そうこうしているうちに、目当ての書店に到着。
そこそこ大きな店舗で、マイナーなレーベルの入りもいい。補充が遅い嫌いがあり、欲しいタイトルに限って揃わ
なかったりもするが、それはどこも同じか。
「今週はですね、『しにじゅにっ!』三巻、『季刊先輩後輩の友』『後輩の女の子に敬語でいぢめられちゃうアート
ブック』あたりがオススメの新刊ですよ」
「ああ、そう……」
頼みもしないのに、後輩が別に欲しくもない後輩物のマンガやライトノベルを教えてくれる。
それをテキトーにあしらいつつ、世の出版社はこいつと同レベルなのかと頭を抱える俺だった。
「全然興味ないけどな」などと正直なところを口にしてもいいのだが、どうせ「先輩、やっぱり私に操を立ててく
れるんですね! 私が嫁ですよね!?」と変に感激されるだけなのでどうしようもない。
(しかし、そうだ、もう秋なんだな……)
はしゃいだ様子でいかがわしい表紙を見せつける後輩にダメ出ししながら、俺は今後のことについて考えていた。
暦の上では、秋である。
俺のほうは成果ゼロむしろマイナスのままだが、後輩はあれでもしっかりと成長しつつある。同級生の女の子と楽
しげに話していたそうだし、彼女なりに他人と関わる機会を探してもいるようだ。
――世界は、お前らが思っているよりは、ずっと綺麗だ
夏祭りの激戦の後に大型台という男は言い残した。
俺のほうまで見透かすあたりが鼻持ちならない。
――んー? そこまで悲壮にならんでも。もっとバカになればいいんじゃね? あ、それとこれ交換しない?
茶々森堂で相席になった金髪の少年は底抜けに明るく笑っていた。
ある意味ではこの問題の核心を突いているだろう。
――先崎くんは、何だかんだであの子のこと
「先輩、今、他の女のこと考えてますね」
後輩がずいっと鼻先を近づけていた。お互いの貌が翳るほどの距離だった。
男子では無反応だったのに、女子に移行するや否や引っ掛かるとは。後輩の乙女センサーとやら、なんつー精度を
していやがる。
「……さあな」
はぐらかしながら、俺は仁科学園の知り合いの顔を思い浮かべ続ける。
後輩と俺にとってのキーパーソンが、果たしてこの中にいるのだろうか――?