●「日本鬼子・ひのもとおにこ」〜第十一章〜【光の世の力!?】
空高く、筋雲が伸びる冬の15時頃。高速道路を走る鬼狐神社所有の車がある。
運転席には秀吉、助手席には人の姿のヒワイドリ。
その後ろに鬼子と詠麻呂(よみまろ女)、奏麻呂(かなまろ女)、
歌麻呂(うたまろ男)、音麻呂(おとまろ男)が乗っている。
HIBIKI スタジオの響社長は、一応神主なので事務所を離れる訳にはいかない。
と言うか・・彼らが鬼子と同行を決めたので、スケジュールの調節に
あたふたと謝りの電話などをしなければいけなかった。
車の中は、彼らの曲が流れていて心地のいい空間になっている。
車の向かう先は、鬼狐神社から北へ50キロほど離れた山間の中。
そこに、小さなお寺があるらしい。その場所を基点に、
心の鬼に取り付かれ強い悪しき輩となった者を探す為、移動している所だ。
ヒワイドリが・・・助手席から後ろを覗き、鼻を大きく開いて笑顔で匂いを嗅いでいる。
鬼子は、薙刀の枝の部分でその鼻の開いたエロ顔を一生懸命前へ押し返していた。
「ねぇねぇ、鬼子ちゃん。この鼻の下が伸びている変顔さんは誰?」
鬼子の横に座っている詠麻呂が、そう聞いてきた。
変態の話題にしたく無かった鬼子だが、同行している者の紹介はしなくちゃいけない・・。
仕方なく、恐る恐る話す事にした。
「あ・・あのう・・・。こ、こいつも闇世の民で、多分鳥関係の鶏の民だと思います」
4人は目が輝いている。聞いた事は有るが、実際に闇世に生きる色々な民達を見た事が無いからだ。
「へぇ〜。鶏の民かぁ〜。でも人間と同じ姿してるのは何故なの?」
奏麻呂達の興味は当分続くだろう・・・。そう思った鬼子は、早くヒワイドリの話から
離れたかったので、口早にこの変態の説明をした。
「闇世には数多くの民が住んでますけど、元々は皆さんと同じ姿なんですよ。
力を出す時にその民の本来の姿に変わるんです。でも、こいつは、闇世でイタズラばかり
していたみたいなので、光の世で言う警察、闇世で言う大目付によって
罰として鶏の姿にされてたみたいなんです」
すると奏麻呂が椅子から乗り出して来た。
「ぇえ?鶏??なってみて!」
超〜笑顔な奏麻呂。それにとても良い香りがするので、ヒワイドリは上機嫌だ。
「よお〜っし!女性人の頼み事とあっちゃぁ人肌脱ぐしかないなぁ!」
と、ヒワイドリは少し念を入れた。
それを見ていた秀吉が、慌てて言う。
「ヒ、ヒワイドリ。念の込め方を間違えるなよ。事故っちゃうから」
「わ〜かってるって!うっせ〜なぁ。ほらよっ!」
【バシュン】
・・鶏の姿に一瞬にして変わった。今回、車は中に浮く事無く・・・。
「ぉおお〜」
詠麻呂達のどよめきが興る。
「ほ、本当だぁ〜!鶏になってる〜。キャハハハハ〜!か〜わいぃ」
詠麻呂の意外な反応。奏麻呂も一緒になって喜んでいる。
「乳の話をしようじゃ無いか」
ヒワイドリのいつもの唐突なその言葉に凍りつく・・・のは、鬼子と秀吉だけだった。
詠麻呂は、ヒワイドリをバンバン叩きながら喜んでいる。
「なぁに〜、乳の話って〜。お子茶間なのね〜ヒワイドリって!」
叩かれているヒワイドリは喜んでいいのか・・顔を歪めながら悩んでいた。
何故なら、痛いのだ。とても痛いのだ。詠麻呂の叩く力が尋常じゃ無い・・・。
奏麻呂が後ろから手を伸ばしてきた。そして、ヒワイドリの首を掴み、
【グイッ】と自分の方へ引き寄せ、抱きついた。
「キャッハ〜!いい感じいい感じ〜!」
ヒワイドリは、奏麻呂の胸に押し当てられているのだが・・・顔は・・苦痛に満ちている。
ヒワイドリの顔が・・徐々に赤くなりだした。そして、赤くなった顔を通り越し、
青くなり始めた。・・・息が出来ないほど締め付けられているのだ。
「あ・・ぁあ・・」
ヒワイドリの言葉が小さく口から漏れて聞こえてくる。