『くっ……これも魔法の力か!!』
冬矢の呻き声だ。
敵が赤銅色の面具の裏側でニタリと笑んだ、ような気がした。
『オルトロスの隊員が、雑兵に劣ると思うなよ!!』
それから敵は何も無い掌を天井にかざす。
するとその手の上に無数の黒い筋が収束して、やがてそれは真っ黒で巨大な球になった。
『死ね!! 虫けらども!!』
叫んだ勢いで放たれた黒球。
雫の視界いっぱいに迫る暗黒。
ゾクリと背筋が粟立って、その理由を突き止める暇さえなく少女は暗闇に飲み込まれていった。
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真っ黒な世界に佇んでいた。
夢や幻の類なのか、それとも今まさに死の淵を渡らんとする最期の光景なのか、雫には判断がつかない。
ただ、床も壁も天井も全てが真っ黒な中で、微かな浮遊感を覚えながら少女はそこにいる。
【――雫ちゃん】
誰かに呼ばれた様な気がした。
とてもとても懐かしい声。
けれど、どれだけ目を見開いても声の主を見つけ出す事ができない。
ミカ……。
呟いてみたけれど、自分の声が音になっているか自信がない。
と、何かが頬に触れた。
誰かの細くて暖かい手。
するとそれまで真っ暗だった世界に色が現れる。
僅かに光を灯す、友人の輪郭。
長くて艶やかな黒髪が暗黒の中でさえハッキリと見て取れた。
友人は神社の神主さんが着ているような服を着込んでいて、なぜだかその顔には困ったような悲しんでいるような表情が浮かんでいた。
あんた、こんなところに居たの。ホラ、帰るよ。
言ってみたけれど、我ながらとても間抜けな台詞だと思った。
美香子は眼を細めて微笑むと少女の頬に添えた手をそっと離して、こう言った。
【奇跡は、ここにあるんだよ】
キュウゥゥゥゥ――。
どこかで微かな駆動音が鳴り始める。
【MKCデバイスよりドライバの転送を受け付けました。システムの書き換えを実行します……、完了。
脳波リンクを開始します。ジェネレータ駆動値を120に設定。魔力ブースト率を1000倍に固定。
システム、EXPモードに移行します】
聞き慣れたはずの合成音が聞き慣れない言葉を連発する。
このシューティングスターという機体の中には一体何が積み込まれているというのか、パイロットには想像できなかった。