会話のきっかけにするつもりったのか、後輩はがらりと話題を変えてきた。
「ところで。先輩的には、秋といえば食欲の秋ですか? 読書の秋? スポーツの秋? ……あと何がありまし
たっけ。収穫の秋とか? あっ、芸術の秋も!」
こいつのトピックボックスはなかなか空っぽにならない。
「何だろな。……秋か……」
「後輩の秋って言えー後輩の秋って言えー」
「念送んな」
背筋に来た。彼女の手指の動きの怪しげなことといったら!
……催眠術師の才能には目覚めないで欲しいものだ。
「だいたい何だよ後輩の秋って」
「後輩の秋とは」
いかん、後輩の瞳がキラッキラ輝きだした。どうやら余計なことを訊いてしまったようだ。
後悔を尻目に、後輩はオペラでも演るかのように朗々と声を張った。
「秋――それは女の子がいっとう可愛くなる、フォールでオータムなシーズン。中でも、先輩の男の子を慕う後
輩の女の子の魅力ときたら、まさにうなぎのぼり。……“後輩”! 妹よりも可愛く、ママンよりも献身的で、
おねえさんよりも小悪魔、そんなヒロインに会いたかった! ……“後輩”! 紅葉のように朱に染まる頬(ほ
ほ)、それは夕陽の悪戯いいえ乙女の恥じらい。さりげない呼び出しが精いっぱい、『後で校舎裏な』。永遠に
も思える待ち時間、心の準備はしてきたはずなのに……、お願いもう少し待ってっ、胸がっ、苦しいよ……。や
がて聞き覚えた靴音が、すぐそこに、……嗚呼っ! 『……先輩!』 来てくれたっ。想い人の影に、切なげな
吐息が漏れる。よみがえるふたりだけの思い出ぽろぽろ、はぐくんだ愛のキオク。……“後輩”! 果たして告
白はどちらからだったのか……。初めてのキスは甘酸っぱくて、もしかしたらリンゴ味……」
「サブリミナル効果狙いか何か知らんが、いちいち『……“後輩”!』挿入するの止めろ」
長く、ひたすら長く、そのくせ意味が分からない、鬱陶しいことこの上ない説明だった。……というかもう説
明じゃないような。
何かもう胸焼けするくらい煽りを利かせているし、恥ずかしいし、危険なのから果てしなくどうでもいいのま
で幅広くネタまみれだしで、聞いてて頭が痛くなった。
「いいですね? 嫁にするなら後輩です。……後輩はいいですよぉ。上目遣いで『せ・ん・ぱ・い♪』なんて頼
りにされたらボクはもう! ひと度その瑞々しいカラダを味わってしまうと、年上の巫女さんとか、パツキンの
チャンネーとか、デバガメ魔法少女とか、へっぽこ女教師とか、何ちゃって大正浪漫とか、もう全然、お話にな
らないです。しかも、ここ重要です、後輩ヒロインは属性的にニュートラルですから、メガネやマヨネーズが何
とでも組み合わさるように、どんなマニアックな衣装やシチュエーションにだって即時対応しちゃえるんです。
先輩が巫女さん萌えなら巫女服後輩に、大正浪漫萌えなら大正浪漫後輩に、可愛い妹が欲しかったなら義理の妹
後輩に、街を火の海にしたいなら重機動メカ後輩に、けなげにフォルムチェンジ」
「最後の何?」
「……まあ、さすがに年齢だけはイメクラするしかありませんが、大丈夫。ほら、私って包容力あるほうですか
ら。年上にだって負けやしません」
「……お前って包容力あるかぁ?」
「先輩にだけ発揮されるんですーっ!」
嘘くさー。
ジト目の俺に、後輩は照れ顔。……そういう視線じゃないんだけどな。