘩吹っかけるなんて珍しいんじゃねぇか?」
「今更心理戦に持ち込む気か? 俺を倒したら教えてやらん事もないぞバカが」
「言ったな」

 懐は重心を一つ下げる。そして、少し伸び上がりながら左拳を台の鳩尾に放つ。ショートレンジのボディアッパーだ。
 台の全身から一瞬だけ力が抜けた。
 その隙に、懐は台の両腕を変形の羽折に極める。同時に、自らの頭部を台の背中側の肩口へと差し込み密着させた。ラグビーのスクラムのように。羽折を極めたままだ。

「おいクソ野郎」
「なんだバカ」
「今からお前に必殺技ってモンを見せてやる」

 懐は言った。それは紛れも無く、これでフィニッシュだと発言していた。
 懐は全身に力を込めた。両足を広げ、重心を後ろへと持って行く。それに釣られて、台の身体は一瞬浮き上がる。
 今度はさらに重心を下げる。さらに前方へと移動させる。浮き上がった台の身体の下へ潜り込むように。
 そして、抱え挙げた。羽折を極めたまま、ブレーンバスターのトップポジションに持って行く。
 それは、ある伝説のレスラーの必殺技――

「……てめぇ」
「驚くのはこっからだぞ」

 懐はまっすぐ立ち上がる。そして、ゆっくり前方へと倒れて行く。

「覚えとけ。これがSSPドライブ2000だ」
「うおおおお!?」

 台の真正面から地面が迫ってくる。まともに受けたら、間違いなく必殺の威力がある。
 肩の間接が悲鳴を上げていた。回避せねばと頭の中で何度も考えた。
 だが、がっちりと固定された羽折は抜けられなかった。なにより、地面が台を打ち砕こうと猛烈な勢いで接近して来たのだ。
 絶体絶命。まさにそれその物だった。ところが……。


291ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 02:04:47.68 ID:6kpnE2Dl0
 そこまでだった。
 羽折は突然解除された。迫り来る地面は突然にして方向を変え、台を砕く前に一旦空中で停止し、台は低い位置からゆっくり地面に投げ出された。

 懐のSSPドライブ2000は失敗したのだ。
 ただでさえスタミナの消費が激しい技だった。かなりの腕力が必要となる、羽折を極めたままでブレーンバスターのトップポジションにまで持って行くという行為を行うだけのスタミナは、既に懐に残されていなかったのだ。
 結果、途中で立てなくなり膝を付いた。それがクッションとなり、必殺技はその威力を見せ付ける事なく不発に終わった。
 そして、懐は本当に動けなくなった。

「……クソが! 畜生……!!」
「打ち止めみたいだな……」

 膝を付いたまま動かぬ懐ににじり寄る台。彼もまた、直撃こそ免れたがSSPドライブによって両肩を傷めていた。
 もはや腕を使った攻撃は出来ない。となれば、残された手段はただ一つ。

「これで終わりだ」

 台は一歩大きく踏み出し言った。
 そして、股関節の痛みに堪えながら、その長い脚で遠心力を効かせた回し蹴りを放つ。それは、片膝付いた懐の側頭部を打ち抜いて行った。
 懐は動けぬまま、それを食う。眉間からさらに血飛沫が舞い、台の脚を汚して行く。
 吹き飛ばされた身体は、なす術なく地面へと投げ出された。そして、大の字に寝転ぶ。見えたのは満天の、キラキラ輝く夏の星空。

 脚を振り抜いた台も倒れた。股関節と膝の痛みは相当だったのだ。
 インパクトした瞬間にその衝撃が伝わり、右足が着地した瞬間、ふわっと力が抜けて行った。そして、地面に尻餅を突く。
 お互い限界だったが、どちらが勝者でどちらが敗者か、それは一目瞭然だった。
 台は天を見上げた。見えたのは、寝転ぶ懐が見るのと同じ、綺麗な星空だった。

「……うーん……。痛ぇなこの野郎」
「……タフな野郎だな本当に。まだ喋る余裕あんのか」
「俺を誰だと思ってんだ?」
「そうだな。そうだった……」

 懐は大の字に寝転んだまま。台は胡座で座り、動けなくなった懐を見ていた。


292ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 02:07:05.36 ID:6kpnE2Dl0

「おい」
「なんだ?」
「聞かせろよ」
「何をだ?」
「俺に喧嘩売った理由」
「俺を倒したら教えてやるとは言ったがな」
「なんだよ。気になるだろ。お前が理由なくこんなマネするかよ」
「面倒な男だな……」
「聞き飽きたぜそれ」

