ttp://www.aozora.gr.jp/ オリンポスの果実/田中英光
(つづきから)
(視(み)よ、わが愛する者の姿みゆ。視よ、山をとび、丘(おか)を躍(おど)りこえ来る。
わが愛する者は※(しか)のごとく、また小鹿のごとし)
紫紺(しこん)のセエタアの胸高いあたりに、紅(あか)く、Nippon と縫(ぬ)いとりし、
踝(くるぶし)まで同じ色のパンツをはいて、足音をきこえぬくらいの速さで、ゴオルに躍りこむ。
と、すこし離(はな)れている、ぼくにさえ聞えるほどの激(はげ)しい動悸(どうき)、粒々(つぶつぶ)の汗が、
小麦色に陽焼(ひや)けした、豊かな頬(ほお)を滴(したた)り、黒いリボンで結んだ、髪の乱れが、頸(くび)すじに、
汗に濡(ぬ)れ、纏(まつわ)りついているのを、無造作にかきあげる。