「どうなの? 次の展示会までに間に合いそう?」
「……難しいな。拳自体は治っているが、まだ細かい動きはできそうにない。
今筆で作業しようとしても失敗するのが落ちだ。もう少しリハビリが必要だ」
「でも、次の展示会までに間に合わないと、あの話が無くなるんでしょ。いいの?」
鈴絵の言葉に台は強く顔を顰める。その位のことは分かっていた。
拳を痛めた、あの時のあの行動をしたことが間違っているとは台は今でも思っていない。
それでも今の状況を考えると焦りが出てくることもまた事実だった。
「よくはないな。だがせっかく掴んだチャンスなんだ。ま。せいぜい足掻いてみるさ」
その言葉に今度は鈴絵が顔を暗くする。
台のある意味では諦めの言葉に鈴絵は掛ける言葉を見つけられないでいた。
チッチッチッチッチ……
黒板の上に掛かる時計の音だけが美術部の中を支配している。
遠くからは、野球部の歓声や吹奏楽部の演奏が響く。
セミの声が、今は夏だと教えてくれていた。
そんな中で二人がいるこの空間は、どこか暗く感じられた。
どれくらい時間が過ぎただろうか。いや、実際はそんなに時間が過ぎてはいない。
鈴絵は小さく「よしっ」と声を出すと、台に向かって一つの提案を行った。
「台先輩。そんな位気持ちと焦りの中じゃ描ける物も描けなくなりますよ」
「……そうではあるが」
「夏祭り、行きましょう」
「夏祭りか?」
そういえば、もうそんな時期か。そんな事を思いつつ台は去年の夏を思い出す。
――カップル狩り(失敗のみ)しかしてなかった。
そんな事を思い出している間にも鈴絵の言葉は続く。
「ええ、はしゃいで遊べば少なくとも嫌な気持ちは吹き飛びます。
たまには普通に遊んで見たらどうでしょう? きっと色んな人が遊びに行ってると思いますよ」
丁寧な鈴絵の勧誘に台は、ゆっくり思考を巡らせる。
――結局でた結論が、
「いいだろう」
と言う台の肯定の言葉だった。
続く。