 台はタバコを取り出した。今度こそ単なるニコチン切れだった。

「けっ。この未成年が」
「それだけか?」
「仕方ねぇ。今だけ許してやらぁ」
「そりゃどうも」

 台は煙を大きく吸い込む。すぐさまニコチンが脳に達し、それは言い知れぬ安堵感を与える。セブンスターの辛い味が舌をピリピリと刺激した。

「おい懐」
「なんだよ」
「お前、音楽以外の事とか考えてるか?」
「無い」
「……即答かよ」
「知ってるだろ」
「フン。じゃ、俺が喧嘩仕掛けた時はどう思った? 腹がたっただろ?」
「当たり前だろ。ありゃ誰だってキレるぞ」
「それでいいんだよ。たまには他の事にも真面目になれ。特に他人に対してな。あと、自分の事もよく考えてみろ」
「俺はいつだって大マジメだ」
「音楽だけにだろ。もう少し、自分の感情に素直になれ。もっと自分自身に目を向けろよ」
「さっきから何が言いたいんだよお前は?」
「フン。それをよく考えろって言ってんだ」

 台は煙と共に言葉を吐いた。懐にそれが伝わっているかは、正直な所自信が無いというのが本音だった。
 だが、これも全て、このバカの為。世の中には音楽以外の事もある。そう言いたかった。不器用な伝え方しか出来なかったが。

「おい」
「なんだ?」
「次こそブッ倒してやるからな」
「お前にゃ無理だ」
「星が綺麗ねぇ〜」
「……そうだな」

 台はタバコを揉み消す。やるべき事はやった。もう用はなかったのだ。後は、全て懐が考えるべき事なのだ。自分の感情に気付くかどうか。

「俺は行くぞ。お前は?」
「動けねぇよ。もう少し寝てる」
「そうか。ケガは大丈夫か?」
「そりゃこっちのセリフだぞ。筆もてねぇだろ」
「なら左手で描くさ」


293ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 02:09:11.66 ID:6kpnE2Dl0
「バカだろ」
「お互い様だ。俺を恨むなよ」
「なんだかよくわかんねぇけど。まぁ何でもいいや。これも青春って事で」
「相変わらず口だけは達者だな」
「それが俺だよ」
「そうだったな」

 台は去って行く。
 一人残された懐は大地に寝そべったまま、ずっと星を眺めていた。とりあえず動けるようになるまでには、もう少しかかりそうだった。

「……綺麗だなぁ」

 星を見上げたままそう言った。


続く――
294ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 02:11:26.55 ID:6kpnE2Dl0
「『ロミオとジリエット』をやろうと思います!」
遠賀のよく通る声が演劇部の小さな部屋を揺らす。
もうすぐ秋がやってくる。演劇部は毎年ツクツクボウシが鳴き出す時期になると、演目の話し合いを始めるようになる。
木目の走るテーブルを部員たちは囲み、お誕生席には部長が座る。部長の横に座っていた三年生の遠賀希見はこの日のために、
簡単な脚本案を練ってきたのだった。遠賀の声で部員一同は彼女に視線を振り向けた。
メガネを人差し指でつんと突き上げると、ゆっくりと彼女は立ち上がりプリントアウトされた紙を捲った。

「今までに見たことのないような『ロミオとジュリエット』を描こうと思ってるんですよ。我が部初めての試み!」
「でも、先輩。高校の演劇ですよ……前衛とか実験的ってのは、ぼくたちがすることじゃないかと」
部員たちのどよめきをよそに、後輩である迫は冷静に遠賀の案をいぶかしんだ。
遠賀はそれでも自分の脚本案を部員たちに披露する、夏休み最後の日。

「みなさん『ロミオとジュリエット』は御存知ですよね!両家の確執に阻まれた、うら若き男女の悲恋」
「すてき!遠賀先輩が脚本を書くんですよね!」
黄色い声が飛び交う中、迫はメガネを一人拭いていた。遠賀は淀みなく続ける。
「原作ではロミオ、ジュリエットともにタメでした。厨二真っ盛りの十四歳!そこでジュリエットをロミオよりも6つ年上にしました」
「ええ?じゃあ、お姉さんとショタってこと?」
「ショタ言うな!このお年頃の男子ってヤツは年上のお姉さんに憧れるもんです。ロミオを意図的にジュリエットより
年下にすることによって、自然とジュリエットへの恋心が芽生えさせることが出来るということです」
「じゃあ、ジュリエットはどうなの?」
「年上、ということはオトナです。無論、こんな若造、はじめは目もくれません」
「いきなり難関!」
「オトナなのでモンタギュー家とキャピレット家の確執のことは十分に心得ています。そのことを理解出来ないロミオは、
『オトナは汚い!』だの『ジュリエット、どうしてあなたはジュリエットなのですか』と庭からジュリエットを誘うのです。
しかし『はあ?ばっかじゃないの』と彼女はコドモなロミオを鼻でせせら笑うのです」
「やだー。夢も何もないですよ」
遠賀と同級の女子部員が上げる冷たい雨のような声を傘も差さずに置いてきぼり。
「そのうちロミオの情熱に心動かされたジュリエットは、ロミオに段々と恋心を抱くようになり……」


