【東日本】〓SoftBank 新スパボ一括購入専用スレ 5
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非通知さん:
そんな簡単に、自殺をしようと考えるのには、多分、耽読(たんどく)した小説の悪影響(あくえいきょう)もあったのでしょう。
ぼくは冷たい風が髪(かみ)をなぶるのに、やッと気がつきかけたが、もうなんとしても、背広は出てこないという点に、
考えがぶつかると、やはり死の容易さに、惹(ひ)かれてゆきます。ぼくは、なにか、ほかの方法で死にたいと、思いました。
身投げは泳げるし、鉄道自殺は汚い、ああ、もう、と目茶苦茶な気持に駆りたてられ、合宿横にある交番に、さしかかると、
「オイ」と巡査(じゅんさ)に呼び咎(とが)められました。それ迄(まで)は、これから、向島の待合に行って、芸者と遊んだ末、
無理心中でもしようかという虫の良い了見(りょうけん)も起しかけていたのですが、ハッと冷水をかけられた気が致(いた)しました。
こんな夜遅(おそ)く、学生がへんな恰好(かっこう)でうろついていたからでしょう。巡査は、ぼくの傍(そば)にきて、
じっとみつめてから、なんだという顔になり、「ああ君はWの人じゃないか」といい、大学の艇庫ばかり並んでいる処(ところ)ですから、
ボオト選手の日頃の行状を知っていて、「いいねエ、君等は、飲みすぎですか」と笑いかけます。ぼくの蒼(あお)ざめた顔を、
酒の故(ゆえ)とでも思ったのでしょう。照れ臭(くさ)くなったぼくは、折から来かかった円タクを呼びとめ、また、渋谷へと命じました。
家に着いたぼくは、なにもいわず、ただ「ねかしてくれ」と頼んだそうですが、あまり顔色と眼付が変なのに、心配した母は、すぐ、叱りもせずに、床(とこ)をしいてくれました。
翌朝、眼の覚めたときは、もう十時過ぎでしたろう。枕(まくら)もとの障子(しょうじ)一面に、赫々(あかあか)と陽がさしています。「ああ、気持よい」と手足をのばした途端(とたん)、
襖(ふすま)ごしに、舵手(だしゅ)の清さんと、母の声がします。
ぼくの胸は、直ぐ、一杯に塞(ふさ)がりました。