PINKのおいらロビー自治スレ3

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222ほのぼのえっちさん
 空調の音が、図書室に低く響いている。他の物音は、耳に届かない。
 この場所は本来静かであるべきであり、物音がしないのは当然だ。
 だが、不必要なまでに静かなような気がして、静奈は身震いをしてしまう。
「ああ、そうそう。一つ、言い忘れてたわ」
 ぬいぐるみを抱えたまま、少女が静けさを破る。
 その声はしかし、気味の悪さを助長するかのように流れていく。
「女の子が書いていた日記なんだけどね? 普通の日記じゃないの」
 少女はそっと、静奈の手元に目を向ける。
 そこにあるのは、一冊の本。
 タイトルも分からない、手書きめいた書体で記された、まるで、日記帳めいた装丁の――。
 静奈の産毛が、総毛立つ。
 思わず両手で身を抱いた静奈の目が、少女を捉えた、その瞬間。
「……っ!」
 息が詰まり、泣き出しそうになった。
 少女は、笑っていた。
 上目遣いで静奈を睨めつけ、裂けそうなほどに両側の口角を上げて。
 にぃっ……と。
 笑っていた。
 
「妄想日記なんですって。大好きな男の子との甘い甘い甘い、妄想を綴った、まるで小説みたいな、日記。
 女の子と一緒に焼かれたその日記がここにあるということは、きっと、女の子も近くにいるわ。
 ひょっとしたら、自分と同じような女の子を、同じような目に合わせようとしているのかもしれないわね?」
 
 くすくすと、不安を煽り立てるような笑い声がする。
 それから逃れるように、静奈は少女の顔から手元へ目を落とす。
 そこには、本がある。
 僅か数ページとなるまで読み進めた、本がある。
 そして、静奈は気付く。
 ずっと気付かなかったのに、不意に気付いてしまう。
 今開かれているページ裏が、次のページに貼り付いて、奇妙に分厚いことに。
 貼り付いていて開けないが、しかし。
 手書きめいた文字の背景となるように。
 
 ――赤黒い文字が、シミのように、浮き上がっていた。
 
「きゃ――ッ!」

 堪えられず悲鳴を上げ、本を振り払う。
 鳥肌は止まらず背筋は震え、目には涙が浮かんでいた。
 世界が涙で滲み、嫌な悪寒が体を包み込む。
 逃げるように目を閉ざした静奈の耳に、届いたのは。 
 
「何、今の声……? って、静奈ちゃん!?」
 
 聞き覚えのある、声だった。
 恐る恐る、目を開ける。
 涙で滲んだ視界に、ウェーブのかかった豊かな金髪の女生徒が映った。
「アリス……さん……っ」
 共に演劇を行った先輩――真田アリスの姿に、静奈は安堵を覚える。
 瞬間、張りつめた恐怖が解けて思い切り後押しされたかのように、涙が押し寄せてきた。
「アリスさん、アリスさん――ッ!」
「わわ、ちょっと、どうしたの!?」
 狼狽するアリスに構わず、抱きついた。
 焼きつけられた恐怖を洗い流そうとするように泣く静奈は、気付かない。
 
 ぬいぐるみを抱えたあの少女とあの日記帳が、夕闇に溶けるように消えてしまったことを。