迫はそのやり取りを尻目に懐へと歩み寄り、硬く縛られたセラバン○(青)を解く。バチンと音を出して弾けるようにそれは解かれ、懐はようやく自由になる。鬱血していた。みんなはセラバ○ドを正しく使おう。
解き放たれし懐はそれでも警戒を緩めず。隙あらば逃走しようとすら考えていた。
迫は眼鏡をクイっと上げてため息一つ。そしてようやく、この拉致作戦の目的を語る。
「……。ようやく捕まえた。ホント手間かかった……」
「何が目的なんだお前は……」
「いや、まぁ普通に会って話せれば一番よかったんだが……。驚くほど避けられてるし、こうするしか無かったんだ。許せ」
「許せるか! また三人で洗脳しようと企ててんだろ!?」
「まさか。もう諦めてるさ」
「じゃ、何の用だよ?」
「お前の力を見せてくれ」
「は?」
迫は奥へと目をやる。そこに居るのは噂の大男、空知亮太。懐は一目で解る。この男もメタラーである。
臭いがするのだ。同類の臭いだ。
「あいつがどうしてもお前の実力を見たいそうだ。……ついでに、葱とあかねにも見せてやって欲しい」
「何をだよ」
「簡単だよ。いつもやってる発声練習見せてくれ。ロングトーン一発でいい。葱とあかねに、本物の発声練習って奴を見せてやってくれないか?」
「そんな事の為に拉致したの?」
「こうでもしないと会えないだろ。それにあの二人もお前が何出来るか疑問視してるし。この際だからレベルの違いを見せてやれ」
「お前等は演劇でしょ? 種類が違うし」
「グダグダ言うなよ。ほら、さっさと頼む」
「えぇ〜」
「なんで嫌がるんだよ。そこまで嫌われたか俺達……」
「いや、そうじゃなくて……」
「なんだよ?」
「……。練習見られるの恥ずかしい……。ポッ」
「さっさと立て」
半ば無理矢理立たされる。お喋りしていたととろと葱とあかね状況の変化を察知し、静観していた亮太もじっとその時を待っている。
「……。そんな見るなよ」
「変な所で恥ずかしがるなお前は。いつもやってるだろ」
「集中出来ないから……。ちょっと待って……」