『切り込むなら私も手伝うぞ』
「おっけ〜、じゃあ、十秒で片付けるわよ!」
不意に目端に併走する影を見つけて言葉を交わす雫ちゃん。
半歩ほど遅れる格好で追従するのは出撃前に一悶着あった水無月千歳さん。
抜いているのは光学式の刃を持つ刀で、機体とセットで彼女に与えられた代物だ。
紅色とメタリックブルー、二人の少女は凄い早さで敵影に突っ込むと、それぞれ二つずつ、すれ違いざまに撃破する。
まさしく秒殺だった。
後方からの支援射撃を加えればツートップに死角は無い。
「けど驚いたわね。てっきり後ろから斬り掛かってくるものかと思ったのだけれど」
『仕事と私情を分けられないプロフェッショナルはいない。貰った給料ぶんの仕事はするさ』
「そう。じゃあ、期待しておくわ」
軽口を叩きながら施設の玄関口まで辿り着いた二人はそれぞれ周囲を警戒しつつ仲間の到着を待つ。
ややあって追いついた男共を伴い前進、地下へ続く通路を探す。
すぐに見つけたのは機材搬入用エレベータで、迷うことなく全員で乗り込む。
ゴクンッと振動があって、下へと動き始める鉄箱。
爺様がこの施設に捕らわれているという情報はあっても具体的にどの部屋に軟禁されているのか分からない。
それに美香子ちゃんも見つけなければいけない。
そういった理由から地下では二手に分かれる算段だった。
「じゃ、みんな。手はずは分かってるわね?」
とはいえ、たとえ爺様を発見したとしても無線傍受の可能性を恐れて連絡は行わない。
どちらが見つけようと、どちらも見つけられまいと制限時間いっぱいで捜索を切り上げて撤退する。
そうしないと迎撃に出てきた増援に全滅させられるから。
生き残っていれば再度の奪還作戦が立てられる可能性だって出てくるかもしれないワケだし、だからこそ死んではいけない。
全滅は彼女らにとっての完全な敗北を意味するのだ。
「よし、いくわよ!」
開いた扉の向こう側へと決死の覚悟で踏み入る雫ちゃん。
廊下の先に簡易的なバリケードを構築して小銃をぶっ放す輩が幾らかいたけれど、神威が肩に担いでいる携帯ミサイルをぶっ放せばただそれだけで静かになった。
ここに至るまでに時間のロスがほとんどないから目一杯に動けるだろう。
爆炎と黒い煙の渦巻く中を突っ切って、最初のT字路に差し掛かった人々は互いに頷き合ってそれぞれ別の方へと身体を向ける。
狙撃担当のマリアちゃんはここに居座って退路を確保する係。
なので雫と冬矢くん。千歳さんとキースさん。このペアが実働の救出班になる。
「冬矢君、私たちは美香子ちゃんも探さなきゃいけないから、相当にハードよ?」
『承知している』
「よし!」
レーダーを見れば神威が憎らしいまでに正確に距離を開けて追いかけているのが分かる。
幾つかの部屋を見つけて中を確認したけれど爺様の姿も友人の姿も見当たらなくて、かなり焦ってきた頃合いになってから二人は廊下の奥、突き当たりの部屋に足を踏み入れた。
『……どうやら俺達はハズレのようだな』
冬矢君が舌打ち混じりに囁いたけれど、雫ちゃんの耳には入らない。
その部屋はとても気味の悪い空間だった。
やけに天井の高い空間には所狭しと円柱型の巨大水槽が並んでいて、中は緑色の液体で満たされている。
液体の中に浮かんでいたのは、どう考えても人間のものとしか思えない大きさの脳みそ。
脊髄とか神経細胞とか、そういうのをくっつけたまんま人間の脳みそが、全ての水槽の中にあった。