295ほのぼのえっちさん:2011/06/05(日) 02:12:37.12 ID:6kpnE2Dl0
すっと手を挙げる男子生徒がいた。
理知的なメガネを光らせる。
迫だった。
「あの、遠賀先輩。ぼくも『ロミオとジュリエット』をやるってことはいいな、って思っていたんですよ。
ぼくらの世代が主人公ですのでピッタリと思います。でも、先輩の案でぼくらがやるには少しばかり……」
「少し!」
「ハードルが高いと思いますよ。確かに『年上のお姉さんに憧れる少年』って、リアリティはあると思います。
だけど、これって男子目線じゃないんですか?ぼくら男子から見れば面白そうですし、先輩のジュリエットに魅力を感じます。
でも、オーソドックスなスタイルをとる方が、見る人みんなが満足得るものではないんでしょうか?」
迫の後に続いて、気だるそうな女子部員が口を開く。
「そうねー、迫の言うとおりかも。ロミオがメインの劇になるよねー」
「だって、だって……。主役を徹底的に追い込んだ方がストーリーもクオリティも……」
ふと思いついたアイディアを誉められることは誰だって嬉しい。いや、自分が誉められるより、案を誉められる方が嬉しい。
しかし、三年間で培った演劇の粋を集結したこのプロットを否定されるのが、この上なく我慢出来なかったのだ。

「みんなで楽しくやりましょうよ」
気の弱そうな女子部員が恐る恐る口を開いた。誰もがその言葉に首を縦に振った。
遠賀と迫以外は。

きっと、みんなが喜んでくれると思って創り上げたのに。
今までにない演劇をみんなに見てもらえると思ったのに。
なにごともなかったように遠賀を残して、秋の公演に向けて話し合いは続いていった。
チョークが黒板を走る音が遠賀の動揺を誘い、後輩たちの賑やかな声が遠賀の胸をえぐる。
最終的には脚本を遠賀が担当すること、そして主役の二人は迫と迫の同級生の女子が演じることが決まり、この日の話し合いは幕を下ろした。

ぞろぞろと部員たちは自分のカバンを携えて、部室から立ち去っていくも、遠賀と迫だけは部屋に残ったままだった。
ツクツクボウシが去りゆく夏を惜しむ声。白い雲が風に乗って、すっと校庭の上を駆け抜ける。
秋は近いというのに、新しい季節を迎え入れようというのに。
二人は何故か、今は「ようこそ」の一言が言えるような気持ちではないのだった。


296ほのぼのえっちさん
「いいと思ったのになあ」
迫には先輩の声が、どうしようもなく不器用な妹の呟きのように聞こえた。
乱雑に消された板書を丁寧に雑巾でふき取る迫は、話し合いでの姿勢と同じままの遠賀をじっと見つめる。
「先輩は」
「慰めだけなら、お断りっ」
遠賀は自分の脚本案を提案している最中、手を挙げて流れを止めたのは、もしかして迫なりの気遣いではないのか、
と片隅に思い浮かべていた。しかし、それを露にする理由も恩義もない。不器用で、そして不器用で。

「帰りますよ」
自分の荷物を整えながら、迫は部室の窓を閉じる。忘れ物はないか、と確認しながら部屋を一周すると、必然的に遠賀の背後にまわることとなる。
先輩の背中が小さい。センパイではなく、ただの迷子だ。
お巡りさんでも手に余るほどの、どうしようもない迷子だ。
迫がカバンを肩に掛けると、遠賀は迫に顔を見せないようにすっと立ち上がっていた。
「先に帰ってて!」
これ以上話しかけると、むしろ遠賀を追い詰めてしまうので、迫は軽く礼をして部室を後にした。

―――校舎の玄関では迫が一人で遠賀がやって来るのを待っていた。
夏休み最後の日の校内は、当たり前だが静かだ。迫の耳には遠賀の「先に帰ってて!」という、悲痛な声が残る。
遠賀は迫にとっては先輩の一人に過ぎない。ほんの少し早く生まれてこの学校にやってきて、演劇を共にしている一人の『先輩』なだけだ。
『先輩』が『女の子』の尻尾を見せる。そっと、触れたい。くんくんとしたい。でも、怒られるかも。嫌がるかも。
女の子には一人一人に尻尾がついている。ご機嫌だったり、そっぽを向いたり、恥らったりとくるくる変わるふかふか尻尾。
世の中の男の子は尻尾に惑わされて、ぎゅっと掴んで頬摺りしちゃいたいはず。でも、尻尾が誰にでも見えるというわけではないから。
その尻尾に気付いた子は、ちょっとばかり女の子に誉められるかも。迫は遠賀の尻尾を青い空に思い浮かべていた。
会議の初めに尻尾はぶんぶんと、だけど今頃くるりんと。これから訪れる秋の空のように表情が変わりやすい尻尾だ。
迫のメガネに焼きついた遠賀の尻尾をそっとクリーナーで拭き取ると、駆け足にも似た足取りで演劇部部室へ急ぐ。乾いた廊下の音が耳につく。