PINKのおいらロビー自治スレ3

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193ほのぼのえっちさん
「それじゃあ、わたしの最新作に袖を通してもらおうかな!」
意気揚々と京は真新しいドレスを荵に渡して、子どものように着替えるさまをにまにまと眺めていた。
ばたばたと袖が揺れる。片足でふら付く。そして『くまさん』ぱんつ。
「背中のチャックは閉めてあげる」
「京せんぱい」
「なに?」
知らないものが見たら、仲睦まじい姉妹のよう。
「せんぱい。わたし……一人っ子だから、せんぱいみたいなお姉さんが欲しかったんです。ちょっとうれしい」
荵の後ろ髪が京の胸に当たる。そっと後れ毛を掻き揚げて、子どもをあやすように京は荵の髪を撫でる。
指の間を栗色の髪が通り抜ける滑らかな触り心地。荵の体温がほんのちょっとだけ上がる。
「うれしいな」
「どういたしまして。荵ちゃん」
自分が繕ったドレス。荵が袖を通すことで、ちょっとずつ命が吹き込まれられて行く。
京はこの瞬間のために、自分のもてるだけの時間を割いてきたと言っても過言ではない。
その証拠に、京の顔は徹夜明けとは思えないほど、輝きを放っていたのだから。

「荵ちゃん。仕上げだよ」
最後に京が取り出したのは「イヌミミカチューシャ」と「イヌ尻尾」であった。
それぞれを身に着けた荵は姿見で自分を写す。恥じらいは消え、魔女の魔法の虜となる。深夜十二時までは程遠いシンデレラ。
勤労少女の灰被りだって、ドレスを着れば舞踏会へ招かれる。逆を言えば、温室育ちの王子さまだって、ぼろきれを身に纏えば意地悪な継母から、
そしてビクビク生きているだけの姉たちから足蹴にされて、こき使われてしまうってこともあるのだ。召し物の持つ魔法。誰もがかかる魔力。
「やったー!『イヌミミ喫茶』ができるぞー!京せんぱい、ありがとうございます!!」
「それじゃあ、早速注文いいですか?店員さん」
「わんわんおー!お嬢さまーっ」

―――学園祭が近づき、秋の公演で使う衣装の打ち合わせで、荵は迫と同席した。
演劇のことになると他が目に入らない迫のことなので、打ち合わせは何度も何度も繰り返され、妥協を許さないものだった。
この役者は清楚な感じで、この役者には粗野な雰囲気を。などと、舞台に立つ者を引き立てるために、迫は細かく京に注文するも、
側で座っているだけの荵にとって、迫の側にいるだけで幸せな時間以外は退屈さを否定できないものだった。
そして、迫が席を外した瞬間、荵は京にぽろりとこぼす。
「学園祭かあ」
「そうね。舞台、がんばってね。ここの学校の演劇部って、結構評判みたいだからね。楽しんでね!」
「はい。演劇は楽しいです。いろんな役をやって、いろんな衣装を着て。でも、学園祭だから喫茶店ともかやりたいなあ」
京が荵の諦めにも似たセリフを聞き逃すはずがない。
「喫茶店といえば、メイドさんだよね」
「はいっ!『イヌミミ喫茶』をやりたいですっ」
コスプレ部部長・秋月京の心を鷲掴みにした瞬間であった。