「たまにはAMS無しの戦いってのも悪くないわね」
一人は白の闘士。
丈の短い白マント、結わえるのは真っ赤なリボン。
銀色の髪。金属製の靴は白く。長いのと短いの、二種類を組み合わせた複合スカート。
右腕に装着されているのは黄金色の竜頭手っ甲で、竜の顔には白い縁取りがあった。
「それじゃあ、ちゃっちゃと片付けますか」
また、もう一人は黒の騎士。
細い体を包み込む漆黒のマントと同色衣。長い髪はツインテールに結い上げられ、金色に染まっている。
胸元には紺碧色の宝石が装飾金具にはめ込まれる格好で静かに光を放ち。
手には狂おしく身をよじるように捻れた黄金の弓が握られている。
二人は居並んで周囲の黒ずくめ達を見る。
男達は懐からラピッドを取り出して各々に攻撃態勢を整えている。
また、開きっぱなしのゲートからステルス塗装されたAMSが30体、大型火器で武装した歩兵が100人ほど、駆け足でやって来ると女二人を取り囲んだ。
「まだ返事をして貰っていないのだけれど、変身したと言う事は話を断ったと考えて良いのかしら?」
「ええ、大勢で押し包んで力づくで言う事聞かせようっていうその根性が気に入らないわ。話の内容が何であったとしても答えは同じよ」
「せっかく死ななくて済むチャンスをあげたというのに、本当にお馬鹿な子」
「残念だけれど、あんたは根本的なところで思い違いをしているわね」
「どういうことかしら?」
「こういうことよ!」
叫ぶのと同時に白い輪郭が掻き消える。
七海は地面スレスレの跳躍で手近な集団に向けて突っ込むと、そこにいた人間達の首関節をことごとく捻り折る。
ものの十数秒で20以上の骸が、突っ立っている七海の足下に転がった。
「周りが全員敵だと敵味方を区別する手間が省けて楽だわ」
「くっ……!」
女が顔を歪めて舌打ちする。
だが別の方から上がった言葉で我に返った。
「こういう建物の中での銃の使用は自分の首を絞めるだけだって、どうして気付かないのかしら?」
意識が白ヒロインに向いていて、もう一人には全く注意を払っていなかった。
その隙に水瀬は弓に付いていた金具をせっせと外し、必殺技を放つ体勢を整えていたのだ。
金具の取り払われた黄金弓は左右に割れてXの形へと変形する。
そこに光の糸が出現して、指を掛けて引けば巨大な光の矢が出現した。
【FULL CHARGE】
『駆けろ! スプラッシュ・トレイサー!!』
放たれた矢はそこからさらに変形して光の隼へと姿を変えた。
翼を広げた塊は敵集団に直撃する手前で急に旋回して、隊列を真横から急襲する格好で薙ぎ払う。
この攻撃でフロアにいた兵の7割が、AMSやラピッド石の有無に関係無く胴体を引き裂かれて絶命した。
隼は最後に蒼井聖に迫ったが、激突する寸前で彼女が腕を振り抜くと爆発、光は飛散する。
「……やってくれるじゃない」
憎々しげに絞り出された言葉が僅かに反響する。
けれど、その声に反応できる人間は居なかった。
他の誰も彼もが、常識を覆す光景に息を飲むしか知らなかった。
それ以外の人間、つまりは攻撃を行った当人達はそれがごく当然の結果だと言わんばかりの顔で、まだ居残っている敵を見渡す。
「七海、早く片付けたいから二段階目に移ろうと思うのだけれど、アンタはどうする?」
「うん、いいね、そうしよう!」