4時限目の授業が終わり、理科室から戻る途中、ナギサワと一緒になった。
偶然にも僕も彼女も当番に当たって、授業の後もガスバーナーやらビーカーやらを片付けていたのだ。
ナギサワは……今日は束ねた髪を纏めて左肩に垂らしている。
今まで気づかなかったのだけど、彼女は毎日髪型を微妙に変えている。
ポニーテールにしても、高い位置で噴水みたく (この喩え、伝わるかどうかとても自信がない) 散らしている時もあるし、
やや低い位置で房を垂らしている時もある。
「サイトウくん、この前進路指導室に行ってたね」
特別教室棟の廊下を並んで歩いている時、ナギサワが言った。
――見られてた?
僕は平静を装いつつ、少しばかり動揺していた。
「呼び出し食らった?」
いたずらっぽく笑って、僕を見る。
「はは……まぁ、そんなとこ」
曖昧に笑って、やり過ごす。
何だか、そこに出入りしていることを知られたくないような気がした。
知られたところで、どうにもなりそうにないけれど。
「進路、決めた?」
ナギサワは、さらに追い打ちをかけてくる。今の僕が、もっとも聞かれたくない類の質問だ。
階段を降りる。
一日中日陰なせいで、ここだけ冷房が効いたようにひんやりと心地いい。
あと何日かで、夏休みだ。
夏休みが終わったら……本格的に、進路決定をしなくちゃならない。
正直言って、考えたくない。
「……悩んでる。どうしたらいいんだろ。この前のテストもイマイチだったしさ」
冗談っぽく笑って返す。
「わたしもだよ。なんていうかさ、『もうちょっと考える時間ください』って言いたくなっちゃう」
渡り廊下に差し掛かる。
凶暴さを増す太陽光が、容赦なく気温を上げている。
うわ、暑っ! などと口にしながら、僕たちは歩いている。