PINKのおいらロビー自治スレ3

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270ほのぼのえっちさん
●「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十二章〜【ヒワイドリの怒り】

 陽の光が傾きかけた午後。薄暗い森の中を凄まじい速さで駆け飛ぶ鬼子の姿があった。
その姿は・・角が光りながら鋭くなり、裾が短くなった紅色の着物から大量のもみじが舞い落ちている。
そして、妖しく光り輝く薙刀を右手に持ち・・・赤黒く染まったその瞳からは・・・
・・・涙が溢れ出していた。

皆が感じた歌麻呂の痛み・・・。その痛みが鬼子の心を強く締め付けている・・・。
みんなを守る・・・と、心で決めていたのに・・・。
 【無事でいて・・・】
そう思う一心で鬼子は、木々の小さな枝を避ける事無く森の中を一直線に駆け飛んでいる。
鬼子の顔は・・・木々の枝が当り、血が滲むようになってきていた。
自分のこの小さな痛みなどどうでもいい。歌麻呂の安否だけが・・・・・・。

 歌麻呂が何かの影を相手に、険しい表情で身構えている。
右手に錫杖(しゃくじょう)を持ち、その枝の先には、刀の様な薙刀の様な鋭い刃物が付いていた。
歌麻呂の左腕から・・血が流れ出ている。そして、足を引きずっていた。
 「くそう・・・。不意打ちたぁ〜卑怯な奴だな・・・。こ、これが心の鬼に取り付かれ、
  悪しき輩と変貌した奴の姿か・・・。醜い姿だな・・・」
彼が見上げたその先には、自身の身体の三倍ほどの大きさのある熊の様な姿の悪しき輩がいた。
歌麻呂は錫杖を左手に持ち替え、右手で素早く九字(くじ)を切り出した。
 「臨兵闘者皆陣列在前」←【指を四縦五横に切る動作を伴う】
その言葉を唱えた後、何かの紙をその悪しき輩に投げつけた。
そして叫ぶ。
 ≪「式神!!」≫
すると、その投げつけた紙が、獅子の姿に変わり悪しき輩に飛び掛って行った。
今回のこの力は、山伏ではなく陰陽師の力だ。
その隙に、歌麻呂は足を引きずりながら少し後ろへ後退する。
獅子にまとわりつかれている輩が大きな爪で、その獅子を一刀両断した。
 【ガシーン】
歌麻呂は、険しい表情で下唇を噛締める。
 「・・これなら」
そしてまた九字を切り出した。
 「朱雀・玄武・白虎・勾陳・帝后・文王・三台・玉女・青龍」
先ほどとは違う唱え方だ。
そう言いながら今度は木の板を懐から出し、それを輩めがけて力一杯投げつけ、叫んだ。
 ≪「霊符!!!」≫
 【ドドーーーーン】
大きな爆発音とともに、あたり一体が炎の海に飲み込まれる。
大きな炎が燃え盛る中、歌麻呂はその場で炎を見つめ身構えていた。
 「ハアハア・・・やったか・・・?」
目の前の炎の中で、黒くうごめく影が見える。
歌麻呂は、顔の前に腕をかざし、炎の中のうごめく影をじっと見ていた。
 【ドバァッ】
突然炎の中から悪しき輩が現れ、歌麻呂めがけて襲い掛ってきた。
歌麻呂は後ろに飛んで逃げようとしたが、くじいてる足が言う事を聞かない。
そして・・その場に倒れこんでしまった。
 「し・・しまった」
歌麻呂はその影を、目を見開きながら見上げた。
覆いかぶさる様に歌麻呂の前に飛び出して来た悪しき輩。
その輩が、大きな爪を勢い良く振り下ろしてきた。
 【ガシーーーーンッッッ】
辺り一面に鳴り響く大きな鈍い音。
 【ドスン】
と地面に落ちる輩の片腕。
その音に目を開いた歌麻呂の前には・・・・・仁王立ち姿の鬼子がいた。
鬼子が熊の様な悪しき輩の片腕を切り裂いていたのだ。
赤黒い瞳からは・・・小さく輝く涙が流れている様に見えた。
●挿絵1 http://pinktower.com/loda.jp/hinomotooniko2/?id=735.jpg