「あのう・・・」
と鬼子は鈴木ちゃん(お爺さん)に声をかけた。
「鈴木さんは、今般若が言ってた元鷲の民の長老・・・って」
鈴木ちゃん(お爺さん)は笑顔で答える。
「そうじゃよ。だ〜いぶ昔じゃが鷲の民の長老をしとった。
今は隠居の身で、大白狐様からの命(命令)で、ココの守り役をしとるんじゃ。
こっちの世界はえぇのう。平和だし、綺麗なお姉ちゃんは多いし、
何より、心地のいい歌もあるからなぁ」
詠麻呂達4人は苦笑いしている。闇世の力の民の中でも恐ろしいとされている鷲の民・・・。
しかもその長老をしていた人が、自分達の音楽を気に入ってるとは・・・。
とても複雑な気分だろう。
音麻呂はふと何かを疑問に思い、鈴木ちゃん(お爺さん)に声をかける。
「鈴木ちゃん、」
音麻呂がそう声をかけると、鈴木ちゃん(お爺さん)の形相が一瞬にして非常に怖い顔になる。
「“ちゃん”とはなんじゃぃ!?“さん”を付けろ!ワシの事を“ちゃん”で呼べるのは
綺麗なね〜〜〜ちゃん達だけじゃ」
男陣の音麻呂、歌麻呂、ヒワイドリの脳内は、
【・・・・・・・・・・殺される・・エロジジイには気をつけよう】である。
もう一度音麻呂は言いなおした。
「す、すみません・・。ちょっと疑問に思った事がありまして・・・。
それほど力の強い鈴木さんがいらっしゃるのに、何故輩退治にいかれないんですか?」
鈴木ちゃん(お爺さん)は、彼等4人の方を見て少しうなだれる。
「そうか・・・今の神職経験者って、そんな事も知らんのか・・・。
ぬるいお湯の中に浸かってしまった者は、皆そうなのかのぅ・・・」
その言葉を聞いた彼等4人は冷や汗を流している。
鬼子も無言で冷や汗を流している。同じような疑問をいだいていたからだ。
「すまんのう鷲長(わしおさ、元長老の事)殿。こやつらはまだまだ半人前でな。
わしの方から説明するわぃ」
見かねた般若が、みんなの方へと振り向いた。
「この鷲長も、鬼狐神社の狐火も、その他、神社、寺、祠などに仕える守り役は皆
鬼子やそち達(4人)より力の強い民達ばかりじゃ。当然悪しき輩をも上回る力を
持っておる。しかし、光の世の神社、寺、祠からは出らんのじゃ。
神職関係での行事などで、神社から出たり、私用で出たりは出来るんじゃが、
心の鬼関係では出られんのじゃよ。出られんと言うより出ないと言う方が合ってるがな」
歌麻呂が、その言葉に反応した。
「あ・・それって・・ひょっとしたらこの国の結界に関係あるとか・・・」
「ほほう、お主は少し勉強しとるみたいだな。その通りじゃ」
歌麻呂が、音麻呂、詠麻呂、奏麻呂の方を見た。
「ほら、俺達勉強したじゃないか。神社や寺、祠の位置関係を」
歌麻呂以外の3人は小さく声を上げる。
「あ・・この国を包む大きな結界の網の目の事か!」
それを聞いた鷲長は少し安堵する。そして、般若は言葉を続けた。
「そうじゃ。光の世では今まで力の強い悪しき輩が出なんだが、
今は状況が違う事を他の守り役は知っとる。もしその時に一部の守り役が
神社を出て、万が一輩に殺されでもしたら、そしてその時にその神社を破壊されたとしたら、
その部分に関係する結界が壊れてしまうんじゃ。結界が壊れてしまえば、
発祥が謎の心の鬼の繁殖が強くなってしまう。そうすると、心の鬼から徐々に力の強い
悪しき輩へと姿を変えてしまう。そしてその悪しき輩が増えてしまえば・・・
いずれは闇世と同じ状態になってしまうじゃろ・・・」
色々な話をしたその日は、そのままこのお寺に泊まる事にした。
そして、セクハラヒワイドリは詠麻呂、奏麻呂には近づかず、音麻呂、歌麻呂の近くで
くつろいでいた。