東の山の方角に、──── すうっ、と流れ星が落ちた。
「あ」
しずくは声を上げた。ひとつで終わらない。
わずか数分の間に、いくつかの小さな流星が空を滑っていった。
「今夜は、多いなあ」
そらが言う。
それをしし座流星群と呼ぶのだと、天文に詳しい人ならば知っていただろう。
けれど、しずくもそらもまだそんなことを知らない。
家に向かう畦道で、ふたりの頭上にあまたの星たちが降っている。
突然、周囲がぱあっと明るくなった。
「うわ!…あ、あれ!しずく!」
そらが目を見張って小さく叫んだ。その目が驚きに見開かれて天を仰いでいる。
しずくも空を見上げる。
見たこともない大流星が、天空を滑っていた。
星の巣から解き放たれた大きな、流れ星の王様だ。
それはゆっくり、ゆっくりと天の中心から、西の空へ夜空を滑っていく。
「──── すっごい…」
自分がそう呟くのをしずくは聞いた。
その十数秒の出来事は、まるで永遠のように感じられのだたけれど、
やがて、周囲にふわりと深い闇が戻ってくる。
その途端に、蛙の声と川のせせらぎが、ふたたび耳に響き出した。