ルコはテレビをつけた。流石にあの店の話題は続けたくなかった。ヤンデレなら既にこの家にも住んでいる。
実に面倒、それがルコの感想だった。それなのに態々、そんなのばかりが揃っている店のことなど考えたくなかった。
だがテレビもルコの望むようなものを映し出していなかった。先輩が見ないほうがいいといった理由が分かる。
ルコ「あの、先輩」
テト「何だ。」
ルコ「テレビでメルトダウンとか言っちゃってますけど。」
テト「起きっこない。心配するな。」
ルコ「でもこんだけ言われると、そうなるのかなって気が」
テト「だからTVは見るなといったんだが、この間も説明したろ?起きない理由。」
ルコ「ええ、まぁ」
鬼子はチャンネルを変えていた。どこも同じようなものだった。結局国営放送にチャンネルを合わせる。
鬼子「ここが一番いいみたいですね。」
テト「人様から金をふんだくってんだ。これ位してくれなきゃ困る。」
鬼子「厳しいですねぇ。」
テト「気にすんな。どうせ何時も人のことを非難しまくってばかりいるんだから。」
鬼子は気が抜けたように笑った。さっきの蕎麦屋の話は気が滅入るし、テレビも気の滅入ることしか言わない。
鬼子「テトさん。いいことがあるんでしょうか。」
テト「ん?そうだねぇ。これからの心掛け次第じゃない?」
鬼子「心がけ、ですか。」
テト「悲観は気分。楽観は意志、そういうじゃない。」
鬼子「そういうものですか」
テト「そういうものよ。」
鬼子「でも何かどうしょうもないような。」
テト「それでも人は生きていかなければならない。喩え、その先碌でもない未来が待ち受けていたとしてもね。」
鬼子「避けられるんでしょうか。」
テト「正直言ってあたしにも分からん。でも、絶望するより、楽観的に見たほうがいいんじゃないかと思っている。
それに、被災地にいる人たちはもっと大変なのだ。それに比べたらどうということはないでしょう。」
鬼子「ああ、まぁ、確かにそうですね。」
テト「まぁ、そういうこと。んじゃ、世の中を明るくするためにあたしたちに出来ることをしようか。」
鬼子「私達に出来ることって、一体…」
テト「歌うことだ。」
鬼子はきょとんとした。この人、何言ってんのかしら。
テト「あたしたちは何者だ?」
鬼子「えーと、何でしたっけ。」
テトは脱力した。ルコは苦笑いをし、ルコはあっけにとられていた。テイは二階で硬直したままだった。
テト「UTAU、だ。こういう時に辛気臭い顔してどうするよ。」
鬼子「そう言えばそうでしたね。」
テトは再び脱力した。
テト「まぁ、何だ。そういうこと。歌の力で皆を明るく出来たらいいんじゃないの。」
鬼子「そういうことなんでしょうか。」
テト「うん。そう。この状態で、どれだけのプロデューサーがやる気になるか分らないけど、
それでも人々のために歌を歌うのが仕事でしょう。
そういう立場にあるあたしたちが暗い顔してたら、皆余計気落ちするわ。」
鬼子「そういうものでしょうか。」
テト「そういうもんだ。」
鬼子は分からない、という表情をしている。テトは、仕方ないか、と思っていた。
この子はまだUTAUに加わってから日が浅い。そういうところが本当の所で理解できなくとも仕方がなくもある。
テト「じゃあ、スタジオに行こうか。」