「そのおかげで家は半壊、私は合同葬儀を執り行わなきゃいけなくなったワケね」
「いや、それは本気でスマンと思っておる」
深い深い娘さんの溜息。
「だけど意外よね。自分の家を攻撃されて死人まで出たって言うのに、爺ちゃん、話に乗るんでしょ?」
ここまでやられたら、私だったら意地でも蹴るのだけれど。
特に自分の欲望や嫉妬心には正直な老人なだけに、その決断には信じられないものがある。
ひょっとしてすでに洗脳されているんじゃあなかろうか。
雫ちゃんの疑いを晴らすように老人は飄々と答えた。
「じゃが大切な孫娘を戦地に送るのじゃから、タダでは受けんよ」
どうやらこのジジイ。作戦成功と同時に軍事基地を一つ貰い受ける所存らしい。
独自にAMS開発と量産・運営を執り行う、政治から切り離された軍事組織の設立を軟禁されている中で提示していたのだ。
そして脱出する間際に通信室から『この襲撃は家を狙った事に対するケジメじゃ』と発信しておいた。
こうしておけば今回の奪還作戦が正当化できるし、報復攻撃を心配する必要も無い。
「っていうか、それって私たちが行かなくても普通に帰って来れたってことじゃあ……」
「バカモノ。こちらの実力を見せておかんと今後の遣り取りでナメられるじゃろうが!」
転んでもただでは起きないこの老人。
こちとら水槽漬けの脳みそまで見せられたっていうのに……。
ちょっぴり殺意の芽生える雫ちゃんです。
「それはそうと、美香子のこと、ちゃんと捜索かけておいてよね!」
「うむ、心得た」
だけど肝心の友人の事に関しては、老人は知らないと答えるだけだった。
少なくとも源八爺さんが連れてこられてから今に至るまで、基地に誰かが運び込まれた気配は感じなかったとの事で。
なので今度は政府の目も借りて友人の捜索をお願いしようと画策する雫ちゃんです。
だけど、実を言えば。
友人はもうこの世に居ないのではないかと考えている。
戦いの中で感じた彼女の気配が、それと触れ合った自分の本能的な部分が、密やかに友人の死を直感していたから。
だからあまり期待はしない。
今はただ前だけを向いて進もう。
もしも友人の無事な姿を見る事が出来たのなら、直感とかは気のせいだったで片付けて素直に喜ぼう。
そう、無言のまま決意する。
一時間の後、再び会議室へと集まった人々。
その数は若い工員が幾名か抜けただけで、以前とほとんど代わり映えがなかった。
これが喜ぶべき事なのか、自殺志願者の多さに辟易すべきなのかは分からないけれど。
どちらにせよ爺様のカリスマ性は未だに健在なんだなぁと再認識せざるを得ない雫だった。