【東日本】〓SoftBank 新スパボ一括購入専用スレ 6

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138非通知さん
 木蘭は、その大輪の花を、空に向かって捧(ささ)げているし、海棠(かいどう)の花は、悩める美女に譬(たと)えられている、
なまめかしい色を、木蓮(もくれん)の、白い花の間に鏤(ちりば)めているし、花木の間には、苔(こけ)のむした奇石(いし)が、
無造作に置かれてあるし、いつの間に潜込んで来たのか、鷦鳥(みそさざえ)が、こそこそ木の根元や、石の裾を彷徨(さまよ)っていた。
そうして木間越しには、例の池と滝とが、大量の水を湛(たた)えたり、落としたりしていた。
 鳥羽、伏見で敗れた将軍家が、江戸城で謹慎していることだの、上野山内に、彰義隊(しょうぎたい)が立籠っていることだの、
薩長の兵が、有栖川宮様(ありすがわのみやさま)を征東大総督に奉仰(あおぎたてまつ)り、西郷吉之助(きちのすけ)を大参謀とし、
東海道から、江戸へ征込(せめこ)んで来ることだのという、血腥(ちなまぐさ)い事件も、
ここ植甚の庭にいれば、他事(よそごと)のようにしか感じられないほど、閑寂であった。
「姐(ねえ)さん、よくご精が出ますね」
 と、印袢纏(しるしばんてん)に、向鉢巻(むこうはちまき)をした留吉は、松の枝へ、一鋏(ひとはさ)みパチリと入れながら云った。