「ねぇ秀吉さん」
と、鬼子が声をかけてきた。
「ん?なんだい?」
「光の世って争い事とかはないんですか?」
輩と関連ずけを出来るだけしたくなかった秀吉だが、やはり、そうもいかないみたいだ。
「ん〜〜〜。あるよ・・・。欲のぶつけ合い、趣味、思考の違うもの同士の争いなんか・・・沢山ね」
「・・・殺し合い・・なんかも?」
「・・そうだね。この前、刑事さんが神社に来たろ!あの刑事さんはそんな争い事を
取り締まっている。大目付だったかな?闇世で言う。闇世も光の世も同じじゃないかな・・・」
「・・・そうですか・・・。何で争い事がおきるんでしょうか・・・どうして生きる者は
争い事をするんでしょうか・・・。皆幸せに過ごそうと思ってないんでしょうか・・・」
鬼子がいつも心で思っている事が、自然と口から出てしまっていた。
「鬼子ちゃんはどう思ってるんだい?光の世の事はまだよく解らないだろうけど、
闇世での争い事なんか・・・」
秀吉は、もう話題は何でもいい。鬼子に喋らせる事でなんとか元気になって欲しいと思っているのだ。
「・・・闇世では・・・悪しき輩との戦いがほとんどだけど、たまに、違う民同士のいざこざもあるの。
そんな話を聞くと、悲しくなってきます・・・」
「そっか。そうだよね。でも、それを直ぐに解決する事は出来ない。
少しづつ、少しづつ争いの無い世界にしていく為にも、まずはその輩を何とかしなくちゃね」
「秀吉さん・・・。今から会いに行く光の世の人間の民ってどんな人なんですか?」
「ん〜・・・。僕も良く知らないんだ。住所と名前だけ渡されたからね。織田さんの言うには
わがままな奴だって・・・。でも、狐火様の紹介だから悪い人じゃ無いよ。きっと」
「・・・そうですか。その人を危険な目に合わす事出来ないから、話しだけ聞く事にしませんか?」
怪我人を出したくない、最悪死んでしまうかもしれないほど強い相手を探してもらう事を、
鬼子は心配しているのだ。本当は自分の力で探し出し解決しなければいけない事なのに、
人間の民を危険にさらしてしまう事への不安が強くなっているのだ。
「鬼子ちゃん。そういう事は会ってみて、話をしてみてから決めたらいいんじゃないかな。
狐火様から力を貸してもらえって言われてるから、弱い人じゃ無いと思うし」
「でも・・・」
「解ってる。鬼子ちゃんの気持ちは解ってる。とにかくそれは会ってからにしよう」
「・・・はい・・」
鬼子の心は、自分一人で解決しようとしているのだ。同行している秀吉にも怪我はさせられない。
今から会いに行く人も危険な目にあってもらいたくない・・・と。
「ふわあぁ〜ぁあ」
後部座席からヒワイドリの声がした。
両腕を上に伸ばし大きなあくびをしながら目を覚ましたのだ。
「ん?ここ何処?」
周りをキョロキョロしながらヒワイドリがそう言った。
鬼子はヒワイドリから見えない様に、自分の身体を車の座席越しに小さくして隠れている。
秀吉はバックミラー越しに言う。
「ヒワイドリ、やっと起きたのか。どうだ?身体の調子は」
その言葉を聞いたヒワイドリは、呪縛を解放された事を思い出した。
「あっ!オレ今どんな風に映ってる?」
「・・・ニワトリだけど・・・」
「・・・そ、そうか。で、ここ何処?」
「車の中さ。今、狐火さまから力を借りる様にと言われた人の所に向かってる途中だよ」
「そうなんだ。まぁオレには関係ないけどな。で、鬼子。何で小さくなってるんだ?」
・・・バレてる。
「・・・ん゛?あんたと喋りたく無いからよ」
呪縛の解けたヒワイドリが、鬼子にどんなイタズラをしてくるか解らない。
今までに無いヒワイな言葉をかけてくるかもしれない。
鬼子は袂に手を入れ、般若面の口から少しだけ薙刀を出し、それを握った。