そもそも現代ではハードロックシーン自体が大人しい。
そのうえ懐達が求める『鋼鉄の音』を体現するほどの連中となると希少動物のような物だった。
当然、流行りものに弱い高校生となれば希少価値はさらに上昇する。
「どうしよっかなぁ……」
「う……。あの……。もう一度昔の仲間に当たってみます……。
クラシック上がりなら……その……腕前は問題ないかと……」
「そうか……。じゃあ頼む。俺は……。あああぁ〜〜」
懐には既に心当たりが無かった。
上手い連中も知っているがそういう奴はたいがいにして別のバンドに居たりする。しかも他ジャンルだ。
引き抜きはトラブルの元となるので避けたかった。
「帰る!」
「……えっ?」
「考えてもしょーがねー! こういう時は帰って寝るに限る! さようなら」「え……? ちょ……。……行っちゃった」
懐はすたすたと帰路へ。残ったトオルも仕方なく帰宅。二人が居たベンチは一瞬で静まり返る。通る生徒もまばらだった。
「……」
「……見た?」
「ああ。あれが懐君ね」
「君なんていらないよー。バカでいいよバカで……」
「そういう訳にはいかないよ……」
ひそひそ声。遥か彼方よりその声を発した者は、駐輪場から自転車を持ち出す懐とてくてく歩くトオルを凝視している。
「……あの歩いてるのがトオル君だよ。なんでもオリジナル曲を創っちゃうんだって!」
「それは凄いね。にしてもこのオペラグラスも凄いね……」
「そりゃそうですよ。もはや魔器と呼べる性能でしょ、亮太さん」
「ああ。たまげたよ」
ととろと亮太はじとーっと懐を観察していた。
直接会おうと思って懐を捜していた亮太は、最近はととろと一緒によからぬ遊びに興じているという情報を元に捜索を開始した。
ととろの目立つ風貌は特徴さえ押さえればすぐ分かる。常に移動している懐より簡単に発見してしまったのだ。懐に会いたいから取り次いでくれないかとの要望に、ととろは意外な提案をする。
「なら観察してみない?」
そして、さながらスパイの如き覗き行為をする羽目になっていた。
「見た目はホントに目立つね。いや、目立とうとしてるのかな?」
「バカだからねー」
「しかしメンバー捜しをしているってのも本当のようだね」
「うまく行ってないって常に愚痴ってるよ。聞く方の身にもなれと小一時間問い詰めたいよ」
「はは。まぁそれだけ本気なんだろうね」