教室で地味な彼女について、僕が知っていることといえば、名前と顔と、座席の位置くらいだった。
その彼女が、意外な一面を持っていたことに、僕は何とも言い難い、不思議な感覚を覚えていた。
――勘違いするなよ。
自転車を漕ぎながら、僕は頭を振る。
乱暴にちぎったみたいな雲の塊が、抜けるような青空に浮かんでいた。
〆 〆 〆
夕食を済ませ、自分の部屋に戻る。
中学2年になった時、ようやく手に入れた、この部屋。
勉強机も、その時一緒についてきた。
残念ながら本来の用途に活用される機会は少なく、もっぱら開いたノートにイラストとも呼べない落書きが描かれたり、
ゲームの攻略本とマッピング用方眼紙が広げられていたり、『設定資料』などと称して意味不明な地名や人名が
書き連ねられたりしているのがせいぜいだ。
その愛すべき机の前で、タロットカードを切る。
そして、念じながら一枚抜く。
――三者面談のことを母さんに言うけど、どんな反応をするか。
抜いたカードを裏向きに伏せる。
カードから解釈を読み取るには、訓練が必要だという。
僕はその訓練として、『ワンオラクル・スプレッド(カードの並べ方のことだ)』を使って、
些細なことや個人的なことを占っていた。
カードは【節制】の正位置。
たおやかな女性が、杯から水を移す様子が描かれている。
『節制』……普段は使わない言葉だ。
『節約』と、何が違うんだろう。『節約』なら、母さんの得意とするところだけど。
辞書を引いてみる。
――節度を守る・度を越さない・控えめである
……うーん。
よく、分からない。
これを、どう解釈しろと?