PINKのおいらロビー自治スレ3

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327ほのぼのえっちさん
軽口を叩いた後は行き先を真っ直ぐに見据えてバックパックのブースターに火を灯す雫ちゃん。
頼れる味方機はまだパラシュートにぶら下がっていて、着地にはあと数十秒を要するだろう。
神威の射程圏は命中精度込みで70メートルといったところだから、彼が着地するまでにそれ以上距離を開けなければフォローはしてもらえるはず。
基地は森林で囲まれており、ドカンドカンと爆発が起きたって民家に影響は無さそうだ。

「よし。行こう!」

今夜は月が出ていて、そこへAMSに装備されている赤外線暗視カメラを足し合わせれば暗闇など問題のないレベルだ。
後方にある正門付近に目をやると、仲間の傭兵部隊が続々と侵入しているのが見える。
彼らはリーダーである水無月と、キースと、狙撃担当のマリアちゃん以外は防弾チョッキに軍服姿だった。
というか彼らが当初から活動していた中東ではAMSはたとえ旧式の粗悪品であったとしても高級で、そういった事情から扱える人間が少ない。
しかも屋敷に予備の機体が三つしか無くて、だから結果としてこちら側の戦力はAMSが5機と歩兵が6人といった体たらく。
それでも敵を混乱させる事に成功しているのは、彼ら歴戦の傭兵達がドンピシャのタイミングで迫撃砲の弾を着弾させてくれたからだろう。
今作戦での歩兵部隊の役割は初弾により敵部隊を混乱させる事と、そして何より退路の確保にある。
だから人々は本格的な突入をせず、正門付近で弾幕を張りつつAMS部隊が戻ってくるまで粘る。
最新の情報ではこの基地で運用されているAMSは50を下らないし、それらは全て夜間戦闘に特化させたタイプらしいから、全機が出張ってくるとこちらは瞬く間に全滅してしまうだろう。
そうなる前に作戦を完了させなければいけない。
前方を顧みれば建物の窓の隙間から覗いている敵影はまだ少ないし、隣接する倉庫からAMSが飛び出してくる気配もない。
慌てふためき手近にあった小銃を引っ掴んでやって来た敵兵ならば10人だろうが20人だろうが雫ちゃんの敵ではなかった。

「ていっ!」

小銃から吐き出される弾丸を難なくかわして敵陣まで迫ったAMSが、恐怖に目を見開く数名を撲殺する。
トンファーを持つ手に肉と骨とを砕く感触が伝わるけれど、そんな事にいちいち動揺するほどか弱い雫ちゃんではなくて、
障害物をあらかた薙ぎ倒した後はこの頃になってようやく着地した神威君が追いついてくるのを待つ。
神威のさらに後ろには水無月さんが駆るメタリックブルーの機体と黄土色の機体、それから小さな狙撃手が着込むモノトーン・カラーの輪郭がある。
それらは美香子ちゃんの機体『アルティザン』の改良型として量産された機体で、射撃は元より格闘も遠距離狙撃もそつなくこなす万能型だった。

『おい冬矢、お前の雇い主はいつもあんな突っ込んだ戦い方するのか?』
『ああ、だから援護する方も大忙しだ』
『嫁さんにしたくないタイプだな。危なっかしくて見てられねえ』

あとで聞いた話ではチームリーダーが単機で敵集団の中へ突っ込んでいくなんてのは有り得ない話らしい。
そりゃあまあ、指示を出す人間が鉄砲玉みたいなマネしちゃダメなんだろうけれど、これまでのやり方をいちいち変えるのは性に合わないし小細工も苦手なので正々堂々と真正面から殴りかかる雫ちゃんです。

「そこ、くだらないこと言ってないで早く来なさい!」

でもそれを言ったら傭兵達のリーダーだって一番乗りで日本刀振り回す凶暴女じゃない。
男共の談笑に目くじら立てる少女は怒鳴ってやろうかしらとも思ったけれど、前方にAMSの輪郭を見つけて即座に頭を切り換える。
そりゃあ、どんなお粗末な軍事施設であっても敵襲への備えはあるわよね。特に色々と恨みを買っている攻撃基地ともなれば防衛用のAMSだって配備されていて当然。
まあ、雫ちゃんとしては自機の限界を試してみたくてウズウズしているわけだし、後退だとか撤退だとか、そんな単語は思い浮かびもしないのだけれど。
出現したAMSは4体ほど。どれも全身ステルス色で手に歩兵より一回り大きな口径の小銃を装備している。
乾いた唇を舐めてニヤリと凶暴な笑みを浮かべる雫は、機体の駆動力を手動で最大値まで引っ張り上げて、腰を落として突っ込む体勢を整えた。