状況を把握した、奏麻呂の表情が穏やかになっていく。
「あ〜・・ビックリした。鬼子ちゃん驚かせないでよ〜」
「ご・・ごめんなさい。ちょっと心配になって・・・。
で、ヒワイドリ・・。何であんたが奏麻呂さんの後ろに隠れてるのよ・・・」
鬼子はキツイ表情でヒワイドリを睨んだ。
「だ・・だって・・。怖かったんだもん・・・」
ヒワイドリは弱々しくそう返事した。
般若が鬼子の頭から飛び降りてきた。
「ヒワイドリ、お前は鬼子と一緒に行動せい。奏麻呂にはワシが付く」
すると、ヒワイドリが般若に指をさしながら叫んだ。
「ぁあ〜あんた、奏麻呂ちゃんに手を出そうとしてるだろ!」
【ガツン】
ヒワイドリの頭が地面に埋まり、足をバタバタさせている・・・。
般若が殴りつけたのだ・・・。
その時、詠麻呂からヒワイドリアクセを伝って皆の心に連絡が入った。
【皆、ただの連絡よ。まだ遠いと思うけど、微弱ながら錫杖が反応してるわ】
すると、それに反応する様に鬼子が念じた。
【解ったわ、詠麻呂さん。今からそっちに行くからその場で待っててね】
般若もそれに反応する。
【音麻呂と歌麻呂は詠麻呂と近い位置にいるから、用心しながら詠麻呂の方へ
移動せい】
音麻呂、歌麻呂もそれに反応する。
【はい、解りました。回りを探りながら徐々に詠麻呂の方へ近づいて行きます】
般若は鬼子の方を見て言った。
「鬼子、詠麻呂、秀吉と直ぐ合流するんじゃ。ワシと奏麻呂の2人を背負って行けんからな」
「はい。解りました」
と鬼子は言い、直ぐに詠麻呂と秀吉の所へ走り飛んで行った。
ヒワイドリはとっさに鶏の姿に成り、鬼子の背中に飛びついた。
森を凄い速さで駆け抜ける鬼子。やはりその目は赤くなり、着物からはもみじが舞っている。
そして先ほどと同じように悲しい顔をしていた。
詠麻呂と秀吉が悪しき輩と遭遇した訳ではない事は解っている。
解っているのだが、鬼子の心には今までの辛い出来事が蘇っているのだ。
決して、傷つけさせてはいけない、悲しい想いをさせてはいけない・・・。
そう思いながら鬼子は森の中を駆け抜けているのだ。
【ズザッー】
鬼子はあっと言う間に詠麻呂と秀吉の前に出てきた。
ヒワイドリは鬼子の背中にしがみ付きながら白目を向いている。
鬼子のあまりの速さに目を回したのだろう。
詠麻呂と秀吉は少しビックリしたが、それより驚いたのは、鬼子の表情だった。
角が伸び、目が赤くなり、着物の裾が動きやすいように短くなり、そしてその着物から
もみじが舞っていて、手に持った薙刀が少し輝いていたからだ。
「お・・鬼子ちゃん・・・?」
そう詠麻呂は鬼子に声をかけた。
鬼子は笑顔でそれに答える。
「はい。輩の反応はどうですか?」
鬼子は心配していた自分の心を隠し、精一杯の笑顔でそう詠麻呂に聞いた。
「あ、あぁ輩ね。大丈夫。反応は小さいわ。まだ近くには居ないわね」
「そうですか。ココからは私と一緒に行動しましょ!」
心配している心を隠した鬼子の表情を、秀吉は読み取っていた。
「よ〜し。僕が2人を守ってあげるからね。こう見えても、僕は強いんだぞ〜!」
秀吉は、鬼子の緊張した心を少しでも和らげようと織田がいつも言うような口調で
腕まくりしながら力拳を作っている。
それを見ていた鬼子と詠麻呂は笑っていた。