「最初はね、私だって女神に祈りを捧げていたの。けれどアイツは女神なんかじゃあなかったの。
祈りも願いも、何一つ叶えもしないクセに殺せ殺せと囁きかける。だからね、私は祈りも願いも捨てたの」
「そう、堕天使ってワケね」
水瀬が無表情に弓を引き、光の矢をつがえる。
七海の光の翼が一際大きくはためく。
「悪魔に魂を売ったって? それがどうかしたの?」
光の翼が真っ直ぐに伸びて、その身体を前へと押し上げる。
光の矢が無数に増殖して塊へと形を変えてゆく。
そして二人は攻撃態勢に入った。
『撃ち抜け! シューティング・スター・スプラッシュ!!』
『真・アルティメット・ブレイカー!!』
無数の矢がレーザービームのように黒い輪郭へと放たれた。
光の拳が、身体ごと敵めがけて突っ込んだ。
――しかし。
ゴファッ!!
彼女らの中で爆炎が弾けた。
放たれた矢も拳も、手応えも感じさせないままに闇の中へと吸い込まれて、今度は同じだけの衝撃が跳ね返ってくるのだ。
七海が遥か頭上まで吹っ飛ばされて盛大に墜落した。水瀬が体中から血を吹いて床に崩れ落ちた。
「くぅ……、痛いじゃないの」
「本気でマズいかも」
呻きながら、それでもどうにか身を起こす二人。
そんな白黒天使に、堕天使は薄気味悪い笑みを投げかける。
「痛いでしょ? もっと痛くしてあげる。だから、素敵な声で鳴いてちょうだい!」
愉しげに述べてから、お返しだと言わんばかりに爪の付いた腕を振るう。
すると気色悪い背景の向こうから無数のどす黒い塊が飛んできて二人に襲い掛かる。
容赦なく降り注ぐ塊を体一杯に浴びて、悲鳴すら上げられない。
二人はそれぞれに床に這いつくばって、起き上がろうと藻掻いて、黒い塊に打ち付けられてまた倒れるという動作を繰り返す。
やがて疲れたのか、相手は一旦攻撃のを止めて一息吐いた。
「あらあら、地べたを這いつくばって、まるで憐れなウジ虫ね」
いちいち癇に障るぬめり気のある声が、白い悪魔の闘争心に火を付ける。
黒い天使に至っては、頭の血管が「プチン」と音を立てている。
二人はボロボロになりながら、自身から流れ出た血溜まりの中でさえ、どうにか手を付き立ち上がる。
仲間の顔を見て互いにニッと笑んでみせる。
「あたし、全力全開でアイツをぶちのめそうって決めたのだけれど、水瀬ちゃんはどうする?」
「同感ね。こういうのは普通に殺したくらいじゃ死なないだろうし、存在そのものを消し去ってやるわ」