【東日本】〓SoftBank 新スパボ一括購入専用スレ 6

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132非通知さん
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甲州鎮撫隊/国枝史郎

(つづきから)

   夢の中の人々

「お千代!」
 と不意に、眠った筈の総司が叫んだ。女は驚いたように、細い襟足を延ばし、男の顔を覗込(のぞきこ)んだ。
「お千代、たっしゃかえ! たっしゃでいておくれ!」
 と又総司は叫んだ。でも、その後から、苦しそうな寝息が洩れた。眠りながらの言葉だったのである。女はニッと笑った。遠くの方から、半鐘の音が聞えて来た。
脱走の浪人などが、放火したのかもしれない。女はソロソロと、神経質に、部屋の中を見廻してから、懐中(ふところ)へ手を入れた。
短刀の柄頭(つかがしら)らしい物が、水色の半襟の間から覗いた。
「済まん、細木永之丞君!」
 と又、眠っている総司は叫んだ。
「命令だったからじゃ、済まん」
 女は眼を据え、肩を縮め、放心したように口を開け、総司を見詰めた。
「済まんと云っているよ。……それじゃア何か理由(わけ)が……然(そ)うでなくても、この子供っぽい、可愛らしい顔を見ては。……」
 尚、総司の寝顔を見守るのであった。