亮太はパチンとオペラグラスを閉じる。距離が離れ過ぎた為に観察が不可能になったからだ。
「十分見せてもらったよ。確かに面白い子だ」
「もういいの?」
「ああ。後は直接会ってみるさ」
「じゃあ呼び出そうか?」
「いや、いいよ。自分で会いにいくよ。変な事に巻き込んで悪かったね」
「誘ったの私なんだけど」
「そうだっけ?」
オペラグラスを返却し、亮太も帰路につく。
見たい物は十分見れた。次は人となりを理解し、実力を確かめるだけ。
その結果次第では亮太自身の問題に決着が付くかもれないのだ。
ただ、自分の夢を信じれるかどうかという問題が――
※ ※ ※
同時刻。
学食は放課後をゆっくり過ごす生徒達が何人か。それぞれが自分の時間を好きなように過ごしていた。
窓の外では太陽がまだ地面を照らしている。窓ガラスを貫いて少しセミの声も聞こえてきた。
きっと外はうだるような暑さだろう。
学食ではエアコンがよく効いていた。この中では降り注ぐ太陽光線も纏わり付く夏の湿気も関係無い。
おかげで真夏でありながら優雅にホットのカフェオレを楽しめた。
牧村拓人はいつものようにお気に入りの場所でのんびり放課後を過ごしていた。先日はちょっとした騒動があったが、本来ならばのんびりゆっくり過ごしたいのが本心だ。
たとえちょっと楽しい事があったとてこの思いは変わらない。
が、残念ながら既に騒動に知らずの内に巻き込まれてる。先日の放課後からずっとだ。
「……。居た」
「びくっ!」
「驚き過ぎじゃない拓ちゃん?」
「みみみみみ京先輩!?」
「どーしたの? そんなバケモノでも見たみたいに?」
「い……いいえなんでも……」
正直たまにバケモノに見えているのは内緒だった。
「それがさぁ、こないだはあんな事になっちゃったから見せず終いだったんだけどぉ? 拓ちゃん用の新コス?」
「ぼ……僕用ですか」
僕は逃れられないのか!? そんな事を考えた。
前は上手く混乱に乗じて脱出したものの、今日も都合よくそうなるとは考えられない。