夕食時は過ぎたころ、勇子たちが通学に使っている駅のホーム下の通路では、暗色パンツスーツを着た27・8歳くらいで割と美人の女性が人を待っている様子だ。
<>改札口から二人連れの男性が出てくると、手を挙げて合図した。合流した3人は彼女の誘導で里山へのバス通りを北へ登っていく。
「逃げた実験体が潜んでそうやというのはほんまにこの辺りか?」
通勤鞄を手に提げたドブネズミ姿のアラフォー男性の問いは関西弁だ。
「ええ。噂の最新の到達点がこの辺で、昨日今日の痕跡もこの丘に少し残ってるんで、ほぼ間違いないですわ。」
関西弁は女性も同様。
「まずいな。」
「何がですん。」
結局全員関西弁だが、訊いたのは20台前半な感じのガムをクチャクチャやってる若者で、紺の野球帽に暗緑色のミリ風上着とジーパンという服装だ。Angel Bomberという戦略爆撃隊が実在するかは分からない。
「この丘の上の寺院が大和の御本家。この辺はお膝元や。」
「当代日本鬼子のですか、シュージュンさん。」
「そう。あと、聡君、俺はヒデカズや。」
敬称略も気に入らない。
「ああ、なるほど。それなら全部分かる。」
「なんや?」
「いや、上の方の住宅地に割と筋いい探知系の結界が張ってあるんですけど、」
「前はそんなもんは無かったが、尚更まずいな、それは。実験体は討たれたかもしれん。」
「いや、多分大丈夫かな。ここらの龍脈はかなり細いんですけど、おそらく本家の防御結界が相当手が込んでて、かなりリソースつこうてるんやないかな。
<>結果下流で細なってて、恒常的に探知結界張るんはきつい。実際、探知結界は多分今日張ったもんで、むしろ取り逃したから臨時に張ったんやないかと思います。」
知っていることと照らし合わせても辻褄は合う。推測はおそらく正しいだろう。
「以前と比べて龍脈が随分細っているのは俺も感じてたとこやが・・・
<>三女の恵さんがまだ幼いから、今の御本家で戦えるんは御当代と賢行さんのお二方だけで、他に諏訪の犬精が修行でおるて聞いてるが、まだ幼犬で戦力やない。
<>まあ、お二方で充分難攻不落やが、先代が表稼業の都合で別居なさった際、代わりに防御を強化したゆうとこか。実験体の方はどうか分からんが、今夜は手分けして捜索、見つからんようなら、俺が明日、挨拶がてら探りを入れてみるわ。」
説明しつつ話をまとめる。
「うぃーっす。」
ひどい返事だ。
「・・・」
女性の方は返事が無い。
「どないした、信江君」
「その防御結界、破ってみてもいいですかね。」
「あ?」何を言い出すんやこの女。
「先代が編んだ結界なら破ってみたいんですが。」
「先代が編んだとはかぎらへんな。そもそも大和とことを構えるのが目的やない。」
『やってみれば誰が編んだかぐらい分かるけど・・・』
「・・・そうですよね、今のんは無しで。」
『何か、変なんばっかりあてがわれたな。』先行き不安だ。