そんな大袈裟で的外れな予想がととろの頭の中を埋め尽くす。
大戦を引き起こす訳にも行かないのでなんとかいつもの懐に戻って頂きたいと切に願った。
が、この男は意外と頑固者。
「……はぁ」
「元気だせよ」
「僕は……今日も……元気です」
「さっき落ち込んでるとか言ってたでしょ」
「ほら、ととろちゃん。蟻さんが健気にポテチのかけらを運んでいるよ」
「何見てんの?」
だめだこりゃ。そう結論付けたととろ。
これでは気分が乗らないので今日はもうさっさと帰ろう。そう言って屋上を後にする。
相変わらず懐は大人しい。ま、一日二日すりゃ元に戻るだろう。そう楽観視していたのも相俟って、意外と厳しいととろさん。
「ほらさっさと歩く!」
「はいはい」
「男の子だろ。ビシっとしろよ」
「ぅん」
「ほんと不気味だなぁ。何か起きなきゃいいけど……」
この時、実は本当に第三次世界大戦級の、少なくとも懐にとってはそれほどの大事件が迫っていた。当然ながら、彼らはまだ知らないのだが。
そしてその目撃者の一人になるであろうととろは、一体その時何を思うのか。きっと、驚くだろう。もしかしたら懐についての印象ががらりと変わるかも知れない。
それほどの大事件が迫っていたのだ。
ぽっかり開いた罠の入口に、二人はこれから向かっていくのだが……?
※ ※ ※
『いらっしゃいませ』
「こんにちは」
昇降口付近の自販機でいつもの缶コーヒーを買う。喋る自販機に律儀に挨拶し、冷えた缶のプルを引く。
下駄箱周辺は綺麗に掃除されていた。夏休みが近いので、大掃除でピッカピカにされていたのだ。ここだけではなく、学校全体がこざっぱりと変化し、しばしの眠りにつく準備をしている。
目覚めた時、季節は変わって居るはずである。
「なぜ多次元空間に逃れた重力と電磁波は三次元空間に現れず、強い力と弱い力のみ三次元の粒子間に働くのか?
もし多次元に逃げているとしたらその力の総量は絶大になり、重力と電磁波とのエネルギーの総量との不和で統一エネルギーの可能性が薄れ……」
「……どうしちゃったのよホントに」