【東日本】〓SoftBank 新スパボ一括購入専用スレ 5
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非通知さん:
翌朝から、ぼくは、あなたを、先輩達に言わせれば、まるで犬の様につけまわし出しました。
船の頂辺のボオト・デッキから、船底のCデッキまで、ぼくは閑(ひま)さえあると、くるくる廻り歩き、あなたの姿を追って、
一目遠くからでも見れば、満足だったのです。
その晩、B甲板の船室の蔭(かげ)で、あなたが手摺(てすり)に凭(もた)れかかって、海を見ているところを、みつけました。
腕(うで)をくんで背中をまるめている、あなたの緑色のスエタアのうえに、お下げにした黒髪(くろかみ)が、颯々(さつさつ)と、
風になびき、折柄(おりから)の月光に、ひかっていました。勿論(もちろん)ぼくには、馴々(なれなれ)しく、傍(そば)によって、
声をかける大胆(だいたん)さなどありません。只(ただ)、あなたの横にいた、柴山の肩(かた)を叩(たた)き、
「なにを見てる」と尋(たず)ねました。それは、あなたに言った積りでした。柴山は、「海だよ」と答えてくれました。
ぼくも船板(ふなばた)から、見下ろした。真したにはすこし風の強いため、舷側(げんそく)に砕(くだ)ける浪(なみ)が、
まるで石鹸(シャボン)のように泡(あわ)だち、沸騰(ふっとう)して、飛んでいました。
次の晩、ぼくが、二等船室から喫煙室(きつえんしつ)のほうに、階段を昇(のぼ)って行くと、上り口の右側の部屋から、
溌剌(はつらつ)としたピアノの音が、流れてきます。
“春が来た、春が来た、野にも来た”と弾(ひ)いているようなので、そっとその部屋を覗(のぞ)くと、あなたが、
ピアノの前にちんまりと腰をかけ、その傍に、内田さんが立っていました。