2人の前には、異形の形をした悪しき輩がいる。こちらの動きをジッと見つめているみたいだ。
「だ・・駄目です。先に逃げて下さい。秀吉さんは何も武器を持っていないじゃないですか」
その言葉が終わるのと同時に、悪しき輩が飛び掛って来た。
素早く鬼子の前へ出る秀吉。
輩の大きな腕を瞬時に掴み、相手の力を利用してそのまま下へ押しやる。
下へさがった輩の首元めがけて、秀吉の足が力強く食い込んだ。
【ドガッ】
輩は地面に叩きつけられる。一瞬の出来事だった。
秀吉は、鬼子の腕を掴み後ろへと下がっていく。
「これが僕の武器さ。古武道ってね、相手の力を利用しながら倒すんだよ」
鬼子は秀吉の力強さに圧倒されていて言葉が出なかった。
「あ〜あ。鬼子ちゃんのその姿を織田さんが見たら・・・僕怒られちゃうな・・・」
「で・・でも・・・。やっぱり秀吉さんは下がってた方が・・」
「鬼子ちゃん。鬼子ちゃんがいくら強くても、倒せない相手がいるかもしれない、
そういう時は、みんなの力を借りないとね。力を合わせれば勝てるようになるよ、きっと」
叩きつけられた輩の周りに立ち込めていた煙が、徐々に薄くなってきた。
その時・・・鬼子と秀吉の目に映ったのは、倒れている輩の後ろにもう一体、
大きな異形の形をした輩の姿が映った。
秀吉が、目を凝らしながらその輩を観察している。
「形が違う・・・。やけに長い手足だ・・・」
「あ・・あれは多分、昆虫か何かに取り付いた輩だと思います。でも・・・
ここまで身体が大きくなるなんて・・・」
「鬼子ちゃん・・少し距離をとろう。相手の動き方を読むんだ」
「は、はい」
少し離れた場所にいるヒワイドリ達。彼等もまた、鬼子達の状況を見ていた。
ヒワイドリが険しい表情でそれを見つめている。
「やばい・・・やばいぞあれは・・・。もう一体出てきやがった。
秀吉がいると言っても、一匹相手に苦戦していた鬼子では・・・」
≪「俺が行く!」≫
と声を張り上げたのは音麻呂だった。
「まてぃ」
後ろからガサツな声が飛んで来た。出てきたのは、般若と奏麻呂だった。
「後ろから近づいてるワシ達に気付かんようでは、あの輩は倒せんよ」
奏麻呂が歌麻呂の状況を見て、近くに飛んで来た。
「ど・・どうしたの!?怪我してるじゃない・・・」
「ハハ・・ちょっと不意をつかれちゃってね」
般若は、彼等の周りに素早く結界を張る。
「この結界から出るんじゃないぞ。この中にいれば安心じゃからな。絶対に出るな!
ヒワイドリよ、どういう状況か説明してくれ」
ヒワイドリは、鬼子がココへ到着してから今までの状況を般若に説明した。
「・・・そうか。苦戦しとると言う訳じゃな」
「そ、そうだよ。だから速く助けてやれよ般若」
ヒワイドリはそう荒々しく般若に言った。
「・・・今は駄目じゃ・・・」
「ハァ・・?何言ってんだ般若。お前は鬼子の守護者だろ!」
「そうじゃ・・・。ヒワイドリは知らんのか?守護者とは、必要以上の事をしてはいけないんじゃ。
もしワシが手助けなどしてしまったら、今必死になって考えておる鬼子が成長すると思うか?
今以上に強くなろうとしている鬼子の邪魔をするだけじゃ」
「しかし・・・あの状況じゃぁ・・・」
「解っとる・・・。もう少し様子をみるんじゃ」
般若は鬼子達を見つめている。
ヒワイドリは、握り拳を作りながらその様子を眺めていた。