歌麻呂(男)はその話を静かに聞き、腕を組みながら鬼子を見つめている。
「ふ〜ん。そんな事になってたのか。大変だったね。それで、俺達にそいつの居場所を
探して欲しいと」
「は、はい。ハチ太郎の・・犬の鼻を頼りに出来なくなってしまったので、
狐火様が貴方たちの力なら探し出せるんじゃないかと・・・」
神社の人達、そして同行している秀吉からも、しっかり説明して力を貸してもらえる様にと
念を押されていたので全てを話した。
だが、やはり鬼子の心は人間の民に迷惑をかけたくないと思っているようだ。
迷惑だけでは済まないかもしれない、とても危ない場所に同行してもらう事をためらっていた。
鬼子は、歌麻呂(男)と目を合わさず少し下を見つめている。
歌麻呂(男)は、鬼子のその表情を見ながら言う。
「山の中を探すとなると、俺達4人の力が必要だなぁ。単独ではまず見つからないからね。
何日かかるか解らないから、食料も持って行った方がいいよなぁ」
詠麻呂(女)は歌麻呂(男)をからかう様に言う。
「シャンプーやリンス、歯磨きセットとお化粧道具も持っていっていい?」
「キャンプじゃねぇんだから、だ〜め!」
「え〜、じゃぁ着替えくらいはいいでしょ!女の子なんだから」
詠麻呂(女)は奏麻呂(女)にくっ付きながらそう言った。
「き・・・危険な目に合うかもしれません。私はまだ、その悪しき輩に遭遇してませんが、
とても強い心の鬼が取り付いた輩なのは、間違いありませんから」
鬼子の表情は寂しげだった。歌麻呂(男)、詠麻呂(女)、奏麻呂(女)も、その鬼子の表情に
どことなく自ら壁を作っている様に見えた。
鬼子は続けて言った。
「闇世では、その心の鬼に取り付かれてしまうと悪しき輩となってしまうんです。
そうなってしまうと・・・人間の民にはもどれません・・・」
奏麻呂(女)が鬼子を上目使いしながらジッと見つめる。
「鬼子ちゃん・・・。さっきから怖い話ししかしないね。私達の事を・・・
遠ざけてる?・・・」
鬼子は【ドキッ】っとした表情を浮かべる。
「ち・・・違います。じ・・事実をちゃんと伝えなきゃと思って・・・」
歌麻呂(男)の表情が少し厳しくなる。
「・・・鬼子ちゃん。独りで行くのかい・・・?」
その言葉を聞いた鬼子は・・・下を向きながら、膝の上で握りこぶしを作っていた。
「いや・・私は・・・」
秀吉は慌てて、鬼子の言葉をさえぎる様に言う。
「私も行きます。行きますって言うか・・・私は当事者なので」
歌麻呂(男)は鬼子を見つめながら首をかしげている。
「いや・・・秀吉さんを置いて、独りで行こうとしている様に見えるんだけど、
違うかな?鬼子ちゃん・・・。狐火様からの紹介なので、ココへ来たけど
断ってもらえる様に・・・って・・心がそう言ってるよ」
秀吉は驚いた表情で、鬼子の方を見て言う。
「お・・・鬼子ちゃん・・・それ本当なのかい・・・?」
鬼子は目をつむり、下を向きながら少し震えていた。
「・・・だ・・だって・・・秀吉さんも見たでしょ・・。ハッちゃんのあの姿・・・。
もし、秀吉さんや皆さんがあんな事になってしまったら・・・。
死んでしまうかもしれない・・・」
歌麻呂(男)が、鬼子の方に背を向けて、中にいる音麻呂(男)の方を見ながら話した。
「鬼子ちゃん・・独りで行ってどうするの?」
「・・・私独りでも大丈夫です。時間はかかると思いますけど、
絶対光の世は守ってみせますから・・・」
歌麻呂は振り向き、鬼子の顔をジッと見る。
「独りで?」
「はい」
「傷ついても?」
「・・・はい」
歌麻呂(男)は鬼子の目を見ていた。鬼子の心の声を読みとろうとしているみたいだ。
ジッと見つめ続ける。その状態で時間が少し過ぎて行く。