その日、鬼子は心の鬼を退治した…が、その女性に纏わり付くモヤは未だ晴れない。聞けば自らの宿した子を相手との結婚が許されず、
堕胎した事を強く悔いているという。そこで、若般さんの勧めで近場の水子供養の寺へと共に向かう事になった。
水子供養は恨みを残さぬようにと、この世での縁を切る所…頭の隅に残り続ける迷いを断ち切る事。
そこで鬼子が感じたのは、そこに飾られた刀に多くの白いモヤの様な気配が漂い、纏わり付いている光景だった。
鬼子『住職様、あの刀は何なんですか?』
住職『あの刀が、ここの水子供養に用いられる御神体なんですよ。銘を「童切り緒結」という御神刀にございます。
大昔飢饉があった頃、口減らしのために童を切った刀の持ち主が、どうかへその緒にまた結ばれて産まれてきてくれと、
そう願いながら刀を抱え祈っていると、豊作になった年に切ってしまった子供と瓜二つの子供に恵まれたそうじゃ』
一緒に来ていた女性も、お腹へそっと手を触れながら聞いている。理由は違えど、状況は似たものと感じる状態である。
住職『その刀は寺へと寄進され、水子や亡くした幼子への未練や縁を断ち切り、また新たな出会いの縁と結ぶ御神体としているのだよ』
女性『私…いつか本当に信用できる方を探して、夫婦となり…しっかりと子供を育てます。本当に有難うございます』
幾分か晴れやかになった女性のお腹から、すっと白い魂の様なモヤが、また刀へと引き寄せられる。
それに気づいていない様子の女性は、そのまま深くお辞儀をすると寺を後にして外に出ようとしていた。
鬼子『…住職さん、この刀に触ってみて良いですか?何故か少し懐かしい気がするの』
住職『良いですよ…若般さんのご紹介だ。日本家にも幾分かご縁のある刀と聞いておりますゆえ』
鬼子が近づくと、より一層光を増す。それに触れると、徐々に光が人の形を取っていく…!
???『…ん…ネネさま??鬼子ネネさまよね?会いたかった…ネネさまが消えちゃったかと思ってた…』
そこには桜模様の着物を着て、先ほどまで台に乗っていた刀を背負った少女の姿があった。
鬼子『え…あなたは?私の事を知っているの?』
小日本『えへへ…私の名前は小日本、ネネさまから名前を貰ったんだよ?ネネさまったらまた忘れてるんだね』
田中『…え?あの子は刀から産まれたの?しかも鬼子ちゃんの事を既に知っているってどういう事?』
鬼子『話せば長くなるけど、私の一族には私と同じ様に角のある「鬼子」と呼ばれる女が時々生まれるの。
小日本の言っているのは、多分先代以前の事を言っていると思うんだけど、私の家族は本家を離れたから詳しくは知らないの…』
ハンニャー『ちょっと鬼子!なんでこの旅館にはこんな変態のまで来ているのよ!あんたは本当に甘すぎだわ…』
若般は猫耳まで飛び出し爪の伸びた姿で、バスタオルのみ身に纏い爪の先にはチチメンチョウとヒワイドリを串刺しにしている。
二羽『ふ…ふふ、良い乳を拝ませて貰えれば我らが生涯に一片の悔いも無し!!』
暴れて爪からずり落ちると、一目散に逃げていく。それを湯上り姿で追いかける若般。ほとんど野生に戻った猫だ。体は妖艶な女性だが。
田中『…何、アレ?鳥が喋ってた…。いやまぁ猫又と一緒に泊まりに来た私も変なんだろうけど』
鬼子『…どこまで話しましたっけ?そうそう、それでついて来ちゃってしばらく若般さんと一緒に三人で住んでたんだけど…。
夏にね、彼女が若般さんの前で力を使っちゃったの。図書館に飾る絵が少ない、って時にね…』
小日本『えへへ…私の力なら色んな人を呼べるよ〜!…絵を描きたりし方々よ、この地へ集まりたまへ…萌え咲け!』
目を閉じた小日本が祝詞を上げると、ピンクの花びらが街へと散り、パラパラとコンクールに出展する作品を人々が…。