京は突っ走る。
今日はどこ行く訳でも無い。今は部室に篭っても仕事が手に付かないかもと思っていた。それほど動揺していた。
たどり着いた場所は学内のうらぶれたベンチが置かれた場所。学食から出て少し走った所。学園の隅だった。
「……あのバカ! なんで懐と関わると珍事件ばかり起こるのよ!?」
少々派手に独り言を言ってみる。周りには誰も居ない。聞かれるはずは無かった。が、世の中、油断大敵とはよく言った物。
「何を言っているんだお前は?」
「!!?」
誰かが言った。
それは出来れば係わり合いになりたくない声。いわゆる不良が発した声だった。
背後に居たのは真っ赤なリーゼントを頂く、制服では無いはずのドカンを履いた大男。八十年代を地で行く強者である。大型台はその厳つい顔の眉間にシワを寄せつつ少し驚いた表情でそこに立っていた。
「ここで何している?」
「え? え? いや、その……」
言葉に詰まる。
台も要らぬ事は言えないと思っていた。その場所は三馬鹿の秘密の会議場の一つだったのだ。
「懐がどうとか言っていたが……?」
「え? 聞いてた……んですか?」
「あれだけデカイ声で言えばイヤでも聞こえるだろう」
台はベンチに座った。ワイシャツの胸ポケットからタバコを取り出し、慣れた様子で吹かし始めた。銘柄はセブンスターだった。
「学校……ですよ?」
「だからなんだ。どうせ誰も来ない」
「そういう問題じゃ……」
「分かってる。分かって吸っている」
タバコを指で弾いて灰を落とす。
持っていた缶コーヒーを一口啜り、タバコの風味と混ぜた。おかげでコーヒー本来の香りは失せたが、代わりになんとも言えない特有の味になった。
「……懐の前では一服も出来やしない。よっぽどタバコが嫌いなのか本気で怒りやがる」
「懐の事知ってるんですか?」
「色々とな。いくらか世話になった事もある」
「そうなんですか」
「お前と同じで、アイツの事で問題も抱えてる」
「問題?」
ここでも何かやらかしているのかと京は思ったろう。
台は天を見上げてため息混じりに紫煙を吐き出した。よほど苦悩しているらしい。