「ヒワイドリ、早く歌麻呂さんを安全な場所まで!」
人型に素早く変ったヒワイドリは歌麻呂を抱きかかえ、即この場から走り去る。
歌麻呂の目には、ヒワイドリの着物の合間から燃え盛る炎の中へ飛び込んでいく鬼子の姿が映る。
手を伸ばしながら歌麻呂は叫んだ。
≪「鬼子ちゃーーーーん・・・」≫
燃え盛る炎の中で、鬼子とその悪しき輩は対峙している。
輩の爪を見ると・・・白い毛がその爪の中に挟まっていた。
鬼子には直ぐ解った。それが、ハチ太郎の綺麗な白い毛だと。
鬼子の髪の毛が逆立って行き、赤黒い瞳が怒りを爆発させる。
≪「・・・お前が・・・お前がやったのかーーーーー!」≫
鬼子は叫び、見た事の無い険しい形相でその輩に飛び掛って行った。
光輝く薙刀を力一杯振り下ろす鬼子。それをかいくぐりながら鋭い爪を
鬼子に突き出す悪しき輩。
炎の中では、【キーン】【ガスッ】【ドガッ】という音が何度も鳴り響いていた。
少し離れた高台に、ヒワイドリは歌麻呂を降ろす。
ヒワイドリは、自分の白い着物の袂を破り、それを歌麻呂の怪我の部分に巻き付けた。
「大丈夫かぃ?歌麻呂」
初めて見る優しい目つきのヒワイドリだ。
「あ・・あぁ。俺なら大丈夫。ちょっと、足をくじいちまってね。それより・・
鬼子ちゃんの方が心配だ。鬼子ちゃんがどれほど強いかは知らないけど、
あの悪しき輩は・・・鬼子ちゃんにとっても強すぎるんじゃぁ・・・」
ヒワイドリが炎の方を見つめる。
「・・・・・解らない。おいらにも解らないんだ。鬼子の強さがどれ程かは・・・」
後ろの草むらが急にガザガザと揺れる。
ヒワイドリは振り向き、とっさに身構えた。
すると、音麻呂と詠麻呂、秀吉が出てきた。
3人の目に、歌麻呂の身体の状態が飛び込んで来た。
音麻呂が、血相を変えて飛び寄って来る。
「う、歌麻呂。大丈夫か!?」
「あぁ、大丈夫。危ない所を鬼子ちゃんに助けられたよ」
秀吉が辺りを見回す。
「お、鬼子ちゃんは何処に・・・?」
すると、ヒワイドリが指差した。
「・・・あの・・炎の中さ・・・。悪しき輩とあの中で闘ってる・・・」
その言葉を聞いた秀吉の表情が、みるみる怒りに満ちた顔つきに変わっていく。
眉間にシワを寄せた秀吉は、ヒワイドリの胸ぐらを掴み、押し上げた。
「お・・お前・・・。鬼子ちゃんを一人で・・・」
「秀吉さん。違います。今さっきヒワイドリが俺をココへ運んでくれたんです」
歌麻呂は、痛む足を押さえながら立ち上がり、秀吉の腕をつかみながらそう言った。
「そ・・そうか。すまん・・ヒワイドリ」
そう言った秀吉は、直ぐに鬼子の方に走って行った。
「君達はココで待機だ。危ないと思ったらすぐ逃げるんだよ!
決してあの場所には近づかないでね」
そう言い残し、秀吉は鬼子の方に走って行った。
秀吉が駆け込んで行った時、炎は煙へと変わっていた。
そして大声で叫んだ。
≪「鬼子ちゃん!鬼子ちゃん・・・」≫
黒く立ち込める煙の中から鬼子の声が聞こえて来た。
「秀吉さん?こっちには近づかないで!」
その声がした方へ、秀吉は何も考えず駆け込んで行った。
薄暗い煙の中、秀吉の目に飛び込んで来たのは、鬼子の着物が所々切り刻まれていて、
口からも・・・頬からも血を流している姿だった。
「鬼子ちゃん!」
「ひ・・秀吉さん・・・」
鬼子は目を見開き驚いている。
「な、何で来たんですか・・。ここは危険だって・・・」
「・・・鬼子ちゃん・・。一旦下がるんだ。その状態では勝てなくなるよ」