真夏かと思うような強烈な暑さだったのが、夕方には雲が空の7割を覆っていた。
見るからに重そうな灰色が、前方に低く垂れこめている。
「これは降るな。さっさと帰ろう」
いつものとおり、友人を促して自転車置き場へ向かう。
タカハシは自転車を出そうとせず、ボーッと突っ立っている。
「なにしてんだ?」
と聞くと、ニヤリと笑い、
「原チャで来たからさ。あっちに隠してある」
親指で校門を指す。
原付での通学は、当然禁止されている。
けれど免許を取った連中は、原付で学校の近くまで来て、公園やなんかに隠して停めている。
タカハシも、原付免許を持っている。
16歳になるとすぐに取ったそうだ。
タカハシはのんきに、ハーフキャップ・メットを頭の上に乗せてスーパー・カブに跨った。
先生やなんかに見つからないか、僕の方がビクビクしてしまう。
自転車の僕に合わせて、のったり走るタカハシ。
眼の障害のことを考えると、自殺行為――というのは大げさにしても――に近いと思う。
それでもヤツは気にせずに、原付を乗り回している。
〆 〆 〆
進路指導室に通っている僕は、どうしても考えざるを得ない。
例えば、仮に数学が得意だから数学科に進んだとして、就職はどうなる?
『数学科なんて、出たところで塾講師がせいぜいだよ』
数学が得意なクラスメイトが言っていたセリフが思い出される。
史学科や国文科、数学科のなかでも純粋数学の分野、芸術の分野……。
確かに、それらに興味はあるけれど。
頑張って勉強して、大学を出たところで……、何に成る?
それを活かした就職口なんて、あるのだろうか?
研究職として、大学の一室に篭もるのだろうか。
……それが社会に貢献しているとは、あまり思えない。