「っていうかさ、この施設って、ただの攻撃基地じゃなかったの?」
『吐くのは後にしてくれよ』
「大丈夫。吐き気より怒りの方がキテるから」
『いや、気持ちは分かるが、なるべく冷静に頼む』
「うん。できるだけ我慢する」
B級SF映画のワンシーンを彷彿とさせる光景の中を進む二人。
少女の脳裏にとても嫌な考えが浮かんだけれど、すぐさま却下した。
なるべく何も考えないように水槽の部屋を進んでいくと一番奥にさらに鉄製の扉があって、
それはIDカードと指紋・声紋・網膜パターン照合式とかいう近未来的な代物だったけれど、冬矢君が自機から伸ばしたボードを差し込むと途端にブルーランプが灯った。
「え、何やったの?」
『ハッキングした。世の中にはこういう便利な道具が出回っているんだ』
彼の言い分にもツッコミたい所はあるのだけど、どうしたって腹の底まで迫り上がってくる怒りと悲しみとで言葉に出来ない雫ちゃん。
最深の部屋は先ほどとは違って何も無い広々としたフロアになっていた。
壁は何の装飾もないコンクリートで天井には梁のつもりなのか赤っぽいH鋼が走っている。
等間隔にぶら下がっている裸電球が床のコンクリートに光を照り返していて、やって来た侵入者2人の影と、それとは別の影を足下に描き出していた。
『――襲撃部隊の基地に夜襲とは恐れ入るぜ』
野太い男の声が少女の耳に入ってくる。
それは赤銅色のAMSだった。
見るからに重厚そうな装甲。如何にも馬力のありそうな四肢。手には回転式のガトリング砲が握られている。
一見して近接戦闘に長けた機体のように思われる。
肩にはドクロを象った部隊章がペイントされており、目元から覗く真っ青な光が不気味さを醸し出していた。
「……あんたは?」
インカムから声を聞いたと言う事は、すでに無線の周波数を合わせられているということ。
ならば今さら慌てふためく事もない。
雫が尋ねると男の声が落ち着いた音色で返してきた。
『ヘルハウンドの隊長さ。といっても、俺自身は【オルトロス】の隊員なんだがな』
『つまりヘルハウンドは洗脳した兵士による部隊で、それを統括しているのがお前達と言う事か』
『そういうこった』
割り込んできた冬矢君の声はここに至っても冷静だった。
雫ちゃんとしては「とにかくコイツがボス敵なのね」くらいにしか思わなかったけれど、彼の中では色々と真実が見えているらしい。
先ほどの光景から胃に穴が開きそうなくらいムカついている雫ちゃんは、さっさと終わらせようとトンファーを構え直す。
そんな紅機体に、赤銅色はガトリングではなく何も持っていない方の手をかざした。
『ところで、貴様らは魔法というモノを信じるか?』
男が言うと、かざされた掌に光が収束する。
敵機はその光を惜しげもなく放った。
ドカンと爆音を轟かせて、後方の壁がひしゃげた。
でも黒ずんではいなくて、だから銃の類ではないのだろうと察する。
まあ、要するに前回屋敷を強襲した女と同様の手法だということだ。
「……それがどうかしたの?」
『驚かないんだな』
「脳みそぶちまけて死んでしまえば同じ肉の塊でしょ?」
『ああ、そうだ。そうだとも』
肩のドクロを震わせて哄笑する男。
気が違ったのか、そもそも最初からおかしいのかは知らないけれど、ピタリと笑うのを止めた敵機の中の人は、次に手にしたガトリングを少女へと向けた。