弓を投げ捨てた黒。
今にも崩れ落ちそうな身体を力ずくで踏ん張って、手を真上にかざした白。
二つの輪郭がそれぞれに金と銀、二種類の光を帯び始めた。
【INFINITY FORM】
黒い衣装が金色へと染まってゆく。
黄金の翼が三対、その背に広がっていた。
肩にあった装甲が割れてスカートよろしく腰に巻き付く。
ツインテールの髪が解けてストレートになった。
それが水瀬の最終形態。神すら殺す破壊者の姿だった。
また一方で、かざした手はどこからか降ってきた巨大な剣を掴んでいた。
剣は見た目ほど重くないのか、持ち主は二度三度と振ってみせる。
すると大型器物の輪郭が緑色の筋を描き出し、やがては同調して銀色に染まってゆく。
【A.M.FIELD ― START UP】
【S.L.I.Count 10 second. Ready――】
巨大な剣を肩に担いで、膝が床に付きそうなまでに腰を落とす銀色の闘士。
合成音の【Go!】という声と同時に彼女は飛び出した。
「これがあたしの、全力全開、だぁっ!!」
みるみる迫る敵影に、渾身のハイキック&ローキック、流れる動作で回し蹴り。さらに上体を捻って浴びせ蹴りへと移行する。
超超高速、いやそれすら生ぬるい神速のコンビネーションだった。
しかし相手は倒れない。腕に装着した金属爪で攻撃をいなし、かわし、防いだかと思えば反撃に突いてくる。斬りつけてくる。
だが七海にとってそれらの攻撃はその全てが囮であり、本命は次の一手にあった。
「いっくぞぉぉぉ!!」
攻撃をかいくぐって懐に入る。
手を伸ばせば届く場所。これが七海さんの射程圏。
左手に持つ巨大な鉄塊は盾でしかなかった。逆手に持っていたのは右手の攻撃を見せないよう壁とするため。
右手の中には火花を散らす天使の輪っか、二つ。
改良を重ね、幾多の戦いの中で編み出した最強の必殺技。
「アルティメット・ブレイカーァァァァ!!」
真と付かないのは、こちらの方が歴史が長いから。
あの頃はまだ輪っか一つしか作れなかったけれど、今は違う。
それに至るまでのコンビネーションも、技そのものだって、無数の修羅場とたゆまぬ修練によって磨きをかけた。
今や、誰にも負ける気がしない。
それがたとえ、神だの仏だのが相手だったとしても。
ドカンッ!!
突き出された掌。
相手に密着した状態から放たれるのは修羅の技。
それぞれ逆向きに高速回転する二つの天使の輪っかが、同時に爆発し、恐るべき破壊力を敵の土手っ腹へと伝達する。
「あがっ……!!!」
女の胴体に風穴が開いて、ねじ切られるように上半身と下半身が別々の方向へと飛んでゆく。
解放された破壊力は敵の体を粉砕するだけでは飽きたらず、飛び散った肉片さえもさらに細かく砕いていく。
七海は背後に仲間の気配を感じて思い切りよく飛び退いた。